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5.現実逃避

「ねぇ。あなたはこの世界を見たいと思う?」


「そう。そうよね。こんな世界、見ない方が良いわよね。私もそう思うわ。」


「いつまでも拘束しっぱなしじゃ、可哀想よね。ちょっと待ってて。すぐ解いてあげるから。」


 ……もう、嫌だ。


 思考も呂律も回らない。

 全てを捨てて全てを消すような。

 苦痛と激痛の果てに、痛みという概念を壊すかのような。


 消えたい。死にたい。壊れたい。


 痛いのは辛い。苦しいのは嫌い。


 生きることに意味があると、学校の先生が言っていた気がする。なら、答えてよ。


「はい。解けた。」


 聞こえない。聴きたくない。効いてほしくない。


「よしよし……なんてね? 一度こういうのやってみたかったのよ。」


 ねぇ。あなたは生きる意味があるから、生きることに意味があるとか言えるんだよね。それって当たり前じゃなくて、大切で崇高で宝物で得難い物で誰かが渇望し誰かが羨望するものであるはずだなのに、何故それを平然と言う。何故、さも生きることに意味があるのが当然という言い方をする。何故、自分の当たり前を人に押し付ける。生きることに意味がある。なら、証明してくれよ。何故、生きることに意味があるんだ。生きることを当然とするなら、その当然とは何だ。答えろ。生きることに意味がある。だからどうしろというんだ。その意味を見出せ? その意味を噛み締めろ? 違うだろ。ただ付属しているだけだ。生きるということに、意味という物を付属させているだけだ。生きることに意味はない。けどそれではつまらないから、意味を付け、感情を付け、頭脳を付け、体を付け、神経を付ける。生きることに意味を付けるから、生きることに何かを感じる。否、感じなければならない。しかし、その何かは、幸せに分類されると言い切れるか? 世界には幸福も不幸も溢れかえっている。幸福が不幸を生み、不幸が幸福を生む。生きることの意味が、不幸だったらお前はどうする。それでもその生きる意味を見出せと、噛み締めろと平然と告げれるか。不幸に幸せを見つけろとか、そんなのは未来があるから言えるんだ。赤の他人で関係無くて責任を負わなくて済んでどうでもいい存在だからそう言えるんだ。人間なんて所詮他人の集まり。どうでもいいから切り捨てれる。関係無いから雑な扱いが出来るんだ。傷付けることを鈍感な癖に傷付くことには敏感。そんな自己中心的な考えで生きてるあんたらが、他人なんて物を語るんじゃねぇ。仲が良いとかただの知り合いとか、そんなの表面上の情報の受け取り方次第で全て決まるしどれだけ踏み込んだって完全な理解へは至れない。友達だって、どうせすぐ縁が切れるんだ。友達に永遠は無い。友達とはお互いがお互いの暇を潰すために利用し合っているだけ。絆だの何だの言ってる奴が居るけれど、それはただ建前を出して自己満足したいからに過ぎない。そういう奴は罪悪感はあれど反省も何も、関係無いから、で済ますクズだ。あっちから歩み寄らないのが悪い、とか言い逃れる下衆だ。てめぇらが歩み寄れないように壁を築き上げたっていうのに、それに気付いていない。グループという輪に異物が混入すれば、お前はどうする。取り除いて捨てるだろう。その異物なんだよ。他人って奴は。生きる意味に、他人は入っていない。誰かの為にとか、そう言う奴等は居るけれど、けど、自分が窮地に陥れば、誰かの為にとか言えないよね? 自分という絶対の安全を確保してから、手を差し伸べるよね。酷いよね。許し難いよね。窮地に陥ってる人間にとっては、少しでも早く助けて貰いたいのに。でも、窮地に陥った人間も悪いよね。環境や状況もあるだろうけど、自分の責任の尻拭いを任せてるよね。……………………おかしいよね。だって、今、俺はこんなことをされているのに、目の前の自分の安全を確保した女性は手を差し伸べないのだから。おかしいよね。だって、今、俺は拘束から解放されているのに、この窮地から脱出しようとしないのだから。おかしいよね。だって、今、俺は俺を何度も殺した女性に抱擁されて、気分が和らいでいるのだから。嗤いたければ嗤えばいいさ。気持ち悪いと蔑みたければ蔑めばいいさ。そういう奴は、恵まれているのだから。当たり前という素晴らしく憎いものに、加護されているのだから。


 もう、かれこれ3ヶ月は食事をしていない。飲料は一回だけしたけど、食べ物はさっぱり。


 普通に考えれば、餓死して当然だよね。


 けど、違うんだ。


「今日は牢屋で寝ても良いからね。あ、アインに手を出しちゃダメよ?」


 パチリとウインクする女性の顔は黒ずんだ返り血に汚れていて。

 その瞳に映る俺は、もう死にかけだった。


「ーーーーー」


「えっ!? 何、何て言ったの!?」


「ぃーーーー」


 彼女は強引に水を突っ込み、俺は噎せ返る。

 喉の皮が千切れ、潤うのにも相当時間が掛かりそうだったけど、俺は必死に言葉を紡いだ。


「ぃーーーー」


「うんうん。」


「ぃ…き、るぃみ…………」


「イキルィミ? ……ああ。生きる意味。」


 彼女は冷めた顔で俺を見つめるも、ふっと破顔して微笑んだ。


「今は、あなたが私の側に居てくれることが、生きる意味かな。」


 そう言うと、彼女は鈍く光るナイフを出してーー


「やだ。言わせないでよ恥ずかしい。」


 と、俺の眼球をぶっ刺したのだった。

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