Ⅵ
さて、どうやら作戦は上手くいった様で。
コインを取られる事は予想外だけれども、それでも上出来だと思った。
コインの入っていたお守りに鍵を入れた、残念ながらコインと鍵を一緒に入れると綺麗に収まらなかった。
メイドもその後ろから入ってこなかった時点で追いかけてきてないのだろう。
これで、あの女はただ楽しみたいだけなんだと、確証が持てた。
「眠たいならベッドで寝ていいよ、俺は椅子で寝るからさ」と目を擦り椅子から立つ私を見て誘導してくれる。
が、そうさせる訳にはいかない。
「す、すみません…その…初めての場所ですし不安で…一緒に寝てほしいんですが…」
精一杯の甘えを出しつつ目の前の主である男に発言する。
彼は少し考えたあと、「ん、わかった、いいよ」と折れてくれた。
取り敢えずは乗り切れた様だ。
それに伴いトイレの場所も聞いておく。
「あ、あの…トイレとかって…」
私の発言に半ば被せるように「あぁ、行きたかったら言ってくれればメイドを呼ぶよ」と彼は答えた。
変に1人で歩かれて、屋敷の構造を知られたくないのだろうか。
どうやら、私が考えている以上に彼は私に警戒している様だ。
これはやりづらいと思いながら、どうしても今夜行動を起こしたい私は、今メイドを呼んでもらうことにした。
"コンコン"と言うドアのノック音がメイドの来訪を告げる。
「入れ」と一言俺が言えば「失礼します」と部屋に入ってくる。
「トイレに案内してやってくれ」と指示を出すと「かしこまりました」とメイドは女の子の手を引き部屋から出ていった。
暫くは帰ってこないだろうとポケットからコインを出す。
形や大きさはどこにでもあるコインで、在りきたりな模様をしている。
ただ、この街の通貨とは似ても似尽くさないし、青銅のコインなんてそう簡単にお目にかかる物じゃないから、1度でも見たら覚えているはずだと。
俺は考えた、このコインはなんなのか、そして客室の鍵は本当に女の子が取ったのか。
…俺が慌てて駆け出した後、アイツは後ろを着いてこなかったな。
あのメイド、前から怪しいと思ってはいたものの大して支障を来たして居なかったため気にも止めながったが、色々確かめてみる必要もありそうだ。
戻ってきたら少し呼び出して話してみよう。
…場合によっては、あの子とも、ゆっくり仲良く接している時間はないかもしれない。
メイドに連れられ廊下に出る。
大した会話もなく、トイレの前まで案内される。
そこでトイレに入らない私を見て何かを察したのか、先にトイレの中に入って行った。
私も続けてトイレに入り鍵をする、多目的トイレのようで、あまり使われていないのか、掃除をされていたとしても綺麗過ぎる場所だった。
ニコニコとしたメイドから「何か言いたいことでもあるんでしょ?」と話を振られる。
答えるようにお守りからくすねた鍵を取り出す、何も言わずに。
直後、メイドの顔が歪むニヤッと楽しそうに。
「あーあーあーやっぱりやってくれやがったなぁ!」
「いやぁ、まさか取られるとは、これっぽっちも思ってなくってなぁ!」
人が変わったかの様に笑い出すメイド、そしてひゃひゃひゃひゃと言う頭の悪そうな笑い方をしなくなった時、ヒュッ、っと風を切る音が聞こえる。
それが、鋭利な刃物だと理解するのに、時間は掛からなかった。
微動だにしない私を見て「あんた、肝据わってんね」とメイドは嬉しそうに笑ったが、正直の話、いきなりで何の事か解らなかったのと、理解してからも恐怖で動けなかっただけである。
が、馬鹿正直に言うわけにはいかないので「まぁ、刺されてないですし…」と強がっておいた。
「あー、いいねぇいいねぇあんたの方が、面白そうだねぇ」と笑うメイドを見て「此処でいつも何が起こってるか聞きたいんですが。」と質問する。
少しの沈黙のあと、メイドは急に真顔になりこう答えた。
「ここの主様は女の子が好物でねぇ、そう丁度あんたくらいの子。」
「元々はそんな人じゃなくてね、ある時あの男は遭難したのさ。」
「あんたの事だ、もう何となく察しはついてることだろうがね、その時に食べたのさ人を、女の子を。」
「その味にハマっちまって忘れられないんだろうねぇ…」と右手をヒラヒラさせる。
薄々ヤバそうな雰囲気はしていたため、青天の霹靂とまではいかないにしろ、色々と衝撃過ぎて感情も思考も何もついてこない。
…そういえば此処に来るまでに行方不明者の話を聞いたことを思い出した。
「森…?」とだけ告げるとメイドはにっこり笑う。
「実はねぇ、あの森出身なのさ、私は。」