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45 円陣会議2

 私は腕を絡める伊藤さんに反応を困らせていた。


 なぜ今なんだという気持ち、恥ずかしいという気持ち。口を開くか目を合わせるかさえも悩む。


 今まで以上に密着している為、その、あれ、胸が、当たってフニフニしているのだ。

 腕越しでもこんな柔らかいんだなーとか。中学生でこれとは、大人になったら……とか。雑念だらけであった。


 一度意識してしまうとどこまでも考えてしまう。私の性分でもあり人間のサガであろう。もちろん今までも考えたことはあった。それに実は触ったこともある。しかし何度でも実物に触れるのはディープなインパクトが疾走するもの。自分は発展途上か打ち止めかわからないが彼女ほど無い。てか伊藤さんが平均を上回っているだけなんだよね。他の女子もこれほどではないし。


 こう、すっごい。


「相田さん」


「ひゃいっ!?」


 思わず上擦る返事。まずい軽くトリップしてた。


「私で喜んでいただけるのは嬉しいのですが、今はそれどころではありませんよ?」


 声を潜めて囁かれたセリフに顔から火が吹きそうだった。

 喜んでないです違うんですちょっと魔が差しただけですっ! どうしようもない変態だって軽蔑されたかも。わーわーなんてこった、べべ弁明のチャンスを!

 声にならず金魚のようにパクパクする私を放って、再び声を張る伊藤さん。


「お答えする前に、このまま話を進めて良いのか相談させてください」


 気に、してないのかな。彼女は通常営業だと読めないタイプなので私が惑わされるのが常だった。


 えーと相談って……?


 女王は一つ頷き、手でどうぞと先を促した。寛容な女王様だなあ。


「恐らく、この話で今後が決まります。そして決断の裁量は相田さんにあります。私が話すのはこの国の危険、知ろうとするのはこの国の根幹です」


 注目を一身に浴びる中で伊藤さんが私に問う。そこでようやく金魚パクパクモードが解除された。決断の裁量とな。


「深追いすることになります」


 深追い。今なら手を引けて面倒は起きないということだろうか。彼女は一応、私に許可を得ようと考えたわけか。


 ここまでお膳立てしておいて何を——?


 今さら過ぎる。


 彼女の目的は他にある。

 今さら私の許可や考えを聞く必要はない。

 じゃあどうして今?

 伝え忘れたからってことなんだろうか。


「ナイトさんはいかがですか?」


「無論、マスターに従うだけのこと」


「本当に相田さん基準なんですね」


 伊藤さんが後方のナイトに問いかけることで気付いた。目的。それって。


「まさか伊藤さん……」


「もう決定権は相田さんにしかありませんよ? 私も相田さんの意に沿わない話はしたくありませんので」


 この集団の決定権が私にあるというアピール。


 “私は金魚のフンだよモード”の起動がオフられた。な、なんてこった。


 そんな事実に気付いたところで何も出来ないほど外堀が埋められていた。

 大注目の中で、さらに私への興味が身に刺さる。混じるのは早く知りたいという焦燥と好奇心。目立ってるぅ……。

 私が否と言えばもちろん彼女は話さないだろう。でも伊藤さんは既に言ってしまったのだ「この国の危険を話す」と。ついでに言えば初めから私の心は一つだった。


「も、もちろん、話して良いよ」


「わあ! ありがとうございます相田さん」


 イエスしか選択肢のない状況にしておいて、しれっと喜ぶ演技。思いっきり抱き締めて来るのでまたアレがアレしてる。見透かされるので、高い天井を眺めてテルちゃんズの飛行可能距離を想像した。

 ちなみにテルちゃんズは追及されるのが面倒なので、また太ももに括っている。若干重い。縛り跡付かないと良いけどなあ。


「許可もいただけたのでお話しますね。あくまで私の推測であることを念頭に置いて落ち着いて聞いてください」


 そう前置きして一歩前に踏み出す。

 一同は問題ないと、彼女に話すよう促した。

 私は右腕が解放されたことに少し安心。心臓に悪いのだ。


「まず聖法旅団の目的が女王様や議会の方々には無い——いえ、ついでだったということです。この場合は聖法旅団側と言えば正確でしょうか」


「でも実際に宣言されて襲われたわ。それに聖法旅団側と表現し直した意味が読めないのだけれど」


 女王に同調し頷く議会のお偉いさんたち。

 お偉いさんというからには、おじさんばかりかと思っていたが若い人も普通にいる。鎧を着たお兄さんと目が合ってしまい慌てて逸らす。危ない危ない。


「王子様や幹部の方々を閉じ込めたのも、大広間で女王様たちを襲ったのも囮です。あわよくばという思いもあったと思います」


「まあ囮だなんて」


「聖法旅団側と表現した理由は他に協力者が存在するからです。マーブルさんは置いておくとして、協力関係にあるのはレジスタンスではないかと」


「確かに当初はレジスタンスの活動だと思っていたわね。先日の爆破事件と関連しているというところで」


「ええ、仮に爆破が聖法旅団や他の仕業であるなら、レジスタンス側は“レジスタンスが爆破した”という情報に黙ってはいないでしょう」


「それでは彼らの真の目的は何なのかしら?」


 私は伊藤さんが真実に辿り着いていたことは知っていた。けれどその内容については知らない。

 ご自慢の私の勘が「これで終わりじゃない」と囁いても真実まで導くことはなかった。伊藤さんが何かしようとしていることには気付けたんだけどね。

 何にしても真実は私も初めて聞くのだった。



「真の目的は情報局にあります」



 彼女の一言に騒然とする。

 情報局にあるって何でだろ。首を傾げるのは情報局について疎い私とレイリーたちだけだった。


「聖法旅団側が情報局、レジスタンス側が女王様たちの襲撃を真の目的にしていたのでしょう」


 二つの勢力は利害の一致で共闘したということか。

 レジスタンスが現在の国に反発する団体であり、女王を襲撃するのはわかる。でも聖法旅団が情報局を狙う理由は何だろう。国の裏方という面で活躍する情報局を襲うのは、国に打撃を与えるのと同等ではある。でも女王より優先することだろうか?


「……理由を伺ってもよろしいかしら」


「調査員マーブルさんの不可解な行動と聖法旅団の計画通りであるかのような退散、そして状況からです」


 蜂男と襲われる前に伊藤さんと話していたマーブルのややこしい行動について。聖法旅団が多大な犠牲を出してもなお余裕を感じさせた離脱について。


 思い出すのは情報局の状況。

 祭りによる調査員の人手不足とレジスタンスの件で出払った幹部二人。城は手一杯で聖母ロイエさんが仕立てた緊急の私たち援軍(パーティー)

 確かに手薄な情報局は、狙うにはうってつけの状態だ。


「情報局が秘匿の存在であるのは理解しておりました。しかしわざわざ王城より優先して狙う理由がない。ならば隠していることが他にもあると考えました。機密文書でも、重要人物でも、図書館を隠れ蓑にするほどの秘密が」


 伊藤さんは言い切る。一歩下がり元の位置に戻った。役目は果たしたとばかりに。


 大図書館に隠すほどの情報局。その根幹となる理由は聞いていなかった。ロシェが「隠すのにはそれなりの理由がある」と言うに留まった話。


 情報局の幹部であるリアンさんとマゼルダさん、調査員であるロシェは、差があれど顔面蒼白。心当たりがある反応に違いなかった。


「もしかして転移結晶を奪う為の襲撃だったのか!」


 ロシェから漏れた言葉は、さらに全体を騒然とさせることになる。


「ロシェそれは」


「ロシェちゃん心のボイスだだ漏れてるわ」


 秘密だった内容のようだ。本人は口を押さえているが時すでに遅し。

 リアンさんは髪を掻き上げ苦い顔。マゼルダさんはニヤニヤ楽しげな顔。女王はまあまあまあと穏やかに驚き、お偉いさん方は一様に取り乱していた。


「本当なら彼女の推察に対する裏付けを全体で確認してから教えようと思っていたのだけれど……もう意味がないわね」


「しかし陛下、この話が本当なら緊急事態なのは変わりません。僭越ながら悠長にしている場合では無いかと」


「それもそうねえ」


 女王に進言するのはリアンさん。

 彼女の言う通り、伊藤さんの推測した内容が正しければ情報局は襲われているかもしれないのだ。転移結晶とやらを狙って。


 というか、正しいと私は確信を得ていた。腑に落ちるものがあるし伊藤さんを信じているから。

伊藤志乃のなんとか室


「というわけで、相田さんどうぞ!」

「何がどうぞなのかな!?」

「えっ……私の胸に興味を持っているような表現を本編で……」

「ああどうしよう否定できない! 拾う部分を間違えてませんかね伊藤さん!?」

「相田さんが欲するならいつでも差し出す覚悟は出来ていますよ?」

「その覚悟必要なのかな」

「んで、今日はおっぱいコーナーなのか?」

「違うよ……何それ需要あるの?」

「マスターの[ピー]も[ピー]も、全て私が守る。それが鞘の務めだ」

「ごめんナイトよく聞こえなかった。でも聞こえないほうがよかった気もしてる」

「まあせっかくだし、今度みんなでおっぱいサイズ決戦するか?」

「楽しそうですね!」

「負け戦か……それも悪くない」

「なんで乗り気なの! てかロシェはツッコミ側だと思ってたのに!」

「ジョークはこの辺にして、桜は志乃のおっぱいを揉むのか? 揉まないのか?」

「揉まないよっ全部ジョークであってよっ」

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