35 一発逆転
城内を駆けて駆けて、逃げ回って、それなのに……
ぜんっぜん状況変わんないーッ!
「ふえーとりあえず巻いたカナー」
「これは圧倒的に不利デス。撤退を視野に行動しましょう」
「イヤだ」
あたしの後ろにルミネアを感じながら、運の悪さをサイキョーに呪った。
なんでここまで来て事件に巻き込まれるのー?
「レイリー、ここまで来れたのは奇跡に近いデスよ。彼女たちのお陰で城にも来れた。目的だって達成可能デス。しかしこれは予想外デス。危険過ぎます」
「イーヤーだー! 逃げるだけなんてくやしーじゃん」
ルミネアの言ってることもわかるけど、ここで引くのはダメだ。
「戦力不足なんデス、私たちだけでは」
「ただ逃げ続けろーって?」
来てくれたルミネアには感謝するけど、そんなのダメなんだ。
諦めて逃げるなんてもうしたくない。
ワガママ娘って言われても。絶対に。
「あたしはルミネアがなんと言おうと、行く。せっかくここまで来たしやることはやる。誰が相手でも」
「…………」
永弾の悪魔たちと別れてから、味方だと思っていたマーブルに殺されかけ、変な白い集団に追いかけられて大変な目にあっていた。
あたしは魔法をちゃんと使えない。
頼りのルミネアは十分じゃない。
二人だと迎撃するのがやっと。
あたしが魔法を使うための道具を旅人の国に来るまでに消費しちゃったのはイタデだった。さっきの攻防でカラッポ。
機械の国はそこらにポロポロ落ちてるのにー
「もーヤダーサクラ助けてー」
走りながらさっきまで話していた女の子を思い浮かべる。
あたしたちのウソを守ってくれた人。サクラはイイヤツだ。そういえば、あの悪魔もイガイとやさしい。ムカつくけど。
連想するようにメカ爺も思い出してちょっとだけ凹んだ。あんなジジイ思い出すことないじゃん。
「なんでサクラさんなんデスか……」
フキゲンな声に振り向くと、ルミネアはやっぱりムスッとしてた。
へっへーやったーヤキモチもっちもちしてくれてるー
面白いのでサクラから預かったちっちゃいヌイグルミも見せ付ける。ヒモ部分をつまみ上げると、走るのに合わせてぶらんぶらんと揺れた。
「それは?」
「サクラの! いーだろー!」
かわいい茶色の犬っころ。
ウソつき両成敗とか言って、お互いにヒミツの契約をした。その時のだ。
契約のことはルミネアにも言ってない。
正直、コレをあたしに預けてどうなるんだかわかんない。
爆弾とか機械にしてはちっこ過ぎるし柔らかい。廃魔のサクラに魔法系が出来るとも思えないし、魔道具にしてはスイッチがない。魔力も感じられない。
用途フメー。異世界人のサクラにしたらあたしの魔法もわかんないだろーけど。
「レイリー、一旦止まりましょう」
突然、ルミネアがそんなことを言って、あたしの腕を取って適当な部屋に逃げ込む。
いきなりナニー?
ルミネアは無言であたしを促した。
あー部屋暗いもんねー
魔法で明かりを灯す。私たちとその周辺だけが明るくなった。魔力あんま消費したくないからこれで十分!
でもルミネアは暗視が出来るから明るくする必要ないよなー
「ルミネアどしたのー?」
「気付きませんか? それ」
あたしの手にしたヌイグルミを指差したことで、あたしもやっと気付いた。
立ち止まっても、ヌイグルミが動いてる。両手と両足をバタバタしたと思ったら、声も聞こえてきた。
『……レ……リー! ……える?』
え、怪奇現象?
おもしろい。このヌイグルミしゃべるの?
するとまた声が聞こえてきた。今度は鮮明。
『おーいレイリーさーんもしもーし応答せよー』
その声には聞き覚えがあった。
「…………サクラ?」
助けを求めていた女の子。しかし声音を変えて変なことを言い出した。
『オレだよオレオレ~』
「やっぱりサクラかービックリさせないでよー」
『ん、そうだよ。良かったー通じたみたいで』
ヌイグルミのサクラは『オレオレ詐欺は通じなかったけど』と呟いていた。オレオレってなんだろ。
それより——
「ってナニコレ? 通信機? いや魔法とか機械じゃないよね? ホラー? 幻聴?」
『あーそこは私の固有能力の通信機だと思ってて。今は説明してる暇なさそうだから。そっちの人形は動いたり話したり出来てるよね?』
コユーノウリョク……?
サクラにしか使えない魔法みたいなものーかなー
安全だから安心してって言われて、なんでそんな安全なモノを預けたのかフシギだった。これ契約うんぬんのアレじゃないっけ。
「うん良くワカンナイけどわかった! ワンちゃんの感度良好だよ!」
『あはは、そっか良かった。ちょっとした状況の説明とお願いがあるんだけど平気?』
「ヘイキーって言いたいけど長くは難しーかなー」
『じゃあ手短に……』
サクラが簡単に説明してくれたのは別れてしまってからのこと。
閉じ込められてから脱出する方法を考えた結果、あたしたちの手伝いが必要になるらしい。
ついでにこのヌイグルミはサクラとあたししか繋げないらしくって、ルミネアの声はあっちに届かないしサクラ以外のメンバーの声も聞こえなかった。
サクラとあたしの声はみんな聴けるみたいだけど。
なんかこれが特製のヌイグルミで魔法と干渉出来ないからこそ出来たんだーとか自信満々に言ってたけど、たぶんスゴイことなんだと思う。
話してる内にビックリしたのが、マーブルが悪いヤツだってことにサクラたちが気付いていたことだった。
それがカギになって脱出できるとかなんとか。
なーんでわかったんだろ。あの状況でマーブルが犯人だなんてワカンナイじゃんか。あたしたちは斬りかかられて気付いたのに。
そこまで聞いて予想イジョーに驚いてるのはルミネア。
もうなんかプシュープシューなってる。
特にサクラが色々特殊なのがオドロキみたい。
あたしたちの状況もサクッと説明。
まーただ尻尾巻いて逃げてただけなんだけど!
サクラたちのいる部屋まで戻って来れるか聞かれて、ルミネアと顔を合わせる。
もうサクラたちを信用してるし、戻るのもルミネアが案内してくれる。問題は戻るまでにマーブルとかに遭遇してバァーンとやられちゃわないか、だ。
さっきも言ったけど戦力不足なんだよネー
ガチめに命狙われてるのがシャレにならんのだー
それでもまー断る選択肢はないんだなー!
だって逃げるだけの戦いから一発逆転のチャンスでしょ? やるっきゃないじゃん?
それに、レイリーちゃんにフカノーはないのだ!
「サクラー今から行くー」
『そんな遊びに来るようなノリで……』
ルミネアと頷いて走り出す。
善は急げって、誰か言ってたもん!
*
部屋にたどり着くまでに敵襲は無かった。
もしかしたら王子さまとか女王さまとかそっちに向かったのかも。ヤバくないカナー?
サクラの指示に従って、みんなが閉じ込められてる部屋の隣室を捜索する。
えーとなんだっけ。
まず閉じ込めてる仕掛けが魔法で、それも魔道具の影響らしい。マーブルが廃魔だからそうするしか方法はないのだそーだ。
その魔道具様は隣室に置かれている可能性が高いんだって。
隣室ならすぐ設置出来るから、急いでたマーブルは即席魔道具する。人形とお話しまで出来るサクラが人形に聞いた話だと、物音が向かって右隣であったとのこと。
そんな情報を頼りに探せばあっという間に見付かった。
探してる間に、『人間の心理として隠したいものはベッドの下とかクローゼットの中とかですね』や『この魔道具は部屋を覆えるだけの大きさが必要で持ち運ぶのに苦労しないものだろう』て言わされてたサクラの苦労は報われた。
あたしとサクラしか通じないから、他メンバーのは言伝になっちゃうのだ。
サクラがアワアワと口調まで合わせて話すから、つい笑ってしまった。
ちなみに複数人の会話は特製ヌイグルミを生産して、サクラが間を取り持つと出来るらしい。面白そう。
見付けた魔道具。
くろーい長方形の箱型。
解除術式は問題なくあったので手早くオフ!
これで四人の仲間が助かるのだ!
ウキウキでお迎えに行く。
永弾の悪魔一行が少し疲れた様子で出てくる。
久しぶりな気がする面々と会えた。
それと……動くヌイグルミが三匹、いや四匹もいた。
本物みたいなライオンの背中にうさぎと小さい人形。
ルミネアが「サクラさんは人形術師ではありませんか?」とさっき言っていたから、あまり衝撃は受けなかったケド……。
異世界人という情報だけでもビックリなのに。さすがにコレを生で見るとビックリだ。
あたしの知ってる人形術師は魔法の糸で人形を操るような感じなのに魔法っぽくないし、操るにしては個々で動き過ぎだし、しかもリアルに話す。命が宿ってるみたい。
これがビックリしないでいられるかってんだ。
ルミネアはそれが不思議でたまらないのか、本格的にスキャンしたりヌイグルミを触れたりサクラにもペタペタ触れていた。
面白そうだからあたしもペタペタしたかったけど、金髪っ子にギラッと睨まれたからヤメました。
レイリーちゃんはケンメーなのです。えっへん。
伊藤志乃のなんとか室
「レイリーさんの回ですね。相田さんが密会していたお陰で本当に助かりました」
「伊藤さんの言葉にトゲを感じるのなぜなの」
「いえ? 別に?」
「ちょっ……一気に飲み過ぎだよ……てかなんでワイングラスにぶどうジュース注いだの」
「やけ酒です」
「何をヤケに? やけジュースだし……まあ、未成年だからね」
「この世界では未成年とか関係ないみたいですけど」
「現代の日本みたいに法が整備されてないからね、タバコとかも大丈夫なんだろうね」
「結婚もすぐ出来るようですよ?」
「……伊藤さんは結婚の話に持ってくの好きだね。はい、おかわり注ぐよ」
「ありがとうございます。相田さんなら良いお嫁さんになると思いますよ」
「だ、だからなんでそういう話に……」
「反応がおもし——」
「伊藤さんのほうが良いお嫁さんになると思うんだけどなあ。エプロン似合いそう」
「ぶふっ!?」
「い、伊藤さん!?」