拒絶
窓を覆う鉄の板がぱたぱたと音を立てていた。まだ雨は降り続いているようだ。外の様子がわからないから、今何時なのかもわからない。
もう一度、今度は落ち着いて、わたしは部屋の様子を確認した。
かたちを整えた石のブロックを積み上げて造られた壁。床の造りも同様で、部屋のあちこちに赤茶けた鉄錆が染み付いていた。部屋の四隅の壁に燭台が取り付けられていて、蝋燭の灯火が室内を金色に染めている。わたしを閉じ籠める鳥籠と、閉ざされた鉄の扉。他には何も見当たらない。
ふう、と大きく息を吐いて、わたしは床の上に蹲った。籠の扉には鍵が掛かっている。あの分厚い鉄の扉も同様だろう。足首に付けられた足枷のこともあり、逃げ出すのはとても困難なことに思えた。
部屋の中には相変わらずの悪臭が漂っていて、急に食べ物を流し込んだせいもあってか、腹の奥が酷くむかむかしていた。
脂汗が額に滲んで、起きているのが辛くなって。冷たい石の床に転がれば、悪臭がさらに鼻を突いて。激しい吐き気に襲われて、わたしは咄嗟に腕を突っ張らせて身を起こした。
「うっ……おご……」
ごぼごぼと音を立てて、腹の奥から込み上がった熱いものが、喉を焼きながら溢れ出した。生理的な涙を流しながら、わたしは何度も咳き込んで、胃の中のものを全て残さず吐き出した。
きっと、急いでものを食べたからだ。あの男が言ったとおり、何日も眠ったままで何も食べてなかったのに、急に固形物なんて食べたから、身体がびっくりしてしまったのだ。
吐物が床に散らばって、ただでさえ酷かった部屋の臭いがさらに酷いものになった。
最低だ。こんなの、人が暮らす環境じゃない。
濃灰色の不揃いな髪から琥珀の瞳を覗かせる、あの男の顔を思い出す。こんな所にわたしを閉じ込めて、一体何が目的なのだろう。
わたしの我儘を聞き入れて食べ物を持ってきてくれたから、絆されてお礼なんて言ってしまったけれど。どう考えても、あの男は感謝するべき相手ではなかった。
からっぽの胃がむかむかして、からからに渇いた喉を震わせる。押し寄せる飢えと渇きに小さく身を丸め、この酷い現実から目を背けるように、わたしはきゅっと目を瞑る。
閉じた瞼のその奥に、底の見えない暗闇が広がっていた。




