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12 朝の星々

 朝。

 目覚めたのはベッドの上で、天井は見覚えがなかった。


 窓から射し込む太陽の光。良く良く見ると太陽……いや三つの星が太陽の役割を果たしている。


 そこでここが異世界、という事実を思い出した。


 寂れた神社。


 哀しげな歌。


 人形の少女。


 残忍な女性。


 昨日の出来事を思い出して目が冴えてしまった。


 起きよう。


 でも体を動かそうとして動かないことに気付く。


……なんで?


「あー……」


 横を見ると私に抱き付く金髪の女の子がいた。


 ナイト。私の力で魂を籠めた確固たる意思を持つクマのぬいぐるみ。この異世界に来ることで美少女になった。無垢な寝顔を晒していてとても起こす気にはなれない。


 戦闘能力もあるので頼りになる彼女だが警戒心が強い上に渋い話し方をするのだ。話し方と同じで堅い性格。私に従順でいるけど他人には牙を剥くので、少々手を焼く。


 とまあナイトのことは置いておこう。


 実は寝ているもう片側にも重圧を感じる。起きれないのはナイトのせいだけでは無いのだ。


「わわ」


 私の腕をちゃっかり枕代わりにしている黒髪の女の子が眠っていた。しかも息が掛かるほど近い。相当心臓に悪い。美少女版日本人形なんて言ったら怒られるだろうか?


 伊藤志乃。クラスメイトでオカルトの情報源だった少女。私の正体——変な力を使うことを知り、変なことに巻き込まれてしまった。変態なのか本人は何故か楽しんでいたりする。


 こちらもこんな状況でも幸せそうに寝ていた。


 二人に挟まれて身動きが取れない。でも私が起きたい理由は一つだけ気掛かりなことにあった。


 ロシェ。この家の主人で、昨日倒れた少女。しかも宇宙人を名乗っている。


 力の使い過ぎと判定を受けていた。だから無事に目を覚ましているのか心配なのだ。

 ソファーで寝てしまった彼女を、唯一の力持ちなナイトが担いでベッドに寝かせたきり様子を見ていない。

 昨日に会ったばかりの人の家で、勝手にベッドで寝て、しかもナイトと伊藤さんに至っては家を探索したのだ。ゆ、許してくれるかな?




「桜、良いご身分だな。いつもそうなのか?」




 部屋に聞き覚えのある声が響いた。いや私は今、その声の主のことを考えていたのだ。


「ロシェ」


 寝転がった状態からロシェの姿が視界に入る。意地悪そうな笑い。でもその中に恥ずかしさが滲んでいるような。気のせい?

 とりあえず私の両サイドに女の子がいることで誤解を受けているようだ。


「おはよう……起きたんだね」


「ああ、昨日は悪かった」


「んーというかお邪魔してるのはこっちだから。ごめんね勝手に寝ちゃって」


「自由にしていいさ」


「あと、いつもこうでは、ないからね?」


「…………」


 あれ、何か疑いの眼差しだ。

 ちょっとちょっと何で目を逸らすの!?


「ほんとだってば! 昨日は一人で寝てたはずなんだよ……」


 そう、一人で寝ていた。

 みんな別室、だった。


 過去形になってしまったのは、ご覧の通りの有り様だから。いつ私のところに来たのかわからないけど——


「起きれない」


「みたいだな」


 ロシェは苦笑い。

 彼女が元気そうで安心した。


「朝食でも作ってくるよ」


「わーありがとう。って助けてくれないの?」


「まあその内こいつらも起きるだろ?」


「見捨てないでよー」


 そのまま本当に出ていこうとするロシェを慌てて呼び止める。



「宇宙人食とか食べられるのっ!?」



 朝食と聞いてちょっと気になったことは作る料理。ロシェはどのようなものを作るのか?

 かなり、気になる。


「天才宇宙人であるボクはあらゆる料理を作れるぜ? 桜の望む宇宙人食も」


「ほんと!?」


「ただあんたらが超宇宙人的味覚にならない限りは振る舞えそうにないな——それでもいいなら作るが?」


 その言葉に昨日の彼女が飲んでいたコーヒーを思い出す。砂糖とミルクが大量に投下されたコーヒー。


 そもそもあれはコーヒーなのか……?


 甘党を超越した味覚。あの味覚にならないと食べられない宇宙人食は当分私には無理っぽい。


「えっと次の楽しみにします」


「賢明な判断だな」


 軽くウインクをして立ち去る彼女を見送り、私は二人の少女と改めて寝ることにした。


 腕が痺れそうなんだけど、ね。



 *



「なぜ洋食」


「すまんがこれしか無い」


「うふふ、とっても美味しいですよ」


「むー」


「ナイトー好き嫌いはダメだよー」


「しかしマスター、箸でないのが何とも違和感」


「洋風なのに箸って違うでしょ……てか今まで箸握ったこと無いですよねナイトさん……?」


 朝食はロールパンにスープ、スクランブルエッグとサラダ——まさに洋食だった。コーヒーよりお茶派なナイトは和食ではなく洋食であることに不満げだ。


「食文化も大してあっちと変わらないかー」


 あっちとは私たちが居た世界のこと。やっぱりコーヒーといい何だか大した差はないように思う。

 何となく考えた。もしかしたら少なからず、この世界はあっちの世界と関係しているのかもしれない。


「そうですね、もっと知らない料理が出るのかと思っていました」


 伊藤さんは優雅な仕草でサラダを突っついていた。相変わらず余裕を感じる。


 本当に同じ中学生だよね?


 彼女は私の視線に気付いて、女神よろしくにっこりと微笑む。つい胸が高鳴ってしまった。その動揺を悟られないよう誤魔化す為にナイトを観察することにした。



「何とも面妖な——」



 眉を寄せて恐る恐るスープを口に含むナイト。その後、無言で二口三口と啜る。そのままパンをモソモソと咀嚼、そして嚥下。


「まあ、悪くはないな」


 そんな感想を残して食べ続けた。

 素直に美味しいって言えばいいのに……。

 さすがにこの感想を声には出さず、心に留めておくことにした。いくら“マスター”である私でも刀で一突きされそう。


 伊藤さんはこの光景を見ながらクスクス笑っていた。


 ロシェに目を向けると、私に気付いて姿勢を正す。さっきから静かで何となく落ち着きがない気がする。

 彼女は昨日と変わらず黒い長髪を緩くまとめて、学ランっぽい服を着ている。そして変わらず瞳は紅い。まあ目の色が変わってたらびっくりだけど。


 飄々とサバサバした彼女だが今は大人しい。


「……あ」


 ふと、思い出した。

 宇宙人を名乗る少女は、この家で独り暮らしをしていることを。もし一人きりで過ごしていたロシェの家に、三人のよくわからない女の子がやって来れば——困惑するのも無理はないかも。


 というより緊張しているのかな?

 昨日今日、会っただけの他人に緊張しない方が不思議とも言える。


 ロシェは私から目を逸らして、わざとらしくゴホンと咳をした。


「時に諸君」


「どしたの?」


 私たちは彼女に注目。


「すまんな。ちゃんとこの世界について教える。今日だけで解決出来る話でもないみたいだし、数日は頼ってくれて良い」


 昨日、彼女が倒れたこと。責任を感じていたらしい。

 何だか悪い気持ちになってしまう。だって、倒れたのは私たちに説明しようとしてなのだ。


「ロシェさんが私たちに親切なだけでも嬉しいですよ?」


「一宿一飯の恩義がある。謝られる筋合いはない」


 ロシェは二人の言葉にホッとしたような表情を浮かべた。


「私たちがお世話になってる側なんだから気にしないで。むしろ迷惑じゃない?」


「そう言ってくれて嬉しいよ。宇宙人のボクがこんな些細なことを迷惑に思わないさ」


 気を取り直し胸を張って笑う彼女だが、すぐに表情を曇らせてしまう。


「……昨日は失敗した。久々にあの本を使ったのもあるが、調査の後に魔力を使ったから不足していたみたいだ。天才宇宙人の名折れだな」


「——魔力?」


 聞き慣れない単語に私は反応。

 他の二人も不思議そうに顔を上げていた。


「……? 魔力を知らんのか?」


「なにその、ゲームでしか聞かないような単語は」


「ゲームでしか聞かない? いや、あんたらは魔法使いとかなんだろ?」


「へ? まほう?」


「それとも魔術師か?」


「まじゅつ?」


「特別な力が使えるってことは、魔力が強いということじゃ——」


「待って待ってどゆこと!?」


 いきなりゲームでお馴染みな話が飛び出した。


 魔法使い? 魔術師?


 話が何か噛み合わない私とロシェ。


「違う世界からやって来た魔法使いなのかとずっと」


「違うって! それに力があるのは私だけだし」


「桜だけ? それにしては魔力がないな……どちらかと言うと……」



 ロシェが伊藤さんの方向に顔を向ける。



 その瞬間、違和感がした。



 ロシェにではなく————この空間に。

『朝の〜』を後二話、連日投稿させていただきます。


数時間単位でトラブルに見舞われて全く話が進まない可哀想な人形使いさん。誰の所為でしょうね?(すっとぼけ)

濃厚な二日目のはじまりはじまりー

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