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08 異世界へ3

「っだぁーーーー! 無礼者! 何をする!?」


 むくっと素早く立ち上がったロシェはナイトに掴みかかる勢いで戻ってきた。


————鼻血を垂らして。


 これはとてもじゃないが女の子が見せるような顔ではない。誰かぁーモザイクモザイクー!


「うるさいっ無礼者はそっちだ! いきなり現れて喚いて宇宙人? ふざけるなあ! 鼻血バカっ」


「だからぶん殴るのか!? 仕方ないだろ? 宇宙人なんだよ! 職業は宇宙人だ! チビ金髪め」


「ありえない……! 宇宙人はい・な・い」


「なんだとぉ……!」


 ケンカを始めた二人を見守る約二名。

 てかぬいぐるみが宇宙人いないって否定している光景は滑稽だなあ。


「——止めないんですか?」


「まあ、面白いし」


 宇宙人vsぬいぐるみなんて構図はあっちの世界じゃお目にかかれない。


 それに異世界にいる人は私たちから見たら宇宙人だ。逆もまた然り、相手から見たら私たちは宇宙人としか見えない。どこを定義して宇宙人であるか線引きされていないから誰でも宇宙人になりえる。


 そんなことを観戦しながらつらつら伊藤さんと話す。


「そうですねえ」


「私も変な能力あるし宇宙人とか否定できないかなぁ」


「あの、詳しくは聞いていなかったのですが、相田さんの能力ってどんなものなのですか?」


「え、うーん」


 聞かれると聞かれるで説明が一言では出来ない。


「そーだなあ、色々だよ。人形に魂を籠めるとか人形と話が出来るとか動かしたりとか、あとは————その逆、とかね」


「……逆?」


 いつの間にか言い争いが終わっていたロシェとナイトはこちらに興味を向けてきたらしい。伊藤さんの隣に並んで話を聞いていた。


「私はマスターに魂を籠めてもらい、以来、傍にお仕えしている」


「へえ、じゃあチビ金髪は人形か何かなのか」


「チビ金髪言うな鼻血バカ」


「鼻血はチビ金髪のせいだろ!?」


「鼻血バカ」


「チビ金髪」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す二人に、またか、と呟いて伊藤さんと顔を合わせてみると彼女も同じことを思ったのか、またですねぇ、と呟いた。


「と、いうかロシェさんに話して大丈夫なのですか? この話」


「大丈夫だと思うよ?」


 こっそり聞く彼女に私は即答。伊藤さんは意外そうにしていた。


「何故です?」


「んー勘、かな」


「え、勘っ?」


「そ」


 直感的に危ない人じゃないとロシェに対してそう判断した。不思議と疑えないのだ。


「信じていいのですか?」


「どっちを?」


 伊藤さんの揺らいだ瞳を見つめて問いかけてみた。彼女のことはよく知らないから、何を考えているかとか表情だけではわからない。雰囲気で察するにも、彼女は少々複雑だ。


「どっちも——相田さんもロシェさんも」


「そーだなあ」


 未だ二人が噛みつきあっているのを尻目に、伊藤さんへの解答を叩き出した。


「伊藤さんのこと、私は信じてるよ」


「え?」


「だから信じてくれる?」


「…………」


 信じるから信じてくれるなんて都合のいいことがあるわけない。残念ながら強引でも、そう伝えるしか今の私に方法はないのだ。


「信じるなら信じます」


 真っ直ぐな瞳に変わった伊藤さんに私は驚きを隠せなかった。自分で言ってはなんだがこれで信じるも何もないと思う。


「ま、まあ他にもロシェを信じる理由も言えるんだけど」


「そうなんですか?」


「ナイトと仲良くなってる時点であまり疑いはないかな」


「仲、良いですかあれ……」


「ナイトは良くも悪くも気に入らないとそもそも話したりしないから」


 なるほど、と笑った彼女を不思議に見ていると少し意地悪な顔をしている。


「相田さんに一生付いて行きます」


「伊藤さんそれは重いよ。なんか責任重大だよね?」


 私に付いて行ったら危険が常に隣り合わせだろう。うん、自覚症状あるほどだからね。危険なのわかるかな? 伊藤さん?


 てか今、一生とか言わなかった?


「私は言いました責任を取ると、それに——この世界に私を置いて行くつもりなのですか?」


 忘れてた。


 そうなっちゃうかああぁぁあ!


「そうだった……この世界来た時点で後戻り不可能だった……」


「頑張りましょう」


「なんで、なんで笑顔なのこの子、怖い」


「相田さんの隣だからです」


 私と腕を絡めて満足そうに笑っていた。朗らかに笑う彼女に胸が高鳴ったのは、独特の雰囲気の影響だろうか。

 でも彼女の悪戯な空気は消えていない。おちょくられる身にもなってくれ伊藤様。


「それに」


「それに?」


「デートの約束、忘れてませんよね?」


 でーと? おやおや、異世界じゃなくてパラレルワールドに来てしまったのかな?

 上目遣いの破壊的な輝きから目を逸らし、現実からも目を逸らす。いやあ全くもって見覚えがな……。あれ。


「——お礼の話?」


 噂を聞かせてくれた彼女に、お礼として土曜日に出掛ける予定だったのだ。それがこんな場所に飛ばされる事態になってしまったのだから、デートという単語で思い出すなんて難易度が高かった。


「エスコート楽しみにしてます」


 彼女は私の問いに明言しない。しかし言外に当たりだと笑っていた。


「楽しそうなことになってんな?」


 ロシェは私達を見て楽しげに言う。


「どうだ? ボクの家に来ないか?」


「「「いえ?」」」


 いや、流石にびっくりだ。


「近くに家があるの? 本当に森人じゃん」


「ああ、森の中にある。てか森人って……?」


「あの、宇宙人って森の中に住居を構えるのですか?」


「そういうやつも居るんだよ」


「てかお前、家あるんだな」


「チビ金髪、ボクをなんだと思ってる?」


「頭のイカれたホームレス」


「喧嘩売ってんのか?」


「ハッ買い取って下さいますか?」


「許さん、そこに直れぇっ!」


「言うこと聞くかバーカ」


「なにぃ?」



「二人とも」



「「ひゃい!?」」



 始まりかけたロシェとナイトの喧嘩に静かな待ったをかけたのは、伊藤さんだった。


「な、なんだイトウ」


「邪魔をする気、か?」


 心なしか仲良く二人が怖がっているような……?

 伊藤さんは二人を見つめると無言のままだった。



「「ひっ」」



 すぐ隣の私からの角度じゃ伊藤さんをよく見えないが、二人の引きつった顔はよーく見える。これは恐怖とかいうあれだな……そんなに顔が怖いのだろうか……ちょっと見てみたい。


「相田さん」


「へ?」


 心の中まで遂に読まれたか!? と内心焦っていたら伊藤さんは微笑んで


「ロシェさんのお宅に伺います?」


 と聞いてきた。


 うん、よかった。

 般若みたいな顔じゃない!

 慌ててロシェを見つめ考えをまとめる。


「そだね、ここのことよく知らないし色々教えてほしいかなあ」


「ってことです。ロシェさん、よろしいですか?」


「あ、ああ、構わない……」


 魂が抜けてしまったかのように呆然と呟くロシェ。首尾よくまとめてくれた伊藤さんに感謝だねえ。


「では改めまして、伊藤志乃と申します。志乃とお呼び下さい」


「いとうしの」


 あ、そういえば自己紹介忘れてた。


「相田桜だよ。よろしく。私も桜って呼んで」


「あいださくら、な」


 うんうんと頷くロシェ、そして思い出したように私達を見て言った。


「人間だよな? その服はセブンルークの大図書館の者か?」


「セブンルーク?」


「大図書館?」


 二人で首を傾げると違うのかあ、とロシェもハテナを浮かべる。


「いや、服が似てたからそう思ったんだが——違うか。どうやら込み入った話みたいだな」


「あはは、色々あったんだ」


「ナイトさんは自己紹介しないのですか?」


 伊藤さんの言葉にギクッとするナイトは、そっぽを向いていた体をぎこちなくこちらに向ける。


 いや、なんかギシギシと音が聞こえそうだよ?


 ロシェに体を向け、目は逸らして口を開く。


「ナイトだ」


 短く一言。さっぱりだね、うん。


「さっきも聞いたと思うけど元はぬいぐるみなんだーなぜか今は人間だけど」


 補足するとナイトは不服そうに私の側に近寄る。


 ロシェは特に気にしないみたいで、ふーんと相づちを打った。


「チビ金髪にも名前あるんだな」


 ロシェはニヤニヤの含み笑いでナイトに挑発。


「ふん、言ってろ、鼻血バカ」


「なんだとコラ」


「やんのか、ああん?」


 口論が再開されて騒ぎ出すロシェとナイト。なんだかんだ仲がいいけど、


「口が悪くなる一方だなぁ」


「矯正します?」


「なんとなく怖いから却下で」


「残念です」


「…………」



 この人は敵に回したくないな気を付けよう……。



 その後、再び伊藤さんの仲介により落ち着き、ロシェ宅に伺うこととなりました。



 始まりの森から出発だー

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