Ⅲ
傍らで寝ている彼女を見ながら、実にいつもの少女達より運命的なモノを感じる女の子だと思った。
そして、今回は長めの付き合いになりそうだと彼女から窓に目を向ける。
思わず「楽しみだなぁ…」と呟いた。
そういえば首から下げているものはお守りだそうで、中には大切なモノが入ってるとか、まぁ、俺には関係ないし、そんだけ小さい入れ物には刃の1本すら入らなさそうだし、もし入ってても取り出しにくそうだから問題は無いに等しい、膨らんでる感じもあまりないから毒の小瓶などとも異なっていて心配はあまり無いが、警戒をするに越したことはない。
たくさんの女の子に会ってきたが、出会う子達毎回にクイーンの話をしている、これは俺にとって挨拶みたいなもんだ。
もう1つ、俺の中での絶対のルール、遊ぶ女の子は絶対隷属市場で買うこと。
何かあっても咎める者も探す者もいない、好都合な条件だからだ。
彼女とは、出来るだけ長く、そして親しく密接に、好感度を上げる方向で遊んでみよう。
それと、クイーンにもばれないように、あいつは非常に厄介だから。
軽く身体が揺れる感覚で目が覚める。
重い瞼を開けると男の子が「起きて着いたよ」と言って、馬車から飛び降りる。
窓を眺めると、先程と雰囲気がほとんど変わっていないので、恐らく駅からさほど距離は遠くないのだろう。
歩きで駅まで行けるだろうか?と無意識に考えてしまった。
と同時に、あの男の言葉が頭の中で響く『よく違う女連れて歩いてらぁ、知らぬ間に消えるって話もあるみてぇだし』
…まだそうと決まったわけじゃないのは分かっていても、どうしても身構えてしまう。
周りに気を付けながら、そして主である彼にも若干の不信感を覚えながら、彼を追いかける。
「焦らなくてもいいからね、こけたら大変だし」
そう微笑み、手を繋いでくれる彼を、何故か少しだけ怖いと思った。
大きめの門を潜り抜けて玄関に立つ、彼はズボンのポケットから鍵を取り出し、鍵穴に入れまわす。
カチャと小気味いい音がした後、扉に手をかけ開ける。
そうすると中からメイドらしき人が現れる。
「おかえりなさいませ。」と礼をした後、「長男様が戻られております。」というや否や私に目を向ける。
「いつもので」と彼が小声でメイドに言うと、「かしこまりました。」と私の方へやってきて、「こちらへどうぞお嬢様」と慣れた様子でそう告げる。
あまりにも違和感の無い行動だと感じた、私の中でより一層不気味さが増す。
「どうかされましたか?」
顔に出ていただろうか?それとも怪しまれているのか?と相手を伺いながら「あ、いえ…その…今までそういった扱いをされた事がなくて…、ご、ごめんなさい…」
我ながら見事に最適な回答を出せたのではないだろうか。
「なるほど、昨日までと違う扱いを受けたら戸惑うのも、無理もありませんね、では少しラフに行きましょうか」
先程の機械感は何処へ行ったのか、人が変わったようにメイドが笑う。
何を考えているかは、どちらにせよ分からないが。
まだ情報屋の男が言っていた事が正しいと決まった訳では無い、無いはずなのだが何処か野生の勘と言うものなのか、この家が怪しいと思ってしまっている自分がいた。
しかし恐らく向こうも、何もない間はアクションを起こすとも思えないし、まだ安全であると言えるだろう、無論100%はないけれど。
「では、行きましょっか!」
先行して大広間の階段へ歩き出す彼女に後ろから追いかけるように少し小走りで付いていくと、久しぶりのなれない段差に躓いてしまった。
咄嗟にメイドの服を掴んだ私は、そのまま彼女にもたれ掛かる。
「す、すみません!」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら彼女を見ると、ニコニコと笑ったまま「大丈夫ですよ!手でも繋ぎます?!」と気遣いを交わらせながらおどけてくれた。
手を繋ぎながら再び階段を上がる。
途中でちらっと後ろの扉を見、出られない事は無いと頭で思いながら。