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24 探索せよ1

「はー……ともかく脱出方法だが……とりあえず部屋でも調べるか」


 ロシェは面倒そうに立ち上がる。


「都合良く隠し扉とかあれば良いんですが」


「あってもこの閉じ込める魔法がどんな範囲かわからんから、抜け出せるかはまた微妙なとこだな」


「なにそれ詰んでるじゃん」


 全員で部屋を見回した。


「んじゃまあ、さっさと見付けるしかねーな」


 ロシェは薄いピンク色の壁をコンコンとノック。どこかに空洞があれば良いのだが、硬い音を鳴らすだけだ。

 次に彼女は壁をさすったかと思うと、手が淡く光る。魔法かな。魔導書もそこまで使えないと言っていたので、彼女本来の能力で確かめているのだろう。


「イジメだなんてレジスタンスさんは陰湿ですねえ」


 伊藤さんはクローゼットを開けて中を確認している。中は暖色系統のドレスばかりだった。クローゼットは後二つある。


「…………」


 ナイトは静かに床に耳を当てている。物音を探っているのだろう。音も遮断されたのか顔を顰めた。ピンクのカーペットを捲り上げても何も無い。それから近くの絵画を調べるが成果は無さそう。


「こっちが少数しかいないなら正面からでも叩けると思うのにな」


 部屋全体を観察してぼんやり考え事。


 少数の女集団なら楽勝と捉えるもの。情報の齟齬か、油断していない証拠か。パーティーを分断したのも単なるミスか、戦力の分散の意味なのか、それとも他の目的が存在するのか。

 私にわかる訳がないか。外に出たら結果もわかるだろう。


 とりあえずは脱出脱出ー。


 ぼやぼやしながらも二メートルほどの本棚を前に何か仕掛けが無いか調べてみる。


 え? いや鉄板でしょ隠し扉に本棚!


 てまあ、そんな都合の良いこともなく何も無さそうだ。本の背表紙をなんとなしに見る。


『神々と英雄の大戦~世界のはじまり』

『政治に大事なさしすせそ』

『やさしい王権の基本』

『魔導』

『魔法使いの心得』

『剣カタログ通信』

『聖剣たちの冒険』


…………。


 ツッコミどころが多くてさっと目を逸らしてしまった。


 意を決して他も見てみたが、歴史と政治と魔法と剣についての本が大半だった。一番多くあったのが剣カタログ通信シリーズ。月刊誌だったのかな。次に政治や歴史書。その次が魔法系統の本。


 料理ではなく政治のさしすせそって何だろうとか、聖剣が冒険するのかとか、普通に興味が惹かれるがそんな場合ではない。

 片付け中に見つけてしまった本を読み込んで一日が終わるのを私は知っている。


 無理やり意識を隣の机に向けた。


 アンティークな白い木製の机には少量の本と万年筆のようなペン、置物がちょこんとあった。隠し扉要素は皆無だ。

 机に引き出しもあるが大したものは入っていない。ハンカチやコイン、ビー玉の様な石、リボンなどの髪飾りや櫛、ネックレス。そんな小物が収納されているのみ。何故か銀食器もある。

 二重底なんだろあぁん? と調べてみるがそのような仕掛けは無かった。


 脱出の為とはいえ、人様の引き出しを覗くのはちょっと抵抗感がある。


 ゲームでは平気なんだけどな。


 むしろゲーム感覚でやれば何か発見が! と隣の壺を割ろうとしたら近くで第三クローゼットオープンしていた伊藤さんがいち早く察したようで、無言で優しく肩を掴まれた。


 割らなくても中を見ればわかりますよね?


 そんな声が聞こえてきそうだ。

 すみません。つい出来心で……。

 苦笑いで誤魔化すと壺を覗く。アイテムは何も無かった。そういうもんです。


 壺の隣には布が被った何かがある。私の身長くらいあった。ゆっくり布を取り払うと、それは大剣。巨大な大剣が立てかけられていたのだ。女の子の部屋に似合わないが、本の趣味からして剣が好きなのかも。

 残念ながら私には扱えない。というか持てない。せっかくの武器発見だがナイトも身長以上の剣は扱えないだろう。


 異世界に来たし筋力トレーニングした方がいいかなあ。魔力ないみたいだから体力は付けないといけないかも。


 気をとり直し、机と隣接しているベッドを見遣る。


 ピンクのベッド。天蓋もピンク。そして謎のふりふり過多。私にはちょっと無理だ。こんなとこで寝ようものなら頭の中がピンクになるだろう。因みに文字通りなので揶揄した表現ではない。


 桃色の髪だからって淫乱ピンクに当て嵌めるのは良くないと思う! 色のイメージでモノは語っちゃいけない! 全人類にそう提言しよう! 決め付け、ダメ、ゼッタイ!


 こほん。


 少々取り乱してしまった。


 ベッドの下を覗き見る。それこそ揶揄した表現であるところのピンクでムフフな本を探している訳ではない。


 あったら困るな。


 異世界のムフフな本ってなんだろう。調べる気は無いが時間があったらロシェに聞いてみよう。——淫乱じゃなくて異世界常識を知りたいだけだからね。

 脳内の聞いてみようリストに新たな項目を書き足しベッドの下に目を凝らす。


「ん?」


 本を発見。

 これは、まさか……!


 慌てて手を伸ばす。届かないのでもう少し体を入れ込んで引っ張り出す。

 ドキドキしながら本を手にした。外見的には何の変哲も無いただの本。題名も無く、もしかしたらノートの類かもしれない。


 で、でも、もしイヤラシイ本だったら……。


 興味はある。が、中学生にはまだ早い気もする。えげつない場面がどーんと来て心的障害を抱えたら笑えない。


 あれ、そもそもここって女の子の部屋だよね? じゃあ大丈夫かな? だだだ大丈夫だよね!?


 因みに私の性教育度は保健体育からゲームや本で匂わせる程度のことくらいしか知らない。まだ十四歳だしね。そんなこと話せる友達いないし。いないし。


 それとは別でお人形と関わることでそんな知識も手に入れていた。が、明らかに不適切なセリフだとわかっていたのに知識不足でわからないか、ナイトがピーピー言っていたのでわからないままになっていた。


 勉強した方が良いのかな。その為にはこの本を開かなきゃいけない? 身体が少し熱くなり顔もたぶん赤い。目を閉じて逡巡する。開かなきゃ何の本かわからないし、よしっ! やろう!



 オトナの階段第一歩ォォォ!!



「…………」



 思い切って開けたページには、丸みを帯びた女の子の字で文が綴られていた。


 どうやらムフフでは無かったようだ。何だったんださっきの葛藤。はぁ、と短くため息を漏らし改めて文に目を通す。


「さっきからお前面白いな」


「マスターを見ているだけで心が洗われるようだ」


「顔が青くなったり赤くなったりしてますね」


 と、三人がやって来た。私の様子を見ていたらしい。なんて悪趣味なんだ。


 恨みがましく睨んでいると「そんな上目遣いに見られてもな」とロシェが笑い、「こんな可愛いならもう私が女性にしてあげたいくらいです」と伊藤さんが微笑み、「マスターは何人誑し込めば気が済むのか」とナイトが頭を抱えた。


 ちょっとよくわからない。


「それはなんだ?」


「んー日記みたいだね」


 三人は私の後ろからムフフでは無かった本——日記を覗き込む。因みに脱出の糸口は探すだけ探したが何も無いとのこと。


 完全な手詰まり。


 純粋に私の反応が面白くて寄って来たとも口を滑らせていたが深く突っ込まないことにした。イジられそうだ。スルーの精神は大切。触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。だね。


 まあみんなが仲良くなってることに喜んでいれば良いのかな。


 私は日記を読み進めた。新たな手掛かりを求めて。

伊藤志乃の気まぐれ相談室

Q.いつみんなはマトモに戦うんですか?

A.「相田さんは無闇な争いを好みませんし、従うナイトさんは動けないでしょう。ロシェさんも話し合いで終わらせようとします。必然的に戦闘シーンは少ないです。必要とあらば……戦うかもしれません。気長に待ちましょう」


Q.ムフフな本って何ですか?

A.「ムフフ……となる本です。人によって解釈が違うかもしれません。相田さんに読ませてみたい代物ですね」


Q.ていうか『伊藤志乃の気まぐれ相談室』って何ですか?

A.「そのままですね。私、伊藤志乃が気まぐれにご相談に乗る企画です。暇を持て余した遊びと解釈しても大丈夫です。質問でも悩みでも何でもどうぞ」

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