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47 空間転移

 空間転移(テレポート)。そういうモノもあるんだなあ。


 かの有名なゲーム、ドルフィンクエスト——通称ドルクエでもそんな呪文があった。それ以外でも転移系の魔法や能力って王道で存在する。このファンタジーな魔法世界にないほうが不思議とも言えた。


 一人頷いてると、何故かレイリーがワナワナしてることに気付く。どうしたのか聞く前にビシィッとロシェを指差した。どうしたこの子。


「そんなのあるワケないじゃん! ゴブリンがドラゴンの首を落とすとか地人と森人は相容れずとか泣き虫ランダが花を踏むとかとかとかなくらいありえない話じゃん!」


 んーこの世界のことわざか慣用句だろうか。よくわからない。とりあえず“ありえない”と伝えたいらしい。レイリーはドヤ顔である。言ってやったぜって感じ。


「四十五点デスね」


「なっなんでさ!」


「『ゴブリンがドラゴンの首を落とす』は本来ビギナーズラックの意味。ありえないという意見を含ませたのでサービス加点として、『地人と森人は相容れず』は多種族が無闇に交わると文明が崩壊するの意味で——」


「でさーなんであんたが古代魔法の中でも失われた空間魔法が使えるのー?」


 懇切丁寧なルミネアの解説を華麗に無視するレイリー。ことわざ解説を聞いていたいところだったけど、こちらが気になる。


 古代魔法の失われた空間魔法。


 近代魔法があるなら古代とかあってもおかしくない……。

 しかし中世っぽいこの異世界での近代ってなんだろう。異世界だから概念は違うんだろうけど、いったい時代区分はどうなっているのやら。それも今後のアップデートに期待しよう。


 えーとその空間魔法とやらは異世界(ここ)で既に無くなったとされているのか。確かにそんな魔法が使えたら歩いたり走ったりせずポンポン転移してるだろうし、もっと文化が発展していてもおかしくない。


「ボクが使えるんじゃない。さっきもポロっと話した転移結晶と関係があるんだが、この国の最重要機密だ。と、説明は後々するからボクに掴まれ、行くぞ」


「えーホントにそんなこと出来るのー!?」


 促されるまま、みんながロシェの差し出す手や腕に触れる。


「注意として、空間転移は使用者と使用者に触れている者だけ、一日に一回のみ、で、ごく稀に転移酔いっつーのが出るやついるから気を付けろよ」


「ねえねえねえホントに空間転移出来るの? 亜空間転移とかじゃなくて? 魔法の国でも失伝魔法になったのが使えるの?」


「っだーうるせぇな! 後にしろ!」


 二人が色々と気になるワードを落としていく中、私たち三人がピクリと反応した。えっと今すっごくマズいこと言ったよね。


 こっそり手を引っ込める私をガッチリ捕獲するのはナイトと伊藤さんだった。


「マスター、運命を共にしよう」


「相田さん、逃げは無いんですよね?」


 そこでそんなこと言われたら弱いけど、弱いけども!


「いやそのだって酔い止めないしっ」


 乗り物酔い常習犯の私が噂のテレポ酔いに耐えられるかって言ったら耐えられないと思うんだ! 酔い止めのお薬必須の人間だよ! 足手まといになるしお留守番する!


「意外と大丈夫だったりしますよきっと」


「私のマスターは無敵だきっと」


「ヤバそうなフラグがバリバリに立ってるよねそれ」


 二人の哀れみの視線に泣きそうになりながらプルプル抵抗。しかし後ろから無言でやって来たフィレナ姫にまで押された。

 ぐいぐい押しつつロシェに触れる彼女は最初から同行するつもりだったのか、話は聞いていたみたいだ。変わらず不機嫌そう。

 でもなんで来るんだろうか。彼女の目的は女王様と王子様の守護で……。


 ん? 聞いていた?


 後ろを振り返ると、手を振る女王様とフィレナファミリー、興味深げな王子様、呆れた表情のリアンさんと泣いてるフリのマゼルダさん。気付いてたのね。

 議会だのは気付いたり静観したりまだ紛糾してたり様々。こちらに気付くのは時間の問題そうで……わー助けてー早く気付いて止めてー。


「どうした桜? なんか青ざめてるような」


「さあ行きましょうロシェさん!」


「ここで油売ってるうちに有象無象も気付き始めているようだぞ、急げ」


 息ぴったりに急かす二人。こんなに仲良かったっけ。


 っていやちょっあのっそれよりも待ってこここ心の準備がああああああッ!


「お、おう、そうだな」


 そしてロシェの胸元に付けられた紋章が発光して————



 *



「ぅううう……」


「相田さん! 死ぬ時は一緒だって言ったじゃないですか!」


「あれほど止めろと言ったのに何故こんな……くっマスター……」


 言ってないだろ。


 とツッコミする元気もなく床に突っ伏す。


 めちゃくちゃ気持ち悪い。


 ぐるぐるして安定しない。こみ上げそうなのか胸辺りがモヤモヤする。唾液が口腔に溜まり、その度に飲み込んで我慢。胃液が一気に出てこないだけマシなんだけど……この状態が一番気持ち悪い。だからって吐けるワケもないのだ。


 誰かモザイク処理してください。

 あ、虹色でお願いします。


 テレポ酔いの噂は聞いてたけどここまでとは最悪すぎる。この世界に来た時は眠ってたから良かったものの、意識がある時はアカン。


「それにしても本当にダメなんですね」


「乗り物と同等か。良い研究結果が出たな」


 虚ろに目を開けば、伊藤さんは私をツンツンし、ナイトは得意げに頷いていた。二人とも平気ってことは本当に稀だったんだろう。ついてない。

 酔うことだけならまだしも、どうやら私だけ転移後の着地が顔からっていう謎の現象が起きていた。なんのギャグですかね。顔面を潰しに来てるんですかね。


「お前ら鬼畜すぎるだろ……っと、それよりビンゴみたいだぞ」


 目だけを動かして状況を確認——て、わー、たくさんの足だ。人口密度高いよねコレ。



 どうもこんにちは。床から失礼します。



 床はつるつると滑らか。大理石の床みたいな感じで、ひんやり冷たい。気持ち悪さが和らぐようだ。

 暖色の照明に照らされた床上。そこに立つ人々は殺気立っていた。


 ロシェと同じような制服に身を包んだ人たち。よく見ると上だけ学ランで下はスカートの人もいた。ここからだと見えそうで見えない。何とは言いません。


 調査員いるじゃんとか思ってたら、こちらの人たちは情報局員の中でも非戦闘員の事務員や研究員だそう。そんな区分けがあったとは。もぬけの殻だと思ってたよ。


 対してちょい武装の人たち。不揃いの鎧や胸当て、私服かよってくらいラフな服装もいる。むさ苦しい男で構成されたこちらは一様に怖い顔をしていた。


 まあ、そんな二つの勢力の間にポンッと登場した私たちは鋭い視線に晒されてるワケですが——



「サクラ目立ってるぅーズルイずるーい!」


「大概の人は馬車に乗れればこの安定感で酔ったりしないデスが」



——床に頬擦りしている私に冷たい視線が突き刺さるのは当たり前とも言えた。


 ルミネアさん、それ馬車はもっと酔いやすいってことですかね……?


 うっ想像したらもっと気持ち悪くなった。


 遠くを眺めることに努める。見えるのは剥き出しの岩壁に部分的に木材が打ち付けられた壁。他にも黒板みたいな掲示板があり、なんか書いてあったり紙みたいなのが張り付いてたり。

 視界の隅に映るのは、テーブルか何かだろうか。


 見えているだけでも広く、人が居なければもっと広いことだろう。今は人口密度と険悪度が高くて居心地が良いとは言えない。


 以上、サクラ・アイダのレポートでした。


 完。


 ってなるワケないよねー。知ってた。


「マスター、とりあえず斬るか?」


「とりあえずで斬らないでよ……ロシェのサポートをお願い」


「承知した」


 ロシェまで斬らないと良いけど。まあ大丈夫かな。

 一方、そのロシェさんは軽武装団のリーダー格っぽい人と言い争っていた。


「てめぇら何者だ! どっから出てきやがった!」


「あんたらこそ何者だ。人の仕事場踏み荒らしやがって、ただで済むと思うなよ」


「ガキのくせにセリフだけは一丁前だな。俺たちの悲願が叶う第一歩を邪魔するなら容赦しねぇぞ!」


「容赦なんて結構、ただのガキに悲願を潰される地獄でも見るか? あ?」


 どうしよう。どっちが悪者かわからない。


 二人の口論がエスカレートするに従い、二人の空気と周りの空気がさらに殺気立つ。ひえーなんで喧嘩腰なのおおおお……。


 軽武装団がレジスタンスとやらで、襲撃の矢先だったらしい。ナイスタイミングである。伊藤さん様様だ。もういっそのこと伊藤様と呼ぼうかな。


「変なこと考えてませんか?」


 鋭すぎるよ伊藤様。


 不用意に見上げてしまい、慌てて床に突っ伏した。床よ、ただいま。私は何も見ていない。決して水玉だとかは。


 違うことを考えよう。


 えーとレジスタンスも加担していたってことは聖法旅団もいるのかと思ってたけど——


「聖法旅団とレジスタンスは別行動だったんだね」


 白い制服姿は見た感じではいない。


「武力が優れた聖法旅団をお城の襲撃に、手薄な情報局の襲撃をレジスタンスに、という形でしょうね。別行動の理由は」


「理由は?」


「どちらが失敗しても芋づる式に全容を把握されない為でしょうかね」


 協力はするけど共倒れになるのはゴメンだ、という考えなわけか。


「それも伊藤様のご慧眼にて暴かれたと。いやあ感服いたしました。伊藤様にはなんとお礼申し上げればよろしいのやら」


「あらあらお礼だなんて、では少しばかりあんなことやそんなことをさせて頂ければ幸いです」


「どんなことでしょう!?」


「イロイロです。ふふ」


 おっとりニコニコ。微笑む伊藤さんの真意は捉えることが出来ない。どちらかと言えば私のほうが見透かされている。だから助かったこともあるけど。

 あ、そうだ。さっきの二の舞にならないようにテルちゃんズを発動しとこう。


守護人形(ガーディアン)照々坊主(テルちゃん)、伊藤さんを守って」


 白く手のひらサイズのてるてる坊主が四体、伊藤さんの周りをフヨフヨ。これで大丈夫。何かあっても安心安全。

伊藤志乃のなんとか室


「そういやあ、『まだ二日目なんですね』とかお便り届いてたな」

「二日目だねえ」

「二日目ですねえ」

「反応薄ぅいな」

「大丈夫です。ほとんど丸一日で一章の作品もありますから!」

「メタいなーそういうメタ発言ってお許し出てるの?」

「言ったもん勝ちです」

「メタいってなんだ?」

「メタルスライムの略だ」

「なるほど」

「嘘を教えないであげてよナイト」

「ほとんど丸一日で一章の作品ってなんだ?」

「それこそ突っ込んじゃいけないメタい話だよ……」

「では話題転換しましょう。相田さんにあんなことやそんなことをするのですが、何が——」

「毎回矛先が私に向いてるのは何故なんですかね!?」

「愛です」

「イトウが言うと説得力ある」

「あるな」

「その愛を止めてよ……」

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