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25 探索せよ2

 日記は日付けがバラバラで、毎日というより何かあったら書いているようなスタイルだった。


 母が優しい事。

 姉が優秀だという事。

 友達が人形しかいない事。

 使用人が話す世間話に憧れる事。

 たまに部屋から脱走する事。

 とても平和な国である事。

 いつか役に立ちたいと魔法や剣を覚えた事。

 政治はあまりわからなかった事。

 家族や使用人のみんなでピクニックへ行くのが楽しかった事。



 そんな当たり障りのない。一人の女の子の日記。



「この部屋のお嬢さんの日記だろうな」


「幸せそう。愛されていたんですね」


「抜け道の話とかあるかな?」


「都合よく書いていたら良いのだが」


 日記を読み進める。


 んー日記は書いたことないな。

 それよりもだらだらゲームをしたり、本を読んだり、裁縫をしたり、たまにテレビでナイトの好きな時代劇や特撮ヒーローものを観ていたくらい。


 あ、前に伊藤さんは日記を書くのが日課だとか話してたなあ。思い出しながら書くのが楽しいし、読み返すとその日あったことを思い出せるので面白いと。


 思い出を文字として残す。それは重要なことかもしれない。

 私は記憶喪失じゃない。でも過去のことはうろ覚えだったりする。今でこれなら大人になったらもっと忘れてしまうんじゃないか。溢れそうな記憶を留めるには、日記という手段は効果的だろう。


 うーん日記かあ。纏まらずにゴチャゴチャになりそう。



「あれ……なんか書く内容が少なくなってる……?」



 つらつらどうでもいいことを考えていると、日記の異変に気付いた。

 そりゃ日記だし文章量も日によって変わるだろうけど、この日記は何かあった時にしか書いていないので大小あるにせよ一定の文の長さだった。書いた本人も文の長さは気にしていたのかもしれない。


 それが唐突に、劇的に、減ったのだ。


 いつも手のひら分くらいの文字たちが半分になってやがては二行ほど一行ほどとなっていた。それが一日一ページだったのでページを捲るたび真っ白になって行く。



 まるで書いた文字たちが逃げてしまったかのような欠落感。



 最後はこの日記が消されてしまうとの旨を記し、いつかこの本を手にする時には姉を助けて欲しいとのヘルプが書かれていた。最終ページの日付から今日で三ヶ月くらい経っている。意外と最近であることに驚いた。


 この日記は一体……。



 *



「どういうことでしょう?」


「ただの日記では、ない」


「日記が飽きてきたとかそんな感じゃねーもんなぁ」


 三人に日記を渡したらこの感想だった。


「日記の内容が激減したのはこの日の話の後か。えーとこの日は——流星が降り注いだ? 降り注いだ綺麗なお星様を拾った。お姉様へもうすぐ来る誕生日にあげる。か」


 確かにその話は私も目を通した。


 幻想的で異世界ファンタジーの魅力だよねそういうの! と魅入って読み込んだのだ。元の世界に流星落ちてきたら大惨事でそんなこと言っていられない。


 異世界ではそんなことないのだろうか?


「ボクは見たことないな。そんな流星ボトボト落ちて来たら死ぬ。てかこの世界守ってる力でも無理だろ死ぬ」


 どうやら死ぬらしい。


 唯一の異世界人(いや宇宙人?)のロシェがそう言うのであれば、おかしいのだ。星が落ちてその星を持ってルンルンしてることは。


 軽く組んだ腕を右の人差し指で爪弾く。


 思考を巡らせてもわからない。でも得体の知れない何かを引き出す様に言葉を繋げていく。ただなんとなく思ったことを。


「日記の話は“何かあった時”に書いてるのに最終的には一行や二行になってた。これはそれだけの為に書くとは思えない」


 わざわざ一行の為に書くだろうか? もしかしたら方針転換をしたのかもしれないが、それならそれで本人様に早く聞いてみたいものだ。


「それは……なんでだ?」


「たぶん、“何かあった時”だったんだよ。何かあり続けた。でもそれを何かしらあって書くことが出来なかったかそんな状況下にあった」


 私は探偵さんやエスパーさん的な力は持っていないので完全なる勘。

 人並みに判断は出来るがそこに行き着くのに突飛な想像したり、まず動いてしまったり、変な勘で乗り切ってしまったりするので何度ナイトに怒られ助けられたことか……。


 懲りない私はついペラペラ思ったことを話してしまった。しかし思いの外、三人は黙って聞いていた。むしろ真剣に思案しているようにも思える。


「きな臭いな。とりあえずボクが持っておこう」


 そう言ってロシェの腰に下がっていた道具袋に放り込まれる。



 どうなってるんだ内容量。



「そんなにガン見してどうした」


「い、いやそんな小さな袋に青いたぬきの袋みたいに詰め込まれたら……」


「青いたぬき? ああ収納ボックスのことか。魔道具のひとつだな。魔術師なんかが魔術を施した道具。専門の魔道具技師は結構儲かるんだぞ」


 なんだその便利道具。魔道具とか反則じゃないか。彼女が軽装な理由はそういうことだったのか。確かに魔導書をどこから出し入れしてたか謎だったけど。


 さすが異世界ファンタジー。妙に感動。


「そんなすっごいのあったんだね」


「詳しく説明するとだな、魔道具は魔術が施されているつったな。まず近代魔法と精霊魔法に分けられないのが魔術」


 人差し指を振って得意げに講義。確かに魔法の話は聞いたけど、魔術の話は聞いてなかった。ちょっと違うんだね。


「その魔術の中でも術式っつーのがある。魔律を用いて呪文を刻むこと。それが術式。で、術式を読み込ませることで機能した道具が魔道具だ。これは収納術式を施した魔道具ってこったな」


 じゅつしき……。な、なんかカッコイイ!


 目をキラキラさせていると、ロシェがキラキラに応えるように大仰に身を振る。マントを翻し中指でメガネのブリッジを押し上げる仕草をした。


 さながら、知的な天才宇宙人~家庭教師風~。といったところか。


「一般に魔道具は貴重とされている。魔道具の作れる魔術師の数は少ないからな。元々の人口が多い魔法使いは近代魔法か精霊魔法の二通りしかない。が、魔術師は一口にいってもその分類は様々だ」


「あ……ただでさえ少ない魔術師の中でさらに分かれちゃうから、魔道具を作れる人口が少なくなって珍しい高価なものになるんだ」


「そーいうこと。品質にこだわっちまうと、なおさらだな」


 ふむふむ。人口は魔法使いが多くて、魔術師は少ない。魔法使いの分類は二通りだけど、魔術師は何通りもある。

 それは確かに魔道具は貴重になってしまう。ロシェはそんな良い物を持っていたのか。


 魔法使いと魔術師。


「それってさ、魔法使いと魔術師って完全に別な扱いってこと?」


 話を聞いてみるに別の括りになっている。


「そうだな。魔法使いと魔術師の二つ。さらにそこから分類されるから別物っちゃ別物だな。一般的にどっちも出来るやつなんざいねーよ」


 魔法といっても色々あるんだなあ。


「まあみんな呼び分けるの面倒で魔法使いって一つに括ってるがな」


「ところでロシェって魔法使いなの? それとも魔術師?」


「ふっふっふ、知りてーか?」


 ロシェについて何も知らないことを思い出して聞いてみた。何故か彼女は悪い顔をしている。

 職業が称号付きの調査員で宇宙人だとはわかるのだが他は謎過ぎる。


「めっちゃくちゃすっごく知りたい」


「ボクは天才宇宙人だからな。全部使えるぜ?」



「「「へ?」」」



 これにはナイトも伊藤さんも時を止めてしまう。



——いま、全部使えるとか言わなかった?



「ぜっ全部って!?」


「全部は全部。魔法使いでもあって魔術師でもある。魔導書に選ばれた特別な存在。それがこのボク、宇宙人であるロシェだ」


「は? 寝言は寝て言え! さっき貴様はどちらも出来るやつはいないと言っただろう」


「そりゃ()()()()はな。ボクは魔導書に選ばれちまうくらい特殊なんだよ。全魔法系統全属性を扱える。人呼んで“魔導師”」


「……魔導師……」


 全魔法系統全属性って、魔導師って、そんなの————

伊藤志乃の気まぐれ相談室

Q.日記に何を書いていたんですか?

A.「普通に日々のことを書いていただけですよ。例えば、相田さんがアレしたりコレしたりしてたこととか」


Q.青いたぬきって何ですか?

A.「……ノーコメントでお願いします」


Q.「えっと、伊藤さん何してるの?」

A.「相田さんいらっしゃいませ。ご注文は私ですか?」

どんないかがわしいお店だ、とは口にせず無言で室内に入る桜。にこにことご機嫌な志乃。今日も平和なここは気まぐれ相談室。気まぐれなので彼女が相談に乗ってくれるかは運任せ。

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