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レンツ/ゲオルク・ビューヒナー

作者: 祭谷一斗

 一月二十日、レンツは山中を歩んで行った。雪に覆われた頂き、山肌、灰の岩肌に続く谷と、緑の平原、岩壁、(もみ)の森。


 湿りきりひどく寒かった――水は音立て岩肌を伝い、道を横切り飛び散る。樅また樅の枝々は、重く湿たい空気の中に垂れ下がっている。空には灰の雲がそよぎ、およそすべてが鬱陶しく思われた――やがて霧が立ちこめ、灌木(かんぼく)の合間を重く湿たく塗り変えて行く、ひどく物憂く重苦しく。


 淡々とレンツは進んで行った。道など気にも留まらない、時に登り、時に下った。疲れを感じることもない、ただ時折、逆立ちして歩めないのが不愉快だった。


 初めは胸に迫られる思いだった。谷へと岩は消えて行き、眼下に灰の森は揺れ、辺りを霧が呑み込んだかと思うと、巨大な四肢を垣間(かいま)見せる――胸に迫られ、失くした夢を見る様に何かを追い求めたが、何ひとつ見つかりはしなかった。この地のすべてが、あまりに小さく、間近で、湿たく――暖炉の後ろにでも容易く片付けてしまえそうだった。斜面を下り、目標にたどり着く。それだけのことに何故、こうも時間がかかるのだろう――二、三歩で歩み測れるはずなのに。それでもまだ何か、時折胸に迫ることもあった。雲が嵐に会い谷へと吹き込まれ、森まで昇り来ると、岩壁の際に声たちは目覚め、ほとんど雷鳴の様に遠く木霊する。と思った時はもう、凄まじい轟音が迫っている。響きは狂おしく、大地を歓喜している様だ。雲また雲は馬の様に(いなな)き駆け寄り、合間に日の光りが射し込むや稲光が、雪の斜面、刃の様に突き立てられる。そうしてまばゆいばかりの光りが、山頂越しに谷間へと切り込んで来る――嵐が雲を追いやると合間に湖の淡い青が見え、風が止むと今度は、峡谷の奥底や樅の(こずえ)から、子守歌や鐘の音の様に合唱が響いてくる。群青の空はわずかに赤が射し、きれぎれの雲は銀翼を広げ通り過ぎ、そしてすべての山頂は、鋭く力強く、はるか大地の上にきらめく。そんな時、彼の胸は引き裂かれるのだった。絶え絶えにレンツは立ち上がった、前に身を(かが)め、目と口を大きく開いた。嵐を取り込み、一切を掴もうとして。四肢を伸ばし地面に横たわり、宙へと潜って行った。愉快とも、恥ずべきこととも思いながら――立ちすくみ、頭を苔に埋め半ば目を閉じた、すると眼前のものは遠ざかり、大地は彼の下を去り、彗星の様に小さくなると、轟音とともに足元、澄んだ奔流に沈んで行く。だがそれも、ほんの瞬く間のこと――我に返るとレンツは、憑き物が落ちた様に、確かな落ち着きを取り戻していた――もはや彼は、何ひとつ覚えてなどいなかった。


 夕刻、レンツは山頂の雪原に到達した、道は再び西の平野へ降りていた。頂きに彼は腰を下ろした。夕暮れが近づくほどに、辺りは静かになっていった――雲は空に横たわり、じっと動こうとしない――見渡す限りの峰、裾野(すその)は平地に向けて広がり、すべては黄昏(たそが)れ、灰色に静まり返っていた。恐ろしいほどの孤独――彼は独りだった、まったくの独りだった。自分と話そうとした、しかし叶わない、息をつこうとし、ほとんど果たせなかった――両脚を少し曲げると、足元が雷の様に響いた、やむなく彼は腰を下ろした。すると名づけ得ぬ不安が彼を捕らえた、無が――虚無が! レンツは飛び起き、弾かれた様に斜面を下った。


 闇が降り、天と地とがひとつに溶け合った。何か恐ろしいものに、あたかも、人の身には耐えられないものに、馬を駆る狂気に追われている気がした。


 ようやく人の声を聞いた、(あか)りを見ると、心が軽くなった。半時もすればワルトバッハですよ、そうレンツは告げられた。


 村の中を彼は歩んで行った。灯りが窓から漏れていたので、通り過ぎざまに覗き込んだ、机に向かう子ら、老婆、少女、いずれの顔も安らか、穏やかなものだった。光りが輝き出している様にも思われ、心が軽くなった、そう思う内に彼は、ワルトバッハの牧師の下にたどり着いていた。


 人々は食卓に着いていた、その中へ彼は入って行った、ブロンドの巻き毛は蒼白の顔に垂れ、眼や口元は引きつり、衣服はぼろぼろに裂けていた。


 流れの職人と思い、オーベルリーンはレンツを歓迎した。「どなたかは存じませんが、ようこそおいで下さいました」


「ぼくはカウフマンの友人です、よろしく伝える様言付かりました」――「失礼ですがお名前は?」――「レンツ」――「ああ、お名前が印刷に付されてはおられませんか? そんな名前の方の戯曲を二、三読んだ覚えがあります」――「ええ、ですが、それでぼくを判断しないで下さい」


 なおも話しは続いた、レンツは言葉を探し、慌ただしく、苦しげに語った。次第に彼は落ち着いてきた――和やかな部屋、暗がりに浮かび上がる穏やかな顔、明るい子供の顔、あらゆる光りが漂っている様に思え、レンツは物珍しく人懐こく見上げた、さらに後ろ、暗がりには、天使の様に静かに母が座っていた。彼は故郷のことを話した、様々な服装を描いてみせた、人々は面白がり周囲に押し寄せ、彼はたちまち我が家にいる気分になった。蒼白の童顔はようやく微笑み、きびきびと話しをし出した。落ち着くにつれ、再びかつての姿、忘れられた顔が、闇の中から現れる様に思われた、昔日の歌が甦り、彼は我を忘れた、遠く我を忘れた。


 やがて出かける時が来た、通りの向こう彼は案内された。牧師の家は狭く、学舎(まなびや)の一室が与えられた。レンツは上って行った。二階は寒かった、部屋は広く、殺風景で、奥に高いベッドが置かれていた。灯りを机の上に置くと、あちこちを歩いた。どうやってここに来たのだろう、どこにいたのだろう。レンツは一日を思い出そうとした。灯りや、あどけない顔の映る牧師の家の部屋が、影の様に、夢の様に思われた、すると山頂にいた時の様に虚ろになり、何をしても充たすことが出来なかった。灯りは消え、闇がすべてを呑み込んだ。彼は言い様のない恐怖に襲われた。跳び上がり、部屋を駆け抜け、階段を下り家を出た、しかし無駄だった、すべては暗く、何ひとつありはせず――自分が夢である様だった。様々な考えが脳裏を掠め、その度に一々を握りしめた、「我らの父よ」と言わずにはいられなかった。我を失い、漠然と逃げ出したい衝動に駆られた。石につまずき、釘で擦りむき、痛みが意識を取り返し始めた。泉に飛び込んだが、そう深くはなかった、レンツは音を立て水を浴びた。


 物音を聞きつけ、やって来た人々が彼に呼びかけた。オーベルリーンもまた駆けつけて来た。ようやく我に返り、自分の状態を悟り、そしてまた気が軽くなった。親切な人々に心配をかけ、恥ずかしく心苦しく思われた。よく水を浴びるのです、皆へレンツは言った。二階へ上がると、疲れのため彼は静かに眠った。


 翌日は調子が良かった。オーベルリーンとともに馬で谷を通った――広い山の瀬は大きな峰から細長くうねった谷まで狭まり、谷は様々な方向に向かい高峰沿いに延び、大きな岩壁は下に向かい広がっている――わずかな森、およそすべては灰に染まり――平地を望む西の眺め、南北に真っ直ぐ延びる峰々の眺め、山々の頂きは雄大に、或いは幽かな夢の様に静かに立っている、谷間からは光りの奔流が時折金色の潮流の様に溢れ出し、同時に雲が山頂に横たわり、陽光のきらめきにさまようと、浮き沈む銀の亡霊の様に、ゆるり森を下り谷を登る――少しの物音も、幽かな気配も、一羽の鳥の姿もない、ただ風が、どこにともなく(おのの)くだけだ。やがて点々と、小屋々々の輪郭が、黒ずんだ藁葺き屋根が見えてきた。谷間の人々は寡黙に、静寂の破れを恐れる様に、馬上の二人へ静かに挨拶した。


 小屋は賑やかだった――人々はオーベルリーンの下に押しかけた、彼は諭し、助言し、また慰めた――至る所の信頼の眼差し、そして祈り。人々は夢を語り、懸念を語った。そして素早く、日々の暮らしに戻って行き――道を開き、水路を掘り、学舎に通うのだった。


 オーベルリーンは倦むことを知らなかった、ある時は話し、ある時は働き、ある時は自然に魅了されながら、レンツは常に付き従った。あらゆるものが和やかで、彼を落ち着かせた。しばしば彼は、オーベルリーンの眼を覗かずにはいられなかった、力強い静寂が、自然の中憩う時の、深い森の中、月明かりの下、甘やかな夏の夜に襲い来るものが、静かな眼に、気高く厳かな顔に輝いている様に思われた。彼ははにかみながらも意見を述べ、話しをした。オーベルリーンは彼との会話を楽しみ、あどけない童顔をひどく喜んだ。


 だがまずまずなのも、谷に光りが射す間だけのこと――夕暮れともなると奇妙な不安にさいなまされ、陽の後を追わねばならない気になった。あらゆるものが次第次第に影を帯びて来ると、すべてが夢の様に、気に障る様に感じ――暗闇で眠る子供の様に怯え――ほとんど盲いた様に思われるのだった。恐怖は膨れ、狂気の夢魔が足元に現れ――救いのない、すべては夢に過ぎないという思いが、彼の前に口を開き――あらゆるものに彼はすがった。目の前を駆け抜ける諸々に、彼は飛びついた――それは影だった、生気は消え、手足はかじかんだ。彼は話し、歌い、シェイクスピアの一節を口ずさんだ、かつては血潮を(たぎ)らせた、あらゆるものに手を伸ばした、あらゆることを試みた、しかし――冷たい、冷たかった! あまりのことに外に出ずにはいられなかった。闇に目が慣れるにつれ、ささやかな、夜に散在する光りが、少し気分を落ち着かせ――泉に彼は飛び込んだ、鋭い水の刺激に、また少し気分が落ち着き、不思議と、病にかかりたいとさえ思えた――以前ほど音を立てず、彼は水浴びを終えた。


 暮らしに慣れるにつれ、レンツは落ち着いてきた。オーベルリーンを助け、絵を描き、聖書を読む内に――在りし日の、過ぎ去ったはずの希望が現れて来た、ことに新約聖書は、彼を迎えてくれた……橋の上見えない手に(つか)まれ振り払えなかったこと、山頂でまばゆい何かに目が(くら)んだこと、何かの声を聞いたこと、何かと夜中に話したこと、神があまり唐突に現れたので、子供の様にポケットからくじを引き、何をするか決めたこと、そうオーベルリーンが語る内に、彼は聖書を、あるがままに解したのだった――信仰に、生の内なる永遠の天に、神の内なる存在に――今ようやく彼は、聖人の書に行き着いたのだ。すべてを天上の神秘に包まれながら、どんなにか人々は自然と間近だったことだろう――それも圧倒される荘厳の内にではない、むしろ親しみの内に。


 或る朝彼は外へ出た。夜中に雪が降ったのだろう――谷には明るい陽の光りが射していたが、彼方の風景は半ば霧に閉ざされていた。レンツは道を外れ、足跡さえ見当たらない、樅の森沿い、なだらかな坂を登った――太陽が水晶の様に照らし出していたが、雪は羽毛の様に軽やかだった、雪上には獣の足跡があちこち、山中まで続いていた。空は少しも動こうとしない、わずかに風と、尾から雪をふりまきながら飛んでいる鳥の羽音があるだけだ。すべては静まり返り、紺碧の空の下、彼方の樹々は揺らぐ白の羽毛を身にまとっているようだ。次第に彼は和やかになった。単調で、雪に覆われた巨大な山の背や稜線は、呼びかけでもする様に時折凄まじい音を立て――クリスマスに抱いた懐かしい思いが忍び寄って来た――また時には、木陰から、母が堂々と現れ、皆あなたへのプレゼントですと言った様に思われた。降りて行くと彼は、自分の影のまわりに、虹がかかっているのを見た――何か本質的なものに、額に触れられ、語りかけられたような気がした。


 レンツは下りて行った。オーベルリーンは部屋に居た、近寄ると(ほが)らかに彼は、一度説教をしてみたいのですがと訊ねた。――「あなたは神学を?」――「はい!」――「分かりました、では次の日曜に」レンツは陽気に部屋へ引きあげて行った。説教のテキストのことを考え思案に沈み、幾夜か静かなものになった。日曜の朝、雪は解け光りが射していた。掠める雲、合間の青。山を登り、張り出した場所に教会はあった――周囲は墓地だった。レンツが立ち上がると、鐘の音が鳴り響いた、参詣者は、女たち娘たちは黒の衣服に身を固め、白の折り畳まれたハンカチを聖歌集に乗せ、ローズマリーの小枝を手に、四方八方から岩間の狭道を、登り下りながらやって来ていた。日射しは時折谷に射し、穏やかに風は流れ、もやの中に景色はうつろい、鐘の音は遠く、すべては溶け合い、調和した波のようだ。小さな墓地に雪はなく、黒い十字架の下には苔がむしていた――遅れ咲いた薔薇の茂みが墓地に寄り添い、幾輪は苔からも顔を出している、時折の太陽、再度の曇り。礼拝が始まり、人々の声が合わさり、澄んだ明るい音楽を奏でると――ほとんど、清らな渓流(けいりゅう)に目を向ける思いがした。歌は消え行き――レンツは語った。彼ははにかんでいた、響きがこわばりをすっかり取り去っていた、今やありとあらゆる苦痛が目覚め、彼の心に収まって行く。甘やかな感情、とめどない幸福が忍んで来た。彼はただ人々と話した――彼らもまた悩んでいた、泣き濡れた目に眠りを、悩める心に安息をもたらせたなら、物欲にさいなまされた生を、おぼろな苦難を越えて天へと導けたなら、どんなに慰めとなることだろう。終りに近づくにつれ、彼の確信は強くなっていった――その時声が、再び彼を捕らえた――


   我らの内の清き痛み、

   深き泉を溢れさせよ

   苦難こそみな(われ)が益、

   苦難こそ()が神の労。


 切迫が、音楽が、苦痛が彼を震わせた。宇宙が傷を負っている様に思え――深々と痛みを覚えた。今また別のもの――神が身を(かが)め、震える唇が彼の唇を拭うと――レンツは孤独な部屋に戻って行った。彼は独り、独りだった! 泉が音立て、奔流が眼を割って出た、身をよじると四肢は痙攣し、体は溶け行くようだ、歓喜はとどまることを知らず、ようやく意識が晴れて来ると――幽かな、深い哀れみを自らに感じ、さめざめと泣いた――顔を胸に埋め、レンツは眠った。満月は空に昇り――巻き毛はこめかみと顔にかかる、涙は睫毛を濡らし、頬で乾いていた。こうして独りきり、彼はただ横たわっていた、すべては穏やかで、冷たく静まり返っていた、山上では、夜通し月が輝いていた。


 翌朝、下りて行くと彼は、夜中に母が現れた顛末(てんまつ)を、静かにオーベルリーンに語った――白いドレスを着て暗い教会墓地の生け垣から現れたこと、白と赤の薔薇を胸に()していたこと――そうして片隅に沈むと、遅咲きの薔薇が育ち、母の死を確信したこと――それでも自分が落ち着いていること。すぐにオーベルリーンは答えた、父が死んだ時私は独り畑に居ました、そこで声が聞こえてきた、父が死んだのだと、私は察しました――帰宅すると、その通りになっていました。なおも二人は語り合った。山中の人々を、地下水や鉱脈を感じる娘を、高峰で精霊に掴まれ戦った男を、オーベルリーンは語った――かつて山中で深い渓流を見つめる内、夢遊病に陥ったことも。レンツは述べた、水の精霊が自分に乗り移ると、どこか奇妙な気分になりますね。さらに彼は続けた。素朴な、純粋な自然は荒々しい原初と隣り合わせです――人が精神から離れ生きて行くにつれ、原初の感覚は遠ざかって行きます――この状態を高いものとは思いません、十分独立したものではないからです、けれどぼくが思うに、独自の生命の形に接することは、岩や金属、水や植物に心を砕き、花が月の満ち欠けに合わせ呼吸する風に、夢を見る様に自然の本質を取り込むことは、果てしなく歓喜に満ちた感情に違いありません。


 なおも彼は語った――すべての内には言い表せない調和が、響きが、無上の至福があります、より高度な次元に()いてはこの機関は、いっそう手を伸ばし、鳴り響き、掌握しながらも他者に深く影響されます――低い次元に於いてはすべてが抑圧され、制限され、けれども落ち着きは一際(ひときわ)です。レンツはさらに進もうとした。気質と相容れない考えに、オーベルリーンはその先を遮った。またある時、オーベルリーンは色見本を見せ、人と色との関係を説いてみせた――十二使徒の図を取り出し、各々に一色を代表させたのだ。レンツはその考えを解すると、物事に敷衍(ふえん)しては不安な妄想に陥り、作家のシュティリングの様に黙示録を読み、聖書に(ふけ)った。


 同じ頃カウフマンが、許婚を連れシュタインタールにやって来た。初めレンツは面会を嫌った――ささやかな居場所が、わずかな平穏が、彼にはひどく貴重だった――(しか)るに今迎えに来たのは、多くを思い起こさせ、口利かず話さずでは済ませ得ない、彼の状況を知っている者だった。オーベルリーンは何も知らなかった――確かに彼を泊め、世話しては来たが――それは神の思し召しが、この不幸な者を遣わしたかに見えたからだ、何よりオーベルリーンは心から彼を愛していた。皆にとってもレンツは、なくてはならなくなっていた――はるか昔から居る様に、レンツは皆と馴染んでいた、どこから来てどこへ行くのか、誰も訊ねる者はなかった。


 食事をする内、レンツの気分はまた良くなっていった。やがて文学の、彼の分野の話しになった。当時は理想主義の勃興期であり――カウフマンもその一派だった、それをレンツは烈しく(なじ)った。――作家は現実を描くだなんて言われてる、けれど実際はかけらの見当もついちゃいません――それでもまだ現実を、理想化する人間よりましです。神様はこの世をそのまま、あるべき姿につくられたはずです、ぼくらがこね回した所で、より良くすることなんて出来やしません――ぼくらに何か出来るとすれば、少しだけ創造を模倣してみることくらいです。ぼくはすべての内に生を、現存在の可能性を求めます、それで構わないんです――そいつが綺麗か汚いかなんて、考えるまでもありません。手触る感覚、つまり、創造されたものが生を持っているのか、これこそが芸術の基準なのです。とは言うものの、ぼくらがそれに出会うことは(まれ)です――シェイクスピアには見つかります、民謡では至る所に響いています、ゲーテでも時折――残りはすべて火にくべて構いません。この人たちは犬小屋ひとつ描けない。そこで理想主義という形を取った、けれどぼくには全部が木偶(でく)と見える。この理想主義という奴は人間自然への恥ずべき軽蔑でしかない。一度やってみるといい、最も(さげす)まれた者の生に沈み、痙攣(けいれん)、暗示、あるかないかの顔つきで以て、その生のすべてを再現してみるといいのです――ぼくはそうしたことを『家庭教師』と『兵士たち』で試みました。彼らは陽の(もと)で最も凡庸な人間です――しかし感情の血脈は、およそすべての人間で共通しています、破くべき皮膚が厚いか薄いか、違いと言えばそれだけです。対峙するには眼と耳を持つより他ありません。昨日谷沿いに登っていた時のことです、岩の上に少女二人が腰かけていました――ひとりは髪を結い、もうひとりはそれを手伝っていました――金髪の垂れた顔は青白く、真剣そのもの、極若い、黒の身なりの彼女を、もう一人がとても丁寧に世話していました。最良の、ドイツ学派初期の画家であっても、ほとんどこれを伝えるに及ばない。時々思うのです、メデューサの頭なら、こんな一景をすっかり石にして、人々に触れてまわれるのにと。二人が立ち上がると一景は壊れました――ところが岩壁を下り出すと、また違う絵へと転じたのです。


 (たえ)なる絵、溢れる響きが集い、また散って行きます。変わらぬものはひとつだけ――無限の美、これこそが、うつろいながら、永久(とわ)(つづ)られながら、なおも変わらぬものです。ただ、これをいつまでも留め置こうとか、美術館に飾ったり音符に書きとめて、老いも若きも呼びつけて口々に歓喜させる、こういうのは土台無理な話です。それぞれの、各々の本質に迫るには、まず人間を愛さないといけない――あるひとを捕まえて卑小だの醜悪だのと思ってはなりません、こうすることで初めて人を解せるのです――取るに足らない顔でも、単なる美の感覚より深い感銘を与えましょう、相貌(そうぼう)を浮かばせ得ましょう、幾ばくの生も、少しの筋肉も、幽かの鼓動もない、そんな借り物の言葉を用いずにです。


 カウフマンは反駁(はんばく)した――ベルヴェデーレのアポロ、ラファエロのマドンナなどは、現実に見い出せないものではありませんか。それに対し、レンツは答えた――素直に言えば、死に絶えているものとしか感じませんね。目を凝らせば、何かしら感じるかも知れません、それとてこちらが全力を尽くした末の話しです。ありありと自然を感じさせ、感情を湧き起こさせる、そんな詩人や造形家をぼくは愛おしく思います――その他すべては(かん)に障るだけです。ぼくにはオランダの画家の方がイタリアのそれより好ましい、この上なく掴み易いから。ただ二枚の絵をぼくは知るのみです、いずれもオランダのもので、ほとんど新約聖書を見る思いでした―― 一枚は、誰の手によるものかは存じませんが、キリストとエマオの弟子たちです。弟子たちの出立(しゅったつ)を読んでいると、数語の内にあらゆる自然が広がっています。辺りは(ほの)暗い、次第の夕暮れ、単調な赤の(しま)が地平線にかかる、通りは半ばの闇――見知らぬ者がやって来て、彼らに話します、パンを手折ります――彼らは悟るのです、素朴な人の姿でありながら、神の苦難に満ちた相貌が明白に物語っていました、そして辺りが闇になる、驚いた彼らは、さらに何か得体の知れぬものに襲われます――しかし亡霊めいた戦慄ではない、そう、夕暮れ時に愛しい人と、在りし日と変わらぬ姿で対峙するようだった――あの絵もそれと同じです、褐色めいた色合いが、仄暗さが、静かな夕暮れに響いていました。そしてもうひとつが――婦人が祈祷(きとう)書を手にし、部屋にいる絵です。いかにも日曜らしく浄められ、砂を()かれ、ほとんど我が家の様に清らで温かだ。教会に行けなかったので、家で祈祷しているのでしょう――窓は開け放たれ、それに向かい婦人は祈っている、窓からは、広野を隔てた村の鐘の音が流れ着き、近くの教会の歌声が木霊(こだま)するようだ、そんな中で婦人は祈り続けているのです。


 そうして彼は話し続けた――心打たれることも多く、人々は耳を傾けた。語る内彼は真っ赤になった、ある時は微笑み、ある時は真顔でブロンドの巻き毛を振るわせた。レンツは完全に我を忘れていた。食後、カウフマンは彼を脇に呼んだ。父親から手紙を受け取り、戻って手伝わせる様に頼まれていた。カウフマンは言った、君はここで生を浪費している、無為に失っている、目標を定めて、それに向かうべきではないのか。これにレンツは食ってかかった――「ここから去れ、去れと? 家へ? そこで狂えと? 分かってるはずだ、この土地以外に耐えられるもんか。時々山に登り辺りを見渡す、家に戻り庭に入り、窓越しに中を眺める、それが無理なら――狂う! 狂うのにか! そっとしといてくれ! 今しばらくはそっとだ、少しはましなんだ! それを去れ、去れだって? 分からないのか、ただの一語で世界が台無しなのが。誰しも必要なものがある――(いこ)えるなら、それ以上何を望む! いつとも知れない裁きのため、絶えず登り(いさか)えと、しかも今この時、与えられたすべてを捨てて飢え苦しめと! 道で、泉が湧いているのに(かわ)けと! 今は耐えられる、ここに残るつもだ。何故? 何故だって? 気分がいいからだ。父はどうするつもりだ? もっとましにしてくれるのか? 出来るもんか! そっとしといてくれ!」彼は激昂した――カウフマンは去ったが、レンツは不機嫌だった。翌日カウフマンは発つことになった。彼はオーベルリーンに、ともにスイスに行かないかと誘った。長年の文通相手、ラバーターに顔を見せたくもあり、その提案にオーベルリーンは乗った。準備もあるでしょう、一日待つことにします。そうカウフマンは言った。レンツは気が重くなった。果てしない苦痛から逃れようと彼は、あらゆるものに恐る恐るすがりつつ――どんな時にも深く、すべて一時しのぎだとも感じ――自らを病気の子供の様に扱っていた。幾つもの考え、激しい感情から、多くの不安を抱えながら逃れ――また果てしない脅威へと追いやられ、髪が逆立たんばかりに震え、極度の緊張に疲れ果てる。そんな時に彼は、いつも目の前に浮かぶ姿、オーベルリーンに救いを求めていた――その言葉が、顔つきが、彼には限りなく心地よかった。不安の内に彼は、オーベルリーンの出立を迎えた。


 独り家に残ることが、レンツにはたまらなく恐ろしかった。天気は穏やかになっており、オーベルリーンを山まで見送ることにした。谷向こう、開けた平野で彼らは別れた。彼は独り戻って行った。レンツはどこへともなく山中をさまよった。広野は谷へと続いていた、わずかな森、鮮やかな稜線、以外は何もない、彼方の平野は(かすみ)がかっている――空には風が吹き荒び、人跡は見当たらない、ただ羊飼いが夏を過ごす山小屋が、斜面に寄りかかる様に散在しているだけだ。夢を見ているのではないか、天地の合間を浮き沈む波の様に、すべてが一つの線に溶け合うのではないか、そんな思いにレンツは沈黙した――それはほとんど、寄せては返す大海原に立ちすくむ様だった。時折座り――ゆっくりと夢見る様に、また歩んだ。道を探すこともないままに。


 シュタインタールへの坂道沿い、人の住む小屋に着いた時、辺りは既に暮れていた。戸は閉められていた――窓際に彼は近寄った、すると灯りが漏れていた。ランプひとつが、一点を辛うじて照らし――光りが少女の青白い顔に落ちていた、半ば眼を開き、唇を幽かに震わせながら、窓辺で横になっていた。奥の暗がりでは老婆が、しゃがれ声で讃美歌を読み上げていた。長々と戸を叩くと、老婆は戸を開けた――半ば(ろう)だったのだ。歌を絶やすことなく、レンツに少しの食事を運び、寝床を指差した。少女には身動(みじろ)ぎひとつなかった。しばらくして男が入って来た――背は高く痩せこけ、灰色交じりの髪と、落ち着かない荒んだ顔をしていた。男が近寄ると、少女は痙攣し落ち着きを失った。壁から干した葉を採り、その葉を少女の手に乗せると、次第に落ち着きを取り戻し、間延びしながらも鋭い調子で、聞き取れる言葉を口ずさんだ。山中で声を聞いたこと、谷で稲妻を見たこと――何かに腕を掴まれたこと、ヤコブの様に戦ったこと。幽かな消え行く響きを病める少女が歌う間、男はずっとひざまずき、低い声で熱心に祈っていた。やがて男は静かになった。


 レンツは微睡(まどろ)み夢を見た、眠る間に時計の音を聞いた。少女の低い歌声と、老婆の声の響きで、ある時は間近、ある時は彼方、風がざわめく様に感じられた、見え隠れる月はうつろう光りで、夢の様に部屋を照らしていた。一度響きが高くなった時、はっきり言い切る様に、少女は話した――岩向こうに教会が立っています。レンツが見ると、彼女は眼を見開き、机越しに真っ直ぐ立っていた、静かな月光が相貌を照らし、不気味に輝いている様だった――同時に老婆が何か(つぶや)いていた、うつろい沈む光りの、響きや声また声の中、レンツは深い眠りに落ちて行った。


 早朝彼は目を覚ました。次第に明るむ部屋の中、皆は眠り、少女も静かだった。椅子の背にもたれ、左頬の下で両手を組みながら、彼女は眠っていた――顔立ちからは憑き物が落ち、言い様のない表情を今浮かべていた。レンツが窓に近寄り開け放つと、朝まだきの寒気が彼を打った。家は谷狭間の外れにあり、谷は深く、東に向かい開けていた――赤光は薄明の朝を抜け、白く霞がかりながら明るむ谷に射し、灰色の岩をきらめかせながら、小屋の窓に当たっていた。男は目を覚ました。壁際、陽を浴びた絵を眼に認めると、じっと視線を注ぎ動かなかった、唇が動き、初め低く、徐々に高く、やがて高々と、男は祈った。その内人々が小屋にやって来て、黙りきったままひざまずいた。引きつりながら少女は眠り、しゃがれた声で老婆は歌い、隣人たちと談笑していた。


 人々はレンツに語った、あの男は随分前に、どこからともなくやって来た――聖人というもっぱらの話しだ、水脈を見つけ霊を(はら)える、だからみんな巡礼に来る。同時にレンツは、シュタインタールから遠く離れていたことを知り――数人の、地元だという木こりとともにその場を去った。仲間が見つかり、気分が良くなると――今度は得体の知れない男が不気味になり、時折男が、恐ろしい声で話し出す様に思われた。また彼は、見知らぬ地の孤独な自分をも恐れた。


 我が家に戻ると、過ぎ去りし夜が大きな跡を残していた。かつての彼に世界は自明のものだった、今や奈落への衝動を兆し、仮借なき力に引き寄せられる思いだった。レンツは塞ぎ込んだ。ほとんどものも食べず――祈りと、浮かされた夢の内に幾夜を過ごした。激しい切迫に、跳ね返されての疲弊(ひへい)に――この上なく熱い涙に暮れた。そして(にわか)に力を得ると、冷ややかに無関心に立ち上がる、涙は氷の様で、笑わずにいられなかった。()い上がろうとするほどに、レンツはますます深みに落ち込んだ。あらゆるものがともに押し寄せて来た。かつての状態の思いが駆け抜け、荒れ果て混沌とした心に光りを投げかけた。日中は普段下の部屋にいた。時にはオーベルリーン夫人がやって来た――素描、色塗り、或いは読書、次から次と慌ただしく、あらゆる気晴らしにレンツは手を伸ばした。今では彼はことのほか夫人に(なつ)いていた、黒い讃美歌集を前に、観葉植物のかたわら、一番下の子を膝に置き座っている時は特に――彼はしばしば、子供とも戯れた。座っていた時に一度、ひどく不安になり、あちこち行き来し飛び跳ねた。戸は半ば開いていた――すると女中の歌が聞こえて来た、初めは聞き取れなかったが、やがて言葉が届いて来た――


   この世に嬉しい事なんて、

   愛しい人は、はるか遠く。


 歌にあてられ、レンツはほとんど消え入らんばかりになった。夫人はそれを見ていた。我に返ったレンツは、黙ってはおれず、たまらず話した。「奥様、あの(ひと)はどうしているのでしょう? あの人の運命をお教え下さい、どうしてもぼくの心にのしかかるのです」――「でもレンツさん、わたしは何も存じておりません」


 レンツはまた黙ると、せわしなく室内を行き来し――再び繰り返した――「ええ、ぼくは発とうと思います。本当に、ぼくが耐えられるのはあなたがたの所だけです、それでも――それでも、ぼくは行かねばなりません、あの人の元に――でも出来ない、許されることじゃない」――激しく打ち震えると、彼は出て行った。


 夕方レンツは戻り、薄暗い部屋の中――夫人の隣に座った。「ええ、あの人が部屋を過ぎ、半ば独り言の様に歌うと、一歩一歩まで音楽でした、彼女は幸せに満ちていました、それがぼくにまで溢れて来ました――あの人を見ていると、或いはあの人がぼくに頭を寄せると、絶えずぼくは安らかでした、まったく子供の様で――何とも、世の中広すぎると言った風でした。あの人は塞ぎ込むと、家中で一等狭い場所を探しては、ただその場に、その一点に自分の至福がある風に座っていました、ぼくもそんな気になりました――子供の様に遊びに興じられる気がしました。今では狭い、狭いのです! ええ、時々ぼくは、手を伸ばすと空にぶつかる気がします――ああ、息が詰まる! たびたびぼくは痛みを感じます、左半身の、かつて彼女を抱き寄せた腕にです。けれどそれ以上思い出せません、あの姿はぼくから去ってしまった、そのことがぼくを苦しめます――ただ時々冴え渡る時だけ、大変気分が良くなるのです」その後もしばしば夫人と話したが、ほとんどは途切れ途切れの言葉だった――夫人の答えはわずかだったが、彼は上機嫌だった。


 その間も、宗教的な煩悶はとどまることを知らなかった。虚ろに、冷たく、死に絶えて行くのを感じるにつれ、いっそう内なる燠火(おきび)がくすぶられる様で――すべてが彼に迫り、感覚に(あえ)いだ記憶が甦るのだった。比べると、今の自分は死だった! 自らに彼は絶望し――ひざまずき、手を組み、(おの)がすべてをかき立てながら――なおも死! 死だった! 彼は懇願した――神よ、どうぞ御験(みしるし)を――悶え苦しみ、食を断つよ、夢うつつ床に伏せた。


 二月三日、フーディと言う地で子供が死んだ、名をフリーデリーケと言った――そう聞くと、固く観念の様に頭から離れなくなった。部屋にこもると一日中何も食べなかった。翌四日、レンツは突然夫人の部屋に入り――灰にまみれた顔で、古い袋をひとつ望んだ。夫人は驚いたが、とにかく望むものを与えた。贖罪者(しょくざいしゃ)の様に袋で身を覆うと、そのままフーディへの道を進んで行った。谷の人々は慣れたものだった――人々は様々な奇妙なことを噂し合っていた。レンツは家に、子供の寝ている部屋に着いた。構わず人々は、淡々と仕事をこなしていた――内の一人が小部屋を教えた、子供は肌着のままで、(わら)の敷かれた木のテーブルに横たわっていた。


 冷たい四肢に触れ、半開きのガラスのような眼を見ると、レンツは身震いした。子供があまりに寂しげで、彼まで独り孤独に感じられた。遺体の上に彼は身を伏せた。死が彼を驚かせ、激しい苦痛が彼を襲った――この表情が、静かな顔が朽ちるのだ――レンツはひざまずき、あらゆる絶望的な苦悩を込めて祈った――ああ神よ、どうぞ御験を、この子を、弱く不幸な者を蘇らせて下さい――そして自らの内に沈み込み、懸命に思いをひとつにしていた。長い間彼は、じっと座ったままだった。やがて立ち上がると、子供の両手を握り、大声で力強く語りかけた――「起きろ、歩け!」だが無情にも四方の壁が、(あざけ)る様に木霊するだけだった、死体は冷たいままだった。半ば気狂う様に倒れると――追われる様に山中へと駆けて行った。


 足早に雲が月をよぎっていた――すべてが闇に包まれたかと思うと、おぼろに消え行く景色を月光が照らしてみせる。彼はあちこちを駆け抜けた。胸の内は地獄の凱歌(がいか)だった。風は巨人(タイタン)の歌の様に響いていた。途方もない握りこぶしを空に掲げ、神を手繰り雲間に引きずり出せる気がした――世界を噛み砕き、造物主の顔に吐き捨てられる気がした――彼は呪った、神を冒涜した。山頂に達すると、おぼろな光りが下に、白い石塊(くれ)の層に伸びていた、空は愚かな眼に思え、月がひどく滑稽に、無邪気に顔を出していた。レンツは大声で笑わずにはいられなかった、笑い声とともに無神論が、ひどく確かに、固く穏やかに、彼を掴み離さなかった。今し方何に突き動かされたのか、レンツにはもう分からなくなっていた――もう寝よう、彼は思い、冷たく毅然と、不気味な闇を抜けて行った――すべてが虚ろ、空虚に思われ、走り出さずにはいられなかった、そして彼は床についた。


 翌日、昨日のことを思いレンツは、激しい戦慄に襲われた。今や彼は深淵に立っていた、気狂いじみた思いに、絶えず眺め、繰り返し苦痛を覚えたい気にさせられた。やがて恐怖が増していった、聖霊に(あらが)った罪が、彼に表れていた。


 二、三日すると、予想よりずっと早く、オーベルリーンがスイスから戻って来た。レンツは当惑した。しかしエルザスの友人について語られると、レンツはまた陽気になった。オーベルリーンは部屋を行き来し、包みを開け荷物を取り出した。田舎司祭の気楽を讃えながら、詩人プフェッフェルについて語った。そして彼の父の願い通り、帰郷し天職に励むよう諭した。オーベルリーンは言う――「父母を敬うのです!」また似たことをさらに。会話しているとレンツは激しい不安に陥った――深い嘆息、眼には涙が押し寄せ、絶え絶えに彼は話した。「ええ、でも無理です――追い出すおつもりですか? あなたの内にしかぼくの、神への道はないのに。でももうお終りだ! ぼくは神に背きました、永遠に呪われたんです、永劫さまようユダヤびとなんです」オーベルリーンは言った――その為に主は亡くなられたのです――心よりすがりなさい、そうすれば御恵(みめぐ)みに預かれましょう。


 顔を上げ、手を押し合わせながら、レンツは言った――「ああ! ああ! 神の御慈悲が……」それから思いがけず親しげに、あの(ひと)はどうしているかと訊ねた。オーベルリーンは答えた、私は何も存じておりません、しかし何であれ力をお貸しします、助言もいたしましょう――ついては居場所と事情、人柄を述べていただかなくてはなりません。彼は答えなかった、きれぎれに二、三言を返しただけだ。「ああ、死んだのですか? それともまだ生きて? 天使は! 彼女はぼくを愛していました――ぼくも彼女を愛していました、それだけの(ひと)でした――ああ天使よ! 忌々しい嫉妬よ、あの女を犠牲にしてしまいました――彼女はもう一人をも愛していました、ぼくは彼女を愛しました、それだけの女でした――ああ母さんも、ぼくを愛してくれました――なのにぼくは!」オーベルリーンは答えた、その人たちはまだ、恐らく皆生きて、満ち足りておいでです――いずれにせよ、神におすがりなさい、悔い改めるのです、祈りや涙を捧げれば、あの人たちに与えた害より、かえって得るものの方が多いはずです。そう聞くと次第にレンツは落ち着き、また絵に戻って行った。


 午後、また彼はやって来た。左肩に毛布の切れ端をかけ、手には小枝を一束握っていた、枝は手紙に添えて、オーベルリーンが手渡したものだった。レンツは熱っぽく枝を差し出し、これで自分を打って欲しいと頼んだ。オーベルリーンは小枝を取ると、彼の口に幾度口づけて言った、これが私の差し上げる戒めです――落ち着いて下さい、ただ神の御心のままに任せなさい、打ってあなたの罪が消えるわけではありません――それこそ主が引き受けられたことです、主におすがりなさい。すると彼は去った。


 夕食時は普段通り少し憂鬱だった。それでも様々なことを話したが、不安で慌ただしかった。真夜中、物音にオーベルリーンは目を覚ました。庭を駆け抜けたレンツが、虚ろな、激しい声でフリーデリーケの名を呼んでいたのだ、響きは極めて速く、絶望と混乱を伴っていた――泉に身を投げ、ぱしゃぱしゃと音を立て、外に出ると部屋の中へ、再び下りては中に入る、二、三度これを繰り返し――ようやく静かになった。彼の部屋の下、子供部屋で寝ていた女中たちは、口々に言った、自分たちにはしばしば、あの夜は特に、唸り声が聞こえました、口笛くらいにしか(たと)えようのない音でした。多分あの方が、虚ろな、恐ろしい、絶望的な声で(うめ)いておられたのでしょう。


 翌朝レンツは、なかなか出て来なかった――とうとうオーベルリーンが部屋に踏み込むと――静かに身動(みじろ)ぎひとつせず、ベッドに横たわっていた。返事を得るために、長々と訊ねる羽目になった――「ああ先生、ええ、退屈、退屈なんです! ああ、ひどく退屈なんです! 何て言えばいいんだろう、ぼくには全然分からなくなりました――色々と、壁に描いてはみたんです」オーベルリーンは答えた、神にすがるのです――すると彼は笑い答えた――「本当に、あなたみたいに幸せなら、素敵な暇つぶしに有りつけたらいいんですが、本当に、そんな風に人は時間をつぶすのでしょう。すべては無為の内です。退屈のあまり祈ります、また退屈のあまり惚れ込みます、三つ目に品行方正、四つ目に悪徳だ、けれどぼくは何も、まったく何も、自殺さえ好かぬのです――何という退屈でしょう!」


   ああ神よ! 汝が光りの波の内、

   汝が燃ゆる陽の獄に、

   我が眼は冴え傷を負い。

   夜の(とばり)はもう二度と?



 オーベルリーンは不機嫌に一瞥(いちべつ)し、その場を去ろうとした。レンツは後を追い、不気味な目でオーベルリーンをじっと見た――「ええ、今浮かびました、ぼくはただ見分けたいだけなんです、夢見ているか、それとも目覚めているか――ええ、とても大切です、ぼくらで調べましょう」――そうして彼はさっとベッドに戻って行った。


 午後、オーベルリーンは近所に出かけようとした――妻は既に出ていた。出ようとしたその時、戸が叩かれレンツが入って来た、身を前に屈め、頭を低く垂らし、顔一面と衣服のそこここは灰にまみれ、右手で左腕を抑えていた。彼はオーベルリーンに、腕を引っ張るよう頼んだ――(くじ)きました、窓から落ちたんです――でも誰も見ちゃいませんでした、誰にも言いたくないんです。ひどく驚きはしたが、何も言わず――レンツの望むままにした。同時にベルフォースの教師、セバスティアン・シャイデッカーに、こちらに来てもらえる様に、指導を仰げる様に書き記した。それからオーベルリーンは馬で出た。


 男はやって来た。レンツは男とたびたび会い、また懐いてもいた。男はオーベルリーンに用事があった様に装い、帰る素振りを見せた。留まるようレンツが頼み、こうして二人はともに留まることになった。彼はフーディへ散歩しようと言い出した。かつて生き返らせようとした子供の墓を訊ね、幾度となくひざまずき、墓の土に口づけた、祈る様にも、ひどく混乱している様にも見えた、添えられた花冠から記念に花をちぎりると、ワルトバッハに向かい、また引き返した、すべてはセバスティアンと一緒だった。歩みは遅くなり、手足がひどく弱ったと訴えると、やがて捨て鉢な速さで歩き出した――風景が彼を不安にさせた、あまりの狭さに、何かにぶつかるのではと恐れた。言い様のない、不愉快な感情が彼を襲った――ついに連れが邪魔になり出した、その意図を察したこともあり、遠ざける方法を彼は探った。セバスティアンはどう逆らうわけでもなかったが、危険を秘かに、仲間に知らせる手段を見出していた、一人だけではない、レンツは今や二人に見張られていた。彼は二人を引きずり回し――ついにはワルトバッハの方へ戻って行った、と村に近づくや稲妻の様に取って返し、雄鹿の様にフーディへ跳ね戻った。フーディで彼を探していると、商人が二人、やって来て話し出した、或る家で余所者が縛られていた、人殺しと自分で言ってはいるが、本当に人を殺したわけじゃなさそうだ。家に駆けつけると、その通りになっていた。激しく迫られた若者が、恐る恐る縛ったのだ。縄を解くと二人は、無事ワルトバッハまで連れ帰った、そこではオーベルリーンが、妻とともに帰って来ていた。レンツは狼狽していた。だが優しく親切に迎えられたと気付くと、再び勇気付けられた――顔色も徐々に良くなっていった、彼は二人に、優しさ親しさを込めて礼を言った、その晩は静かに過ぎて行った。オーベルリーンは切実に頼んだ、もう水浴びはよして下さい、夜は静かにベッドにいて下さい、眠れない時は神様とお話しなさい。彼は約束し、次の夜はその通りにした――女中はほとんど夜を徹した祈りを聞くことになった。


 翌朝レンツは、楽しげな顔でオーベルリーンの部屋に入って来た。ひとしきり話した後、いつになく親しげに、彼は口を開いた――「先生、ぼくが話した女、あれは死にました、そうです、死にました――あの天使は!」――「どこでそれを?」――「ヒエログリフ、ヒエログリフです!」そして天を仰ぎ、繰り返した。「そう、死にました――ヒエログリフです!」その後はもう、何も聞き出せはしなかった。レンツは座って数通の手紙をしたため、然る後オーベルリーンに、少し加筆するよう頼み込んだ。


 その内彼の状態は、ほとんど絶望的なものになって行った。ありとあらゆる、オーベルリーンの下で得ていた安らぎ、谷の静寂を和らげていたものが、綺麗に消失し――くつろごうとした世界に、途方もないひびが入ったのだ――もはや憎悪も、愛も、希望もない―在るのは恐ろしいまでの空虚と、それを埋めようとする焦燥だけだ。レンツにはもう何もない。何をするにも正気ではいられかった、ただ内なる本能に強いられるばかりだ。独りでいると恐ろしく孤独になり、絶えず大声で独り言を話し、叫び、そして見知らぬ声と話していた気になり、また驚くのだった。会話している時はしばし言葉に詰まり、どう文章を終わらせるか思い出せず、言い様のない不安に襲われた――そんな時彼は、最後に口にした言葉を覚えておくため、絶えず話さねばならない気になった、ただ非常な労苦で、その欲求を抑えていた。時折落ち着いて座り気兼ねなく話していると、不意に(ども)り言い様のない不安に襲われ、その(さま)を顔に出し、すがる様に身近な者の腕を掴むと、徐々に我に返って行く。こんな時はひどく、親切な人々を心配させた。独り読書している時など、何ともひどいものだった――時折ひとつの考えが頭を離れなくなるのだ。また、見知らぬ人を想像する時、或いは鮮やかに思い浮かべる時、己が当人である様に思われ――錯乱のあまり、周囲のものすべてと親しもうとする、際限のない衝動に駆られ――そのくせ自然も人も、オーベルリーンを除いては、すべて夢の様で、冷たく思われるのだった。家々を逆さに屋根から立て、人々を気ままに脱ぎ着させる、そんな気狂いじみた思い付きをレンツは楽しんだ。時折それを実行したい衝動に駆られもした、そして恥ずかしく思い、決まってひどく顔をしかめるのだった。ある時オーベルリーンのかたわら座っていると、向かいの椅子に猫が横になっていた。レンツは突如目を据わらせると、動物にじっと目を向け始め――それからのろのろと椅子を滑り降りた、猫もまた同じ様に――視線に魅入られ、恐ろしい不安を抱き、興奮し毛を逆立てた――同じ様にレンツも唸り、恐ろしく顔を歪め――絶望に駆られる様に双方飛びかかった――ようやく夫人が腰を上げ、両者を引き剥がした。後でまた、レンツは深く恥じた。恐ろしい空虚を満たそうとしながら、辛苦の果てに彼は眠りについた。やがて夢と現の狭間の、恐ろしい状態に陥った――戦慄に、恐怖に、彼はぶつかった、そして狂気が彼を満たした――汗にまみれ金切り声を上げ、跳び上がり、やっと少しずつ、我に返って行く。それより後は、正気に返るため、ひどく簡単なことから始める羽目になった。正確には彼の仕業ではない、強い自己保存本能がそうさせるのだ――それはほとんど、彼が二つに分かたれ、片方が彼を救い出し我に返そうと、もう片方を探す様だった――物語り、激しい不安の内に詩作し、やがてまた、我に返って行くのだ。


 昼間も発作が襲う様になり、後はいっそう恐ろしいことになった――それまでは陽の光りが、彼を守っていたのだから。ぼくはただ独りきり、世界は想像に過ぎない、ぼく以外は何ひとつとしてない、ぼくは永遠に糾弾される、そう悪魔だ、ぼくを責めさいなむ様想像するぼくがいるだけだ。そんな妄想に彼は取り憑かれる様になった。レンツは狂おしい速さで生涯を振り返り、そして口走る――「矛盾、矛盾じゃない」――そんな時、誰かが話しかけるとこう答えたのだ――「矛盾、矛盾だ」――その様は救いなき狂気の裂け目、永久のクレバスを思わせた。


 精神の防衛本能が駆り立てるまま、レンツはオーベルリーンの腕に身を投げ、ほとんど入り込む様にすがりついた――彼こそただ一人、レンツのために生き、生を取り戻すよう啓示してくれる人間だった。言葉を聞く内、レンツは徐々に正気を取り戻して行った――そうしてひざまずき、両手を彼のそれに重ね、冷や汗にまみれた顔を彼の膝に埋め、全身を震わせながらひどく怯えた。オーベルリーンは計り知れない同情を抱いていた、それにならい家族も不幸な者にひざまずいた、女中は逃げ去り、何かに取り憑かれたのだと思い込んでいた。少し静かになると、今度は子供の様に悲嘆に暮れ――泣きじゃくり、深々と同情を、自らに向け始めた――それはまた、この上なく幸福な瞬間でもあった。オーベルリーンは神について話した。レンツは静かに身をほどき、計り知れない苦悩を顔に浮かべ、最後に訴えた――「でもですよ、ぼくが全能なら、そうです、全能なら、こんな苦難を放ってはおきません、救ってやります、救って――静寂、静寂を与えてやります、幾ばくか、とにかく眠れるだけの静寂を」するとオーベルリーンは諭した。それは世俗的な考えというものです。レンツは絶望的な面持ちで(かぶり)を振った。


 絶えず試みていた自裁は、およそ本気ではなかった。死を望んだわけではない――彼にとって死は、静寂や希望などではなかった――、ただ瞬く間だけ、凄まじいまでの不安の中、おぼろげな、存在への否定とさえ思える静寂を求め、肉体の苦痛で自らを取り戻そうとしていた。瞬く間、諸々の狂念に勝り精神が頭を駆けると、まだ幸福と思うことが出来た。だが錯乱の眼差しはそれほど恐ろしいものではない、少し穏やかでさえあった、救いを渇望する不安や、不確かな永遠の苦悩が襲う時と比べれば! 頭を壁にぶつけるなどし、レンツはしばし、激しい肉体の苦痛を引き起こそうした。


 八日朝、レンツはなかなか寝床から出て来なかった、オーベルリーンが二階へ上がると――彼はひどく興奮し、ほとんど裸のまま横たわっていた。服をかけようとすると、レンツは訴えてきた。何もかも重い、重過ぎます! まったく、歩くどころじゃありません、こんなに空気が重いなんて初めてです。オーベルリーンは何とか励まそうとした。しかし状態は変わらなかった、およそ一日中その調子、食事もほとんど取らない有り様だった。


 夕刻、オーベルリーンは病人に呼ばれ、ベルフォースへ(おもむ)いた。穏やかな月明かりの晩だった。帰り道、彼はレンツと遭遇した。レンツはすっかり正気に見え、穏やかに親しく言葉を交わした。そこでオーベルリーンは、あまり遠出しないよう頼み――レンツはうなずいた。別れ際、レンツは突如振り向くと、近寄りまくし立てた――「お分かりでしょう、先生、あれを聞かないで済むだけで、随分と助かるんですが」――「何のことです、レンツさん?」――「あれが聞こえませんか? あの恐ろしい声が、地平線に響き渡っている、普段静寂と呼ばれる叫びが。この静かな谷に来てからと言うもの、それが全然耳を離れないんです、眠らせてくれないんです――ええ、先生、また眠れるといいんですが!」――そうして(かぶり)を振ると、そのままレンツは去って行った。


 オーベルリーンがワルトバッハに戻り、誰に様子を探らせようか思案していると、レンツが階段を上がり、部屋に入る音が聞こえた。瞬間、ひどく鈍い音が中庭に響いた。とても人が落ちた音とは思えなかった。侍女は蒼白になり、震えながら駆けつけた……(原文中断)


 馬車は谷を背に、西へと向かって行った。冷たく諦めながらレンツは座っていた。どこに向かおうと同じことだった。悪路で幾度となく危険に見舞われたが、静かに座り通していた――あくまで彼は無関心だった。こうして彼は山道を後にした。夕刻、ライン川の峡谷に着いた。山々は次第に遠ざかり、今や濃紺の水晶の様に夕焼空に波打ち、潮の中には夕暮れの赤光が戯れている――辺り一面、山の(ふもと)まで(ほの)かに光り、青みがかった紡ぎ糸が張り巡らされていている様だ。そしてシュトラスブルクに近づくにつれて、次第に暗くなって行く――満月は上天にかかり、遠景はおぼろ、ただ近くの山だけが鋭く綾を成している――月からは金色の波が走り、大地は泡立つ金の(さかずき)のようだ。レンツは静かに外を見つめていた、予感はない、衝動もない――遠景が闇に呑まれるにつれ、ただぼんやりとした不安が膨らんでいった。そうして宿を取ることになった。幾度か自らを手にかけようとしたが、監視が厳しすぎ果たせなかった。翌朝、濁った雨模様の中シュトラスブルクにたどり着いた。今や彼はまったくの正気に見えた、人々とも話しをした。あらゆる物事を、他の人々と同様やってのけた――しかし恐ろしいまでの空虚が彼の胸を支配していた、もはやどんな不安も、願望も感じはしなかった、ただ存在し続けることだけが降ろし得ない重荷だった。そうして彼は生き続けた……   (了)



参照:

『ヴォイツェク ダントンの死 レンツ』(岩波文庫)

『ゲオルク・ビューヒナー全集』(河出書房新社)

青木重孝訳『ゲオルク・ビューヒネル作品全集』(白水社)

プロジェクトグーテンベルク『Lenz』


Georg Buechner "Lenz" 1836'

独日翻訳・祭谷一斗 2006'-08'


   ヤーコプ・ラインホルト・レンツ(1751ー92)


 シュトルム・ウント・ドラング(疾風怒濤期)に活躍した作家。一時はゲーテと並び称されるも、晩年は本作中にもある通り狂気の発作に見舞われ、最期はモスクワの路上に斃死した。ビューヒナーはレンツの作品を愛読しており、また伝手で取り寄せた実際のオーベルリーンの手記も活かされている。代表作は『兵士たち』『家庭教師』など。特にビューヒナーの『ヴォイツェク』に強く影響を与えたとされるが、いずれも未訳。


・文中の「(胸に)迫る」(原語「draeng」(ドラング))は、以上を踏まえて使われている。


・中断箇所に相当するオーベルリーンの手記は、『ゲオルク・ビューヒナー全集』や『ヴォイツェック・ダントンの死・レンツ』で読むことが出来る。


2014年6月11日付記:

長らく翻訳のなかったレンツだが、2013年には佐藤研一氏の手により『家庭教師』と『軍人たち』が翻訳されている。

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