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19 隔離事件

 金髪美少年は何を言っているのか、理解することに時間を要した。


 幹部の二人と王子が城内に隔離された?


 幹部は魔女と鬼姫と呼ばれていた二人のこと。でもその二人は女王様と謁見の最中だったはず。それなら王子様といたとしてもおかしくないけど……。


 なぜ、城の中で隔離されたのか。



「マーブル、どういうことか説明して」



 聖母様は先程とは打って変わり真剣な表情で少年を見据えていた。対してマーブルと呼ばれた少年は落ち着くように深呼吸を繰り返す。それから周りを見回し困惑した表情。


「ロシェと、この方達は?」


「あーまあ気にしなくていいわ」


 いいんだ。え、本当にいいの? 何だか深みに嵌まりそうな予感がするよ……?


 退出した方がいいんじゃないかと発言する間も無く、彼は私たちを気にしつつ報告を始めた。本当に緊急の案件なのだろう。


「賓客室で幹部両名の護衛に就いていたところ、王子様がお見えになりまして」


 彼の姿は、ロシェと同じ学ランのような制服を着用してエンブレムが胸元で輝いていた。腰には剣——恐らくレイピアを帯剣。ロシェと違いマントは羽織っていないので良く見える。

 窮屈そうな詰襟や黒の色合いは中学男子たちが着ていたものと大差ない。素材や細かいデザインは違うと思うが見慣れた格好だ。


「幹部のお二人と話したい、と王子様ご自身の部屋に招き入れたのです。私は扉の前で待機していました」


 彼は起こった出来事をなぞるように、また正確に伝えられるように、慎重に話していた。


「しばらく経っても出て来ないので、不思議に思って声をお掛けしたのですが返事は無し。扉を開けようとしても開かないのです。閉じ込められたとしか思えません」


 そう言い終えると引きつった顔で黙ってしまう。

 ロイエさんは体をゆらゆら揺らしたかと思うと、うんうんと頷いて手を合わせた。


「あの二人と王子があなたにイタズラをしている可能性は?」


「それはないと思います。扉を壊そうと剣を突き立てたのですが傷が付くだけで全くびくともしないので、恐らく魔法の類かと」


「あら、それは大変ねー。確かにあの魔女ちゃんだけならともかく鬼姫ちゃんがいるのに王子の御前でそんなことしないわよねぇ」


「大変ねーじゃねぇぞぉぉぉぉ!?」


 隣から獣の吠える声が——いやロシェの叫び声が私の鼓膜を揺らした。咄嗟に両手で耳を塞ぐ。繊細なんだからねこれでも。


「幹部が二人も閉じ込められた上、王子までもっつーのはマズイだろ!」


「うふふ面白いくらいマズイわー」


「議会側の反応はどうなんだ?」


「女王様を含む一部の方々に報告はしましたが驚いているご様子でした。とりあえずロイエ様に知らせて警備と調査の増援をお願いしたいとのことです」


「こんな事態だと王国は女王と議会を護らなきゃなんねーからな。確かにこっちから増援が必要だな」


 ぼーっと聞いていたけれど、かなり大変な状況なのではと今更ながら思った。本当に深みに嵌まってる。


 ナイトは目を閉じたまま腕を組んで動かないし、伊藤さんは苦笑い。レイリーは口をあんぐりと開け放心中で、ルミネアが「みっともないデスよ」とレイリーに注意していた。

 私は人形たちを救う為に行動しなきゃならないのに、なぜ目の前に事件が転がりこんで来るのか。そう考えて、違和感を覚える。私は何で——



「……しちゃいましょうか」



「「「えぇーーーーっ!?」」」



 ロシェとマーブルとレイリーの三重奏が響く。何かを言ったらしいロイエさんとぼやっとしてた私以外は、全員が驚いた表情をしていた。


「そっそんなことをしては危険ですっロイエ様!」


「そーだそーだ! ダイイチあたしたちはまだ部外者だしぃー!」


「敵の規模が未知数デス。データがない上に部外者同士のパーティーで任務など無謀デス」


「えーっと」


 完全に出遅れた私に伊藤さんがこっそり耳打ちしてくれた。


「ロイエさん曰く『ここにいる人達で幹部と王子を救出しちゃいましょうか』らしいです」




「………………へ?」




 ここにいる人達って……まさか……。


「あのーロイエさん質問よろしいでしょうか?」


「ええ、答えられることなら」


「私や伊藤さんも救出に向かうのですか?」


「ええ、もちろん」


「全くの部外者ですが」


「ええ、平気よ」


「私たちの事情は知っていますよね?」


「ええ、知っているわ」


「戦闘力皆無ですよ?」


「そんなことないでしょう?」


「ありますって。だから辞退しま」


「頼んだわよ」



…………。



 すっごく強引!



「待て待て! 話した通り桜たち三人に至ってはここで働くこともないんだ。他の調査員にやらせればこいつらにやらせる必要もないだろう?」


 ロシェが眉間に皺を寄せて抗議。

 確かに私たちは関係者ではないし、何が起こっているのか全く不明だし、これは無茶苦茶過ぎる。


「本来、情報局の動かす権利も能力も私にはないわ」


「だが今は状況が状況なんだ。唯一動ける最高幹部だろ」


「それもそうなのだけど、肝心の調査員が出払っているのよ。これじゃあ私には何も出来ないわ」


「出払っている?」


 不機嫌なロシェ。苛立ちを隠せないのかガシガシと頭を掻く。

 出払っているとはどういうことか。

 ロイエさんは出来の悪い生徒に優しく諭すように指を振る。


「ほら前のミーティングの時に話してたでしょ。この時期はお祭りの警備に出払うって」


「ああ、武闘大会か」


 調査員のロシェとマーブルは理解しているらしい。

 て、私たちわからないんだけどー……。まあでも名前で大体の想像はつく。闘技場のような場所で力自慢が勇んで戦い抜く大会、なのだろう。

 でも一応聞いてみた方が良いよね。無言で小さく挙手。授業でさえ手を挙げないのになあ。


 ロイエさんが普通に「なにかしら?」と反応してくれたので安心しつつ質問。


「武闘大会って?」


「武闘大会。戦士まつりとも呼ばれている武術の国全体を挙げての大イベントよ。歴戦の猛者がトーナメント式で戦っていく熱苦しいお祭りね」


 武術の国。新しい国だが名前だけでも中々に暑苦しそうだ。

 ロイエさんはおっとり言葉を続ける。


「このお祭りは国を問わず参加できるの。物見遊山やスカウトの為に王族や貴族なんかもやって来るものだから、当然悪さをしようって輩も出るわけ」


「それで警備役として毎年依頼されるのがこのセブンルーク王国だ」


 ロイエさんの後にロシェが言葉を引き継ぐ。

 あ、なるほど。調査員の役割の一つに保安とあった気がする。自分の国だけじゃないのか。

 そして途端に浮き出た疑問。


「依頼って、情報局は秘密裏に動いているんじゃ?」


「もちろん。だから“王国”として依頼を受注したら王国と情報局の混成で警備するのよ」


「そして元々少数精鋭みたいな情報局はこの時期にバカみたいに居なくなる」


 調査員は時期の問題で居ないのか。ん? これ外堀埋められてない?


 ロシェの顔には「やってらんねー」と書いてあり、そんな態度でもロイエさんはどこ吹く風。涼しい顔で「そうねぇ」と応えた。


「武術の国とセブンルークは協力関係にあるから仕方ないわ」


「しかし何でそんな時に限って幹部が二人も出ちまったんだ?」


 もっともなことをロシェは聞く。そう、何も二人で女王様のところに行かなくても良いと思うんだよね。


「幽霊騒動の影響よ」


「あのお姫様幽霊の話か? それなら大丈夫だってこの前——」


「幽霊のほうはね。ただ幽霊騒動に便乗してレジスタンスが動き出したの」


「レジスタンスだと!?」


 幽霊の話は昨日にロシェが話していたのを思い出す。

 だけどレジスタンスとはなんぞ。そんなタンス聞いたこともないから何も問題はないだろう。現実逃避し始める思考。伊藤さんが私の二の腕を抓ることで現実に舞い戻る。暴力反対。

 涙目で腕をさすると、ロイエさんは察したように説明してくれた。


「レジスタンスは反乱分子。つまり今の国が気に入らない反対派の集まりのことよ」


「幽霊自体が問題ではないんです。幽霊の噂によって不安な国にレジスタンスが目を付け問題を起こし始めた」


 今まで黙っていたマーブルは、掻き抱くように自身の腕を握り締める。その表情は硬く強ばっていた。目の前で護衛していた幹部が二人も捕まってしまったのだから、相当の焦りや責任を感じているのだろう。


「レジスタンスが活動を始めた頃より最近は活発化しているようなのです。その例が先日の爆破事件。ロシェは帰って来たばかりで連絡が回っていないから知らないと思うけど、レジスタンスによる爆破行為をされたんです」


「その対策会議で情報局幹部は二人で城に向かう約束だったの」


 レジスタンス。


 爆破。


 不吉な単語に全員の顔が曇る。


 しかし暗い空気に包まれた室内に一人だけ慈愛に満ちた笑顔を湛える人がいた。もちろん聖母ことロイエさんであるが、不自然なほどさっぱりとしたにこやかさにロシェはギクリとする。


「というわけで、どこもかしこもてんやわんやで人手が足りないのよね~」


「足りないのよね~……じゃねぇーよ! 大幹部と王子を救出させるなんちゅー最重要任務を赤の他人にやらせるやつがいるかあッ!?」


 嫌な予感が当たったとばかりに激昂なロシェ。ロイエさんはキョトンとして自身を指差す。


「えぇーここにいるわよ?」


「あーもう……だからボクはあんたと話したくないんだ……」


 ロイエさんの有無を言わせない聖母の笑み。ロシェはげっそりと心底疲れたような表情で頭を抱える。


 あーきっとこれは、本格的に無関係とは言えない状況になってきているんだなぁ。なんて他人事のように考えた。現実を見たくない。


 そしてどこからか、鐘の音が聴こえる。


 まるで終戦のゴングと開戦のゴングが同時に鳴り響いたような心地だった。

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