表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/81

81 血の誓約3

 冒険者たちを縛り上げ、傷を癒した頃。改めてお互いの説明をした。

 私に何があったか、逆にフィレナたちに何があったのか。


「血でゴーレムを呼んだ……なあ……」


 ロシェは、私の後ろで大人しく座るゴーレムたちを眺めていた。ちらっと足や腕を潰された冒険者を確認して、引き攣った顔をしている。

 フィレナもゲンナリと腕を組んでいた。


「エゲツないわね」


「相田さんに暴力を振るわれるのもまた一興」


「振るわないよ?」


 伊藤さんは伊藤さんでいつも通り過ぎて怖い。これがいつも通りと思うようになったのも不思議だけども。

 というか、私がやったみたいになってないかなコレ。

 心配そうに見上げるスパイダーを撫でて、わざとらしく咳払いをした。


「それよりロシェたちは何でここに?」


 彼女たちが探しに来る可能性はもちろんあった。でもそれは場所が特定されていたらの話。広大な森の中、一人の人間を探し出すのは不可能に近い。

 ロシェは感知系の魔法を使えるけど場面が限定されるし、ナイトは私の気配を追えるけど遠ければ大方の方向のみだ。


 瞳を細めたロシェは、にこやかに近付く。


「のんきな顔しやがって、どんだけ心配したと思ってるんだ。あぁん?」


「いっいだいいだい!」


 頭を両拳でグリグリーっと万力の要領で締め上げられた。にこやかな笑顔は、とても笑顔には見えない。


「それに、お前がいない間の大変さ分かるか? こいつらの対応を丸投げされる気持ちが分かるか? 分からねぇだろ? シワ寄せが全部来るんだよクッソ面倒なんだよ。ナイトは八つ当たりするし志乃は志乃でエアーで桜と会話してるしよ!」


「エアーで私と会話って何」


「対応に追われてたらドラゴンベアーたちがやって来て、付いて来いと言わんばかりに誘うから仕方なく付いてったんだ。そしたらお姫さんたちが戦ってるわなんやで」


 私の肩に張り付く歩行型キノコが、元気よくジャンプしていた。なるほど、魔物たちがロシェたちを連れて来てくれたんだ……。でも何でだろう?


「ドラゴンベアーと歩行型キノコの逆襲……」


 ポツリと零したのは、盗賊もとい冒険者の女性だった。彼らと仲間割れをした一人だ。

 一応は縛られているが、了承してもらってるし手荒くは扱っていない。味方のフリという可能性を考えた伊藤さんの提案だけど、警戒するに越したこと無いのは確かだった。


「逆襲ってことは何かしたの?」


「——ええ。サクラさんを襲う手段として計画したことなの。えっと、説明するには最初から話さないといけないわね。なぜサクラさんを襲ったのか」


 知りたい。誰かに狙われることなんてしてないから、寝耳に水な出来事であった。そもそも私を殺して得があるのかと。


「君たちが私を罪人として殺そうとした理由って、依頼だか何かが原因だよね。調査依頼だっけ」


「よく覚えてるのね。そう、私たちはギルドで人の調査依頼を受けたの。ギルドで審査を受けたごく普通の依頼よ。でも依頼の話を聞きに行ったら、あなたが卑劣な隠れ犯罪者だと話をされたわ」


「まあ仕方ないわね」


「えぇー? 卑劣な隠れ犯罪なことしてないと思うけど」


「確かにしてない。でも普通に考えなさいよ。貴女が魔物を従えてる姿を見れば、話に信憑性が増すでしょう? そりゃ俄然やる気にもなる」


 魔物を見て驚いてたもんなあ。私には不可抗力だと思うけど。


「だ、だって殺されかけたんだよ?」


「それは、ごめんなさい。とまあ依頼人はこう言ったの『首を取れば報酬も弾むし名声も轟く』と。殺しを非公式依頼してきた。もちろん違反行為だけどね」


 依頼人の差し金で私は狙われて、冒険者はけしかけられたってことか。冒険者が盗賊のフリをしてたのも、自分たちが違反してることをバラしたくなかったからだろう。

——いや、冒険者ではなく専門の方にお願いすれば良かったんじゃ?


「でもみんな元々は殺し屋じゃないから、殺しがイヤだったの。だから——魔物を使って殺そうとした」


 キノコが何か伝えようとしていたのを思い出す。あれは、このことを伝える為だった?


「どんな方法なのですか。魔物を使う、といっても生き物ですよ。思い通りに動くとは思えません」


 髪を撫で付けながら伊藤さんは首を傾げた。

 そうだ。魔物で殺すにしても、私を狙って襲わせるのは大変だろう。実際に襲われたから方法があるのはわかるけど。

 女性は躊躇したように表情を曇らせ、後に頷く。


「ドラゴンベアーの親が離れてる間に子どもを一体殺して、親を怒らせて暴れさせたのよ」


「しかし私たちを狙って襲わせるのは難しいですよね。匂いで分かるでしょうし」


「その匂いを利用したの。歩行型キノコを捕まえて、私たちの匂いを付けて放つ。キノコは危険を読み取ると巣に戻る習性があるのよ。すると一定方向に逃げるから」


「襲わせることが出来る……」


 帰巣本能。キノコがわらわら現れた後にドラゴンベアーが現れたのは偶然じゃなかったんだ。

 キノコはいかにも怒ってますよ、という感じだが彼女には伝わっていないと思う。


「もちろん私たちが近くにいると襲われるから、全力で街に戻ったわ。そのあと様子を見に行ったら生きてるんだもの、本当に驚いた」


「死にかけたけどな」


 失敗に終わったから、直接手を下す方法に切り替えて今に至るわけだ。それも失敗に終わったが。


 魔物たちの復讐は、ロシェたちを引き寄せフィレナたちを救うことに繋がった。感謝するべきかもしれない。


「何よジロジロ見て。気持ち悪い」


「なんでもない」


 気持ち悪いって言われた……。今度からあまり見ないようにしよう。傷付く。


 経緯は理解できた。が、問題はこれで解決じゃない。


「依頼人について教えてもらえるかな?」


 なぜ私は処分されかけたのか、そう画策したのは誰なのか。根本的な問題を解決しなければ、また同じことが起きる。


「依頼人はクグロフ伯爵よ」


 伯爵ってことは貴族様だよね。変なところから恨まれてるな。何かした覚えがないんだけど。

 しかし一人だけ反応が顕著だった。


「クグロフ卿……またアイツが絡んでいるのね」


「また?」


 姫様の呟きに全員の視線が集まる。彼女は苦い顔をするが、もう遅い。


「フィレナは知ってるの?」


「まあ、ね。あまり良い話は聞かない人よ。なんでも聖法侵略事件はクグロフ卿が一枚噛んでるって話だから」


 初耳だ。あの事件が聖法侵略事件なんて名前なのも、他に聖法旅団とレジスタンス側の協力者がいたことも。

 彼女は定期的に城へと赴いて、女王や王子と会いに行っていた。私との話だけではなかったのか。


「証拠もないから確実とも言えなかったけれど」


「尻尾が掴めるな。狙われた理由はともかくとして、どうする?」


「普通に冒険者を訴えるだけで済む問題ではありませんね。相田さんを傷付けた元凶を、根絶やしにしなければなりません」


「腕が鳴る。刀の錆にしてくれよう」


「何をする気なのかな……」


 不穏なセリフに、妖しげな瞳に、ヒヤリとする。伊藤さんとナイトだけではない。ロシェとフィレナでさえ否定もせず、何かをする空気が滲んでいた。

 結局、その何かは教えてくれないまま、帰宅することとなったが。



 *



「ね、また会えるかな?」


 イツデモ、王ノ側ニ居ル。


「よかった。じゃあまたお話をしよう——傀儡送還(ピンキースウェア)


 土に還り、木に戻るゴーレムたち。見送った後、どっと疲れが現れる。ふらつく私を支えてくれたのは伊藤さんとフィレナだった。


「……ごめん」


「何に謝っているんですか?」


「その、イロイロ」


「今さらですね。相田さんの奇行に慣れつつありますけど、心配になるのは当たり前ですよ。こんなボロボロになって。なぜ転移しなかったんですか」


「うぅ……忘れてた。本当にごめん」


「そうやって気付いているだけマシになったと言えますかね。はあ、フィレナさんがちゃんと手綱を取っていれば……」


「は? 手綱を取るのはシノの役目でしょう?」


 人を馬みたいに。でも心配させてしまったのは本当だ。二人はまた肩を貸してくれた。あーあ、伊藤さんの白い制服もフィレナのドレスも、血で汚れてしまう。


「治癒魔法を優先的に覚えて正解でしたね。使わないほうが嬉しいですけど、今後も大活躍しそうです」


「悪かったわね。攻撃ばっかで」


「いいえ、相田さんの役に立てるので良いですよ。フィレナさんは存分に脳筋でいらしてください」


「ふん、私だって————何でもないわ」


「二人とも仲良しだよね」


 どこをどう見たら仲良しよ。

 違いますからね。


 否定する言葉とは裏腹に、支えるコンビネーションはなかなかである。微笑ましいけど、ちょっと疎外感を覚える。前はこんなこと感じたことなかったのに。


「お仕置きが足りないみたいなので、スペシャルバージョンでしますから」


「ん?」


 さらっと伊藤さんが呟いて、フィレナは回す手に力を込めた。


「おまじない、しないとならないわね」


「え?」


 顔を背けたままムスッと呟く。二人の間にピリついた空気が流れて、追及する間もなく連行された。

伊藤志乃のなんとか室


「ふっ……刀の錆にしてくれよう」

「本物の地獄を見せてあげる必要がありますね」

「こええええ!!!」

「ま、今回は仕方ないわ。存分に暴れるべきね」

「お前らなあ。……にしても桜は、廃魔なのにゴーレムを召喚したのか。毎回驚かされるな」

「魔物の群れが来た時も驚いたけれど、地響きの後に大量のゴーレムが現れた時は終わったかと思ったわ……」

「全員が降伏した瞬間だったな」

「おまけに相田さんは傷だらけですよ。死刑ですね」

「笑顔なのに怖えな」

「刀で優しく撫でてあげるべきだな」

「マジ顔すぎて怖えな」

「次回はサクラの療養中の話みたいよ。貴女たちの出番はないらしいけれど、知ってたかしら?」

「「「ええええええ!?」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ