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23 鳥籠の中

 完全に



「閉じ込められた……」



 私たち四人は閉じ込められた。



 ロシェがこちらに戻りドアノブを回す。開けようと押したり引いたりするけど、ビクともしない。ドアを叩くが、外からは何も聞こえなかった。


「魔法の類いだな、これは」


 そう呟いて振り向くロシェ。


「…………」


 言葉を失っているとロシェがソファーを指差した。掃除はされているが、最近に使用されていた痕跡が残されていない。とりあえず座ろうという合図みたい。


 私と伊藤さんが同じソファーに、ロシェは対面するソファーにそれぞれ座る。ナイトはロシェの隣には座らず、背もたれの後ろに背を預けていた。


 みんなの表情が強張っている。強張っているだけと言えるのか、強張ってしまうほどと言えるのか。このメンツでここまで余裕の無い深刻な表情は初めてなので、恐らく後者が正しい。


「どう思う?」


 ロシェがそう切り出した。


 どう思うか。恐らくこうなった状況についてだろう。私は疑問を整理するように羅列する。


「うーんと、なんでこの部屋に王子と幹部がいないのか。どうして私たちは閉じ込められたのか。わからないなあ」


 大きくその二つが今しがた起きた出来事。ここがどこで、誰にどうしてどのように私たちをこうしたのか。


 ロシェが目を閉じてこめかみを押さえる。考え事の癖、かな? 再び顔を上げた彼女は、燃え盛る炎の双眸を覗かせた。


「まずここは王子と幹部が隔離されているという王子の部屋ではない。別の部屋だろう。人がいないばかりかこの部屋が使われた感じがしないからな」


 その話にみんな頷く。


 しかもこの部屋、王子の部屋にしては女の子っぽい。たぶん所々にピンク色があるからだろう。壁紙や小物類はピンクで統一されているし、ぬいぐるみも何体か置いてある。少なくとも男の子の部屋ではない。


「鍵を解除して安心していたが、まさかまた魔法が発動して閉じ込められるとは」


「あれって誰かが直接閉めたわけじゃないんだね」


「魔法なら手で触れなくても閉められる。いっそのこと直接閉めてくれたら嬉しくて泣いたんだが」


「な、泣くほど? もう一回解除すればいいんじゃないの?」


「……無理だな。外からならまだしも内側からじゃあな。何度も使えねーし」


 私の能天気な提案に、ロシェは天井を眺めて否定した。さすがにそこまで万能ではないらしい。というか出来るならもうとっくにしてるか。


「解除ではなく吹っ飛ばすのは」


 金髪碧眼の元クマぐるみはすぐ破壊行動をしようとする。そんなに脳筋だったっけ。レイリーみたいな発言だよ。


「ただでさえ個室なのに、もし跳ね返って来たら四肢が吹っ飛ぶどころで済むかどうかわからん。跡形も無く消える可能性がある」


 それは勘弁願いたい。


「そう、なんだ」


 ナイトに力の流れを視て貰ったが、感じ取れるのに読み取れないらしい。静かに首を横に振っていた。視認出来ないと流れは視れない為、壁か何かの障害があるのだろう。

 残念ながらそうなると私も役に立ちそうにない。ロシェとナイトで対処出来ないということは、私の能力も受け付けないということ。


「誰がどうやって、何の為にこんなことをしたのか」


「レジスタンスが邪魔なボクらを閉じ込めた、が自然な流れだな。問題は……」


 犯人。首謀の組織であるレジスタンス。そこまでは良いのだが問題がある。それはこの場の全員が察していた。


「ボクらの動きがレジスタンス側に筒抜けだったと仮定すると、内部協力者の線が出てくる」


 私達の救出パーティー結成は秘密裏だった。しかも寄せ集めの緊急パーティー。知っている者はごく僅か。内部協力者を疑うのは自然だった。


「ここに案内したのはマーブルさんです。怪しいと思います」


 マーブルは王子の部屋だと言って連れてきた張本人。確かに怪しい。


「それはないんじゃないか?」


 そこでロシェが伊藤さんに突っ込む。マーブルをよく知る人物だ。


「マーブルが尊敬する鬼姫様を閉じ込めたりはしないだろーし、魔力がないマーブルじゃ魔法で閉じ込めることも出来ねーだろ」


 魔力で作られたこの鳥籠は廃魔の一人であるマーブルには出来ない。それにあんなにも幹部を誇りに話してくれた上、幹部と王子のピンチを知らせてくれたのは彼女だ。

 彼女が案内する場所を間違えたか、騙されていた可能性もある。


「それにあの機械の国コンビのが怪しい気がするけどな」


 レイリーとルミネア。あの二人は何かを隠していた。魔法も使えるしルミネアは未知数だ。でも……


「それはどうでしょう。襲撃して返ってくるメリットは小さいと思います」


「そうだな。あいつらにとってのメリットがわからねーから何ともだが。城も初めてな様子だったし、王城襲撃なんてバカやったら国家問題過ぎてそれこそ破滅だろあいつら」


 機械の国出身を信じるなら、完全に国同士の喧嘩になっておかしくない。元の世界でもお国同士の問題は深刻なのに、異世界で全く問題にならない訳がない。それは本人達が一番理解していた筈だ。どちらでも死罪は免れないぞ、と。

 ついでに私とレイリーは嘘つき両成敗中。お互いに良くわからない契約を交わした。レジスタンス側の人間なら、こんなリスクは犯さないと思う。


「考えたくはないが、女王や議会側の人間とかか?」


「城内の犯行ならその線は濃厚ですね」


 女王や議会のクーデター。王子や幹部が目障りで、という話は想像に難くない。城内も詳しいしね。うひゃー疑心暗鬼になっちゃうよ……。


「そもそも王子と幹部どもは無事でボクらにドッキリを仕掛けてる、とか」


「いやドッキリが大事件すぎだよ!?」


 それはそれでこの世界の住人はとても愉快で悪戯なものである。あのコンビといいイマイチ緊張感の欠片もない。……それを私が言うかってとこは棚に上げて奥底に封印しよう。


「さてと、どうやって脱出しようか? 犯人捜しは今の時点じゃあ情報も無さすぎる。ここからとりあえず出ることが優先だと思うな。救出も待つだけ無駄だろーし」


 ロシェは頭を掻きながら嫌そうな顔をしている。それはまあ、してやられた訳だから気持ちはわかる。

 問題はここからどう出るかという話。見たところ出入り口は入って来た場所くらいしか無く、窓もない。


「同感ですね。ここに閉じ込められたということは私たちが後手に回っていることに違いありません。しかし逆に言えば閉じ込めなければ成功の妨げになると踏んだのでしょう」


 そう言いながら伊藤さんは自身の髪を撫で付けながらソファに凭れた。


 邪魔になるから閉じ込めた。なら早めに脱してしまえばこちらのもの。それにはこちらの動きが確かに重要でもある。


「じゃあ脱出方法だね。あの三人無事だと良いけど」


 外に残してしまった三人。マーブル、レイリー、ルミネア。もしその中の誰かが仕掛けた犯人なら、危険だ。そして他に第三者が居たとしても危険に変わりない。腕に自信があるメンツだとしても、こんな狡猾なことをする相手にあっさり勝てるのだろうか。


「そればかりは信じるしかねーな」


「こちらは何も出来ませんからね」


「あくまで可能性としてだが、外の全員が犯人というのも視野に入れとけよ」


「私たちは疑わないの?」


「お前らは来たばかりだし、様子見てると関係ないのに巻き込まれた被害者って感じしかしねえ」


「早速厄介ごとに巻き込まれるとは流石マスターだ」


 瞑目し肩を竦め憐れむロシェ。理不尽な評価と共に嬉しくない賞賛をするナイト。隣では伊藤さんがあらあらと笑っていた。


 厄介ごとに巻き込まれるのは確かに私の十八番。だけどいつも巻き込まれる意思が働いていただけに、今回は目から鱗が落ちるどころかレーザービームが出そうな勢いで不本意な出来事だ。


 目からレーザービーム。

 ルミネアは使えるのだろうか。あの子はまだまだ技を隠していそうだ。それともレベル上がったら使える的なノリ?


 今度、聞いてみよう。


「相田さん、今とてもどうでもいいこと考えていそうな顔してますよ」


「マジで?」


「マジです」


「私は大真面目だよ。レーザービーム」


「なんであの話の流れでレーザービームなんだよっ!?」


 すっごい呆れた顔をされた。好感度落ちたかも。


 私たちは問題に問題を重ねて、さらに部屋からの脱出問題が重なった。

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