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44 円陣会議1

 襲ったのは耳をつんざく爆発音。


 至るところから爆竹が破裂しているような音に動揺が走る。

 私も身構えて周りを確認するが、音の元を辿ることは叶わない。どこも爆発したような痕跡がなかったのだから。


 緊張の中、一番に動きが早かったのが聖法旅団の残り三人。

 動揺した私たちの隙を縫って距離を取ったのだ。まるで初めから差し合わせていたような自然な流れで。


「厳格なる神よ我らに成功を宿敵に制裁を、神聖なる法の下に粛清を開始する」


 大男ウォッカが低音で呟く。これは魔法の詠唱。しかし彼の両手は私たちでも女王様たちでもなく、頭上に掲げられている。

 その異変に気付いたのは私だけではない。


 小さく詠唱したマゼルダさんは私たちの先頭に立ち、彼と同じく頭上に手を掲げる。ロシェもとんでもない速度で玉座へ飛んでいって両手を挙げていた。リアンさんはナイトをヒョイっと抱えて距離を取る。


 にやりと猛獣の笑みを浮かべるウォッカ。彼の手から迸る光は、天井近くで丸く滞留していた。なんとか玉のようなアレだ。

 私たちが出会い頭に放たれた魔法とは違う。



光の砲弾よ、散れ(ホーリーブレイカー)



 気付いた時には強烈な閃光が視界を奪っていた。

 ひときわ輝いて弾ける光のシャワー。降り注ぐ光はマゼルダさんの魔法で防がれる。軽い衝撃波を受けるに留まったが、さっきよりも目が眩む。


「フハハッ楽しい余興だったぞ。ワシらはそろそろお暇するとしよう」


 ウォッカの声が愉快げに響いた。

 目の前が不明瞭で状況がわからない。わかるのは、謀られたという事実。


「まさか目潰しの目的で魔法を使ったのか」


 遠くから応えるのは凛とした女性の声。リアンさんかな。


「チカチカ光るだけで芸がないだろう? それでも動けなくは出来るもんだ。じゃあな、翼を持つ番犬ども」


 カツカツと立ち去る足音。悠然と出口へ向かっている。


 本当にそのまま逃げるの?


 今なら私たちは動けない……けど、三人だけで片付けられる人数でもない。逃げに徹するのもやむ終えないのかな。もしこれが引き際を見極めたというなら遅過ぎな気もする。


「妙にあっさりしてますね」


 か細い声。かろうじて耳に届いたのは伊藤さんの声だった。

 そうだ。あっさりしている。それにこの余裕は一体なんだろう。彼らは被害も大きく、目的の達成も出来ていないはず。圧倒的な敗退なのに。


「お迎えご苦労、首尾はどうだ?」


「抜かりはありません。お仲間の救出はいかがしますか?」


 耳が拾うのは聞いたことのある声。

 片方はウォッカ、もう片方は——


「マーブルさんですか」


「本当にあの子はギルティーなことしちゃったのね」


 伊藤さんとマゼルダさんの言葉に確信を得る。

 調査員マーブル。彼女の声音は出会った時と変わらない。変わらないからこそ不気味だった。


「魔法で拘束されているから無理だ。それに軟弱者はこの旅団に必要ない」


「かしこまりました」


「あらリーダーらしくもない。一矢報いることもしないの?」


「ワシの目くらましが効いていない者もいるからな」


 会話に混じる女性の声は四天王の一人かな。とにかくこちらに危害を加えることはないらしい。素直に退散する足音。


 完全に聴こえなくなって、視界も元通りになってゆく。目に映るのはひらりと揺れる赤い髪とマント。


「まんまとしてやられたねー」


 その一言は、他人事のように口調は軽いはずなのに妙な重さを持っていた。



 *



 女王様方も王子様も無事。悪者はリーダーを逃したものの、ほとんどを捕らえた。

 本来の目的を達成したのだから喜ぶべき内容である。


 危機を脱した。役目を果たした。


 でも全てを解決したわけではない。



「情報局並びにこの国は何を隠しているのですか?」



 伊藤さんの静かな問いは、さらなる静寂をもたらした。

 彼女のすごいところは幹部や女王や王子、議会といったお偉いの面々に臆することなく切り出したことだろう。無理だ真似できない。

 事実、私は小心者すぎて近くにいるロシェと伊藤さんの後ろに隠れている。ナイトの呆れた目は無視である。偉い人のオーラは苦手なのだ。


「これはまた、彼女は国家機密を知りたいとおっしゃるか」


「国の要人クラスの人間でしか知らないことを?」


「小娘に教えるなど」


 議会の人々がコソコソと話し出す。嫌な雰囲気だなあ。

 そんな中で手を挙げて制したのは一人の女性。スカイブルーのドレスを身に纏い、穏やかな微笑を湛えている。


「リアンさん、大体の事情の擦り合わせは先ほどの会話で出来ていると思って良いのね?」


「はい。陛下のおっしゃる通り状況説明は済んでおります」


 リアンさんは情報局代表として立っているらしい。彼女は彼女で伊藤さんの発言に興味があるのか、制止もせず静観に徹するようだった。


 で、鮮やかな空色ドレスを着ているこのお方が女王様か。纏め上げられている藍色の髪は王子プラリネと同じ色合い。間違いなさそうだ。


 状況説明とはここに至るまでの経緯を話しただけ。

 私たちは外部協力者、つまりは無関係な一般ピーポーという位置付け。ついでに言えばただの子どもだ。そんな私たちに国家機密を教えてと言われれば困った顔をするのも頷けた。


 王族、議会、情報局幹部、そしてどこにも属さない私たち。仲良く円になって話すには気が引ける。明らかに場違いだ。

 円卓会議ならぬ円陣会議になっているが、立場は弁えるべきなのだろう。べき、でも伊藤さんは止まりそうもない。


 少し考え込んだ女王。


「貴女はフィレナを見付けてくれたのよね?」


 脈絡もないことを口にする。

 フィレナのこと。行方不明だった彼女の話をしていなかった。

 頷いた伊藤さんは、私を引きずり出しロシェと並ばせた。何をするんだ。モロ見えじゃないか。


「こちらの二人の活躍により娘さんを助けることが叶いました。しかし」


「しかし?」


「呪いが解けないのです。今は二人の力で何とかなっておりますが、術者を見付けないことには完全に解放されないのです」


「まあ、それは本当なのフィレナ?」


 問いかけにイヤそうな表情で首肯するお姫様。驚きに目を開く女王様。ついでに騒つく外野。


「そして現在、安全性を考え隷属契約も交わしております」


「まあまあまあどなたと契約なさったの?」


 謎の間が空いた。


 左右から視線を感じる。いや、後ろからも。知れず冷や汗が流れる。

 そのことを今この場で言う必要あったのかな。焦って伊藤さんとアイコンタクトするがニコニコするだけ。

 フィレナは女王と王子の間に立って、冷ややかな目線を送っていた。わー前後左右あらゆる視線を一人占めだーははは。


 沈黙の間に全員の視線が私に集まった。


 この量の雰囲気は読みきれない。総合的に判断するなら“誰だこいつ”の一言だろうか。



「貴女がフィレナのご主人様?」



 お姫様のご主人様というパワーワードに頭をぶん殴られる。いやあ間違いがないんですねコレ。諦めに似た心境で頷く。仕方ないとはいえ、王族の、娘さんを、奴隷にしました。ええこれはもう。


「死罪ですかね……」


 何通りものシュミレーションを最高速度で終えた。死に繋がる内容ばかりであった。がっでむ。

 よほど死にそうな顔をしていたのか、女王様は慌てて手を振って微笑んだ。


「いえ違うのよ。フィレナを救う為に行ったことでしょう?」


「そうですっそうなのですっ彼女はフィレナさんを見付けて真っ先に助け出そうと尽力した。ボクはそれを手伝ったに過ぎません」


 営業スマイルを浮かべたロシェが私の背中パーンと叩く。痛い。傷口開いたかも。

 しかも手伝っただけって、バリバリ当事者の宇宙人さんが何を言っているんだ。抗議の目を向けるがどこ吹く風。

 女王は手を合わせて、まあまあまあまあと嬉しそうな声を上げていた。


「では彼女は国の宝を守ってくれた英雄なのですね。そして貴女たちは私たちを救ってくれた恩人」


 英雄で恩人……。ぼんやり意味を噛み砕いた。異世界やって来て二日目にして国の英雄で恩人。うんうん、ごめんよくわからない。


「これは相応の褒美を与えなくてはなりませんね。そして相応の聞く姿勢も必要ですよね」


 ざわっと議会の面々。

 あ、なるほど。女王と伊藤さんは私たちに発言権を持たせようと話を誘導したのかな。議会さんたちを黙らせる為に。

 穏やかに女王は伊藤さんと目を合わせていた。


「それに国の秘密まで聞かねばならないほどの緊急事態が起こっているのでしょう?」


 穏やかだと思っていたが、細めた瞳からは鋭利さを含んでいる。伊藤さんは特に怖じけることもない。


「ええ、ご推察の通り、私は未曾有の危機の中であると愚考した次第でございます。陛下」


「まあそれは大変、どのような未曾有の危機なのかしら?」


 再び静寂に包まれた円陣。


 私は他人事のように会話を眺めていると、右腕を自然と絡め取る感触に驚く。こんなことするのは彼女以外にはいない。またなんでこのタイミングで。

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