Ⅴ
私は考えていた。
あのメイドから、わざとつまづいてくすねた鍵が何処の鍵であるか、そしてまもなく来るであろう私の主からどう隠そうかを。
この部屋に隠すならばカーペットか、ベットかの2択だろう。
窓から捨てるという方法も無きにしも非ずだが自分で見つけられるか怪しいし、メイドに回収される可能性も高い。
ふと、お守りが視界に入る。
…そうだ、こうしよう、と私は1つの策にたどり着いた。
部屋に入ると女の子が椅子に座っていた。
彼女に駆け寄ろうと歩き出しカーペットに足を掛けた時、チャリと音が鳴った。
それが鍵だと思った俺はカーペットを確認すると中にあるのは見たことが無い1枚のコイン。
「ねぇ、これ…」と彼女へ問いかける前に、規則正しい呼吸が聞こえてくる。
此奴は俺に気付いてないならばと、小さなコインを拾いポケットにしまい、彼女に近付き「疲れたんだね…」と髪をとく。
しばらく触っていると、俺が来たことを感じたらしく「ん…」と目を擦る。
「す、すみません…勝手に寝てしまって…」
申し訳なさそうに椅子から立ち上がり頭を下げる動作は実に滑らかでつい「大丈夫、大丈夫だよ」などと言葉を発した俺は、髪を梳いていたこともあり、すっかり鍵の事など脳内から抜け落ちていた。
プライドが高い人を煽るのは実に愉快で大好きだ。
ただプライドだけの人よりも、その高さを活かして、トラブルに見舞われた時に予想も付かない切り返しをして乗り越える人はもっと好き。
人のトラブルを人工的に引き起こすのも好き。
絶望の顔色も、欲望に塗れた顔面も好き。
あぁ、人間ってなんてこんなに醜くて美しいんだろう。
リード家にメイドとして使えてからは、毎日が退屈しない。
1度口にした幼い女の子の味が忘れられない旦那様
クイーンの為なら何でもする権力者信仰の長男様
そして、狂気の中で常人を演じて楽しんでいる次男様
女の子が来る度に、この私でさえ気の毒だと思う程壊れている、異常で醜くて狂っていて人間らしく欲深いが、中々シナリオ通りに崩れない。
だからこの家は私を退屈させない。
そしてまた、次男様が女の子を連れてきた。
いつもの様に部屋へ通す様に頼まれる。
二人っきりになった所で彼女を見る。
それと同時に直感でこの子なら崩壊のシナリオの駒になりそうだと感じた。
何かやってくれるのではと考えいる矢先に躓いて倒れ込んでくる。
慌てて「す、すみません…」と謝っている表情から見て、身体も弱そう、頭もまぁまぁな小さな少女という印象に変わった。
部屋へ通し、女の子に"いつも"と言う魔法の言葉を添えておいた。
鈍かったなら気が付かないし、気付いたとしても一悶着して捕まるいつものパターンだと思いながらも、やっておく事に意味がある。
お決まり過ぎて最近次男様の対応が早くなってきているからそんなに楽しめないけれど暇潰しにはなる。
あぁ、次男様を煽ることも忘れずにやっておこう。
部屋へ向かう次男様に報告し、「今度は逃げなければいいですねぇ」と皮肉を込め、鍵を見せて更に煽ろうと腰に手を掛ける。
…ない、鍵がない。
キョロキョロと辺りを見回しても何も無い。
柄にもなく焦ってしまい「客室の鍵がない」と次男様に口走った。
駆け出す次男様を見て、あぁやられた…あの女…ガキの癖してやりやがったなと口角が上がる。
とっても楽しくなりそうだと思い、私は彼を追わなかった。