蛇足その二、『好きとか嫌いとか言い出したのは誰ですか?』
「酷い目にあった……」
「……それはこっちのセリフだ」
「あ、会長。おつかれさま」
心底疲れた声をした会長が、心底疲れた顔で教室に帰還していた。
……彼の拳が赤く染まっているような気もするけど、そこからは全力で目を逸らさしていただく。ボクは悪くない。ボクは悪くないんだ――ッ! ゴメンナサイ。
「わかってるよ。春のやりそうなことだよ。まったくあいつは……」
「……あはは。深く愛されてるよね」
「深いっていうより重いよ」
愛は深くなるほど重くなるものらしい。
ボクにはまだ愛とか恋とかよくわからないけど、彼等を見ていると『ボクにはまだ早い』って気分になると言うか、ぶっちゃけ怖いです。
「まあ、太陽にももうすぐ解るさ……嫌でもね」
「……不吉なことを言ってくれますね」
文句をいうボクに薄く笑い、自分の机に向かう会長。背中にめっちゃ哀愁漂ってるよ。
――……でも、なんだかんだ言って、春サンの『おいた』を許しちゃうんだよね、会長は。
クラスメートを刺客としてけしかけられても、会長は春サンを見捨てない。
もちろん、ちゃんと怒るし、注意もするし、喧嘩もする――だけど、春サンとの縁を切ろうとはしない。喧嘩はしても最後はちゃんと仲直りする。超速で。
そして仲直り後、春サンの行動はさらにエスカレートするのである。
……まるで、どこまで会長が許してくれるのか試すように。
――……ホント、歪んでるよ。
春サンが女の子なら解らないでもないけど、彼はどんなに美少女に見えても男である。
友達。親友。心友。彼等の関係の果てが何なのか、普通人なボクには見当もつかない。
ついでに、もう一人のバカも『心は男、身体は女』な心の病……会長の未来はホントに前途多難です。まあ、身体が女の子な分、あのバカとのほうがマシな家庭が築けそうだけど。
「まったく……好きとか嫌いとか言い出したのは誰なんだろうね……」
「ときメ○だからK○NAMI?」
「黙って去って!」
ボクの叫びはチャイムの音と重なり――生徒の大半が不在のまま、午後の授業が始まった。