地雷職2
前回までのあらすじ
これだ!と思ったジョブのダメだしを食らいまくって普段いじられキャラの友人と大人しくて優しい妹の前で正座させられへこみ中。
「ジョブだけじゃない。お前のスキル構成にもかなり物申したい」
「もう…どうとでもなれ」
「じゃあまずは【パラライズトルネード】からね。これはどうして取ったの?」
「いや…サモナーが魔法職のわりにINTがバカみたいに低かったから火力不足を補うためにINTがあまり関係なさそうな状態異常の範囲魔法選んだんだが…」
「その発想はいいな。範囲魔法にして複数を狙えるようにしたのも後々のことを考えれば正しい。ただ選ぶ魔法を間違えたな」
「トルネード系の魔法は確かに効果範囲が広いからまったくの役立たずではないの。でも竜巻だから風で視界が悪くなるし効果範囲が広くて前衛にも当たりやすいからパーティープレイには向かないんだよ」
「しかも麻痺効果があるから下手すれば味方が麻痺ることもある。けどモブはそんなこと気にせず突っ込んでくるから対応が遅れるってことでパーティーには嫌がられるだろうな」
「まじかよ…」
「そして【拘束】。これも使えないわけじゃないけど発動してから効果が出るまでタイムラグがあるから初めの内は使いにくいね」
「【ステータスサモン】もまあ序盤から育てていけば後々役に立つんだろうが…それまでずいぶんかかるぞ。序盤では無いよりマシ程度にしかならんな」
もうだめ…心が…心がヤバイ…
「【スパーク】はまあいいね。ちょっと威力が弱いかもしれないけど意外とこういう魔法って重宝するし」
「むしろ他が微妙なだけになぜか少し輝いて見えるぞ」
そんな微妙な慰めなんていらねえよ…。いいさ、まだ俺には薬師のジョブがある。これでひと山当てて…
「でもね、お兄ちゃん」
「だがな、セス」
なんかまた二人の空気がおかしくなった。雰囲気的にはサモナーだと告げた時と同じような感じがする。これ以上まだ何かあるのかよ…。
「「どうして薬師なんて選んだ(の)!!」」
ええーそれも?それすらも?
「お前らは俺の最後の頼み綱も断ち切るというのか…」
「言っておくけど薬師は地雷職と呼ばれてるわけじゃないよ」
「え、違うのか!よかった、なんだかんだ言っても…」
「正確には地雷職と呼ぶ価値すらないバグジョブだ」
ちくしょー!上げて落とすなよ!一瞬ちょっと期待したろうが!
「ここまで来たら聞いておくが…これのなにがいけないんだ?」
「「全部」」
「全部ってなんだよ一体…」
「まず言っておくとβの時に薬師として活動しているプレイヤーはいなかった。というよりジョブとして機能してなかったんだ」
「どういうことだよ?」
「生産職はまずそのジョブに対応するNPCからチュートリアルクエストを受けて、クリアしてから初めて自分で生産ができるんだけど…」
「どういうわけか薬師に対応するNPCだけがこの『始まりの街』にいなかったんだ。他の生産職のNPCは全員いるのにも関わらず」
「なんだよそりゃ…なんで薬師だけ?」
「わからん。もちろんいわゆる廃人ってやつらが街の中を調べまくったんだ。時間帯を変えてみたり所持スキルを変えてみたりDEXの値を上げてみたりいろんなアイテムを所持してみたり…とにかく街中でできそうなことを全部試したんだ。だが見つからなかった」
「でもとあるフィールドの片隅に小さな小屋があることがわかったの。で、中に入ってみたらそこになんと薬師のNPCがいたんだよね」
「じゃあそれで解決じゃないか」
「でもおかしいの。そのNPC、いくら話しかけても『教えることは何もない』って言っていつまでたってもクエストを始めてくれなかったの」
「はあ?もうそれってバグなんじゃねえの?」
「そう思って運営に問い合わせてみても『それが本来の仕様だ』って返事ばっかりでな。仕方なくこれまたいろいろなことを試したが結局クエストを受けられずにテスト終了になったんだ」
「じゃあ俺の薬師と【植物鑑定】は…」
「はっきり言って役にたたないね。ジョブの方はつけなければいいけど【植物鑑定】はスキル欄を一つムダにしただけだし効果も【鑑定】をとった方が汎用性があっていいし」
絶望した!俺のスキルとジョブの構成に深く絶望した!よかれよかれと思って取ったスキルやジョブがことごとく役立たずだったなんて…。
「落ち込まないでとは言えないね、お兄ちゃん…」
「けど安心しろ。薬師の方はどうにもならんがサモナーの方はお前の場合サモンモンスターだけにポイントをつぎ込んでればMP切れの心配もないし十分やっていけるはずだ」
「そ…そう!そうですよね!それにレベルが上がっていけば召喚できるモンスターも増えるらしいですし戦闘が劇的に不利になるわけじゃないですよね!」
いや…まあそうなんだろうな。自分のステータスに気を配らなくていいから楽なんだけどさ…。でもそれって何体か召喚をしたら魔法につかうMPが切れるんじゃないか?いや、これでもまだかなりマシなんだろうけど。
「そう…だな。よし!これからはサモナーを頑張っていくぜ!それに誰も極めたことがないジョブならなにかすごいことになるかもしれないし!」
そうだ。ここでくよくよしても仕方がない。こうなったら誰もとったことのないこのジョブを極めて一発逆転を狙おう。
「そうだよ!その意気だよお兄ちゃん!」
「だな。それにゲームによってはレベルが終盤になると化けるジョブもあるからもしかしたらいけるかもしれんな」
「そうですよね。じゃあお兄ちゃん、とりあえず三人でレベル上げしよう。まずはそこからだよ」
「だな。灯、ギル。悪いが頼むわ」
「気にすんなって。それに俺たちもレベル1だからレベル上げなんて当たり前のことだぞ」
「そうだよ。じゃあお兄ちゃんは初心者だし北の方に行こうか」
始まりの街の周りには東西南北に四つのフィールドが広がっている。
北はビギナーフォレストといういわゆる初心者用の森のフィールドだ。獣系や虫系のモンスターが出現する。モンスターのレベルは高くなく、まずはここで戦闘に関して学ぶ。
東にはロックデザートという砂漠がある。防御力やHPの高いモンスターが数多く存在しており、そいつらは経験値が少ないがAGIが低いものがほとんどでそいつらを的にスキルを連発することでスキルレベルを上げるのに役立つ。
西は沼地になっておりデロック沼地という名だ。フィールドには毒沼がところどころにあり入ると一定確率で毒状態になる。出てくるモンスターはゾンビやスケルトンなどのアンデット系で、気味が悪いし状態異常にする攻撃を使ってくるため厄介だがもらえる経験値の量は多い。
最後に南だがここも北と同じようにシュラーの森という森のフィールドが広がっていて付近のフィールドのなかで一番難易度が高い。
出てくるモンスターのレベルも四つのフィールドの中で一番高く、複数で襲ってくることも他の三つのフィールドに比べて多い。さらに罠もあるが、レアドロップを落とすモンスターが多かったり戦闘で手に入る金額が高額だったりフィールドでの採取もいいのが集められたりして実入りは一番いい。
で、今から俺たちが行くのは北のビギナーフォレストだ。灯やギルは初心者ではないので今の段階でもシュラーの森の浅い場所なら戦えるらしいが俺がいるため北に行くことにしたという。
フィールドに入るとそこには街中で見たような景色が広がっていた。とにかく人が多い。テスターはここで狩りをする意味はあまりないだろうからここにいるのはほとんどが正式サービスから始めた初心者ということになる。
「かなり多いな。これだけいて狩れるのか?」
「ここはモンスターのポップも早いけどこの人数じゃムリだね…」
「だったらもう少し奥の方に行こうぜ。レベルはここよりも高いが三人いれば余裕のはずだ」
「そうですね。奥の方なら経験値効率もいいですし」
ギルと灯がテスターらしく経験値効率のいい場所に案内してくれる。着いた場所は広くて見晴らしがよく、端の方には湖もある。今までくる途中でも道幅はそれなりにあったため狭くはなかったがここは開放感がある。
「あの湖の水は飲むとHPとMPを回復してくれる。効果は最初に配布される初心者用ポーション並みだが序盤のレベル上げだったらあの水をがぶ飲みすればほぼ休まずに戦い続けられる」
「私たちも最初の時はずいぶんとここで狩りをしたんだよ」
「へー。でもその割には人がいないな」
「もちろん攻略サイトには乗ってるんだろうがここは結構奥地だからな。戦闘に慣れてない今の段階でここに来るやつはいないんだろう。テスターたちは西のアンデットとかを倒してたりするしな」
「なんか悪いな。俺につきあわせて」
「大丈夫だよ。それに私たちもβ時代の仲間たちと後で合流する予定だから今だけしか付き合ってあげられないしね」
「なんなら俺らと一緒に来るか?アカリンと俺は別のギルドだったから三人一緒ってわけにはいかないがどっちのギルメンも皆いい連中だぞ?」
「いや、これ以上おんぶに抱っこってのは嫌だからな。ジョブのこともあるししばらくはソロで活動するわ」
「そっか。なら今のうちにガンガンやっちゃおう!」
「だな」
俺たちは狩りを開始した。
灯はβ時代と同じようにスピードに物を言わせてガンガン攻撃しまくるダメージディーラーで、戦う羽目になったゴブリンやコボルトは次々と体中に切り傷をつけられてはほとんどなにもできないまま倒されてしまった。しかも本人はほとんどダメージを負っていない。
ギルはβ時代では壁役だったがアビリティ以外をβから引き継げず、出てくるモンスターも壁にならなければいけないほどのやつらではないためガンガン攻めたてている。
「なんか二人に任せておけば俺って何もしなくてもレベル上がるんじゃねえか?」
戦闘がどんなものかまずは自分たちを見て理解するようにとのお言葉を受けて遠くから見学していた俺だったがはっきり言って二人の動きのレベルが高すぎてイマイチ参考にできそうにない。これが経験の差か。
パーティを組んでいるため何もしていない俺にもそう多くないが経験値が入ってくる。だが二人がガンガン倒していくためEXPバーがすごい勢いで伸びていく。そろそろレベル2になれそうだ……あ、レベルアップした。
「どうだ?どんなもんかわかったか?」
一時戦闘を止めてHPを回復するために湖の水を飲みに来たギルに尋ねられた。灯一人で大丈夫かと思って見てみると余裕を持って二倍に増えたモンスターをさばいていた。
「お前らの動きのレベルが高すぎてイマイチ参考にならなかったんだがまあどんなもんかってのはわかった。おかげで一度も戦ってないのにレベル上がったぜ」
「そりゃおめでとさん。そろそろお前も戦ってみるか?」
「だな。せいぜい俺が死なないように見ててくれよ」
こうして俺も晴れて初陣を果たすことになった。