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26 探索せよ3

「チートキャラ過ぎるでしょ!?」


「ちー……なんだ?」


 まさかこんな早くチートキャラが見つかるなんて!? ていうかチート過ぎて宇宙人が霞んじゃってるし! 属性過多! あの、魔法的意味以外のほうでも属性を所有し過ぎてイロイロ問題があるよ!


「お、落ち着いて、考えよう。このチートにもし主人公補正がかかってるなら今のところ私たちは安全とも言える。いやいや待て待て待て、もし変なフラグ打ち立てようものならこれは」


「桜の言ってることを半分も理解出来ねえ。異世界の人間は難しいこと言うんだな」


「私も理解出来ないので安心して下さい」


「一旦ゲームや本の知識から離れないかマスターよ」


 ロシェに対してチート主人公という新たな項目が脳内に組み込まれた。あらゆるフラグにまみれたクエスト中って事実は簡単に消えない。


 地雷は踏まないように気を付けよう。


「まー全部使えるっちゃ使えるんだが、さすがに得手不得手はあるからな? あらゆる分野に手を出せるが完全に使いこなせちゃいない」


「それでも素晴らしいと思いますよ?」


「人間、出来る範囲が広がってもその全てに手は出せないもんだよなあ」


「贅沢な悩みだな」


「実際にこうやって閉じ込められても、ただの役立たずだ。まだまだ未熟ってこったろ」


 本に選ばれようが半人前だ、と彼女はガシガシ乱暴に頭を掻く。その顔は苦いものを味わっているかのような表情に彩られていた。


 ああ、この人は考えられる人なんだ。


 私には大きい力に悩む同じ女の子に見えた。特異な存在であるが故の悩み。同じ悩みでは無いかもしれないけど、中途半端な力を持つ者の気持ちはわかってしまった。


 魔道具のこと。

 魔法使いと魔術師のこと。

 そしてロシェが魔導師であること。


 ロシェの一通りの講義とカミングアウトが終了したところで、手掛かりが全くなかったことに気付く。絶望的。


 日記からは収穫がなかった。ということは探し尽くしたこの部屋からは、出る手掛かりが物理的に見つからない。

 脱出ゲームは苦手だが、手掛かりのない脱出ゲームは無理ゲー過ぎてクソゲーとしか言えまい。


 とまあ完全に否定してはいけない要素がまだあることを知っているので、それがダメだったらクソゲーのレッテルを貼ろう。


 私はベッドを見る。

 わからないなら直接聞いてみればいい。


 ベッドへ近付く私をロシェと伊藤さんは不思議そうに見ていた。




「さてと、君たちはお話出来るのかな?」




 ベッドの枕元に五体の人形たちが居る。

 一つは比較的に綺麗な女の子の人形。ピンクのふりふりなロリータ、サラサラな銀髪。瞳は閉じられている。素材は何かわからないがアンティークドールみたいに精巧に作られていた。またの名をビスクドール。まるで生きているよう。


「かわいいね」


「まさか早速口説くとは」


「あのナイトさん違うよ違うからね」


 もう一つは騎士。片手で剣を突き上げ、もう片手で兜……頭を抱えていた。肝心の頭部に頭はない。そう、デュラハンなのだ。手のひらサイズの金属で出来た人形。メタルフィギュアと言えば良いのかな。全体が灰色。恐らくスズか鉛が使用されているのだろう。


「デュラハンのようですね」


「よくゲームとかで見るやつだ」


「アイルランド地方で伝わる妖精とされてます。妖精と言っても死の預言者など呼ばれ不吉なイメージが強く、男性か女性かは謎。その容姿から首」


「えーその話は後でじっくり」


 そして二体のうさぎのぬいぐるみ。可愛い二足歩行前提のうさぎさん。大の字になって並んでいた。薄いピンクとショッキングピンクでそれぞれ分かれているようだ。


「わーかわいー」


「またナンパか」


「ちょっとロシェまでそう言うの!?」


 最後が————


「めっちゃ強そう」


 実物大モデルのライオンぬいぐるみだった。本物よりデフォルメされているが、他のぬいぐるみ達と比べると迫力が違う。黄色の体毛と悠然となびく茶色のたてがみ。とても貫禄がある。


 計五体の人形たち。勝手にロリータ、デュラハン、双子うさぎ、ライオンと安直な名前を付けた。


「んで桜は何やるんだ?」


「黙って見てろ。常人には不可能な偉業を成し遂げるのだから」


 偉業は成し遂げません。


 心のツッコミを押し退けつつ人形に問い掛ける。魂が宿っていないとお手上げだけど、こんなに大事にしているなら大丈夫だと思う。魂の有無より意思疎通の可否だ。


 怖がらせないよう、そっと触れて話しかけていく。



「マスター如何か」



 私が人形たちとの会話を終わらせると、ナイトがタイミングを見計らい声をかけてきた。


「うーん一人だけわからない子がいる」


「わからない? マスターでも?」


「魂自体はみんな宿ってる。でもその子だけ希薄……。干渉しようとしてもすり抜けちゃうというか、何かで阻害されててこれ以上は難しいかな」


 大体の人形とは意思の疎通が可能だが、こんなことは初めてだった。

 意思の疎通が出来ても、訳のわからないことを言っていたり話を聞かなかったり無言を貫いたり——非協力的でも反応は返ってきていたものだった。


 それに異世界的な阻害ならこの一体だけというのも不思議な話だ。


 ナイトはその点、心得ているようで首を傾げている。因みにナイトはぬいぐるみだが現在は人型なので他の人形とは話せないみたいだ。


「とりあえず、みんなと話せるようにするね」


 私はそう言ってぬいぐるみに触れる。残念ながらキラキラ輝くとかのエフェクトは無いので、ただぬいぐるみに触っているようにしか見えないだろう。


 一応、何も出来ない一体も話せるように触れてみた。効果は無い。


 反抗期かロリータ。


 この女の子の人形ロリータだけは干渉が出来なかった。


「そろそろ説明してくれよ。傍目にはお人形遊びしてる残念な子に見えてるから」


 ロシェが痺れを切らした。

 ナイトが鋭く睨む。

 私個人としては、人形遊びというのはあまり間違いでもないので苦笑いを零した。




「そこの黒いの! 私達を生ある人形にして下さった方に無礼であります!」




 と、デュラハンと名付けた人形が動き出した。自分の頭と剣をブンブン振り回してアピールしている。挙動はともかく真面目そうな人形だ。


「なっ人形が喋った!?」


 ロシェは目を見開いていた。そりゃ能力の説明もしたが、実際に見るのはまた違うのだろう。百聞は一見に如かずである。


「オランジェットちゃん~あんまりぷんぷんしちゃダメ~」


「仕方ないよ。寝起きで機嫌悪いんだよ。イライラしても何も解決出来ないってわからないんだよ」


 薄いピンクのうさぎがデュラハンことオランジェットを嗜める。ショッキングピンクのうさぎはさりげなく毒を吐いた。


 やっぱりというか、うさぎはうさぎでも二足歩行が可能らしい。ゆらゆら立ち上がったので少し驚く。うさぎが立った……。


「ほう、我が動けるようになるとは夢にも思わなかったな」


 最後にライオン。

 黄金の巨体を揺すり尻尾を振る。リアルタイプのライオンじゃなくて良かった。さすがにビビってしまう。


「ショコラ、オペラ、オランジェット。お主らはことの重大さを理解しているだろう。無駄に騒ぎ立てるな」


「しかしガナッシュ様」


「我々の力では出来ないことをなさる方。そのお連れの者に粗相などそれこそ無礼であろう?」


「ガナッシュ様がそう仰るなら……黒いの、失礼したのであります」


「お、おう?」


 オランジェットの謝罪にロシェの返事ともつかない返事の後、ガナッシュと呼ばれたライオンが騒ぐなと双子うさぎにも釘を刺した。


「ガナッシュ様が言うなら黙ってるね~ショコラちゃん難しいことわからないし~」


「ガナッシュ様とショコラがそう言うなら沈黙を貫くよ」


「オペラちゃん~喋っちゃダメみたいだから~あのお姉さんにベタベタしよ~?」


「本当にショコラは無駄な知恵だけは一級品だよ」


 双子うさぎこと薄いピンクのショコラ、ショッキングピンクのオペラ。私の体を目掛けて飛び込んだかと思うと、ショコラは肩にオペラは腕に張り付いた。


 それ、楽しいの?


 ともあれ話がゆっくり聞けそうなのでベッドに腰掛ける。ガナッシュはたてがみを揺らし私の隣に座った。


「では改めて、我の名はガナッシュ。剣と頭を持った人形がオランジェット。お主に付き纏っている兎がショコラとオペラ。そしてお主の力でも目覚めない我々の姫——フィレナだ。この度は我々に力を授けたことを感謝する」


 こちらも軽く自己紹介をする。


 ガナッシュの言葉にロリータの名前がフィレナと判明した。

 ぬいぐるみに名前が付いているということは、持ち主が名前を付けて大切にしていたことの証明。大半のぬいぐるみは固有の名前は付かないので、かなり恵まれているだろう。


 この子たちが比較的話しやすい部類なのはそういった点も加味される。安心して話が出来そうだ。


 ロシェはまだ驚いてはいるが「これが人形使いの力かー」とオランジェットをつまみ上げたり、伊藤さんは冷静に「オペラさん。そちらの腕は私が掴むので反対側をお願いします」と話しかけたり、順応性が高い。


「して、お主らには伝えたいことがある」


「もちろん聞きたいです。何でしょう?」


「我らが姫についてだ」


「具体的には?」


「ふむ、実は……」


 ガナッシュは一度全員を見回し、後方に置かれたフィレナを見つめた。


「フィレナ姫は、我らの持ち主にして——この部屋の主人なのだ」

伊藤志乃の気まぐれ相談室……改め談話室


「相田さんもお茶をどうぞ」

「あ、うんありがとう」

「どうされました? まるで異世界に転移してしまったかのような表情ですが」

「実際そうなんだけどね。何してるの?」

「可愛い憐れな悩める子羊に——」

「うん」

「相田さんの素晴らしさを教えているところです」

「ホントに何してるの!?」

「愉しいです。みんな悦んで下さいますよ」

「うん。ちょっと伊藤さんとは話し合わなきゃいけないみたいだね」

「二人っきりで……だなんて大胆ですね。大丈夫ですよ。あ、でも少しシャワーを浴びて来ますね」

「この流れでシャワーを浴びる必要性は全く感じられなかったよ」

「その後、流れに飲まれた相田さんは私と共に——」

「変なモノローグ付けないッ!」

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