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61 街をゆく3

 ジャンはふむ、と顎らへんを撫でて思案する。


「国の魔法官か貴族の差し金ですな」


「……伊藤さんも触る?」


 恐る恐る手を伸ばす伊藤さん。

 何故か睨みを利かせる目玉使い魔。


 うーんダメみたいだ。


 興味があったのかロシェも手を伸ばすが飛び立ってしまった。天井近くでホバリングする使い魔。


「まあ気持ちは分かるんだけどねぇ」


 気持ちと言われニッコリ微笑まれた。なぜか豊満な胸を寄せてる兎さん。

 当て付けかな。確かにそこまで膨らんでないけど、膨らませる必要もないと思っている私にはノーダメージだ。それよりテーブルの下で足をスリスリするのやめて欲しいんだけどな……。


 バニーガールと勘違いしたように露出の多いバニー服である。肩を出したボディースーツに網タイツ。そこから溢れんばかりの肉体は、サージュもチラチラ見ているくらいである。ジャンは興味無さそうであるが。


「私だって個人的にナカヨクなりたいなーって思ってるもの」


 いきなり手を取られたかと思うとトリュフの胸に埋められた。めちゃくちゃ柔らかい。生の感触に他人事のような心地でいたが、顔も近————


「さすがに守りが固いわねー」


「事務所を通してからにして下さい」


「事務所的にもえぬじーだ。こんな淫売」


 いんばいって何……。


 私とトリュフの間に杖と刀が滑り込んでいた。

 両側の彼女たちは威嚇するようなオーラをまき散らす。


「とまあ懐柔するには、こいつらをどうにかしなきゃなんねーし難しいんじゃねぇかな。能力が高いってこた、力で抑えつけるのも無理があるってことだしな」


「同感ですな」


「それは言えてる」


 ジャンもサージュも少し引いていた。

 可愛い女の子二人の変貌ぶりが怖いのだろう。私も怖い。でもトリュフだけは楽しそうである。


「また今度、ね?」


「今度なんてありません」


「あらあなたに言ってないわよ」


 たぶん、隙のある私から攻略しようと画策しているんだろう。前も私がリーダー的なアピールをされたので、この雑魚を抑えさえすればイージーモードだと認識されていると思う。

 それをまあ、優秀なクマさんと友人がカバーしているだけだ。


 私も本気で身を守って行かなきゃなあ。


「気を付けなさいね」


「お主にか?」


 ナイトの問いに答えることなく立ち去るトリュフ。


「俺らもそろそろお暇するとしよう」


「お時間いただき感謝する」


 サージュとジャンも去っていく。


 ただ完全に立ち去ったわけではなく、遠くから監視する業務に戻っただけらしい。視線を感じる。

 監視されるとわかった状態で観られているのは不思議な感覚である。


「ま、悪いやつらじゃなさそーだし無駄と判断したら離れるだろ。しばらくは主要な任務じゃなくてお前らの慣らし訓練だから気にしなくて良いしな」


「悟られないように監視しているよりはマシではありますね」


 そんなものだろうか。


 情報局員であることは国内の高官級の人しか知らない。他は図書館員であると話を通しているらしい。

 先ほどの三人は局員であるとわかって近付いている者。


 信じ切ってしまうのも危険に感じる。悪意はないように感じたし考え過ぎだと思うけど。


 そんな考えも無駄かもしれない。


 追い払うのは簡単でも追跡を振り切るのは難しいとわかるからだ。どうやっても現状を抜けるのは無理そうである。



 *



 大図書館へ戻る一行。


 買い物は大体済ませたので、問題に巻き込まれない内に早めの帰り道。


「酒場でおっさんたちが話してたんだが、聖法旅団の残党が武術の国で勇者様に打ちのめされたってよ」


「ではもう捕まったんですね」


「勇者ってやっぱいるんだー」


「詳しくは知らねぇけど、武術の国の武闘大会に乱入して暴れ回った聖法旅団を制圧したらしい。槍と盾を手にした冒険者の少女だっつったかな。圧倒的に強かったみたいだぞ」


「大会で暴れるなんて阿呆だな」


「これであのクソオヤジ共に仕返しされることも、顔を合わせることも一生ねーな」


 聖法旅団が既に仕留められているとは。すっごい。因縁の聖法ワールドは防がれたわけだ。


 ていうか勇者さんいるじゃん。

 これはキタかもしれない。


 チート魔導師様、優秀魔法使いな友人、強力なぬいぐるみ戦士。


 そして正義の勇者様!


 ふははは私の時代が来た!


 無敵である。もうこれは何もしなくて大丈夫なのでは……。平穏平和な未来。私は普通に生活できれば十分幸せなのだ。その普通は誰が生み出しても問題ない。

 本来は人形を助けることも、能力を知り普通になる手段の一つ。自分の為の勝手なワガママだ。もしそれが棚からぼた餅ノリで手に入ったモノでも喜べる。たなぼた最高。



『おいで、おいで。たのしい仲間が待ってるよ』



 声?


 謎テンションを覚まし足を止める。辺りを見渡した。


 何もない。


……疲れてるのかな。



『おいで、おいで。いいものが売ってるよ』



 やっぱり聞こえる。頭に響く独特の感覚。

 一軒の家が目に入った。

 近付き出窓を覗いてみる。


『やあやあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい』


「こんにちは」


『こんにちは、こんにちは』


「何をしているの?」


『看板、客寄せ、店番、いっぱい』


「そっか。店員さんは頑張り屋さんだね」


『ありがとう、ありがとう。僕はトルテ。良かったら見てってよ』


 小さな店員トルテは、出窓に置かれた男の子の人形だった。

 招き猫みたいな感じかな。商売繁盛や家内安全といったお守りや風水のような人形の一種だろう。彼からヤバそうな空気はないから純粋に客寄せしていただけみたい。


 出窓に張り付いて眺めていると、窓の奥からニコニコ見ている女の子が。


 目が合った。


 若草色の透き通った瞳。捉えられて動きが止まる。ニカッと一際笑って手招きされた。なんだか見られてたみたいで恥ずかしい。


 人形と話してたとこまで見られてないよね?


 不安になりながらもお店に入る。チラリと見えた立て看板には“布屋”とあった。布類を売っているとの判断で間違いないだろう。


 想像通り、店内には色とりどりのロールになっている布が所狭しと並べられていた。それ以外にも糸や裁縫道具も売られている。少ないながら洋服もあった。


 そういえば人形を作る為の道具も材料も無いんだよね。ここで買っちゃおうかな。


 他にもこういう店はたくさんあるだろうし、探せばもっと良い品質で安い物が売っているかもしれない。本来このお店に固執する必要はない。


 でも人形トルテが誘なう布屋さんは少し気になった。


「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」


 先ほど目が合った少女が嬉しそうに近付いてきた。笑う時のえくぼが印象的で、赤毛——いや赤橙色のポニーテールにパッチリした目だった。作業着だろうかツナギみたいな服である。


 話しかけられて逃げ出したい気分に駆られる。

 見られていた恥ずかしさもあるが、自分とは対極で明るい彼女に眩しさを感じたのもあるだろう。


「そんなに固くならなくていいよ。お客さん自体珍しいから話しかけちゃった。あなた見ない顔だね。旅人さん?」


 店員の顔から親しげな顔に変わる。

 フレンドリーな人だ! 底知れないコミュ力を感じる!

 慣れた話し方にドギマギして、ますます目を合わせにくい。これは同じ世界の人間じゃない……あ、そもそも同じ世界の人間ではなかった……。


「ちょっとデリカシーないこと聞いちゃった?」


「えっとすみません、眩しくて言葉にならなかっただけです」


「眩しい?」


 少女は首を傾げる。私より年上だと思うんだけど。ロシェと同じくらいだろうか。


「面白いこと言うね。ていうか敬語じゃなくていいよ」


「わかりま、わかった。その、最近ここら辺に住むようになって国を案内してもらってた途中だったんで……だ」


 あ、忘れてたけどみんな置いてきちゃった。

 振り向くとタイミングよく入店してくる三人。

 物言いたげだが話の腰を折る気はないようだ。

伊藤志乃のなんとか室


「二月といえばですね!」

「節分だよねー豆まきは片付けが大変だけど年の数だけ豆が食べられるし、恵方巻きなんかもあるよね。方角はどこだったけかな」

「最初に出てくるのって大イベントのバレンタインですよね……?」

「あーあんまり良い思い出ないんだよね」

「まあ私もですが」

「学校行くと下駄箱ロッカー机の中から上までチョコが積み上がってて……通りすがる色んな人にもチョコ貰うからお返しするので精一杯なんだよね。嬉しいんだけど大変」

「どこの漫画のイケメンですか」

「伊藤さんも逆チョコすっごい貰ってたよねー」

「私はお返ししませんけどね」

「あ、でも伊藤さんから貰ったのは嬉しかったなあ」

「……っ、そ、そんなこともありましたね」

「私も最初から用意してれば良かったなー」

「でも相田さんのお返し、私も嬉しかった、です」

「そっかーじゃあ次は全校生徒に渡せるように頑張ろう」

「頑張る範囲広すぎですよ……」

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