(8) 「始まりと終わり」
俺は屋上に居た。俺の目の前に居るのは、黒髪ロングの我がクラスの委員長。俺は彼女に呼び出されていた。
「来てくれて、ありがと」
「別にいいよ。それで?」
「まぁ、そんなに焦らないで」
「そうは言われてもな……」
「ところでさ、東雲君って佐倉さんと付き合ってるのよね?」
「ああ」
「それを聞けて安心したよ」
「どうゆうことだ?」
「単刀直入に言うね」
「佐倉さんと別れて」
それは良く晴れた、風通しのいい過ごしやすいお昼のことであった。名前も知らない委員長さんは唐突に訳の分からないことを俺に告げた。
「ごめん。何を言っているのかよく分からないんだけど」
「分からなかった?なら、もう一度だけ言ってあげるよ」
「佐倉さんと別れて」
「何で急にそんなことを言うのか聞いてもいい?」
「嫌だと言ったら?」
「この話は聞かなかったことにする」
「まぁ、いいよ。答えてあげる」
「それは助かる」
「私は佐倉さんに復讐する。その計画に東雲君が必要だからよ」
「………復讐?」
「そう、復讐よ」
最近よく使っている言葉だからこそ、その本当の意味を分かっているからこそ、こいつの言う「復讐」は大したことではない。………そんな気がした。
「どうして、委員長が織姫に復讐を?」
「私の復讐に協力してくれるなら答えてあげるよ」
「それを聞けないと協力は出来ないな」
「………っ!あの女が……!あの女さえ居なければ私はこの学校を天下にしたのも同然だったのに!」
口調が変わっている。「素」の彼女が出ている。ただ、復讐の理由が少し、いやかなり残念な気がするのは俺だけか?
「天下?」
「私はこの学校に入るまでどの分野でも私が一番だった。それは高校でも同じだと思ってた。けど、ここにはあの女が居た。一番だった私の生活があの女のせいで壊された。だから………だから!あの女だけは絶対に許さない!私から何もかも奪ったあの女だけは!」
「それが理由?」
「そうよ!」
「最後に一つだけ聞かせて。何もかもって言ったけど例えば?」
「何もかもって言ったら何もかもよ!地位も名誉も権力も!父様からは呆れられ、婚約の話は白紙にされ、それまで私に向けられてきた好意も善意も何もかも!あの女に壊された…………」
「なるほどな………」
「東雲祐也!私に協力しなさい!」
「はぁ。くだらない」
「え?……何て言ったの?」
「くだらないと言った」
「何が………?」
「お前風に言うなれば、何もかもだ」
たったそれだけで、復讐をしてもらっては困る。俺の計画にも支障を来す可能性だって十二分にある。俺は俺の計画を邪魔するやつは容赦なく排除する。例えそれが目の前の人であってもだ。
「地位?名誉?権力?ふざけるな!たった18年間しか生きてない俺たちにそんなものがあると思うなよ!」
「な、なんで口調が変わっているの?」
「お前だって変わってだろ」
「じゃあ、東雲君も私と同じで猫を被ってたの?」
「違う。お前なんかと同じにするな」
「え。。。。。」
「俺は織姫とは別れない!もし、お前が織姫に危害を加えるような真似をすれば俺はどんな手を使ってでもお前を潰す」
「……………っなんで!なんで!彼女ばっかりそんなに恵まれてるの!」
「私だって沢山努力したのに!なんで!」
だいぶ興奮してるよ。こんなところ誰かに見られたら絶対に俺怒られるじゃん。実際泣いてるし。それにもう時間がない。そろそろ終わりにしないとな。
「お前は周りを気にしすぎなんだよ。お前は周りばっか見て自分を見てない。自分のことが分からないやつが、他の人に勝てると思うなよ」
「なら!なら、私はどうすれば良かったの?教えてよ東雲君!やれることはやったつもりなんだよ。でも勝てない。どうして?」
「織姫は別に誰にも勝とうなんか思ってない。織姫は俺さえ居れば良いんだよ。だけど、お前は?」
「……………そっか、最初から私なんて眼中に無かったのね……」
「違う!」
「違うわけないよ!だってそうでしょ!私はあいつのことをずっと意識してたのにあいつは東雲君にしか興味がないんだよ?ねぇ、どこが違うの?」
「お前、沢山努力したって言ったよな?」
「うん」
「知ってるか?努力ってのは他の人に言っちまったら、それはもう努力じゃない他の何かに変わるんだよ」
「何が言いたいの?」
「織姫は一度でもお前、いや周りに対して努力しているところを見せたことがあるか?」
「………なによそれ。それじゃあ私がバカみたいじゃん」
「バカでも良いじゃないか。天才よりバカのほうが伸びしろはいっぱいあるんだぞ」
「私はあの女を許さない。だけど、さっきまでの私のほうがもっと許せない。東雲君、色々ごめんね」
「いいよ。気にしてないから」
「ありがとね」
終わった。兎に角色んなことが終わった。この話と昼休み。そして俺。
屋上のドアを勢いよく開けたのは、俺の目の前に居る人の宿敵にして、俺の彼女兼復讐相手。そう、佐倉織姫である。その瞳は怒りを通りすぎて、何も映ってないように俺には見えた。
「よ、よぉ!織姫」
「ゆうくん、今すぐこっちに来て。話がある」
「奇遇だな。俺も話がある」
委員長が何か言っていた気がするが、佐倉の禍々しいオーラに打ち消されてうまく聞こえなかった。
次くらいで委員長の名前分かります(多分)
もう少しだけ学校で話が進みます。。。