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39 聖法開戦

「こういうことになったら私を呼ぶ約束でしょう? バカなの? アホなの? クズなの?」


 罵詈雑言には慣れたけど、まだご褒美にはなりそうにない。


 んーなってしまったらどうしようか。


 ゆっくり瞼を開くと目の前には銀髪の少女。形の良い柳眉は歪んでいた。かわいい顔が台無しだ。


「いやータイミングがね。でも自分で出て来れたから良いんじゃない?」


「確かに自力で……ってそういう問題じゃないのよピンク。愚か過ぎて理解が及ばないわ」


 フィレナ。この国の王女様にして私の奴隷さんになった半人形(ハーフドール)のお姫様である。可哀想に。

 でも隷属契約を交わしたのに勝手に出て来れるとは、ちょっと驚いた。意志の強さかな。


 ロシェによる特別セットは、私の奴隷になる以外にも内容が充実していた。

 その中の一つが、彼女を縛る魔道具を利用したフィレナ自身を収納する術式の刻印だった。便利。

 魔道具や星と呼ばれたピンク色の石は、ペンダントとして私の首に下がっている。この中でも外の状況はわかるらしい。本当は私が呼ばないと出れないはずだったけどね。


 フィレナの存在は色々と問題があるので、こうやって隠れてもらうのが都合良かった。現に視線が痛い。もっと後にするつもりが……。


 ハーフアップにされた銀髪。黒が基調の、いわゆるゴスロリ服。彼女の身長ほどもある大剣。

 ゴシック調に纏められたスタイルは冷徹な印象と調和していた。


 そう、フィレナ部屋から出る前と後では彼女の装いが変わっている。


 実はピンクで可愛いロリロリな趣味はお姉さんこと王子様の趣味。かなり、いや結構、意外である。

 フィレナは着せ替え人形になったり贈り物をされたりして、あんな甘い服装と桃色空間になったらしい。

 せっかくプレゼントされたひらひらロリータ服が汚してしまうし、恥ずかしいとのことで着替えた。


 彼女の着替えをボーっと眺めてたら平手打ちされたのは記憶に新しい。悪気ないし女同士じゃんという発言は伊藤さんにさえ否定された。なんてこった。


 と、まあ、いきなり私の胸元から現れたゴスロリ大剣姫はさぞ目立つだろう。本人は堂々と不釣合いな大きさの剣を振っているけど。


「ふぃ、フィレナ!?」


 近くで王子様の素っ頓狂な声。どこかで、姫がいらっしゃる! フィレナなの? なにごとだ! と叫びが上がっていた。軽い混乱である。動揺して戦線がストップだ。


 戦闘に入ってから目立たないように、なんて今さら後悔しても遅い。こっそりとため息を噛み殺した。


「こうなるからお姫様を後出しにしたかったんだけど」


「それは……事前に説明しなさいよ……」


 たぶん考えてなかったんだろう。

 苦虫を噛み潰したような表情で目を逸らされた。

 お姉さんとお母さんのことでいっぱいな彼女に、自分の置かれている状況を理解しろと言うのも酷な話かもしれない。


 それはペンダントが温かくなったり熱くなったりして感じていたことなので、あまり強く言えなかった。——私の胸、低温やけどしてないといいな。


「起こったことは仕方無いわ。些細なことよ。それより、お母様を助けるのがやるべきこと」


「それには同意するよ」


 くるり。彼女は白い軍団に大剣を指し示して敵意を露わにした。

 彼らは王子と女王に手を出したのだ。この姫君が許すはずない。


 私はナイトとフィレナファミリーの能力上昇(パワーアップ)が終了したので、お姫様にも施す。


 ぎゅっと後ろから抱き締めた。

 銀色の髪から甘い香りが漂う。


「ひゃっ……はあ!? ぴっピンクあなたついに」


「動かないで」


 ジタバタ暴れる姫に全力で力を注ぐ。


 半人形(ハーフドール)の名の通り、半分が人形で半分が人間の彼女。

 私が通常の人形にするより、与える力や与える速度が劣るのは当たり前だった。フィレナは半分人間なのだから。

 だからこうやって密着しないと効率が悪い。ついでに集中力も切らしてはいけない。走り続けて体力が削られた後だとなおさらキツい行為だった。


 甘い匂いで気を紛らわして紡ぐ。最速で最強に。大切な人を——



「——守る為の力を」



「————っ」



 いつからか大人しくなっていた彼女。能力上昇(パワーアップ)が終わったので離れる。

 身体が倦怠感に包まれた。こんなんじゃ後がもたないなあ。しっかりしなきゃ。緩く首を振って気を持つ。


 ふと視線を感じて前方を見遣れば、フィレナが睨んでいた。


 いきなり抱き締めちゃうのマズかったか。しかし弁明する気力も湧かないので何も言わないことにした。さー行った行った。


 人形使いの戦闘準備は、フィレナ登場でプチパニックなお陰かほとんど順調に進んだ。ある意味、僥倖である。


 やることもやったので後方に下がる。よろよろ後ろ歩き。肩に触れる温かさに気付いて気怠く身を預けた。


「休んで下さい相田さん」


「今から本番なのに?」


「そんなフラフラでは説得力ありませんよ」


「そだね。でも寝そうになるから少しだけ」


 伊藤さんは寝ても良いんですよーと誘惑するけど、戦場で眠っちゃうほどの猛者ではない。

 それにしても普段こんな眠たくならないんだけどな。疲れ過ぎたかな。環境が変わったのもあるだろうか。

 不思議に首を傾げていると、しわがれた低音が響く。



「ワシらが邪悪なる国家の手先——それも女子供に負けるわけなかろう! さあ聖法を信じて突撃だー!」



 パニックが収まったのか、聖法旅団と情報局と愉快な仲間たちの戦いが始まった。


 うおおおおっと威勢良く駆け出す純白制服。先頭にはリーダーのスキンヘッド巨漢ウォッカ。性……聖砲とか言うアレだ。忘れてないよ。うん。


「荘厳なる神よ我らに栄光を宿敵に浄化を、神聖なる法の下に粛清を開始する! 光の砲弾よ、貫け(ホーリーシューター)! フハハハッ裁きの時間だぁああああッ」


 セリフがもう悪役なんですよね。わかってるのかな。

 こちらの先頭には青い剣を突き出し構えるリアンさん。


「はあ、光魔法の使い手でも使い手で変わるものだな。光るだけで芸がなさ過ぎる。この剣を握るのが馬鹿馬鹿しいくらいだ」


 ウォッカの手から迸る光を斬った。剣で。うん、剣で。


 えっと魔法って物理的に斬れるの? しかも光を?


 意に介していないのか、凄まじい形相で荒れ狂う大男が殴り掛かる。涼しい顔で躱す鬼姫。


 周りの白服も参加しようとしていたが数人がウォッカの拳で伸びた。て、味方を戦闘不能にしちゃってるぞリーダーさん。


 さすがに白服は学習したのか、そこだけ空間をつくってこちらへなだれ込んできた。鬼姫対リーダーの独壇場の出来上がり。



 なだれ込んだ白を押しとどめる。



 颯爽と駆ける鳥人を通せんぼするフィレナとフィレナファミリー。


 巨峰の——いや聖峰の女と魔法戦を繰り広げるロシェ。


 こちらも四天王の男と難なく斬り結ぶナイト。


 王子を守りつつ魔法を唱え続けるマゼルダさん。


 拳銃を手に持っているのに格闘で白服を倒していくレイリー。


 どこかで見たような光る剣で応戦するルミネア。



 意外、と言ってはなんだけど拮抗していた。



 リーダーと四天王とやら以外は大したことなかったらしい。

 マゼルダさんが気まぐれで放つ魔法と、ルミネアの正確な剣筋と、レイリーの謎な接近戦で脱落者が着実に増えてゆく。


……レイリーって魔法使いじゃないっけ?


 最後方。非戦闘員である伊藤さんは私と、王子様はマゼルダさんと一緒。まあ私自身も非戦闘員なんだけどね。

 対岸の女王様方は今のところ被害はない。


 よーし、そろそろ体力が回復してきた。

 支えてくれた伊藤さんにお礼して離れる。まだ心配そうな目。親指を立てても安心してくれない。そんな酷い顔してるのかな。

 ここだって安全ではない。警戒してしかるべきだろう。まだやることも残ってるしね。


 集中しようとした私に伝わる感覚。


 揺れてる?


 揺れを辿り、お姫様たちを眺める。

 そう離れていない位置。

 波打つ銀糸と黒のスカート、流れるたてがみと山吹色の肢体。対するは、鷹のような凛々しい顔とガッシリと白服を着込んだ鳥人間。


 まあ揺れた意味は観戦していればわかるだろう。

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