新キャラ設定
今回の分が本編です。明日投稿する分はこの話のプロトタイプなのでスルーしていただいても構いません。
「それじゃあ改めて。俺はセス、サモナーの上位職のサモンマスターだ。ちなみにレベルは25だ」
ビップルームのソファに深く座り、柔らかな感触を楽しみながら、まずは互いのことを知ろうと話を振る。
俺が挨拶をすると、皆はかなり驚いた様子だった。そりゃあまあ、皆よりもレベルは高いと思うがそこまで驚くことなのだろうか?
「おおお!すげえっす!俺っち達みたいなジョブの中でここまですごいやつがいるんすか?こいつは誘いに乗ってみて正解だったっす!」
ベオウルフが初めに感心の意を示してくれる。そう思ってくれたのなら幸いだ。
「本当だね。もしできるならこのメンバーで一度フィールドに出てみたいな。もちろん、お互いの欠点とかを受け入れた状態でね」
「そりゃいいな。それにセスがいりゃあレベル上げがはかどるだろ。そんときゃよろしく頼むぜ!」
『そ、そうですね!セスさん、もしフィールドに出る機会があったらよろしくお願いします!』
他の連中もおおむね好意的に捕えてくれたようだ。確かにジャックの言う通り悪いやつはいないようでいろいろと助かるな。
「おう。そんときゃまかしとけ、できる限りのことはするからな。じゃあ、次は誰が言ってくれる?」
「おっしゃ!じゃあ次は俺がやってやるっすよ」
次に名乗りを上げてくれたのはベオウルフだ。こいつノリがいいな。リアルのことはわからんが、どこのグループに入ってもムードメーカーってやつなんじゃないかな。
「俺はベオウルフ。ベオって呼んでほしいっす!ジョブはギャンブラーで、レベルは15っす!」
「ギャンブラーかい。あれは、まだ選んでいる人がいるジョブではあるけど……」
「あーっと、悪いが俺は他のジョブのこと知らないから、できれば説明してもらえると助かる」
ギャンブラーって聞くとどうも良さ気な感じはしないんだが……まあ、聞いてみてからでも遅くはないか。
「ギャンブラーは文字通り、運の要素が関わってくるジョブっす。専用のスキルはほとんどが運に頼ったやつな上、普通の魔法は威力が激低になっちゃうんすよ。
もちろん、運次第で他のどのジョブよりも強力な効果を発揮することもあるんすけど、安定性に欠けるし、下手するとパーティー丸ごと巻き込むなんてこともありうるからあまり人気はないんすよね」
AGOには他のゲームで見られるようなLUKの項目がないから完全にリアルラック依存なジョブか。確かに進んでなりたいとは思わないな。
その分、大当たりした時の威力や効果は凄いんだろうが、それでもベオの言うように安定性には欠ける。
「因みに大当たりするとどうなるんだ?」
「うーん、俺も大当たりとかあまり経験したことないんすけど、前に使った時は……HPがほぼ満タン状態で、レベルが上のモブ3体をそのまま殺したっすね」
「おお!なにそれすげえ!どんなスキルだよ?」
「そのスキルはベーシックルーレットっていう魔法っす。MPを消費してルーレットを回すんすよ。どんな効果が出るかは全く分からないっす。
けど、出てくる項目が一番多いからそれ以外にもいろいろあるっすよ。もちろん出やすい項目ってのもあるっす」
「確か、他にも色々な運要素が絡んだ魔法があったんじゃなかったかい?聞きかじり程度の知識で申し訳ないけど」
タンクトップの彼が話を振ってくれる。ジャックは話を知っているようだから聞き役に回ってるし、人形を持った娘は一人ちょっとだけ距離を取って話を聞いている。他が男ばかりだから警戒するのも無理ないわな。
「そうっすね。他にも、攻撃とか防御とか、いろんなことに特化したギャンブル魔法や、ちょっと変わった魔法もあるっす。運に頼る要素が強い分、専用の魔法が多いんすよ」
「それだけ聞くと、使い勝手は悪いけどなるやつは多いように思うんだけどな」
「うーん、どうも自分の力でどうにもならないっていう点が不人気らしいんすよね。どれだけステータスを上げても出る項目のがよくなることにはつながらないって言うし、専用魔法以外の魔法を使ったらレベルが一桁くらいの威力しか出ないし、近接戦闘なんて目も当てられないっすよ。
あと、なぜだかわからないけどNPCには嫌われるっすね。NPCショップに行ってアイテムを買おうとすると表示される値段が高くなってるし、売却をしようとしても、安く買いたたかれるアイテムがさらに安く買いたたかれて、おまけにいくつかNPCからのクエストは受けられなくなってるっす」
それはゲームとしてはどうなんだ?クエスト受けられないとかただのバグに等しいぞ。
「まあその代り、他のジョブじゃ受けられないようなクエストが受けられるようになってるっぽいんすけど、どれも達成報酬がイマイチだからなおのこと誰もこのジョブになりたがらないんすよね。
当たり目が出るって言ってもそれはかなり運が良ければって話で、他のジョブよりも優秀って言える効果が出るまでに一体どれだけMPを空にすればいいのかっていう次元っすから」
「難儀なものだよね。なにより戦況に応じて魔法を選べないというのが辛い。たった一度攻撃を加えれば勝てるっていう場面で攻撃魔法がでないなんてこともありえなくはないんだから」
「ていうかどうやってそんな効果でそこまでレベルを上げたんだ?」
運に頼り切りなジョブじゃあソロでやっていくには辛いし、あまりパーティーも組めそうにないし、どうやっていたんだ?
「もちろんパーティーは諦めて、基本はソロっす。で、普通にギャンブル魔法使うのと同時に、安定したダメージを与える魔法でちびちびと……」
「そういうところが僕らの辛いところだよね……僕は少しずつダメージを与えるタイプのジョブじゃないから分からないけど、気持ちは分かるよ」
「だよな。俺もチマチマと削るタイプだったから気持ちは分かるぜ」
タンクトップ君とジャックが肯定の意を示す。ジャックは確かに海の上でもチマチマとやっていたらしいしな。でも、タンクトップ君のジョブってなんなんだろうな。一撃必殺だけど威力が強すぎるとか?
「ていうか、なんでそのジョブにしたんだ?あまりやり易いジョブじゃないだろ、それ」
「えーっと……俺はRPGとかのゲームも好きなんすけど、ちょーっとギャンブル癖があって……リアルで小遣いを全額すっちまう、なんてのもザラなんすよ。
で、好きなギャンブルもできて、RPGもできるこのジョブを選んだんすけど、前途は多難だったっす」
「悪いな、こういうやつなんだわ。他のやつのものを盗んで、とかをする類のやつじゃないから安心してくれとしか言えないが、あまり嫌わないでやってくれるか?」
「それはいいが、ベオはリアルでなにやってんだよ。もし学生だったらギャンブルで全額スルとかかなりやばいぞ」
「ダメだダメだと思っても止められない……悲しい性っす」
だめだこいつ、典型的な博打で人生終わらせるタイプの人間だわ。早く何とかしないと。
「まあ、俺の方は大体こんな感じっす。よろしくお願いしまっす!」
「よろしく」
「おう!」
「よろしく頼むよ」
『よ、よろしくお願いします』
俺を含めた四人が返事をする。さて、次は誰だ?
「それじゃあ次は僕がやろうかな」
次に紹介をしてくれるのはタンクトップの人だ。キャラメイクで作ったのであろう、ガチムチというほどではないが、かなり鍛え上げられた身体をしている彼のジョブはなんなのだろうか?
「僕はトミー、レベル18の狂戦士さ。よろしく頼むよ」
「バーサーカーか。見た目通りって感じがするな。どんなジョブなんだ?」
「あれを選んだんすか……よくやるっすね」
『私も……あれはちょっと……。あ!いえ、別にトミーさんが嫌とかではなくてですね……』
「ははは、まあ、僕にもいろいろあってね。こっちでは少し羽を伸ばそうと思ったんだ。でもまさかここまでやり難いジョブだったとは思わなかったよ」
ん?どういうことだ?そんなに使いづらいジョブなのか?
「使いづらいって言うか……恥ずかしい?って感じじゃないっすか?」
「そうだね。でも、慣れれば結構クセになるものだよ」
『その度胸が羨ましいです……』
「なあなあ、どういうジョブなんだよ?」
「そうだね。じゃあ説明させてもらうよ。狂戦士の特徴は『狂化』状態になれることかな。その状態になるとSTRとAGIが二倍になるんだ。武技を使うとその威力も二倍になるんだよ」
なにそれすげえ!……いや、騙されないぞ。ここにいるのは不遇職連中ばかりなんだ。ただでSTRやAGIが二倍になるわけがない。何かもっと裏があるはずだ……
「ここだけ聞くとすごいって思うだろ?でも、狂化状態になると自分で一切の行動がとれなくなるんだ。具体的には、意識だけは自分のままではっきりしているのにアバターが勝手に『ヒャッハー!俺様の前に立つんじゃねえ!み・な・ご・ろ・し確定だぜフウー!』とか、『ヘイヘイヘイ!サノバビッチジャッパーン!』とか意味の分からないことを言ったりしてね。どうもそれがみんな嫌いらしい」
ちょっと想像してみた。自分の意識ははっきりしているのに痛いセリフや意味不明な言葉を大声で叫びまくっている自分……うん、かなり嫌だな。はっきり言って恥ずかしいって言うか、自分だけじゃなく周りにもあまりいたくない感じだ。
いや、だからといってトミーを嫌うわけではないんだが。
「しかも狂化状態になっている間はどんどんHPが減少していくんだ。おまけにアバターの動きが完全に自動化されるから自分で制御することもできない。止めるには相手を全員倒すか、HPが0になるしかないのさ」
「そりゃあご愁傷様。でもさ、それってパーティーのメンバーに回復してもらっておけばいいんじゃね?」
「それができたら苦労しないんだけどね。面倒なことに、狂化状態の行動パターンは自分が所属しているパーティーとそのパーティーが戦っているモブの中で一番攻撃力が高かったり、回復魔法を使っている人に設定されるんだ。
簡単に言うと、味方でも敵とみなしてしまうことがあるんだよ。そうしないためにはパーティーを組まずに一緒に戦えばいいんだけど、わざわざそんなことをするくらいなら最初から組まない方が楽だろう?」
ああ、言われてみればそうだな。経験値は一緒にパーティーを組んでいさえすれば戦っていなくとも少量は入るが、組んでいないとそれすら入らない。
パーティーを組まずにただ回復や補助をしても経験値が入るのはバーサーカーだけ。時々や、気が向いたときだけなら手伝ってもいいかもしれないが、そんなことをするくらいなら自分たちで狩りをしていた方が簡単だし楽だろう。
「完全に短期決戦用のジョブさ。戦いが長引くと自分で自分のHPを0にして自滅するうえに、パーティーからの支援はろくに受け付けない。
ただひたすら一番優先順位が高い相手に向かって突進していって勝手に攻撃をし続けるっていう、団体行動に向かないジョブだね」
「でも、このメンツだったらきっと大丈夫っすよ!そうっすよね、みんな?」
ベオが励ますようにトミーと俺たちに向かって声をかける。そりゃそうだ。ここにいる連中はみんなそれぞれ欠点があるからこそ集まっているんだからな。
欠点を補いあったり、どうすればマトモに狩りができるのかを話し合ったりするのに来ているのだからそのくらい当然だ。
「そうだぜ?ここにはそういうやつらばっかりなんだから気にすんなよ」
『そうですよ。こう言ったら失礼かもしれませんが、皆似たり寄ったりですよ』
「そうだな。トミーには前衛を期待しているよ。それにその欠点を少しは緩和できるだろう方法もちらっと浮かんだし」
サモンモンスターとかだったら、パーティーを組むことはできないが支援はできるのだから俺があらかじめ指示しておけばちゃんとトミーをサポートしつつ、ターゲットを取るなんてことにはならないだろう。ビーストテイマーとかもできるのかもしれないけど、その辺どうなんだろうな?
「本当かい!?正直言って迷惑をかけるかもしれないと気にしていたんだ。もしそんな方法があるんだったら後で教えてくれないか?」
「おう。狩りに行ったときにでも確かめがてら説明しておく」
「ありがたい。助かるよ。っと、大体僕もこんなところかな?皆、よろしく頼むね」
「はいよ」
「おう」
「うっす!」
『よろしくお願いします』
さて、これで残るのはジャックとあの娘だけだが、皆は全員ジャックの知り合いである以上皆はジャックのことは知っている。となると……
『あ、最後は私ですね』
「そうだな。じゃあ最後は頼む」
最後はやっぱりあの娘だ。こんなときでも自分で喋ろうとしないところを見ると、ミイみたいになにかのRPなのか?
『私の名前はイザヨイです。初めに言っておきますけど、私はその……VR障害があるんです』
VR障害……VR機器と相性が悪くて話すことができなかったり、物を触った感触がしなかったり、遠近感や視界がまともに機能しなかったりする身体とVR機器の接続不全のことか。
こうやってログインしている以上は視界とか聴覚とかの致命的欠陥があるわけじゃなさそうだが……
『私はこの世界では話すことができません。ですからこうやって人形に喋らせているんです』
なるほど、口がきけない障害だったのか。でもそれって結構つらいものがあるな。AGOではスキルの発動はほとんど口で行う。魔法なんかほとんどそうだ。
武技だと発音はしなくても発動できるものがあると前に灯たちから聞いたこともあるが、それだって数が少ないうえに初期のスキル選択からでは選べないものだったはずだ。
『私のジョブはパペッターで、レベルは17です。ゲームを始める前の段階で喋れないということが分かっていたので自分の口以外でも喋れるパペッターを選択しました。さすがにMMOで話せないというのは辛いし、どうしてもこのゲームをやってみたかったので……』
ふーん、パペッターって言うからには人形を使うんだろうな。ということは腹話術というか、人形に喋らせる機能でもパペッターには備わってたのか?
「あれ?でもパペッターってそんな不遇職でもなかったっすよね?どっちかっていうと優秀な部類だった気がするんすけど?」
「え、まじで?」
ジャック以外の皆がイザヨイを見て、次にジャックを見る。ここにいるのは不遇職の連中ばかりだと思っていたが……?
「あー、まあお前たちの言いたいことは分かる。でもよ、ジョブは確かにいいのかもしれねえが、話を聞いているとここにいてもいいんじゃねえかって思うだろうぜ」
『すいません、ジャックさん……』
イザヨイが申し訳なさそうにジャックに謝る。確かに話を聞いてみないことには始まらないか。
「悪いな、できれば続けてくれ」
「そうだね。変に勘ぐってしまってすまなかったよ」
「ごめんっす」
『い、いえ!こちらこそすいません……たぶん私は役に立ちそうにありませんから。ジョブじゃなくて私がダメなんです……』
落ち込んでしまった。別にそんなことはないと思うんだが……。ここで落ち込まれてもしょうがないし、話してもらいたいんだがな。
「ほらほら落ち込むなよ。役に立たないってんならここにいる連中のほとんどがそうなんだからさ。とりあえず話してみてくれよ」
「そうだよ。僕なんか何のためのジョブか分からないんだからさ。それに比べればなんてことないよ」
「そうっすよ。俺も中途半端なジョブなんすから。ここにいる人は全員理解があるっすよ」
「まったくだ。俺なんか金ダライの上で戦ってるぜ?それに比べりゃなんてことねえよ」
ジャック……言っておくが周りの連中が全員「え?何言ってんの、この人?」みたいな感じになってるぞ。あれは実際見てからでないとわからんからな。
『……ありがとうございます。では、話させて頂きます。ご存知かもしれませんが、パペッターは一度に複数の魔法を撃つことができます。自分の口と、両手に装備した人形の両方の口で発動することでそれを可能にするんです』
ていうことは三種類の魔法を一度に撃つことができるのか。いいじゃないか。なるほど、確かに不遇職じゃないっぽいな。
VR障害の性で口の分の魔法の発動はできないがそれでも一度に二つの魔法を撃つことができるのはいいと思うんだがな。
『でも、人形で撃った方の魔法の威力はだいぶ低いです。普通に魔法を使った時の威力の半分ほどになってしまいます。それでいて消費するMPは変わりません』
「ということは両方の人形の攻撃を当てて、やっと口で使った魔法の一発分の威力ってことか?」
『はい、そういうことになります。拘束系の魔法とかも、効果範囲が狭くなってたり効果時間が短くなってたりしますね』
うーん、でもやっぱり優秀な気もするな。威力は低いけど複数の魔法を同時に使えるし、両方の攻撃を当てれば普通の魔法職と同じだしな。
最初からこの条件だったら他の魔法職に就いた方がいいとは思うが、VR障害があってこれはまだましなほうだろう。
『あと、声量がこれ以上だせないので戦闘中に連携が取りづらいというのもあります。以前組んだパーティーでもそれが原因でちょっと……』
戦闘中はどうしても叫ばなきゃいけない場面ってのもあるっちゃあるからな。でもそれは……
「それはそいつらがバカだったんだろ。言い方は悪いかもしれないけど、イザヨイを他のパペッターと同じように考えたからってことだろ?」
そいつらが見る目が無かっただけだと思う。たぶん、普通のパペッターと同じように接して、連携が取りづらいし魔法の威力も数も他のパペッターよりも弱いから追い出したんだろうけど……それならそれで他の方法を考えてやればよかったし、そういうやつとして接してやればよかったんだ。
『あ、ありがとうございます……そう言って頂けるだけで嬉しいです。
……話を続けさせてもらいますね。そういうことがあったので、それからはパーティーは組まないようにしてソロでプレイしてました。
こんな感じにアサシンみたいな装備をして、モンスターからのタゲを取らないように立ち回って奇襲みたいに遠距離からじわじわと……っていう感じでやってました』
少しだけ顔を赤らめたように見えたが気のせいか?まあ、アサシンっぽい格好という表現にもれずに口には覆面をしているからほとんど見えなかったけど。
何はともあれ、少しは緊張がほぐれたみたいでよかった。
「普通に強いな。それならいくらでもやり方はあるだろ」
「ホントっすね。そのパーティーとかホントに見る目無さすぎっすよ」
「うん。プレイスタイルは必ずしも同じでなければならないっていうことはないからね。もし僕たちでパーティーを組むとしたらアサシン役で活躍してくれそうだよ」
「そうだろ?だから俺も何度も言ってやったんだ。気にすることはねえってな」
ジャックが少しだけドヤ顔になりながら俺たちを見る。それでいてチラチラとイザヨイを見るのも、本人は隠しているのかもしれないが俺たちから見ればバレバレだ。
海賊みたいな面に恥じない女好きなのか?こいつは。
「ジャック……なんか犯罪臭いぞ、お前」
「おおい!そりゃどういうこった!」
「あ、動揺してるね」
「アバターの姿だけ見てると犯罪っすよ」
「ベオ、てめこの野郎!」
「海賊面の人相の悪い男が美少女に視線を向ける……犯罪だな。リアルでもAGO内でも犯罪だ。今すぐGMコールするか。たぶん強制退場処分になるだろう。さようなら、ジャック。お前のことを忘れて俺たちは先に進むよ。過去を振り返っても仕方ないからな」
「セスぅ!そりゃねえんじゃねえか!?ていうか言葉が辛辣すぎるだろ!お前そんな子だったのか!?」
「あ、いなくなる前にお前に買ってやった水槽代と金ダライ代、しめて5000Gは利子付けて返せよ?因みに、最終的にはお前の全財産が俺の元に転がり込んでくるような額の利子をつけてるからそこんとこよろしく」
「セスくーーーーーん!やっぱりお前、金請求するつもりだったのか!くれたんじゃなかったのかよ!?」
何を言う。あれは俺が実験したいがために買って、それを善意でお前にレンタルしてやっているだけだというのに。
善意のレンタルだからいつ金を取るようになっても俺は責められないと思うんだ。
「騙された!?新手の詐欺だったのか、あれは!?」
「詐欺じゃない。お前に渡す時に『これはお前が持っておけ』とは言ったがくれてやるとは一言も言っていない。勝手に勘違いしたお前が悪い」
「詐欺師の理論っすねえ」
「ジャック、これも授業料だと思ってあきらめるしかないよ。いい経験になったんじゃないかな?」
『ふふ、ジャックさん、大変ですね』
「味方がいねえ!?トミーやイザヨイまでそっち側なのかよ!プリーズ!味方という名のバフをくれ!」
「全員MP切れだ。支援がない状態で一人で敵陣営に突っ込め。そしてMPが回復してもお前にやる支援はない」
はっはっは!と、俺たちの間に笑いが満ちる。うん、一番硬い表情だったイザヨイもだいぶ慣れてきたようだな。表情が柔らかくなっている。
「うっし!じゃあこのメンツでフィールドに行くか!狩りの始まりだ!」
「「「おう!(っす!)」」」
『はい!』
こうして俺たちはビップルームを後にした。なんというか、不遇職というよりも不人気や欠陥ジョブが集まっただけなような気もするが、とにかく狩りの始まりだ!