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32 姫は嫌う

 腕時計を確認すれば五分も経っていない。体感時間は数時間単位だったが、それだけ神経を使う行為だったということか。


 目の前にはピンクと白のロリータ服にサラサラの銀髪と黄金に輝く瞳、そして胸元には濃いピンク色の宝石があった。ベッドにぺたんと座る彼女は十代後半ほどだろうか。


 その姿は確かにお姫様だ。


 予想を裏切らない美少女。


 美少女ハーレムを通り越して美少女パラダイスである。



 パァァァンッ



 同時にロシェと私は無言でハイタッチを交わした。


 やりました。共同作業!


「いやあ、やってみるもんだなぁ!」


「ロシェのお陰だよ! 私だけじゃ無理だもん!」


 嬉しさにキャッキャと舞い上がる私たち。

 ぬいぐるみ達も伊藤さんとナイトも息を飲んで、そのまま固まってしまった。


 フィレナはというと、手をグーパーしたりスカートを摘み上げたり顔をペタペタ触れたりしていた。表情はそれはもう驚きに目を見開いていた。



「本当に——」



 久々に声を出したからだろう。彼女からは掠れた声が漏れる。


「姫様!」


「わーホントに姫だー」


「やったやったー」


「紛れも無く我らが姫……」


 ぬいぐるみ達がわらわらフィレナを囲み、堰を切ったように喜びで湧き上がる。


 私の能力は効いている。ということは魔道具に邪魔されていない。同時に人間でありながら人形の要素があるってことか。


 とりあえずどうにかなった。とりあえずだ。ロシェの横顔からも窺える。そう、成功はしたが大成功ではない。



 完全には、魔道具の効果を解除出来ていないのだ。



 私達も舞い上がるのをやめてフィレナに向き直る。ロシェがコホンとわざとらしく咳払い。


「初めましてお姫さん。今がどんな状況かわかってるか?」


 コクリと頷く。


「ええ、話は聞いていたわ」


「聞いてた?」


「そこのピンクが言っていた通り、私からは言葉を伝えられないけれど、私には伝わっていたのよ」


 良かった。合ってたみたい。こちら側のやり取りを知っているということは、状況も理解しているだろう。

 いや、それより、なんだかこのお姫様————


「それとピンクのヘナチョコ推理は、まあ大体一応合っているわ。私がフィレナ。この国の王女フィレナワール・レーリング・セブンルークよ」


 聞いていた印象とだいぶ違う。というか私への当たりが強い気がする。な、何もしてないのに。

 ロシェはその部分に特には触れず、こめかみを押さえて思案していた。


「ん? 幽霊話もか?」


「……そうね。私の貯めた魔力で魔道具の力を相殺してたのだけれど、長くは続かないし散発的で効果も薄い。実体化出来てからは城の者に知らせたかったのに話すことなどは出来なかったから」


「それが幽霊現象の原因かあ」


 ふむふむしている私を一瞥して、呆れたようにフッと嘲笑。


「今のもどうせ似たような状態なんでしょう」


 なんか本当に嫌われてるっぽい。

 ハートゲージがゼロどころかマイナスに振り切ってるよこれ。


 そういえば、と良く良く彼女を観察してみる。

 切れ長の目とシャープな顔の輪郭、冷たさが混じる凛とした声音。どちらかって言うならクール系だ。ふわふわロリータ服とピンク部屋で騙されていた。


 可愛いの好き、なのかな。


 普通は性格を知ってから「可愛いの好きなんだ可愛いーっ!」とかギャップ萌えるわけでしょ? ちょいパターン違くありません?


「ほうほう、そこまでわかってるなら話が早い。どうしてそうなったのか聞きたいな」


「お察しの通りよ。この拾った星こと魔道具の影響で人形になっていき、そうなったことも話せない上に日記も書き残せなくなったわ」


 態度はあまり変わらないけど、ロシェには当たりが優しいなこのお姫様。


「どうしたらそいつは完全に解除出来る」


「無理よ。完全に解除するのは」


「なんでだ?」


「魔道具で人形にしたり制限したりするのはわかってるわね。これはそれ以外にも厄介なことをしているの」


 それ以外。不機嫌な顔をそのままにフィレナは毅然とロシェを見据える。


「魂を分けてどこかに縛り付けている」


 魂を分けて、どこかに縛る?


 何かが引っかかる。どこかで聞いたような……。すっごいデジャブなのに正体が見えない。なんだっけ。


「それはどういう意味だ」


「わからない。魂の片割れが戻ってからも記憶が曖昧だもの。恐らく私の片割れが旅立っていた時間が短かったから……」


 デジャブってる間に興味深い単語が次々飛び出す。


 魂って分かれるのか。旅立ちってなんだよ。と、そんなこと口を挟めばフィレナ様を刺激してしまうのでお口チャック。


「ただこれだけは理解出来てるわ。今の私は半人形(ハーフドール)で、魔力の妨害が切れれば逆戻りしてしまう曖昧な存在だと」


 半人形(ハーフドール)。言い得て妙だね。そんな褒め言葉も嘲笑されてしまうだろう。

 そんな私に気付いたのか、ちらっと怪訝に睨まれた。

 空気感だけでもわかる。めっちゃ嫌われてる。


 ううむ。こんなあからさまに嫌われるのは珍しくない。いつもなら関わらないことで解決していた。けど、これ、関わるしかないじゃん。うーん。


「ピンクと違って貴女は分かってるでしょうけど、ただ魔道具を取り外すだけなら暴走するわ。そもそも取り外せないし。で、術式を解除するだけでもたぶん暴走。もちろん壊そうだなんて無理すれば暴走で済むか不明だわ」


「それだけ複雑で厄介な術式の施された魔道具ってこったな。今の状態もその場しのぎの処置だ。桜の能力とボクの魔力でどうにかなってるが、長くは持たないな」


 通常の魔道具は一般の人が安全に使えるような魔術が施されている。


 しかし稀にこういった不良品もあるらしい。術式の回路がめちゃくちゃで暴走してしまうとか、解除術式とやらが無くて動きっぱなしとか。


 今回のフィレナ王女を襲っている魔道具は、不良品よりもタチが悪い代物だった。

 魔道具を体内に取り込んで使う人間もいるらしいが、当然彼女は自分の意思でこうなっていない。


 どうにかしたい、な。


 胸がいっぱいになる感覚を必死に抑える。

 彼女は私が出しゃばることを望んでいないだろう。

 あーでも話は進めないとね。

 黙り込んだ二人に小さく問う。


「方法はないの?」


「ふんっ聞くだけじゃなくて考えなさいよピンク」


「さっきから私の扱い酷くない?」


 目を逸らされた。やだわ。今時の子こわい。


「貴女は伝説の魔導師様よね? どうにか出来る方法はあるかしら」


 フィレナはワラワラ寄って来るぬいぐるみ達を撫でる。それだけで大切に扱っているのがわかった。


 というか伝説の魔導師様て。やっぱりレジェンド級の人物なのね。安心安全のレジェンドチート主人公!

 そんなレジェンドな彼女は頭を掻く。


「……あー術式の文言自体を解除しつつ新しい術式で上書きってのを考えたんだが……」


「良い考えね。機構を壊すわけでは無くすり替えになるから暴走は抑えられる」


「でも上書きする術式が限られちまう。それに複雑過ぎて全部はムリ。魔道具から解放は出来ない」


「本当に手が込んでいるわね。魔法使いのエキスパートでも簡単に解けない仕掛けって鬼畜だわ」


「これを解くにはやっぱり術者本人に会うしかねぇな」


「そうなの」


 ロシェの話に俯くフィレナ。

 話の大半はよくわからなかったが、どうにも出来ないらしいことはわかった。


 気の毒に思う。望まない状況が続くのだから。


 私も何も出来ない。ここまで来たのに。


「またしばらく人形として過ごすしかないのね」


「フィレナさん……」


「ハッ気安く名前を呼ばないでくれる?」


「だからなんでそんな冷たいかなあ」


 お塩な対応に桜さん、そろそろ心が折れそうです。

伊藤志乃のなんとか室


(なんとか……?)

「どうします相田さんあの女」

「え、どうしたの。いきなり怖いんだけど」

「王女だかなんだか知りませんが相田さんをあんな扱いするだなんてずるいです。私も罵倒したいです」

「罵倒……したいの?」

(ああ、どうしましょう。真顔で固まってしまいました)

「あの冗談です真に受けないで下さい」

「伊藤さんってそんな人だったんだね、ふーん良い人だと思ってたのになあ」

「あっ相田さんあの……すみません、つい……」

(——ちょっと可愛いからもう少しこのまま遊んでよ)


この時の桜は考えていなかった。

逆襲を受けるとはこれっぽっちも。

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