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72 心の仮面3

 クーベルを説得出来たか怪しいのだが、フィレナが「貴女の気持ちは十分たくさん余すところなく存分に伝わったわ」と言うので渋々引き下がった。


 誰かを好きになること諦めちゃいけないって、思ってくれたかな?


 訊ねる前にみんなのところへ戻って来てしまった。


 ナイトはいつも通りだけど、ロシェは顔が赤いし伊藤さんは顔が青い。んー何してたんだろ。

 お待たせーと手を振る。伊藤さんが駆け寄るけれど、途中でクーベルを見て軽く目を開いた。


「少しはマシな顔になったんですね」


 マシ? 泣いて腫れぼったい顔がマシってどういうことだろ。彼女の微かな笑みからは悪意を感じない。てか次には寒気を感じる笑みに変わってるし。


「それより子どもや子づくりとは何のことでしょう?」


「それよりなの?」


「聞かれてたヨネーははは……」


 なんでクーベルまで青い顔してるんだろう。


 聞かれてたのかあ。どう説明しよう。彼女の話を私が勝手にするのもあれだし、聞かれたことの結果を簡潔にまとめるなら——



「私も頑張ってクーベルと子づくりする、みたいな結論かなあ?」



「「「「はぁぁああああああ!?」」」」



 びっくりした。



 ロシェと伊藤さんのみならず、当事者のクーベルと平静だったナイトまで声を上げた。どうしたのみんな。まだ話の途中なのに。


「どういうことだ小娘。マスターに何を吹き込んだ? 微塵切りにされたいならお安い御用だぞ」


「こっここここ子どもが、おん女同士で、でき、出来るわけ、ねぇだろ…………?」


「…………」


 ナイトは物騒な空気を纏い刀を抜こうとするし、ロシェは動揺からかどもってるし、伊藤さんは固まって動かない。

 そんな中、クーベルは顔面蒼白で手を振った。


「ちっ違う違う、これには深いわけがあってね?」


 また否定する気だ。やっぱり信じて貰えてない。


「違くない! 約束したじゃん二言はないって言ったじゃん……! 信じてよ、子ども欲しいなら私だって限界まで頑張るから!」


「わかった。わかったけど発言内容的にかなーりややこしくなるから黙ってようか?」


 口を押さえられた。力が強くて剥がせない。


 クーベルが口を開く前に、伊藤さんが手で制す。大丈夫だと言うように。


「重婚という手があります」


「手がありますキリッじゃないよ! 勘違い只中!」


「一婦多妻でも問題ないと思いますよ?」


「うむ、正妻であるという余裕がイトウを冷静にさせているのか……」


 何を真剣に話しているんだろう。


 もしかしてこの少ない情報から悩みを理解した? その上で解決の案を出してる? あり得る。私より頭いいし。

 頼もしい気持ちでみんなを眺める。何も言わずに協力してくれるんだね!


「待てよ子どもはどこから湧いて来るんだよ」


「なんとか細胞でもなんとか魔法でもなんとか能力でも、とりあえず奇跡を起こせば良いのです。出来たもの勝ちです」


「それは俗に言う出来婚というやつではないかイトウ」


「お父様、体からでは許していただけませんか?」


「誰がお父様だ」


「単為生殖でもでき……待ってください。もしかしてですが! 相田さん!」


「んぐ?」


 呼ばれたよ相田さん。伊藤さんはなぜか興奮してる。大丈夫かな、顔赤くない?


「子どもがどうやって出来るか正しく理解できていますか?」


 いやいやいやバカにされ過ぎじゃあないですか私。

 絶句していたクーベルは盲点だったとばかりにハッと見てくるし、ロシェもまさかと乗り出して来る。


 それくらい知ってるのに。


「コウノトリさんが頑張らない、キスにも頼らない方法ですからね?」


「流石にバカにし過ぎだろ」


 そうだ。もっと言ってやってくださいロシェのアネキ!


「好き合ったら神の加護で産まれると思ってるだろ」


 ブルータス、お前もか。


 ちゃんと言わないとダメそうだ。ゆっくりクーベルの手を剥がし息を吸う。


「知ってるよ。好きな人とえっちな——」


 えっちなことをすれば出来る。言い切る前に、とんでもない発言をしているのではと我に返った。方向転換しよう。


「その、一緒に寝れば出来るって」


 一緒に寝て出来るならとっくに伊藤さんとの子が出来ちゃってるよね。うん。やっぱり追及ガールズの猛攻は止まらない。


「今えっちなって言いかけましたよね?」


「どこからそんな情報を手にしたんだマスター! 情報規制は上手くいかなかったと……?」


「いやどのみち女同士では産まれねぇよな?」


「具体的にどうすれば出来るか答えてくれないと!」


「どう?」


 沸騰しそうな頭を働かせる。えっちなこと、とは知っていても具体的な内容はわからない。

 なんかそういうえっちな感じになったら宿るもんだと思っていた。人間には特殊な能力があって、愛の力で新しい命が産まれるみたいな。人形に魂を宿すのと同じような原理かと。


……もちろん人形を動かす時にえっちな感じにはならないよ?


 うんうん唸っているのがバレたのだろう。クーベルに話の輪から放り出された。ひどい。


 話をするから散歩しててーなんて言われトボトボ森をうろつく。


「自業自得よね」


 お姫様の言葉に同調するように、シューシューキューキューとの声が賛同する。三対一じゃ負けるよ。くそう。


「フィレナはなんで参加しないの?」


「下等で下品でふしだらな会話に参加するわけないでしょう。愚かさの極みだわ」


「子どもを産むことに下等とか下品は言っちゃいけないよ」


「そんな次元の話には聞こえなかったのだけど」


 まーなんだかみんな興奮状態というか様子がおかしかったから、子どもの話はデリケートなのかも。まだ私にはわからないけど女の子にとって大切なことだもんね。

 無責任なこと言っちゃったな、子どもの産まれ方も知らないのに。


「どうやって子どもは産まれるの?」


「本当に知らないのね。教養なさ過ぎ」


「もう知ってるでしょバカだって」


「はぁ……いずれ分かると言いたいけれど、知らないままも可哀想ね」


 やれやれって憐れみの声が漏れる。

 お姫様は私より大人だから知ってて当たり前だろうけど、何気に勝ち誇られてるのが不思議だ。



「結婚したら出来るのよ」



 ドヤられた。声だけでもわかるドヤり具合だ。


「結婚?」


「お母様もお姉様も言ってたのよ。間違いないわ」


 そんなわけない。結婚するだけで子どもが出来るなんて。いや、でも、さっきなんとか婚とか結婚について言ってたし、本当のことなんじゃ?

 マリッジブルーとかマタニティブルーとか聞いたことあるし。

 なによりフィレナが自信満々で言ってるわけだし、ロイヤルファミリーの言葉なら確かな情報だろう。


「結婚ってすっごい大変なことだったんだね……」


「大変よ。覚悟が必要なんだから。分かったかしら?」


「うん、まだ先のことだけど心に留めとくよ」


「ええ。結婚するその時は——」


 フィレナの声が途中で途切れる。

 何かあったかな。

 何でもないわ、と聞こえて少し安心する。


 魔物半人形(ハーフドール)コンビはカチカチキュッキュと話し合っていたが、なぜか静かになってしまった。何の話だったんだろ。


 そんな会話をしながらふと気付く。ボーっと歩いて来てしまったせいで、先ほどの小川にたどり着いてしまった。


 そういえば子どもうんぬん言ってたけど、クーベルの問題はそれだけじゃないんだよなー。


 ふわふわ考えながら川の水を掬い上げる。


「フィレナも飲…………っ?」


 発光して現れた黒いドレスを纏う銀髪の姫。

 隣に降り立つ彼女はいつもより鋭い空気。

 大剣を下げて射抜く先は、私の前?



「川から離れなさいッ!」



 言われた通りに後退するが遅かった。

 瞬く間に川の水が蠢いて私たちを襲う。


 びしょ濡れになるだけなら良かったけど違うらしい。水球が私たちの頭部に纏わりつき、空気を奪っていた。


 やばいこれ息できない……!


 どうにか殺しにかかる水を落とそうとする。ダメだ掴めない。

 こんなところで溺れるなんて考えなかった。冷静な判断ができない。焦って水を吸い込んでしまい咳き込む。苦しい……。


 意識が朦朧としてゆく。


 二の腕あたりを掴まれる感覚。瞼を開けると目の前に金の瞳があった。フィレナだと気付くより早く、頭突きを食らわされる。


 いっっっった! 頭割る気かこの人! めちゃ石頭じゃないか!


 衝撃にチカチカする中、彼女の口が私の口に押し付けられていた。


「んっく……」


 何をして……? 疑問はすぐ理解に変わる。空気をくれてるんだ。ありがたく受け取ることにして身を預けた。


 ここまで来てようやく脳が巡る。

 頭突きの効果かもしれない。


 どうしたものか。今はフィレナのお陰で人生からの離脱を防げたけど、長く保つものではない。


 視界の端に白い物体がフヨフヨ。テルちゃんか。

 テルちゃんズは起動していたけど、相手が水だったことでどう行動して良いかわからなかったらしい。私もこれは予想外である。


 川の水が襲ってくる。それもピンポイントでって少ない。

 謎の水球は頭部に纏わりつくのみ。独自に動いて圧迫だとか、水温が上昇するようなこともない。ただただ溺死の恐怖がある。


 これはこれで助かってるのかも。


 パターンとしては三つ。

 魔物。魔法や魔術。自然現象や超常現象といった特殊案件。三つ目は確率として低いので魔物か魔法。この辺に水系の魔物はロシェから聞いていない。


 魔法的なものであるなら……。

 ウエストポーチを手探りで漁った。袋を取り出す。



 折紙吹雪(ディスターブ)



 フィレナにも手伝ってもらった折り紙が紙吹雪のように宙を舞う。


 解き放った形豊かな折り紙たち。

 ウサギやネコ、鳥に犬に魚。

 私たちの周りを跳ねて遊泳してゆく。

伊藤志乃のなんとか室


「さあ、フィレナさんとクーベルさん、なぜお呼びしたか理解してますか?」

「ぜ、ぜんぜん……」

「何もしてないわよ……」

「ふふふふふ、あくまでシラを切るつもりですね。本編で随分と好きにやってくれたのに」

「わ、私はサクラに手を出してないわよ。不可抗力は無きにしもあらずだけれど?」

「あたしもだよ!」

「ふーん、へぇー、アレが不可抗力ですかぁー、瞼にキスを落とすことも」

「ひっ……」

「空気を口移しすることも」

「ぐっ……」

「R15指定なのはあなた達が不埒な行為に至る所為だと、分からないのですか?」

「「自分を棚に上がるなぁ!」」

「え、私のは公式に認められた読者サービスですよ?」

「「初耳っ!」」

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