初戦闘
「サモンゴーレム!」
俺はサモンモンスターを呼び出すためのワードを言った。AGOではスキルを使うのにスキル名を口に出さなければならず、サモンモンスターを呼び出すにもこうして発声しなければならない。
「ゴ~ゴ~ゴ~」
出てきたゴーレムは180cm程で俺よりも高く、煉瓦を積み重ねて作ったような姿をしている。身体つきはがっしりとしていて線が太い。今は丸太のような太さのでかい両手を上にして力こぶを作るような動きをしている。うむ、なんか頼もしい。だがレベルが低いからか一度召喚しただけでMPの四分の一が削れた。
召喚したモンスターにはある程度命令をすることができるため、俺はゴーレムに戦いを命じた。
「あそこにいるモンスター相手に戦ってこい。前衛として俺を守るんだぞ?」
「ゴ~ゴ~ゴ~」
命令を承諾したらしく灯が戦っている場所にドシン!ドシン!と音を立てながら向かっていく。ステータス通りあまり動きは早くなく、急いでいるつもりなのだろうがそれでも俺が歩く時と同じ速度しか出せていない。
「おー、これがゴーレムかー。こんなに近くで見たことないなー」
灯がモンスターと戦いつつもゴーレムを眺めている。ゴーレムを隣りに携えたまま先ほどまでと変わらない勢いでモンスターを倒し続けている。
「ゴー!」
ゴーレムも戦闘になったからなのだろうかさっきまでの間延びした声ではなくしっかりとした声を出して拳をふるっていく。
ズガン!とゴーレムの拳が勢いよくゴブリンの顔面を強打する。AGIは低いがSTRが高いため攻撃速度はむしろ早いゴーレムが二度目の拳を同じゴブリンに叩き込んだ。それでHPが0になったゴブリンはガシャン!という音を立てて消滅する。
「すごいな。レベル的にはゴブリンの方が上のはずだったんだが二撃で終わるとは」
「βの時でも最初の方はこうやって重宝されていたんだがな…」
なんか嫌なことを聞いた気がするが気にしない。今はゴーレムが十分役に立つ。それだけで十分だ。そう、それでいいんだ。
「それよか俺も戦闘に参加しないとな。スパーク!」
手始めに近くにいたコボルトにスパークをぶつける。威力は低かったがスピードが速く、きっちりとコボルトに命中した。
「ガウ!ガウガウ!」
コボルトが俺をターゲットとして認識したのか俺の方に向かってこようとする。だがその前にゴーレムが今戦っていたゴブリンをコボルトに投げつけた。
投げられたゴブリンはゴーレムの高いSTRのせいでかなりの速度でコボルトにぶつかった。ゴブリンの方はHPが減っていたため今ので消滅した。コボルトの方はまだ少しだけHPが残っていて、より多くのダメージを与えたゴーレムに狙いを改めた。
「まあさせないんだがな。スパーク!」
またもや俺の放ったスパークがコボルトに命中し、HPが0になって消えた。経験値の入り具合は今が一番多い。しかもいつの間にかまたレベルが上がっていた。
「すごいな、まさかモブをぶつけるとは…」
ギルがなぜか驚いたように呟く。そんなに珍しいことだったのか?
「そんなに驚くようなことか?」
「お前な、よく考えてみろ。ほとんどのプレイヤーは武器を装備したジョブについてるんだ。もちろん格闘家みたいなジョブもあるがあまり人気はないし第一そいつらでさえ殴る蹴るの打撃系なんだ。投げ飛ばすなんて例え相手がゴブリンやコボルトだったとしても聞いたこともねえよ」
「まあ確かに珍しそうだな」
「いやそうじゃなくて…モブを投げつけられるってことは掴んだままそいつを振り回したりもできるだろうが。そうすればモブを武器にしてモブを倒すみたいなこともできんだぞ」
「ああ、そういうことか!そりゃあ面白そうだな。よし、ゴーレム!そいつら掴んだまま武器にしてまわりの奴ら蹴散らせ!」
「ゴー!」
命令を聞いたゴーレムが右手にゴブリン、左手にコボルトを掴み二匹を剣のように扱って戦闘を始める。二匹は逃れようとするがゴーレムの高い防御力とHPがそう簡単に削れるはずもなく武器としてなされるがままになっていた。
だが握っていた二匹のHPが低いのでまわりのモンスターに二回ほど攻撃したらすぐに消えてしまった。ゴーレムは俺の命令をきいてまた同じようにモンスターを掴んで殴り掛かるがすぐに消えてしまう。
「んー、やっぱり振り回すモブのHPが低いとあまり役に立たないな」
「だな。でも今俺いいこと思いついたわ」
俺はさっきからしゃがみこんでそこら辺から採取できる『小石』というアイテムを集めまくっていた。今俺の横には高さ十センチくらいの山が六つできている。
「そんなに小石集めてどうする気だ?」
「いや、物を投げつけられるって気づいたらもしかしたらいけるんじゃないかと思ってな。ゴーレム!ちょっと戻ってこい」
戦闘を切り上げ、ゴーレムが俺のところに戻ってくる。結構な数に囲まれながら戦っていたがHPはまだ半分ほど残っていた。やはり壁として優秀だ。俺は初心者用のHPポーションをゴーレムに使ってやる。ゴーレムのHPが残り四分の一を残して回復した。
サモンモンスターにはプレイヤーがアイテムを使ってやることもできる。さらに種類によって制限はかかるが装備品を一つだけ装備させることもできる。今は予備の武器もないが、これが終わったら何か剣でも持たせてやろう。
「ゴーレム、この小石の山を一掴みとってあいつらに投げつけてみろ」
「ゴー!」
「灯、一旦下がれ!」
ゴーレムに指示をだし、灯を呼び戻す。もしかしたら巻き込まれる危険があるかもしれないからだ。今戦っていたコボルトを切り伏せ、灯は俺たちのところに戻ってきた。
「どうしたのお兄ちゃん?折角今調子が戻ってきたところだったのに」
「まあそれはいいから。ちょっとした実験だ」
「ゴー!」
俺のセリフが終わると同時にゴーレムが右手に握った小石を力いっぱいこちらに向かってくるコボルト二匹、ゴブリン三匹に投げつけた。
甲子園のピッチャーさながらの剛速球で投げられた小石の塊は投げられている途中で少し散らばりながらコボルト達の群れにぶつかった。ゴッ!という鈍い音がして小石の塊をまともに喰らったゴブリン一匹とコボルト一匹のHPをたちまち0にする。
「すげー!狙い通りだ!」
「小石ってこんな使い方もあったんですね…」
「ああ、普通はクエストに必要なだけだったり初歩的な打撃系武器の材料になるぐらいなんだけどな…」
「ですよね…。投げるっていう使い方もあるにはありますがあんなに一度に大量に投げられませんし」
「小石の一つ一つに当たり判定があるってのが大きいな。あれだけくらえば一個のダメージが少なくてもかなり削られるぞ。実際一撃で倒せたし」
「普通のプレイヤーだとあれだけ大量に小石を手に持ったまま投げても速度を維持できなくて威力が出ないんですよね」
「ゴーレムがモンスターの類だってことを利用したいい手ではあると思うんだが…普通は小石ぶつけて目に見えるダメージ与えようなんて考えもしないからな…」
なんか横から称賛なんだか呆れなんだかわからない声が聞こえてくるが気にしない。いいだろ別に!いい攻撃方法だと思うぜ、俺は。
残った三匹を俺とゴーレムで倒したところで灯とギルがそろそろギルメンと合流する時間になったということで解散とすることにした。
「助かったぜ。おかげで一気にレベルが4にまで上がった」
「俺も一気に5まで上がったぜ。アカリンは?」
「私も5まで上がりましたね。あと少しで6になりそうです」
「やっぱ前衛組はレベル上がるのが速いな」
「いや、お前より長く戦ってたしな。むしろ俺たちよりも戦ってないのに4まで上がったことがすげえわ」
「そうか?まあ序盤で上がりやすいからこんなもんだろ」
「それよりお兄ちゃん。本当に私たちのどっちかと来る気はないの?今の戦闘を見る限りだとまったく役に立たないって感じじゃないからいいと思うけど…」
「いや、やっぱりソロでやっていく。今は良くても後々どうなるか分からないだろ?」
「そうか、なら頑張れよ。俺たちはもう行くが何かわからないことがあったらメッセージ送ってくれ」
「私も!ギルドに入りたくなったらいつでも呼んでね!」
「ああ、サンキューな。たぶんすぐ頼ることになりそうだけど、そんときゃ頼むわ」
二人はそのままフィールドを戻っていって始まりの街に向かった。俺はというともう少しこの誰もいない狩場を独占すべくここに残り、レベル上げに勤しむことにした。因みにゴーレムは召喚可能時間が過ぎたので消えている。少し休憩にもしたかったので時間延長はしなかった。
「ところでステフリどうすっかな…何が必要になってくるか分からないからできれば使いたくないんだが」
俺はこういうポイントはできるだけ使わずに必要な時になったらその都度使っていく派だ。ましてや俺の場合はこのステフリに今後のことが密接に関わってくる。慎重になるにこしたことはない。
結局いけるところまでステフリはしないという方針を決めた。今は湖の周りで小石を拾っている。湖の周りを何周もして集めていたらいつの間にか小石の数が300近くになっていた。イベントリに入れているから重さは感じないが一気に出現させたらどうなるんだろう…?
「さーてそろそろ狩りを再開するか。今回は他のスキルも使って見ないとな」
パーティープレイだからということでさっきはパラライズトルネードを使えなかったが今なら存分に検証することができる。ゴーレムを呼び出し、近くで俺を守るようにと指示を出す。二匹のゴブリンと遭遇し、ゴーレムの影に隠れながらスキルを発動させる。
「パラライズトルネード!」
出現したのは直径三メートルほどの黄色がかった竜巻だった。二匹を飲み込んだがすぐに風は消え、後に残ったのはほとんどダメージを負っていないゴブリン。だが、右側のゴブリンは膝をついて動かない。どうやら麻痺しているようだ。
「こんなもんか。よし、ゴーレム!あいつらを倒せ!」
「ゴー!」
特に危なげなく二匹のゴブリンを倒した。パラライズトルネードを放ってダメージを負わせたためちょっと多めに経験値が入ってくる。
「あとは拘束だが…ちょっとゴーレム相手に試してみるか。拘束!」
俺はゴーレムに向かって拘束を発動させてみた。すると二秒後くらいに地面からロープが出てきてゴーレムに頭から巻きつき身動きをとれなくする。効果は10秒ほど続いた。
「灯の言う通り発生までの時間差が難しいな…二秒もたったんじゃ相手もその場から動いてるだろうし」
その後俺はしばらくレベル上げをして5になった時点でいったんログアウトした。なんだかんだでもう13時だ。ちょっと昼飯には遅く、灯も腹をすかしているだろう。いそいでメシを作ってやろうと思った。