反撃の刻
「お、 生きてたか……」
「だ……だから、 殺したらダメですってぇ……」
くそっ! いつもよりも視界が狭い。しかも、会話は二人でしている筈なのにもう一人が視えない……。
「よぉ、 少年」
「…………何が目的で母さんを殺したっ!!」
デルタは怒号する。
「……? おぉ、 そっか」
銀髪で長身の男が、一人で何かに納得している。
いや、
実際には二人なのだろう……。 気配を感じる。
「少年、オレは《バアル教》からの使いだ。マスターはお前をウチの派閥に勧誘しようってワケだ。 どうだ?ウチの派閥に入んねぇか?」
勧誘?
そんなことの為に……家を破壊させたのか?
「巫山戯るのもいい加減にしろよ……」
デルタの拳を握る手に力が入る。それは今までに無い程の力だった。
「ただの勧誘の為に……母さんを……」
「ただのじゃねえ。 戦争の為だ」
神々、【十二神】にはそれぞれ《派閥》と呼ばれる組織が存在する。
いわゆる信者同士の組織の様なものだか、崇める神により、それぞれに能力が変化する。
【アラズ】、【レイジス】、【ギルドゥ】、【バアル】、【ロキ】、【ジィザス】、【グラム】、【ウィズ】、【ガイア】、【ライゼン】、【シエル】。
そしてそのすべての神を束ねる主神、【ホロウ】。
崇める神によって目的から考えまでまるっきり違ったりする。
今回の敵二人の崇拝する神、バアルの神能は《力》。
圧倒的なまでの破壊主義神であるバアルを崇拝する人々もまた、破壊主義者だ。
迷えば壊せ。邪魔なら壊せ。欲しいならば壊せ。
「----それが、オレたちの教訓だ。 悪気は無い。だが、 壊させてもらった」
「戦争って、一体何のために……」
そこまでして戦う理由。
圧倒的な破壊衝動。
「そんな理由、 ありゃしねぇ。 破壊するのにいちいち理由なんかぶら下げる必要なんてない。それこそただのお荷物だ。 戦争をしたいからする。闘いたいから闘う。それがオレたちバアル教の性ってもんだ」
無い。
理由なんてものは……。
あるのは衝動だけ。
残るのは結果だけ。
「俺は……バアル教なんかじゃあ無い。 だから破壊衝動も無ければ破壊主義でもない」
「……………………そうか、 それがお前の答えだな? 」
「……あぁ、 来い」
目の前にいる相手の能力がはっきりしていない今、 下手に動くのは命取りとなる。なので、敢えて後攻を狙う。
見極める。
敵の動きを。
じっと目の前の敵を凝視する。
デルタの家を一瞬にして瓦礫に変えた張本人なのだから、確実に攻撃系である事は確かだが……。
攻撃条件。 攻撃範囲。 攻撃対象。
この三つさえ見極めることが出来たのなら……。
まだ勝機は…………
……ある。