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33 姫は嘆く

 んーとりあえず一つだけ訂正しておこう……。

 ダメージを受けた胸を押さえつつフィレナに向き直った。


「私はピンクじゃなくてサクラ。サクラ・アイダ。ピンクも間違ってないけど、せめて名前で呼んでほしいな」


「そう」


 自己紹介をしてみたが反応はとんでもなく素っ気ない。

 何かしたかな。漏れそうなため息を掻き消して、隣のロシェに目配せする。やっぱりここはロシェに任せよう。


 私たちの険悪な空気を察しているのか、いないのか。私に気付いた彼女は、紅い瞳を細めて指をメトロノームのように振った。


「要約すると、完全な解除は術者本人のみ。ボクが出来るのは限定条件の下で動けるようにすることだな。それも結構限られちまうのがネックなんだが」


 ってことは本当に出来ることは限られている。


「術者本人に会うにも手掛かりはないしねー。人形状態じゃどうにも……。私がずっと側に居ることも出来ないし、やっぱりロシェの出来るはん——」


「それだ」


「——いで何とかって……へ?」


 ボソボソ呟いて考えを纏めていると、ロシェがマントを翻し指差してきた。

 そしてズカズカと詰め寄って来る。なんだなんだ!?


「お前の今使ってる能力は難しいのか!? 持続力は!?」


 能力ってフィレナを動けるようにとかしてるコレのことだよね。とりあえず両手を振って彼女が落ち着くよう努めた。


「うーえっと。最初は慎重にやってたから難しかったけど、今はコツを覚えたしそんなに意識しなくても大丈夫。人形の要素があるみたいだから、離れ過ぎなければずっと保てるけど」


「すげぇな魔法と違って底無しかよ!」


「底無しと言うか疲れはするよ?」


 何だか興奮してるんだけど。このレジェンド宇宙人さんヤバいっス。

 でももしかしたら打開策が浮かんだのかも。とても自信ありげだし、あり得る。かも。


「よしっ! 桜!」


「は、はいっ!」


「お姫さんをお前の奴隷にすんぞ!」


 ほら来た。打開策!

 そう、こちらのお姫様は剣が扱えるであろう姫騎士に程近い人物。

 前にフィギュアなどがたくさん売っている店で、フィギュアたちの談笑を盗み聞きしていた時を思い出す。

 姫騎士といえばその騎士道精神で敵に戦いを挑むが、あんなことやこんなことをされて最終的には奴隷となるらしい、と。姫騎士とはその為に生まれた存在だと聞いたのだ。

 ということは姫騎士フィレナは大嫌いな私の奴隷となり————



 んん? ドレイ?



「…………はい?」


「よーし良い返事だ。じゃあとりあえずそのままで待ってろよー今からボクのスペシャルスキルを見せてやる!」


「いや今のは返事じゃ……」


「イヤな予感をヒシヒシと感じるのは何故かしら」


「ついでに相田さんからやましい気配が漂ってきたのですが」


 ざわつく室内。


 ロシェの発した言葉の意味がわからず困惑する。奴隷と言わなかっただろうか?


「天才宇宙人がパパッと解決してやるよ」


「……具体的には何をなさるおつもりなの魔導師様」


 眉をピクピクさせ無理に笑おうとする銀髪の少女。イライラしているのが伝わってくる。

 それも前髪を掻き上げた彼女には伝わっていないようで、にこやかに私たちへ告げた。


「耳かっぽじって良く聞けーフィレナを桜の奴隷にする術式、つまり隷属契約の文言を上書きし」


「「異議ありっ!」」


 重なった声に遮られ、ロシェは軽く仰け反った。


「なんだよ。説明中だぞ」


「ななな何を言ってるの!? 誰が誰の奴隷ですって!? 冗談じゃありません。せめて魔導師様の奴隷にして下さらない?」


「そうだよ! いやそうじゃないけど! 奴隷以外に方法ないの!? それにどう考えても私嫌われてるんだけど」


「落ち着け落ち着け。ちゃんと理由はあるんだから。全く仲良しさんかよ」


「「どこがッ!?」」


 フィレナと後味悪く顔を見合わせる。

 仲が良いって、どこをどう見たんだろう。眼科を勧めたいところだが、あるだろうか。うん、なさそうだ。


「隷属契約の術式を施したら面倒な術式は大体無くなる。そうすると問題は行動に制限が加わることだ」


「そうよ奴隷なんて言っている場合では——」


「人形使いの桜なら行動制限は問題ないだろうし人形でも大丈夫。むしろ人形であるほうが好都合。厄介な術式解いたら状況も変わるだろうが、最悪な状況になってもボクよりは安全ってな。だから桜の奴隷になって一緒に来りゃあ良い」


 マジで言ってるのだろう。目が本気だ。


 確かに人形使いの私ならどうにか出来る可能性が高い。というのも現在進行形で出来ているから自信があるだけなんだけど。

 彼女が言うにはフィレナが動いたり話したり出来るように徹して、その後は術者を探すことにしよう、と。


 奴隷にすれば色々楽なんだよなーなんて笑って頭の後ろで腕を組んでいる彼女。


「まっ待ちなさい落ち着きなさい静まりなさい!? それはなんの理由も根拠もない対処法じゃないの! ちょっと不思議な能力が使えるからって万能な訳ではないでしょうし、このピンクの奴隷なんてナニされるかわからないじゃない! いくら魔導師様の崇高なお考えでもそれは無いと思うわ! いえ無いわね愚策よ愚策!」


 お姫様はパニックなのか銀髪を振り乱して捲し立てた。

 全力で嫌がる様子に私のどこかがグサグサッと突き刺さる。慣れていても直接嫌がられるのは痛いものだ。


 ロシェのマントを引っ張った。ん? なんて平然とされても困るぞ。

 私は構わないけど、彼女が嫌がるなら止めるべきだ。それに奴隷なんて誰でも嫌だろう。


「本当にそれしか方法ないの?」


「合理的だろ」


「なんだかフィ……お姫様が涙目になってるし考え直さない?」


「嫌われてる相手の心配するとかお人好しマックスだな。それにしても」


 彼女は私に苦笑いをして、肩で息をするフィレナに視線を向けた。


「何かしら」


「なんで桜を敵視してるのかってな。しかも出会ったばかりで」


「別にそんなの自由でしょう。嫌いだから嫌いなのよ」


「お姫さんはサッパリしてらっしゃる」


「ツンデレ系キャラは必要不可欠だもんね!」


 今現在ツン要素しか見つからないんだけどね! 泣く!


「つんでれ? つーか、お前もなんでこの状況で生き生きしてんだ? 嫌われてんだぞ」


「初対面で何でだろうとは思ったけど、誰だって嫌いな人の一人や二人いるもんでしょ?」


「露骨に嫌がられて平気な理由を知りたいんだが聞いても無駄そうだなあ。ま、似た者同士ってことか」


「「誰と誰が!?」」


 フィレナは私への嫌悪を隠しもせず睨み上げ、絞り出したような呻き声を漏らす。

 このままではマズイと思ったのだろう。仕切り直すような咳払いは妙に大きく聴こえた。


「魔導師様の奴隷に」


「ボクじゃ都合が悪いんだよ」


「では他の方に」


「私は遠慮しておきます」


「言っておくが私はマスターに従っている人形だ」


 全員に拒否られる王女様。

 ショックを受けていない様に見えるが、肩が少し落ちているのでガッカリしてはいるみたい。

 その様子を眺めていた伊藤さんが、さもたった今気付いたように両手を合わせて微笑んだ。


 恐らくここで身構えたのは私だけだろう。


「というよりロシェさんと相田さんが居ればこの状態から再スタート出来るんですよね?」


 なんとなく予想出来た。彼女の言いたいことと、それに対する私の答え。

 ロシェと私はほぼ同時に、こっくり頷く。


「今は人命救助の最中です。今すぐにでも王子様と幹部様を助けに向かわねばなりません」


「うむうむ」


「そっちが気になるよね。外の状況が一番わからないから早く出て確認したいな」


 こっちはすぐ命に関わるような状態でもないのは確かだ。二人して再び頷く。


「ではフィレナさんの件は後回しにしませんか? 話が進みませんし」



「えっ?」



 そのセリフに固まるのは銀髪を揺らす少女。盗み見た彼女の様子は、小さく、でも確かに動揺していた。

伊藤志乃のなんとか室


「相田さん」

「ん?」

「その抱いてるクマさんってナイトさんですよね?」

「そうだよ。ぬいぐるみだから伊藤さんは何言ってるのかわからないんだよね」

「ツッコミたいところは多いのですが、何を先ほどから話しているのです?」

「え……別になにも……」

「私のことを見て話してますよね?」

「そんなこと、無いよ?」

「じーーーーっ」

「うっ、いや聞こえてるのかなーて、ナイトが伊藤さんにただ話しかけてるだけだよ」

「それだけで相田さんが顔を赤くするんですか?」

「うぅ……その、伊藤さんの、ごにょごにょが大き……いって話で……」

「すみません聞こえません。私の何が何ですか?」

「かっ顔近いって! ナイトは人型に戻ってよー!」

「ちゃんと言わないとわからないですよ?」

「あたってる! あたってるから! わかってるよね伊藤さん!?」

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