表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/81

22 嘘と契約

 嘘だとわかっている。


 でも、わかっていても突き詰めようとしなかった。

 レイリーたちにとって大事な秘密。恐らく、それを暴くのは今じゃない。この侵入者達を信じているのかも。甘いって言われちゃうよなあ。

 それからボーっとしていると、さり気なく私の隣を歩くレイリーに気付いた。


「……どうしたの?」


「なんでわかってるのに、あんな事を」


「何がわかってるのかわからないなあ」


「ウソだ」


 先頭組がルミネアの構造と伊藤さんウンチクで盛り上がってる中。彼女は先程のことを気にしてるらしい。知らないフリすればいいのに。

 天真爛漫で元気な彼女。今の表情や雰囲気は警戒心と不安感で染まっている。こんなわかりやすい人が嘘をつき続けるのは難しいことだろう。それだけの決意で隠し通したいことってやっぱり気になるな。


「じゃあ嘘つき両成敗ってことで」


「やっぱりわかって……。ワケわかんない。成敗してないじゃん」


「うーん、じゃあ契約しよう」


「けいやく?」


 意外とレイリーはおバカさんなように見えて、真面目というか細かいことを気にするタイプなようだ。

 えっと確か彼女は魔法を使えたはず。魔法って契約的なこと出来るよね。たぶん。


「私は君を、君は私を、何かしらで縛るの」


「監視ってこと?」


「監視でも罰でも。このままじゃあお互い不安でしょ。出来る?」


「いーけどさ。それこっちのセリフだよーあんた魔力ないじゃん」


「うっ、魔力無いんだ私……。でも大丈夫。これがあるから」


 スカートのポケットからストラップを取り出す。そのまま彼女の手に握らせた。怪訝な瞳が好奇の瞳に変わる。


「……かわいい……」


 レイリーの右手には親指大のぬいぐるみが収まっていた。デフォルメされた二本足で立つ茶色い犬。両手だけはやったるで~と元気いっぱい。私が手作りした特製の編みぐるみだ。

 数少ない私の所持品の一つ。元の世界で暇な時に作っていたものだった。ポケットに入れていたのを思い出して良かったよ。


「それ持っててくれれば大丈夫」


「ただのちっさいヌイグルミじゃん。なんかプレゼントされただけな気しかしないよー?」


「私ならそれで十分なの」


 そう人形使いとしてはそれで十分だ。魂も力も籠めていないが、この編みぐるみワンちゃんなら大丈夫だと思う。


「まーそー言うならいっか。手ー出して」


 次はレイリー。何をするか疑問を持ったまま、手を催促されたので素直に差し出す。手と手が触れたかと思うとピリッと静電気が起きた。驚くが静電気程度で手を引っ込めるのは許さないらしい。がっしり握手。


「こーんな感じカナー?」


 手を離してくれた。ごめん。何したか全然わからない。目で訴えてみた。


「お互い説明するヒマもなさそうだし、内容フメーの束縛ってことにする?」


 チラリと前方に目を走らせる彼女を追って先を眺めた。確かに、先頭組のさらに先ではマーブルの姿がある。もう到着だ。話をする時間はない。


「じゃあワクワクドキドキの束縛タイムの始まりだね」


「ヤラシーね! あ、パーティー解散したらおわりにしよーぜーサクラー」


「おっけーレイリー」


 秘密の約束こと拘束を交わした。短い歪んだ関係であるはずだが、あまり気にならない。もしかしたらレイリーにはムードメーカーの才能があるのかもしれない。



「待ちましたよロシェ」



「ここが例の場所か」



 王子と幹部が閉じ込められたと聞いた部屋の前にマーブルがいた。先行してくれたんだけど、待たせたよね絶対。


 早速、ロシェがドアの前に立つ。お城のドアといっても小綺麗なだけで、豪華絢爛なわけでもない。金メッキ製のドアノブを回す。しかし開かない。押しても引いてもダメらしい。ガチャガチャ、と通路に響くだけだった。


「はあ……剣じゃダメだったんだろ?」


「ええ、鬼姫様に教わった剣術をもってしても駄目でした」


「鬼姫様って幹部の人だよね?」


 私がマーブルに鬼姫について聞くと、マーブルは途端に目を輝かせて私の前に体を乗り出した。うーん、伊藤さんといいなんでこう距離が近いんだろ。


「そうです! 青剣(せいけん)鬼姫(おにひめ)様! 幹部の中でも唯一魔力が無い廃魔ですが、剣の腕が超一流なのです!」


「廃魔、なんだ」


 新しい単語。考えていたらロシェが私に近付いてそっと耳打ち。


「魔力はあるのが当たり前なんだが、ほとんど無いやつもいる。それが廃魔っつんだ。正式には廃魔力者だな」


「へぇ」


 おーなるほど。魔力の廃れた者か。

 魔力がないってことは魔力のある人より不便だと思う。それでも幹部になれる力がある。その青剣の鬼姫様はよほどスゴいのだろう。


「あの方は剣の腕も人間性も素晴らしいのです」


「マーブルは元々王国騎士で、鬼姫に憧れて情報局に入ったんだ」


「ろ、ロシェ! 勝手に……」


「いいだろ、減るもんじゃない」


 勝手にマーブルの話を始めるロシェを慌てて止めようとするマーブル。ロシェは悪びれもしない。可哀想に。


「騎士だったんだ」


「せっかくのエリート街道を蹴っ飛ばして来たんだぜ? 熱いだろ?」


「熱いねーカッコイイねー!」


 という私もあわあわしているマーブルのフォローをせず、ロシェに便乗した。面白いからとかそんな不純な動機ではない。決して。


「騎士の頃より男みたいにかっこよくなったんだよな」


「みたいにってまるでマーブルが女の子のような言い方——」


「えっ」


「えっ」


 笑いが止まって数秒。噛み合っていないことに気付く。お互いに顔を見合わせた。


「マーブルが、女の子……?」


 長くはない金髪。甘いマスク。スラッとした身体。パッと見は可愛い系の美少年である。


「ああ、マーブルは女だぞ」


「「「「お、女!?」」」」


 驚きだ。まじまじとマーブルを観察してしまう。


「えーオトコかと思ったーッ!」


「先ほどマーブルのスキャンデータを見せたではありませんか」


 興奮するレイリーにルミネアがそう言った。て、なんだスキャンってハイテクだな。いつの間にそんなことを。


 当のマーブルはさして気にした様子もないのか、「またロシェは個人情報を勝手に……」と腕を組んでぼやいているだけだった。


「マーブルはあんまり気にしてないね?」


「この下りは慣れているので。本当は男だと思われていた方が楽ですがね」


 慣れで男と間違われても平気って。そもそも男で通した方が楽な面ってあるのかな。んー美少年は美少女だったとか何ゲーですかい。


「ちなみに私も廃魔です。だからこそ鬼姫様に憧れている面があるのでしょう」


「マーブルさんも?」


 照れたような表情を浮かべて頬を掻くマーブル。マーブル憧れの鬼姫様はどんな人なのか、早く見てみたいものだ。


「はいはい無駄話は後だ。とりあえず開けちまおう」


 ロシェは事も無げに言う。

 開けられないから困っているのに、どう開けるのかな。そんな疑問でグルグルしている私の前で、ロシェはあの本を取り出した。え、今どこから取り出したの……。


 昨日、ロシェが“魔導書”といって見せてくれた不思議な本だ。エメラルドが散らばったような表紙に無言でロシェはそっと触れる。


「鍵を解き放て」


 またあの光が本から溢れた。

 固唾を飲んで見守る私たち。

 次第に淡い光からまばゆく強い光に変わって行く。そして本がロシェの手の中で意思を持っているかのように開かれると、ロシェは本を片手にもう一方の手でドアに触れた。


 光が弱まる。


 ただ光の残像は未だ消えず視界を奪っていた。


 ロシェを見上げると、ドアを眺めてニヤリと笑っているように見えた。


 成功、したっぽい?


「案外、早い仕事だったな」


「さすがはロシェですね」


「ふっはっは! 天才宇宙人であるボクに開けられない鍵はなーいっ!」


 マーブルの褒め言葉に完全なロシェ天狗と化している。確かに私にとってみればすごいこと。魔法なんて使えないもん。

 ただロシェが得意気にしていると決まって出てくる人がいる。


「下らん。目的は救出ではなかったのか? 浮かれるには早すぎだ阿呆」


 私の後ろに控えていたナイト。ロシェ天狗の長い鼻をへし折るように、ナイトはさっさとドアを開けて中に進む。

 それにロシェは眉間にシワを寄せて不機嫌をあらわにした。しかしナイトに先へ行かれては格好が付かないと踏んだのか、何も言わず後に続く。純粋に反省をしているのかもしれないけど。


 私も伊藤さんと一緒に後へ続いた。開かれたドアの先は真っ暗で明かりが付いていなかった。全く周りの状況がわからない。


 先に入ったナイトが声を張って呼び掛け、ロシェが手をかざして魔法の明かりを灯した。




「「「「…………!?」」」」




 そして部屋に踏み入れた私たちは言葉を失う。




 明かりに照らされた部屋の中には、誰も居なかったのだから。

 艶のあるテーブルも柔らかそうなソファーも真っ白な棚もアンティークな置物もピンク色の天蓋付きベッドも全て——使用感がなく綺麗に整っていた。



 バタン……



 背後で扉が閉まる音。背筋が凍る。近くにいた私はすぐドアに取り付き開けてみた。


 ダメだ。ビクともしない。


 突然の出来事の連鎖に固まりながら、ぎこちなく振り向く。


 伊藤さん、ロシェ、ナイト。


 私は順繰りに顔を見て首を力無く横に振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ