爆発
思いがげない出費になってしまった。俺が武器を二つ買ったのには理由がある。もちろんゴーレムに持たせるためなのだがその使い方が問題なのだ。
サモンモンスターに装備できるのは武器と防具合わせて一つのみ。とすると持てる武器は一つだけになってしまうのだがこれが問題だ。
もし両手剣を装備させてゴーレムの両手がふさがることになれば確かに一撃の威力は上がるかもしれない。しかし今までのような無手による小石砲やモンスターにモンスターを投げるといった無手ならではの動きができなくなってしまうのだ。
正直な感想としてはガントレットのような両手に装備させることのできるやつがよかったのだが今の時期でそんなことを言ってもしょうがない。だからといって無手のままでは攻撃力に限界が来るしステフリを最小限にしたい俺としてはポイントを振って強化というのもさけたい。
よって武器を持つことにするのが一番いいのだが両手がふさがる可能性があるのはいただけない。よって片手剣も一緒に買った。もし両手剣を片手でゴーレムが使えるというのならばそれでいいし、使えないとなれば片手剣を持たせて空いた手で今までのように動かせばいい。
という理由で剣を二本買った。松明が意外と安くて二本買っても10Gだったがポーション類を揃えたらもう所持金が90Gになった。
「これで夜になっても普通に戦闘ができるな。でもここからだと北まで行くのって面倒なんだよな……」
始まりの街はその名の通り街になっていてNPCが経営するアイテム屋や武器屋が並ぶ商店街は南側にある。しかもそこまで行くのに道を曲がったりするのでまた北まで戻るのは面倒だ。で、一番近いフィールドが
「南のシュラーの森なんだよな。でも今の俺があそこに行っても瞬殺なわけで……」
でも今のうちにどの程度のレベル差があるのか知っておくのも手だよな。と思いそのままシュラーの森に行くことに。浅いところでゴーレムが武器をどんな風に持てるのかを見るだけでもいいしいいだろう。
で、今俺はシュラーの森にいるわけだが北のビギナーフォレストに比べて人がいない。もはや過疎ってるとも言っていい。他のフィールドにだってもうちょっと人がいそうなもんなんだけどな。
忘れずに松明を燃やしておく。一度燃やせばログアウトするか手から放して地面に落ちると消えるので前衛が持つわけにはいかないが俺なら片手が空いているから問題ない。
「サモンゴーレム!」
「ゴ~ゴ~ゴ~」
ゴーレムを呼び出した後護衛をさせる。その間に俺はメニューを開き、サモンモンスターの情報が載ってある項目を選ぶ。装備設定で両手剣を持たせる。
「ゴ~!」
設定を完了させるとそこには右手に両手剣を装備したゴーレムが立っていた。試しに振らせてみると右手で難なく使えるようなので良かったと安堵する反面、片手剣ムダにしたなという思いが混ざり複雑な心境になる。
「とりあえず一番の目的は果たせたな。後はここのモンスターがどの程度かってことだけどできればあまり会いたくはねえな」
さっきまでうっかりかけ忘れていたがゴーレムにステータスサモンをかける。ゴーレムの体に赤色のオーラがかぶさった。
「「「グルルルルル…」」」
なんかいやーな声がしたなーと思ったら後ろに三匹の灰色の毛を持ったグレイウルフがこっちを向いて唸りを上げていた。レベルは三匹とも10。……はいムリです!俺のレベルの二倍だぜ?勝てるわけがねえ。
「しかもオオカミでスピード系とかゴーレムと相性悪すぎるだろ。これがどれぐらい効くかだな」
折角ここまで来たのだ。このままやられっぱなしというのは悔しい。俺は湖で拾った小石を取り出した。ちょうど三発分の山が目の前に出現する。
「撃てー!」
「ゴー!」
ゴーレムが左手に剣を持ちかえ、右腕で小石の山を一発分グレイウルフに投げつける。投げつけられた小石の塊は真っ直ぐにグレイウルフの群れの中心に向かっていった。
「ギャウン!」
二匹は避けたが真ん中で弾道上にいた一匹に当たる。グレイウルフのHPバーが五分の一ほど削れた。
与ダメージが少ない気もするがゴーレムのステータスはレベル1のときのままなのでむしろよくやった方だろう。
「「「グルルルルルルル!!!」」」
怒り心頭の三匹が唸り声を上げながらこちらに向かってくる。速い!ゴブリンやコボルトなんかよりもよっぽど速い!
「くそ、ゴーレム!盾になれ!そしてパラライズトルネード!」
ゴーレムを盾として配置し、俺はその陰で範囲魔法をグレイウルフにぶつける。こんなこともあろうかと準備しておいてよかった。
「グル!」
「ギャン!」
二匹に当たった。残った一匹はギリギリ当たらずに回避したようでそのままこっちに向かってくる。当たった二匹のうち一匹が麻痺したようだがもう一匹はそのまま向かってきた。
「こりゃまずいって。……こうなったら…ゴーレム!残りの小石をあいつらにぶつけてそのままあいつらと戦え!」
「ゴー!」
ゴーレムに戦わせて俺は逃げることを選択。なんか最低なような気もするがゲームだしサモンモンスターの本来の役割の一つでもあるだろうから気にしないでおこう。
「ゴー!ゴー!」
「グルルル!」
「グルアアア!」
俺は後ろに急いで駆け出した。あっちではゴーレムが二匹のグレイウルフ相手に奮戦していた。スピードでは圧倒的にグレイウルフに分があるが、攻撃速度の方はゴーレムが勝っている。VITの高さも相まって各上相手によくやっている。
だがそれでもレベルとレベルからくるステータスには抗えないようで徐々に、しかし目に見えてゴーレムのHPが削られていく。このままじゃすぐに追いつかれそうだ。麻痺した奴まで復活したら目も当てられない。
だが出口はもう少しだ。さっきの戦闘のせいで場所を少し移動したせいか若干遠く、来た道とは違う場所だったが出口は見えている。これならばギリギリ間に合うだろう。
「へっ?な、なんだこりゃあ!」
そう思っていたら急に足元が光だし、魔法陣のようなものが浮かび上がってきた。それを見てあっけにとられているうちに視界がブラックアウトした。
視界が復活するとそこは森の中だった。しかしさっきまで俺がいた場所とはだいぶ違う。さっきまでは出口が近かったのに今はその出口はどこを向いてもなく、周りの木々もさっきまでに比べてオドロオドロしいというか、まるで未知の樹海に生えているような体をようしている。
「あー、こりゃあれか?この森のあるっていう罠にはまったのか?転移系の罠だったのか」
この森にはフィールド上に数種類の罠が仕掛けられている。どうやらこれがその罠の一種のようだ。それで見たこともない場所に飛ばされたらしい。
「それにしてもここはどこだよ。こうなったら死に戻るしかねえのか?でもなんかいやだしなー」
もうちょっと死に戻りの時の状況を何とかしてほしいと思う。ゴブリンに殺されたときなんか痛みこそ少なかったがゴブリンに殺されるってこと自体が恐怖なんだよ。あれ絶対女性プレイヤー泣くだろ。
ま、そんなこと言ってたらVRMMORPG自体が成り立たないかとかどうでもいいことを考えつつこれからのことを考える。折角なんか奥の方にまで来れたんだから少しでも採集をしておくかと考えて、そこら辺の草や木をあさる。ゴーレムを召喚してステータスサモンをかけるのも忘れない。
薬草、毒草、苔、折れた木の枝、小石、各種キノコも採取できた。まだ始まったばっかだしこれだけあればまとまった金になるな。
そういえば【植物鑑定】があったじゃないかと思い、草やキノコを調べてみた。
薬草
体力を回復させる。回復系の薬全般に使用できる基本的なもの
調合例:ポーション
薬草(良)
普通の薬草よりも効果が高い薬草。体力を回復させる。回復系の薬全般に使用できる基本的なもの
調合例:ポーション
毒草
毒を持った野草。食べると毒状態になる。毒薬にして矢じりなどに塗ることで毒性能を付与できる。
調合例:毒薬
苔
ジメジメしたところに生えている。吸収力がありムダな湿気を取ることができ草の効果を上昇させる。
調合例:ポーション
毒キノコ
食べると毒状態になる。成分を抽出することによって解毒ポーションにもなる
調合例:解毒ポーション
痺れキノコ
食べると麻痺状態になる。成分を抽出することによって解麻痺ポーションにもなる
調合例:解麻痺ポーション
笑いキノコ
食べると一定時間HPが減らない代わりにスキルが使えなくなる。薬にして矢じりなどに塗ることで効果を付与できる。
調合例:麻酔薬
といった具合になった。キノコに関していろいろ突っ込みたいところはあるがまあそんな仕様なんだろうと納得しておくことにする。毒キノコの成分を解析して薬を作ろうみたいな試みもあるらしいし。
笑いキノコの効果がまた微妙だ。HPが減らないのは凄いがスキルが使えなくなるという点が足を引っ張っている。スキルがほぼ唯一のダメージソースといっても過言じゃないジョブは多いからな。てか作れるのが麻酔薬って……。
調合例に関してはそこを選択するとさらに細かいものまで載っているが通常は何か一つだけが表示される。まあ、【薬師】が使えないんだから意味ないんだけどな……。
「さて、これでここに来た元は取ったな。あとはどうするかだが……」
「キュルルルルル!」
後ろからイヤーな声が聞こえた。恐る恐る振り返ってみるとそこには動く木があった。
二本の腕とも言える枝を左右からぶら下げ、根が広がっておりそれが動くことによって足のように移動をしている。幹の部分に目と口があり口に歯は無いが目は赤い点が二つギラギラと光っている。
名前を見てみるとフェイスウッド。LV15!さっきのグレイウルフよりも高い!
「フシュルルルルル!」
フェイスウッドが木とは思えないほどの速さでこっちに向かってくる。グレイウルフほどではないがそれでもゴブリンやコボルトよりずっと速い。あっという間に近くにまで来ると右手で殴り掛かってきた。
「うお!ゴーレム、守れ!」
「ゴー!」
ゴーレムに守らせてみたものの受け止めたゴーレムのHPが三分の一減った。こいつ、木だから固いのか。一撃の重さは今まであった奴の中で一番だ。ヤバイと思って俺は距離をとってパラライズトルネードを撃った。ゴーレムも巻き込んでしまったが仕方がない。
「ゴ…ゴ~」
「フシュルルルルル!」
ぐあ、最悪だ。よりによってゴーレムだけ麻痺っちまった。そのスキにフェイスウッドがゴーレムを攻撃し、ゴーレムのHPが0になって消えた。
「ゴーレム!くそ、俺一人でやるしかねえのかよ……」
俺はゲームでかなわない相手と会った場合はとりあえず立ち向かってみるタイプだ。さっきみたいに脱出口がある場合は別だが無い場合は戦う。だが戦いはするが倒そうなんて思ってない。足止めをして逃げることが一番有効な手だ。
「拘束!」
スパークなんかじゃろくなダメージを与えられないと思い、足止め用の【拘束】を発動させる。あれだけ根が地面に広がっているのならタイムラグがあってもかかるはずだ。
「フシュ!?…フシュルルルルル!」
だめか。確かに縛ることに成功したもののスキルレベルが低いせいか二秒ほどしか拘束していられない。MPは残り半分を切っている。パラライズトルネードだとあと二回分というところか。スパークだったらもっと打てるが倒せはしないだろう。
「だったらこっちにかけるぜ。パラライズトルネード!」
スパークよりもパラライズトルネードのほうが麻痺させる確率は高い。だからそれにかけてみたのだが……
「フシュルルルルル!」
だめか。麻痺になる様子もなくパラライズトルネードに攻撃されつつもこっちに向かってくる。距離は5メートルほどでまだ相手の攻撃範囲には入ってないがそれも時間の問題だろう。
「くそ!こっちくんじゃねえ!」
半ばヤケになった俺は持っていた松明をフェイスウッドにむかって投げた。だが狙いが外れて未だ発動中のパラライズトルネードの中心部分に松明は吸い込まれていった。フェイスウッドはもうパラライズトルネードの効果範囲から出てきそうになっている。ここまでか……
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!
「フシャアアアアアアアアアアア!!」
「うおおおおおおおおおお!?」
なぜかいきなり大爆発が起きた。その爆発に巻き込まれて俺も後ろに吹き飛ばされる。ほぼ満タン状態だったHPが半分を下回った。
「な、なんだ!何が起こったんだ!って、HP減ってる!あれ、あいつも!?」
見てみれば俺よりも爆発の側にいたフェイスウッドのHPは今の一撃で半分近くに減っていた。なかば混乱状態の俺をよそにあいつは悶えているのかその場から動かない。
「どうしたってんだよ一体……」
「フシャアアアアアア!」
俺が呆けていると怒りに染まった声を発しながらフェイスウッドが再びこちらに向かってきた。やば、折角のチャンスだったのに。
「なんであんな爆発が起きたのかは知らないがもう一度同じ状況を作ればもしかして……いけるのか?」
とにかく迷っている暇はない。俺はフェイスウッドから少し距離をとってあの爆発が起きても巻き込まれないようにしたのち、松明を取り出し残りのMPをほぼ全て使い切り魔法を唱えた。
「パラライズトルネード!」
「フシュ!」
再びパラライズトルネードをかけたがやつは気にもしていない。とにかく俺に向かおうとしてくるのだが三歩も歩かせないうちにあの竜巻の中心に向かって松明を放り投げる。狙いたがわず中心に松明が吸い込まれる。そして……
ドオオオオオオオオオオオオオオン!!
「フシャアアアアアアアアア!!」
推測通り再び爆発は起き、フェイスウッドのHPをほぼ削りきる。距離をとっていたので俺にダメージはほとんど入っていないがそれでも少しは削られた。まったく、あの爆発どんだけ強いんだよ。
「フシャ…フシュルルル…」
しかしまだ安心はできない。ギリギリだがまだあいつのHPは残っているのだ。俺はアイテムボックスから初心者用MPポーションを取り出し、使用する。ポーションは使うと瞬時に回復するアイテムではなく徐々に回復させるアイテムなのだがそれでも使った瞬間に少しは回復する。スパーク一回分のMPがたまった。
「スパーク!」
松明がないせいで当たるかどうか不安だったがようやく運が向いてきたらしく今回は運よく当たった。フェイスウッドのHPが0になりポリゴンの欠片になってガシャンと音を立てて消えた。
「よっしゃーーーー!やったぜーーー!」
絶対に勝てないと思った格上に対して勝利を収めた俺は浮かれていた。なぜあんな爆発が起こせたのかはわからないがそれでもただ嬉しかった。だからだろうか。背後から迫りくる新しく来たもう一匹の存在に気付けなかった。
「フシュルルルルルルルルル!」
「え?」
浮かれていた俺は晴れて本日二回目の死に戻りを果たした。