⑩再出発は休息の後で
「そう、ガーディアも旅に出るのね」
ステアは少し寂しそうに笑った。
「じゃあ、今夜はご馳走にしましょう!プロートも食べていってね」
「いや、僕はまだ仕事の途中ですから」
プロートは、ハッとして慌てて去っていった。
「ありがとねー。じゃあ、しばらくバイバイ」
ガーディアは、その背中に声をかけた。
「さあ、しっかり食べて」
テーブルいっぱいに並んだ料理にレイナは目を丸くしていた。
テーブルに座るのは5人。しかし、並んでいる料理は、10人前といっても多すぎるくらいの量だった。
「ちょっと張り切りすぎではないか?」
呆れ顔のベアルがそう言うと、ステアは軽く睨みつけた。
「あなたは、そんなに食べなくていいのよ」
「そんな風に言わなくったっていいだろう」
ベアルが少し拗ねたようにそう言った。
温かな夕食をお腹いっぱい食べた後、レイナとサニーはそれぞれ部屋に案内された。
「ここでゆっくり休んで。明日からよろしくね。おやすみ」
「おやすみなさい」
ガーディアにそう挨拶すると、レイナは糸が切れたかのようにベッドに倒れこんだ。
朝。
すっかり陽は上がっているが、レイナが起きてくる気配はない。
「レイナちゃんって実はねぼすけさんなの?」
すでに身支度を終え、朝食を口にしていたガーディアがサニーに尋ねた。
「うーん、俺も昨日会ったばかりだから…レイナちゃんの寝起きとか知らないけど…。でも、そんな感じの子じゃないよね…」
「そうだよねー。なんか心配。見てくるね」
ガーディアは、そう言って立ち上がるとレイナが寝ている部屋の前に立った。
トントントン。
ガーディアがドアを叩くが、反応はなし。
「レイナちゃん?入るよ」
ガーディアはそっとドアを開けて中に入った。
レイナはまだ寝ていた。
「疲れてたのかなぁ?」
ガーディアはそっとレイナに近づいた。
息が荒い。額には汗が滲んでいた。
額に手をあてると、熱い。
ガーディアは慌てて部屋を出た。
「大変」
戻ってきたガーディアが、小声でそう告げた。
「レイナちゃん、熱だしているよ」
「エッ⁉︎」
サニーが、驚き、「もしかして、俺、無理させちゃってた?」と呟きながらオロオロとした。
「ちょっと疲れちゃったのかな」
ステアはそう言うと、タオルを濡らしてレイナが眠る部屋に入っていった。
熱い。だるい。息が苦しい。
そんな中、額に触れるヒンヤリとした心地よさを感じてレイナは目を開けた。
「おはよう」
ステアが、レイナにニッコリと微笑んだ。
「あ、わ、私…。出発…」
慌てて起き上がろうとするレイナをステアはそっと押しとどめた。
「寝てなさい。まずはしっかり治さないとね」
「ゴメンナサイ。私…迷惑ばかりかけて…」
涙を浮かべるレイナの頭をステアは優しく撫でた。
「謝らなくていいのよ。いっぱい頑張ったから疲れたのよ。こういうときは、しっかり休むのが一番」
ね、と言い聞かせるステアにレイナは力なくコクン、と頷いた。
「出発は、休息の後ね。しっかり休みなさい」
そう言ってステアは微笑んだ。
「それに、あの子も小さいときはあれでよく熱を出して寝込んでいたのよ。なんだか懐かしいわ。後で、飲み物と何か食べるものを持ってくるわ」
そうステアに撫でられながら、レイナは再び目を閉じた。
「それに、あの子との別れが少し伸びて…ちょっと嬉しいのよ」
ステアは誰にも聞かれない程度に小声で呟いた。