セミだってチートでハーレムで俺TUEEEEEE! したい
虫嫌いなら、回れ右。
夏も終わり、野原のそこかしこをコオロギの音色が染め上げている最中、灌木の地中深い根っこの林の間では、セミの幼虫たちが会議をしていた。中央に立つのは丸々太って恰幅のいいセミの幼虫だった。年齢も経ており幼虫たちの中ではリーダーに位置する。名前は油太郎、アブラゼミの幼虫だ。
「かように人間どもは自己犠牲をしたうえで、異世界に転生し、チート能力をもらいハーレムを作っているという。我々セミも人間にあやかり素敵な転生ライフをしようではありませんか」
彼はこの集会の議長を務める。
「具体的に何をすればいいのですか」少し自信なさげに尋ねるセミの幼虫がいた。どことなく影が薄い。ヒグラシの幼虫の様だ。
「この体にキノコの菌を植え付け冬虫夏草を果たす。その身は漢方薬になり人間の役に立つ。立派な自己犠牲だと思わないか」
「もうしわけありませんが、我々の冬虫夏草は漢方薬には使われません」頭のよさそうなセミの幼虫が発言に異を唱える。
「なにっ?」油太郎が聞き返す。
「むしろそのキノコは絶滅危惧種でレッドデーターブック入りをしているとか」
「ならば、その種を増やすことで立派な自己犠牲になるではないか」と油太郎は強引にまとめてしまった。
他のセミの幼虫たちは、ぶつくさ文句を言っている。
「こんな変な理由で死にたくありませんな」
「大空の下、人間にオシッコをかけるのが夢だったのに」
「何のために地下で何年も頑張っていたのか」
油太郎は演説をつづけた。
「みなさん。ご静粛に。ではこれから決を取ります。自己犠牲に賛成の者は、投票用紙に『冬虫夏草』と書くこと。投票が多ければ集団で冬虫夏草になり、異世界転生後にチートでハーレムをめざそうじゃないですか」
仕方なく幼虫たちは投票を始める。投票用紙を回収しご満悦の油太郎だったが。
「『途中遁走』いきなりやる気ゼロじゃないか!」
続いて二枚目。
「『道中仮装』なんだただのコスプレじゃないか。どうもろくなのがない」
続いて三枚目。
「『冬虫お見舞い』病気だと考えているのか」
油太郎が続きを読もうとすると、先ほどの頭のよさそうなセミの幼虫が発言した。
「油太郎様、我々の平均寿命はご存知でしたか」
「確か一週間程度だと思ったが」
「その期間中に、チートハーレムを成し遂げられますか?」
油太郎は5秒ほど考えて、前言を撤回した。
「冬虫夏草になるのやーめた。やっぱり地上に出て人間にオシッコひっかけよう!」
油太郎が、あきらめたことで、数多くのセミの幼虫たちの命は救われた。