(6) 「波乱の二日目」
「じゃあな、織姫」
「うん。ばいばい、ゆうくん」
「帰ったら電話するから」
「待ってるね」
「おう」
ここに、皆大好きヤンデレ佐倉織姫とのそれはそれは辛いお泊まり会が終わりを告げた。いや、ほんとに辛かった。一日目は睡眠薬を盛られた夕飯から監禁。二日目は朝食抜きでのちゅんちゅん。身体的にも精神的にも色々成長した気がする。
「お主よ、色々大変だったな」
「そうだな……」
「あの娘、中々大胆だったのう」
「どういう意味で?」
「それぐらい察しろ、お主」
「分かってる」
ちなみにだが、第三者から見たら俺はスマホを耳に宛て電話してるように見えているはずだ。しかし、実際は違う。スマホの中のアモンと話しているだけである。いつものように、スマホの画面を見ながら話していると変な人に思われかねない。だから、これでカモフラージュしている。
「それで、このあとはどうするんだ?」
「んー。それは家に着いてからのお楽しみってやつかな」
「うむ。まぁ、でもお主なら何か面白いことを考えているのだろう?」
「面白いかどうかは正直分からん。あくまでも、計画を効率よく進めるためにことを起こすだけだ」
「そんなこと言っても面白いに決まっておる」
「あんま期待すんなよ」
「分かっておる」
◇◇◇◇◇
無事帰宅することができた俺は両親が家に居ないことを確かめ、自室に向かった。
「さて、まずは電話か」
「あの娘にか?」
「ああ」
「もしもし、織姫?」
「うん!」
「今帰ってきたよ」
「おかえり、ゆうくんっ」
「ただいま、織姫」
「ゆうくん」
「なんだ?」
「…………次はいつ会える?」
「学校で会えるだろ?」
「それは分かってるよ……土日」
「次の週の土日は平気だよ」
「え、ほんと!?」
「おう」
「じゃあ、またお出かけしよ?」
「そうだな」
その後、一時間俺は織姫から離してもらうことが出来なかった。その一時間で両親も帰宅していた。
「ふー。ようやく終わったぁ」
流石に一時間も電話をしていると疲れる。風呂にでも入って休むかな。いや、その前に話をつけてきた方がいいか。
「アモン」
「ん?なんだ?」
「ことを起こすぞ」
「お主がどんなことを言い出すのか、楽しみにしているぞ」
俺は自室に居る両親をリビングに集め、話を始めた。
「一人暮しが「駄目だ」
父親に食いぎみに却下された。だが、こんなところで諦めるわけにいかない。
「お願いします!一人暮しをさせてください!」
「何故、急にそんなことを言う?」
「理由は色々とあります」
「言ってみろ」
「まず一番の理由は勉強に集中できるからです」
さっきから敬語になっているが仕方ない。それと母親が一言も話さないのが気になる。警戒はしとこう。
「勉強は自分の部屋でやっても集中できるだろ?」
「正直言うと出来ません」
「何故だ」
「家の近くを電車が通るので、机は揺れるしうるさいし集中できません」
「なるほどな………だが、諸々の費用はどうする?バイトでもするのか?それじゃあ、本末転倒ではないか?」
「自分の手元に数ヶ月暮らすことができる分だけのお金はあります」
「どうやってその金は用意した?」
「お小遣い等を貯めていました」
「もちろん家の場所は考えているよな?」
「はい」
良い具合にいけてるぞ。あともう少しって感じだな。
「お前はどう思う?」
「私は別に良いと思いますよ」
「そうか……」
「たしかにここだと、集中するのは難しいと思いますし、それに大学に通うなら遅かれ早かれ一人暮しをするんですし」
「…………………」
「駄目かな?」
「成績が下がっていると俺が判断したら即こっちに戻すからな」
「ありがとう」
「出来る限り早く出てけ。そして勉強しろ」
「うん」
なんとか上手く行った。これで、こいつらから離れることが出来る。とにかく、復讐するためにはこの家から出ていかないと話にならない。俺がこの家から出てけば早く離婚の方向へ進むだろうな。けど、俺はそう簡単に離婚させない。冷めきってる夫婦愛を別の形で復活させてやるよ。そのために裏で着々と計画は進めている。こいつらの絶望した姿を見るのが楽しみで仕方ないよ。…………
◇◇◇◇◇
「祐也。入るよ」
教師である母親が俺の自室に入ってきたのは、一人暮しが決まってから二時間以上経ってからのことであった。
「どうぞ」
「一人暮しのことだけど、明日にでも新居に向かって」
「え?流石にそれは早すぎない?」
「貴方には合格してもらはないと困るもの。だからさっさと部屋を借りてきて」
「分かった」
「お金は最初だけ出してあげるから、それ以外は自分でね」
それだけ言って母親は部屋を出ていった。勉強のためならあの人は何でもする。だから、今回の一人暮しについては賛成するのではいないかと踏んでいた。事実上手くいったし、今だけは母親のあの性格に感謝する。
「中々楽しめたぞ、お主」
「それは良かったですよ」
「特にお主が敬語を使っているのが新鮮で良かった」
「やめろ、気持ち悪い」
「お主の考えることは我には到底思い付かないことばかりで面白い」
「そうか?意外と思い付きそうだけどな……」
「それは人間の感覚であろう?我にとっては違うのだよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ」
こうして、二日目が終わりを告げた。生き返ってたった二日でたくさんのものを用意した東雲祐也は素晴らしいと言えるだろう。しかし、現実は思い通りにいかないことも多々ある。そのような場面にぶつかった東雲祐也はどう対処するのか今後しっかりと見届けて行きたいと思う。
2/11
静寂のなか、スマホの画面は独りでに動いていた……………
大学入試や引っ越しのことはかなり曖昧です。すみません。。。
特に大学入試は全然リアルとは日にちが合ってないです。