蛇足その四、『良い意味で存続の危機な喫茶店』
「……マズイわね」
「なんかあったの母上」
白さんが働き始めて数日後――店のカウンターで、シリアスに笑う母上がいた。
正直怖いというか、めっちゃ怖いので関わり合いになりたくありません。
でも、放置しておくと後々に禍根を残して、最終的に我が身に降りかかるので逃げることはできないのです。明日頑張るが通じない我が家……コンチクショー。
「いえね、白ちゃんを雇い始めてからの経営状態がね……」
「もしかしてヤバイの!?」
それは白さんを雇い始める時、既に言われていたこと。
――……つまり、賭けに負けて経営状態悪化で喫茶店がやってけなくなったってこと!?
それはマズイ。
あれから彼女は平日の放課後、二時間ぐらい働いてくれている――部活をしてなくて、お小遣いがピンチで、趣味は食べることな彼女には働く事ぐらいしかする事がないらしいのです。友達と遊ぶという選択肢が出てこないあたりは察してあげよう。
そんな彼女ゆえに、いつの間にかウェイトレスとしての誇りを獲得しつつあったりする。
……別にボクのお小遣いとか、母上の趣味がどうとかではなく、白さんを雇ったことで店が潰れたなんて言ったら白さんはきっと気に病む。それは……なんか凄く嫌だ。
「ええ……良い意味でヤバイわ。たった数日で一月分の売上超えちゃってる。ウハウハよ」
「……ウハウハですか。よかったですね」
あくまでシリアスに笑う母上様。
訂正、笑うって言うより『嗤う』と表現すべきでした。ごめんなさい。
「思わず普通の喫茶店はやめてメイド喫茶を始めたくなるぐらいウハウハなのよ」
「それはやめてっ!」
実家が喫茶店はいいけど、実家がメイド喫茶じゃ後ろ指差されちゃうよ!
「冗談よ。こんなのメイド服が珍しい今だけの事でしょうからね」
ホッと一安心。
どうやら母上は冷静なようでした。
「メイド喫茶にするのは、三ヶ月間この売り上げが維持できたらにするわ」
うん。冷静に言ってる分始末が悪い。
……誰か、この人を止めてください。それだけが現在のボクの望みです。