その姿は……
皆さんお久しぶりです。今書いているところがどうしても時間がかかって大変なので、書くのも遅くなりがちですがご了承ください。
あと、今更だと思いますがこれからも投稿する時には昼の12時にする予定です。
俺たちは今、西の沼地から戻って始まりの街に来ている。なぜだか始まりの街がザワついていた。どうしたんだ?
「ああ、こりゃあもしかして南の森が攻略されたか」
「え、あそこってもう攻略されたのか?」
「ああ、今日には南の森のボスを討伐するって話がでてたからな。皆して次の街に行く準備でもしてるんだろうさ」
なんだ、ようやく攻略されたのか。俺なんかしばらくの間ずっと狩場を独占してたぜ。
「でもその先の情報はとっくに流れてたんだろ?」
「さすがに知ってるか。まあ、四天使が流してたらそりゃあ知ってるか」
「四天使?」
まさかとは思うが……灯たちのことか?
「なんだ、セスは知らねえのかよ。顔にほとんど違和感がないから、もとがかなりいいって想像はつく。それでいてどの娘も優しいし強い。プレイヤーの間じゃかなり人気なんだぜ?」
知らんかった。リサやエミリアはともかく戦闘狂の灯や中二病のミイまで人気とはな。あいつらと知り合いって言ったらファンに追い掛け回されそうだ。
「まあそんなことはどうでもいいか。とにかくNPCショップに行こうぜ」
「おいおい、ドロップ換金するんじゃなかったのかよ」
「それは後だ。それよりも俺の実験結果が気になる」
はっきり言ってこの予想が正しいのかはわからない。けど、一応試してみる価値はある。それから俺たちはエレガティスに向かう他の生産プレイヤーがいそいそと店じまいをする横を突っ切って、NPCショップとモンスターギルドに向かった。
その二か所でそれぞれあるものを買う。実験につき合せた挙句、失敗して金がパーになりましたとか申し訳ないので、代金は俺が払う。
先輩が後輩の分をおごったような感覚だな。そこでちょっと確かめて、成功すると、驚いて唖然としているジャックを引っ張り、再び西の沼地に行く。
「うおおおおおおおお!いける!いけるぞ!ははははは!かかってこいや、雑魚共おおおおおお!」
テンションがメチャクチャ上がっているジャックに若干ひきつつも、俺はさらに追加のスケルトンを引っ張ってくる。それでもジャックは、ほとんど一撃必殺の威力を発揮する水属性の魔法で遠距離から撃ち倒す。
近くに来たやつも右手に持ったカットラスで一刀の元に切り伏せる。さっきとは雲泥の差だ。さっきはスケルトン一体でようやく余裕が持てるという感じだったが、今は十数体のスケルトンを圧倒している。
そう、今のジャックは水の上に立ち、船長というジョブの本来の力を発揮している。レベル17のステータスに加え、ジョブの強化補正、さらに水属性魔法の威力上昇という効果も発揮しているのだ。これで初期フィールドのモンスターに負けろというのが難しいだろう。
ただ若干、いや、下手をすると貸しボートより動ける範囲が狭くなっているのはしょうがないと言えばしょうがないかもしれない。
なぜならジャックは今、大きいサイズとはいえ金ダライの上で戦っているのだから。
俺がこのことに気付いたのはジャックとの会話でだった。フロートの上に乗って、船の真似事をしたというところからヒントを得た。
そして船長のジョブ欄に書いてあった説明もこの考えを裏付けるのに一役買った。
船長
水場でのどのような困難にも立ち向かい、どんな海の怪物にも力強く向かっていく。水上での頼れるリーダーであり、水の加護を得ている。
分かるだろうか。この説明には、水の上で力を発揮するという意味の文章は書いてあっても、船の上でとは一言も書いていないのだ。
正直最初はこんなこじつけ甚だしい考えが本当に上手くいくのか?と懸念が尽きなかったが、ゲームとしての仕様なのか、できてしまった。現実ではこんなこと絶対にムリなのに。
まず俺がモンスターギルドで買ったのは水を大量に入れるための大型の容器だった。モンスターギルドではモンスターに関することのサポートをするというだけあって、サポート用の商品も売っていたのだ。
ギルドのショップのなかで俺が選んだのは、水棲モンスター用の水槽だ。形状としては、一昔前の銭湯に出てくる、木でできた円柱状のあのタライと同じものだ。
因みに水槽は、もともとサモナーやビーストテイマーが、水の中でしか活動できないモンスターをその中に入れて陸上でも活動させるために使う道具だったりする。
大きさとしては直径が3メートルはあった。それでいていくつかタイプがあって、これは一番底が浅いやつだ。
で、次にNPCショップに向かい、水槽ほどではないが大きな容器を探す。すると金ダライ(特大)が置いてあり、これは子供用プールよりも少し大きいかな?くらいの大きさがある。直径が3メートルは無いので、水槽の中に入れても余裕で入った。
一応この金ダライ、投擲スキルで使う投げるものにカテゴリーされており、ぶつかると軽い混乱状態を相手に付与するというアイテムなのだが、武器扱いではないという大変おかしな立ち位置にあるアイテムだったりする。
そしてジャックが言った言葉を覚えているだろうか?そう、海に投げ出されたアイテムは沈まないのだ。
海だけの仕様だったらどうしようかと思ったが、試してみたところ、水槽に水を入れ、その上に金ダライを置き、まず中に誰も乗らない状態で金ダライを沈めようとした。すると、金ダライは普通に沈んだ。 だが、中に人を乗せた状態で沈めようとしたら、沈まなかった。
恐らくだがこのゲームでの沈む、沈まないの仕様は水の上にあるアイテムの上に何かが乗っているか否かなのだろう。
現実だったら満足に浮力が働かないだろう水の量でも、人が容器や船の上に乗っていさえすれば沈まないという設定になっているのがプラスに働いたようだ。
まあ、船だとこの仕様も少しは変わってくるんだろうが。
まあ何はともあれ、陸上でも船長としての能力を発揮できると言うことが分かったので万々歳だ。
ただ、水槽の上に金ダライを置き、金ダライの上で狂喜乱舞しながら戦っているジャックの姿は……なかなかにシュールだった。
これからはあの金ダライを「金ダライ号」、ジャックのあだ名を「金ダライ号船長」とすることを秘かに胸の中で決めた。
あ、ちなみに水は攻撃魔法用のスキルを水槽に入れるように撃てば自然と溜まった。普通なら撃ったらすぐに消えてしまうのだが、どうやら水槽のアイテムは別だったようだ。
「よう、どうだよ調子は?」
とりあえずスケルトンの群れがはけたところで声をかける。するとジャックはものすごくすがすがしい顔でこちらを振り向いた。
どうでもいいが、海賊面ですがすがしい顔とかするなよ気持ち悪い。
「おお!心の友よ!いいぜぇ!すっごくいいぜえええ!こんだけすがすがしいのはAGOやってから初めてだ!」
誰が心の友か!フレンド登録くらいならしてもいいが心の友にはなってやる気はないな。ていうか心の友って大体ぱしられてるじゃねえか。
「別に心の友になってやる気はないがフレンド登録くらいならしてもいいぞ。ほれ」
俺の方からフレンド登録の申請を送ってやる。あっちにも申請のメッセージが届いたはずだ。
「お、サンキューな。にしても俺のフレンドにはことごとく不遇職しかいないな。数こそ少ないけど」
「他にも不遇職の連中がいるのか!?」
意外だ。こんな不遇職になるやつなんて俺らくらいしかいないと思ってたのに。ていうか不遇職の知り合いしかいないこいつのフレンド欄って一体……。
「そりゃあいるさ。俺みたいに名前だけ見てさっさと決めちまったやつや、自分ならできるだろうって思ってわざとそのジョブ選んだやつもいるし、数は少ないけどいることは確かだぜ」
「知らんかった……俺、ほとんど他のプレイヤーと関わったことがなかったから……」
こんなことだったら早目に接触しておくべきだった。そしたらもっと堂々とパーティー組んだりとかしたかもしれないのに……。
「まあ、お前みたいに強くなって成功している奴なんてほとんどいないんだから、お前はどっちかっていうと俺らとは違うかもしれんけどな」
「悲しいこと言うなよ。俺だって不遇職さ……上位職になってなかったら今頃どうなってたことか……」
間違いなく、グレイウルフリーダーに一撃死させられて南の森から先に絶対に進めなかっただろうな。薬師にもなれなかっただろうし。
「そんなもんか?ならいっそ、一回不遇職の連中で集まってみるってのもいいかもな」
「ああ……確かに良さ気かもな。そのままパーティー組んでどっかにいくってのもいいかもしれん」
なんだろう、怖いもの見たさというか、他の連中はどうプレイしているのかがすごく気になる。あー、でもパーティーに向かない不遇職もいるからどうなんだろうな。
「ん?」
「あ?」
そんなことを言っているうちに俺のところにシステムメッセージが届いた。どうやらジャックにも届いたらしい。運営からか?
『皆様、Ability Grow Online をお楽しみ頂けているでしょうか?どうも、運営です。
さて、今回は正式サービス開始から三日目ということでお知らせをさせて頂きます。今日から四日後、つまり正式サービス開始から七日後に、正式サービス一週間目を記念いたしましてイベントを開始したいと思います』
「おい、これって……」
「ああ……とにかく続きを読んでみようぜ」
『イベントの内容ですが、題して「ヴァルキリーを守れ!」です。設定などは今は省かせていただきますが、公式サイトに詳細を掲載させて頂きましたので各自でご覧いただければと思います。MVPやラストアタックボーナスなどの各種ボーナスも用意しておりますのでふるってご参加いただければと思います。もちろん参加者全員に参加賞も用意してあります』
「こいつは……」
「ああ、こりゃあ……」
『それでは皆様、これからもAGOを楽しんで下さいますようお祈りいたします』
「「きたああああああ!」」
イベントだぜ、イベント!なんだかワクワクするな!しかも始まってから最初のイベントに参加できるなんてかなり貴重な体験だ!
「ジャック、もちろん参加するよな?」
「おうよ!……って言ってもな。これがあっても俺はあまり役に立たないっぽいしな……」
確かに金ダライ号はその場から動けないし、動ける面積もかなり狭い。直径三メートル内でしか本来のスペックを発揮できないとかかなり不利だ。
「でもよ、これはイベントだぜ?確かにボーナス狙ってるんなら無理かもしれないけど、ただ楽しむだけなら平等だろ?でようぜ」
「ああ……確かにな!そうだよな!別に俺は俺で楽しめばいいんだ!ようし、やってやるぜ!」
俺もできうる限り楽しんでやってみるか。ん?そういえば……
「なあ、さっきの話だけどさ」
「ん?どうした?」
「さっき不遇職の連中で集まろうってなっただろ?だったらさ、いっそのこと不遇職の連中皆で集まって参加しないか?」
「おお!そりゃあいいな!そいつらも俺みたいにイベントに及び腰になってるかもしれねえし!……でもよ、いいのかよ、お前はさ?」
まあ、そうなるわな。不遇職の連中で集まるとなると、きっと各種ボーナスは期待できないだろう。まずまともに戦闘できるかどうかも怪しいって連中ばっかりなんだから。
恐らく、俺一人だけならなんかのボーナスを手に入れることも可能かもしれない。召喚可能時間に気を付けてれば、俺とサモンモンスターは全員がレベル20を超える四人パーティーなんだから。
俺もボーナスは欲しい。けど、ボーナスのためだけにイベントに参加するってのも違う気がするんだよな。
「そりゃあボーナスは惜しいさ。けどよ、どうせなら楽しんでいきたいだろ?このゲームじゃなにが起きるか分からないんだから。案外、俺たちが一番ボーナスを多くとったりするかもしれないぜ?」
まあこんなセリフ白々しいんだがな。でも、やっぱり仲間とかでワイワイやった方が面白いだろ?
「そうかよ……じゃあ先に言っとくぜ。ありがとな、俺らのために。……じゃあやるか!いっちょ派手にイベント参加だ!」
「おうよ!やるからにはMVP狙うぜ!」
俺らはこうしてイベント参加を決定した。フレンドの不遇職の連中にはジャックの方から連絡をつけてくれるらしく、そっちは任せることにした。とりあえず、明日の昼ごろになら全員集まれるということだから明日一度会うことにした。
今日はもうログアウトして明日に備えることにした。明日の午前中に薬師のクエストはクリアしておかないとな。