失礼ですがっ! 【1000文字】
子供の頃のことだ。
家で小型犬を飼っていた。
その犬は掃除機の音が大嫌いで音が聞こえると私に助けを求めるかのように抱き着いてきた。
その姿、その行動に愛しくなって抱きしめたまま、掃除機の音の方へと近寄ったものだ。
それはより強く抱き着いて来るからだ。
今思えばなんて残酷なことだったのだろう、と考えずにはいられない。
「失礼ですがっ!」
そう言われて私は彼女の事を酷い扱いだったと反省した。
心を改めたのだ。少なくともこの時だけは。
彼女は私の従妹殿だ。
伯母さんの末の子で面倒を見て欲しいと言われたため、世話していたつもりだった。
伯母さんはこの子の兄である長男の世話に忙しいからだ。
その長男は伯母さん家族が海水浴に出かけたとき、この目の間にいる従妹殿が溺れて一も二もなく助けに行ったそうだ。ただ、自身も溺れてしまい、妹は他の人に無事助けられたが彼の方は全身不随になる大怪我を負ってしまった。
それでこの小さな従妹殿はいろいろとあったらしい。
幼いと思っても色々と考えが巡らせることが出来ている。
他者の顔色を見ざるを得なくなったからだろうか。
その時伯母も混乱していただろうし、彼女も漸く助かっても兄がいない、見つかっても大怪我している。責められもしただろうし、叱られもしただろう。
それに彼女の兄は優秀だったそうで皆からの期待もあったそうだ。
「兄の方が無事なら良かったのに」というような陰口を叩く輩も当然いたのだろう。
彼女の方は普通であったため、努力して成績を上げたとか。
優秀だった兄、その未来を奪ったから重責を背負っていれば精神的にも大人への段階を推し進めることもあったのだろう。
周りが言っていたそんな情報を聞き流していたため、今まで思い出せもしなかった。
そんな彼女を私は完全に子供扱いしていたことを教えられた。
理不尽なことに言い返せる大人なんだな、そう感じている。
しかし見た目は小さな子供でその目には涙が溜まっていた。
顔は怒りで朱に染まっている。
その精一杯背伸びをしているような姿を見ると可愛らしくて、つい弄ってみたくなる。
だからこそ、昔の飼い犬の事を思い出したのだろう。
小さくて円らな瞳をしている姿が何とも飼い犬のイメージと繋がってしまって堪え切れなくなる。
その後、彼女を一個の人格を持つ大人だと判断し対等に付き合うことにした。
このことは彼女との馴れ初めってやつだ。
十年経って結婚するような。
恋愛話になっていない……?
倍以上に膨らみそうだし、何より小っ恥ずかしいじゃありませんかっ!