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新薬

どうも、お久しぶりです。今回はちょっと退屈気味になるかも……でも、ここは避けて通れないんですよね、一応の区切りとして。

 次の日の朝、俺は灯と朝食を食べながら話をしていた。話題はもちろんイベントについてだ。



「えー!お兄ちゃん一緒にやらないの!?」


「悪いな。もう他のやつらと約束しちまってたんだ」



 さっきまで、灯から自分たちと一緒に参加しないかと誘われていたが、断った。灯はあのメッセージを見てからすぐにログアウトし、自分の部屋のパソコンで公式サイトにアクセスしてイベントの詳細を確認したらしい。

 本来ならパーティーは四人までと決まっているのだが、公式サイトの通達によると、イベントの時だけはパーティーの制限が緩和されて六人まで大丈夫なのだそうだ。



「で、ヴァルキリーを救えって、要は防衛戦か」


「そう。設定だと、ヴァルキリーの力を手に入れようと目論んだモンスターの軍団からヴァルキリーを守れって感じだったかな。

 ヴァルキリーは半人半神で、曲がりなりにも神の力の一部を持っているからそれを手に入れようとしたってことらしいよ」



 神の力を得てどうしようってんだか。ていうかいくらヴァルキリーとはいえ、軍団で襲い掛かっていくとかかなりかっこ悪いんだが。



「モンスターの軍団って、誰か率いている奴がいるのか?」


「うん。デモニックタイタンっていう巨人なの。巨人系のモンスターらしく力が強くて頑丈なうえに魔法も使えるんだって」



 なにその理想的なスペック。ゴーレムとリッチが合わさった性能とかやってられねえわ。



「でも、あんまり詳しいことは書かれてなかったんだよ。大体の概略とかシステムの変更点とかは書いてあったけど細々とした設定とかはその時にならないとわからないみたい」


「あと三日だからなあ。せいぜいレベル上げに精を出すか」



 まあ、それ以前に薬師でポーションとかしこたま作らないといけないんだけどな。ジャックたちと一緒にやることになった場合、かなりの量が必要になるよな。

 となると一日かかって材料集めるなんて展開になりそうだ。イベント前にポーション作るだけってのも不安だな。



「ねえ、お兄ちゃん本当に私たちと一緒にやらない?言っちゃなんだけど、不遇職の人たちと一緒にやるってかなり難しいよ?」


「分かってるよ。でももう約束もしちゃったし、他のプレイヤーとも交流を持っときたいしな。自慢じゃないが、生産職以外ではお前ら四人以外に知り合ったやつなんて誰一人としていない」


「なんでMMOなのにオフラインゲームみたいなことしてるのかなあ……。分かったよ。これ以上は止めないよ。でも、組みたくなったらいつでも呼んでね?」


「ありがとよ。無いと思うけどその時はよろしく頼むぜ」


「うん。それにお兄ちゃんがいれば一つのパーティーで最大九人分の戦力が揃うからホントに歓迎するよ」



 そうか、サモナーやビーストテイマーなんかがいるパーティーだとそういう利点もあるのか。経験値は召喚したプレイヤーにしか入らないけど、パーティーの上限以上の戦力を揃えられるから結果的に効率は上がるってわけだな。



 それから家のことをいろいろやってから9時45分にログインする。灯は灯なりに手伝おうとしたのか、皿を運ぶくらいはやってくれた。

 正直ヒヤヒヤものだったが、奇跡的に一枚も皿を割らずに済んだのは大きな進歩と言えよう。本人いわく、「これだけでボス戦と同じくらい疲れた」とのこと。



「まずは薬師のクエストを完了させなきゃな。最低限今やっている奴だけでもクリアしとかないと」



 イベントとなるとポーションの類はいくらあっても足りない。今のうちに作れる種類を増やしておかないとあとあと困ることになるからな。

 きっと他の連中は店売りのやつやフィールドで採集できるもので回復するのだろうが、俺は安定して手に入るからアドバンテージになりうる。



 というわけで残りの材料である火の実と滋養草を採りに東の砂漠へと向かう。砂漠はイメージ通りの砂漠で、ギラギラと太陽が照りつけ、足場が砂場だった。

 遮るものがないせいか、周りを見渡すとあちこちにモンスターの姿が見え、ところどころに緑色の地点があるのも分かる。オアシスというやつなのだろうか?



 何はともあれ俺が用があるのは恐らくオアシスの方だ。きっとそこに二つのアイテムがあるに違いない。



「あ、あったあった。滋養草だ」



 手近にあったオアシスに向かい滋養草を発見した。オアシスは一定の大きさのフィールドの中に小さな湖、いくつかの背の高い木々、湖の周りに生えている草などで構成されたフィールドだった。

 オアシスの中にモンスターはポップしないものの、外から引っ張ってくると普通に中に入ってこれることが分かった。



 物は試しにと手近にいたロックタートルといういかにもなモンスターに攻撃を仕掛けて実験してみて分かったことだ。

 そして、俺だけではすぐには倒せないものの、サモンモンスターを召喚してやればすぐに倒せることもわかった。



「それにしてもここのフィールドは長時間戦うには辛いな。なんだよ、日射ダメージって」



 砂漠には日射ダメージという地形ダメージがあった。体温を下げるアイテムをあらかじめ使用しておくなどしておかないと、何もしていなくてもダメージを受ける。

 さらに、対策をしていない状態で長時間オアシス以外のフィールドにいるとステータス:火傷になってしまう。



 火傷は毒なんかと同じように一定時間ごとにダメージを受けるバッドステータスだが、大きく違うのは時間経過で状態異常が回復しないということだ。

 毒や麻痺など、大抵のバッドステータスは長さの差はあれど、一定時間がたてば勝手に回復するものが多いが、火傷は回復アイテムや魔法を使わないとずっとそのままダメージを受けるという面倒くさい仕様だ。



 因みに俺は、もしかしたらと思ってウンディーネにウォーターベールをかけてもらったらステータス以上にならずに済んだ。意外と便利だな、ウォーターベール。



「んーそれにしても火の実っていったいどこにあるんだ?オアシスにはなかったし……」



 滋養草やその他の素材アイテムは見つかれど、火の実がまったくない。ドロップでもないし、おかしいな。



「ん?こんなところにプレイヤー?」



 俺が途方に暮れていると、ちょっと先の方に一人のプレイヤーがいた。ちょっと姿は分からないけど、剣を一本右手に持った状態のままオブジェクトのサボテンの前に立っていた。

 そしておもむろに剣を振り上げ、何度かサボテンに向かって剣をふるう。するとサボテンがはじけた。そのプレイヤーは屈んで何かを拾い上げると、そのまま去って行った。



「なにやってたんだ、あの人?」



 俺も気になってサボテンの前に立ち、久しく使っていなかった片手剣を持ってサボテンに切りかかる。武器の性能が低いからなのかSTRの値があまり高くないからなのか、さっきのプレイヤーがサボテンを壊した時よりも時間がかかったが、直にサボテンがはじけ、その下に何かが落ちていた。



「お!これこれ!そっか、火の実ってこういうオブジェクトから採るものだったのか」



 見つけたのは俺が欲しがっていた火の実だ。どうやらサボテンを壊すと手に入るものだったらしい。こうなると他のオブジェクトはどうなるのかと思うが、時間も限られてるし、これで一先ずクエストクリアとするために婆さんの家に向かう。





「ほう、ちゃんと揃えてきたようだね。やるじゃないか」


「そりゃどうも。さっさと作り方なりなんなり教えてくれよ」


「まあ待ちな。最近の若者はせっかちなんだから。かなわないね、まったく」



 そう言いながら婆さんはどこからか本を二冊取り出し、俺に渡してきた。表紙には「肉体強化の調合書:その一」「属性強化の調合書:その一」と書かれていた。

 一というからにはそれ以上があるのか?最大でいくつくらいまであるんだろうな。



「そいつらを一通り読みな。アンタの力量なら一度読めばすぐに作り方を理解できるはずだよ」


「おう、サンキューな」


「口の減らないジャリだね。どら、一つ試しに作ってやろう」



 これまたどこからか取り出した調合器具と、俺が持ってきた素材を使って作業をし始める婆さん。まずは、折れた骨を煮詰めていく。って、骨って出し汁のためかよ!

 次に肉と滋養草をそれぞれ粉末にし、出し汁の中に放り込んでいく。これで完成したようだ。

 もう一つのクエストの薬はもっとシンプルだった。火の実とマジックリーフを粉末にし、魔力を帯びた水に混ぜる。これだけで完成した。 



「できたよ。ほら、手にとって見てみな」



スタミナポーション:レベル1

 飲むと一定時間VITの値を1増加させる


ファイアポーション:レベル1

 飲むと一定時間火系統の攻撃の威力を小上昇させる。



 へえ、新しい薬にはレベルがあるのか。作っていくうちにレベルの高い物が作れるようになるのか、それともまた同系統のクエストを受けてレベルの高い物を作れるようになるのかは要研究だな。これもどこまでが限界なんだろうか?



 スタミナポーションはHP自体に影響を与えるのではなくてステータスそのものに影響を与えるのか。今のレベルだとあまり大きなステータス上昇の効果はないかもしれないけど、上昇値が5くらいになれば相当強力だぞ。下手にHPとかを上昇させるよりもよほど役に立つだろう。



 ファイアポーション……かなり高く売れること間違いないな。なんて言ったって火系統の攻撃力の上昇ってとこがミソだ。

 火系統のスキルだけでなく、火属性の判定がつく攻撃も強化されるというのだ。

 例えば、俺は持っていないし他の誰かが持っているのかも分からないが、攻撃に火属性の判定がつく剣があったとすると、その火属性の威力が上がるというわけだ。



 総合するとかなり強力な薬を作れるようになったな。これからいろいろ試してみないと分からないが、作る工程を変えるだけでかなりできるものが変わる気がする。これはやりがいがありそうだ。



「これらはあんたにやるよ。それと、今回はいい経験になっただろう?やっぱり素材集めから自分でやるってのは何物にも代えがたい経験だからね。

 ま、いきなり全部自分でやれっていってもムリだろうからいくらか金を渡してやるよ。これを元手に頑張るんだね」



『クエスト経験値が入りました。クエスト報酬として「肉体強化の調合書:その一」「属性強化の調合書:その一」と、10000Gを手に入れました』


『クエスト経験値が入ったことにより薬師のレベルが3に上昇しました。今まで扱えなかった素材が扱えるようになります』



 おお!一気にいろいろできるようになったぞ!それにこれだけで一気に10000Gも手に入るとはな。最近予想外の出費もあったから助かる。

 それにこれで恐らくモンスターの肉も扱えるようになっただろうな。これでますます作れる薬の幅が広がったわけだ。



「まだアンタに修行つけてやりたいところだけど、今日は疲れているだろうからこの辺で勘弁してやるよ。準備ができたらまた着な」


『クエストが終了しました』



 よしよし、これで一段落だな。時間は11時か。一旦ログアウトして早めに飯食ってからジャックたちと合流するとしよう。



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