地雷職1
視界が一瞬真っ白になったがすぐに視界が復活し、アバター作成場所からみた街並みが広がった。さきほどまでと違うところは誰もいなかった街並みに大量の人がいることだ。
「かなり人数がいるな…灯や宏明を見つけられるのか?」
とにかく目の前には人、人、人…。とにかく目の前が人で埋め尽くされている。この中から特定の人間を見つけるのは不可能っぽい気がする…。
「あのーもしかしてお兄ちゃん?」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。振り返るとそこには肩より少し下にまで伸ばしたキレイな青色の髪をした翠色の瞳をした美少女…灯がいた。現実世界とあまり変わりはないが強いて言えば少しだけ鼻が高くなったか?
「もしかして灯か?」
「やっぱりお兄ちゃんだったんだ!すごーい!セフィ〇スそのまんまだ!」
「自分でも驚いたぜ。髪と目元を少しだけいじったら見事そのまんまになったからな」
「昔から似てるなーとは思ってたけど本当に似てたんだね。いいよ、かっこいい!」
「ありがとな。ところでどうして俺だってわかったんだ?」
「じゃあさ、ちょっと周りの人たちの顔を見てみてよ。何か感じない?」
言われて周りに掃いて捨てるほどいる人たちの顔を眺めてみる。最初は特に何にも感じなかったが少しずつ「あれ?ちょっとおかしくね?」と感じるようになってきた。人によってその感じが結構する人とあまりしない人がいる。
「アバター設定の時顔をいじれたでしょ?いじったところはコクーンが読み取った本当の顔の部分と違うから注意して見てみると違和感を感じちゃうの」
「あーだからか」
「うん。ほとんど顔をいじった感じがしなかったしいつも見てる顔だったからもしかしたらと思ったの」
「そういうお前もほとんどいじってないんだな」
「お兄ちゃんは目元と髪だけいじったから知らないかもしれないけどアバターの顔を作るのって結構大変なんだよ。本当にたくさんの項目があるからほとんどの人は現実の顔をベースにちょっとパーツをいじって終わるの」
「じゃあ時々いる顔全体が違和感バリバリな人って…」
「かなりの時間をかけたんだろうね…下手をすると一時間とかじゃすまない場合もあるのに」
「ご苦労なことだな。そうだ、お前のアバター名ってなんていうんだ?」
「私はβのときから『アカリン』だよ。お兄ちゃんは?」
「俺はセスってした。さすがに名前まで同じってのはちょっとな」
「そこまでの完成度だったら別にいいと思うんだけどね。そうだ、フレンド登録しようよ」
「そうだな。どうやるんだ?」
「こうやって…」
こうして無事に灯―こっちだとアカリンだが実の妹をあかりんとは呼べないから普通に灯と呼ぶことにした―とフレンド登録を終えた。本人からは「リアルと一緒じゃない!」と怒られたが別にアバター名とほとんど変わらないからいいだろうと説き伏せた。
「そういえば宏明はどこだろうな。灯はあいつのアバター名知ってるか?」
「βの時と同じだったら『ギルフォード』のはずだけど…」
「お!もしかしてアカリンか?」
俺たちが会話をしていると顔全体に違和感をほとばしらせるいかにも騎士然としたイケメンが灯に話しかけてきた。
「あ、もしかしてギルフォードさんですか?」
「そうだぜ。ってことはこのセフィ〇スって和也か?」
「そうです。ほら、お兄ちゃん。宏明さんだよ」
とりあえず俺はおもむろに宏明の背後にまわり、両手をやつの首に回しチョークスリーパーをきめた。
「ちょ!苦しい苦しい!きまってる!きまってるから!」
「うるさい。何がギルフォード(笑)だ。顔全体から違和感バリバリ出しやがって」
「いいだろ別に!RPGってのは普段の自分と違う自分になれるから面白いんだろうが!それと(笑)ってつけんな!」
「リアルではフツメンに毛が生えたようなくせしやがって」
「イケメンのお前に分かるかー!フツメンのイケメンに対する羨望がわかってたまるかー!」
「まあまあお兄ちゃん。そろそろやめてあげてよ。いつまでたってもゲームできないよ」
「それもそうだな」
宏明を締め上げるのを止める。止めた途端宏明は地面に両手をつきゼエゼエと息を荒げていた。
「てめっこの野郎!俺よりもゲームが大事なのかよ!」
「当たり前だろう。俺はここにゲームをしにきたんだぞ」
両手を握ったままくそうと悔しがる宏明。まあちょっと思うところはあるがこれぐらいで引き下がってやろう。
「悪かったな。違和感バリバリだったからついツッコミたくなったんだ。許せ」
「くうう…こうやってちょうどいいときに素直に謝るから怒るタイミングを失くすんだよ…」
「すいませんギルフォードさん。そうだ、お兄ちゃん。結局どんなアビリティだったの?」
「おっそうだな。どんなのだったんだ?」
「その前にお前のを教えろよ。えっと…ギル?」
「フルネームで呼ぶ気ないのかよ…まあいいけどさ。俺のは『踏ん張り』って言って一定以上の威力の攻撃を盾で受けたとき完璧に受けきれんだ」
「それって何か意味あんのか?」
「大ありだよお兄ちゃん。このゲームだと相手の攻撃次第では盾を構えてても吹き飛ばされたり構えを崩されて大きなスキができたりするの。でも『踏ん張り』があると攻撃を盾でガードするだけでそんなことがなくなるんだよ」
「つまりどんな強力な攻撃でも盾で受けさえすれば止められるってことなのか?」
「簡単に言えばそういうこった。これでもβの時はトップクラスの壁役として有名だったんだぜ」
ドヤ顔うぜえ。でも確かにボス戦なんかではギルみたいなタンクがいてくれれば前線が崩れにくそうで安心できるな。というかこいつ一人でボス戦の壁がつとまるんじゃないか?
「ギルフォードさんはβの最後の方ではダイヤモンドガードナーっていう全ジョブ中トップの防御力を持つジョブについてアビリティも相まってテスター中最硬なんじゃないかって言われてたの」
だからドヤ顔うざいわ!もう一度首絞めてやろうか…
「苦しい苦しい!絞まってます!きまってます!」
おろ?いつの間にかまた首を絞めてたらしい。いやあ、人間ってときどき怖いことするよな。
「怖いのはお前だ!いきなり絞めてきやがってなんなんだよ!」
「すまん。ドヤ顔がむかついた。しかし反省はしていない」
「謝るのか謝んないのかどっちかにしろーーーー!」
「ホントにすいませんギルさん、うちのお兄ちゃんが…」
「え?いや…別に灯ちゃんのせいじゃ…」
「おい。灯を困らせるなよ」
「「お前(お兄ちゃん)のせいだ(よ)!!」」
しばらく言い合ってやっと落ち着いた俺たちは肩で息をしながらようやく俺のアビリティを見ることにした。フィールドに出てないのになんでこんな疲れてんだ…?
「どうでもいいがそろそろセスのアビリティ教えろよ」
「そうだね。お兄ちゃん、早く教えてよ」
「おう。俺のアビリティは『コストMPカット』っていってスキルや魔法の発動以外の消費するMPを全面カットする能力だ」
「なに!?」
「すごいじゃない、お兄ちゃん!それかなり使えると思うよ!だって発動以外にも継続的にMPを消費するジョブやスキルってかなりあるもん!」
「そうなのか?これってそんなに使えるアビリティだったのか?」
「当たり前だろ!しかもその手のスキルやジョブは強力な効果をもつやつが多いから皆してMPポーションがぶ飲みしてんだぞ。それで?ジョブは何にしたんだ?」
「初期装備の剣がないってことは魔法職だよね?ひょっとして符術師とか?」
「ああ、あの札使って戦うジョブか。確か符術師のためのスキルで【畜魔符】ってなかったか?」
「ええ、あの発動してから継続的にMPを消費して消費した分だけ威力を増すスキルです。もしお兄ちゃんのアビリティであれを使ったら…」
「無限にMPを込められる…ってことは!」
「ええ!【畜魔符】チートです!どんなボスにだって負けませんよ!」
廃人二人がこれもいけるあれもいけるとギャーギャー言っている。これってそんなに便利なアビリティだったのか。選んだジョブもちゃんと継続的にMPを消費するサモナーだし俺ってもしかしてこのゲームでトッププレイヤーになれるんじゃないか?だとしたら嬉しすぎる!
「あーお前ら。俺はその符術師とやらじゃないぞ。でもちゃんとこのアビリティを生かせるジョブを見つけた」
「なんだよ、なににしたんだよ」
「早く教えてよ、お兄ちゃん」
はっはっはそんな期待した目で見やがって。いいだろう、その期待に応えてやる。
「俺が選んだジョブはな………サモナーだ!」
「……………」
「……………」
あ、あれ?どうしたんだ二人とも?さっきまでの雰囲気から一変してそんなテンション下がって…。目がすごく険しいんだが…。
「なんで…そんな…」
「よりによって…こんな…」
「「なんでよりによってそんな地雷職選らんだんだよ(じゃったの)!!!」」
「え…は?地雷職?これが?」
「おいセス!いいからお前のスキル構成を見せろ!メニューから開けるはずだ、急げ!」
「お兄ちゃん、まさかこれ以上変なことしてないよね?スキルはまともなはずだよね?」
「おいおいちょっと待てよ…なんでそんなに…」
「「いいから見せろ(見せて)!!」」
「はい……」
いつもはいじられている側のギルと大人しくて優しいはずの灯にここまで言われた俺はなんの返事もできず言われるままスキル構成を見せた。…どうしてこうなった。
「これは…」
「ひどい…酷すぎるよ」
で、今は街の隅で二人に正座させられてスキル構成を見られて辛辣な言葉を受けている。なぜだ?結構いいスキル構成だと思うのだが。
「ふー。…いいかセス?今からお前の間違いを一つ一つ教えてやる。心して聞けよ?」
「わかったよ。…でもそんなに酷かったのか?その…サモナーは」
「酷いなんてレベルじゃないよ…サモナーってトップクラスの地雷職なんだよ?」
「マジか!」
「ま、お前の場合少しはマシなんだがな…まずはサモナーだ。サモナーはサモンモンスターを召喚している間ずっとMPを消費し続けるのは知ってるな?」
「あ…ああ」
「サモンモンスターは召喚可能時間が過ぎると消える。召喚中にMPが尽きても消える。そして戦闘でHPが0になっても消える。…とにかく召喚状態を維持しにくいんだよ」
「お兄ちゃんの場合はアビリティと選んだモンスターがゴーレムでHPと防御力が高いこと、そして召喚時間延長のスキルを選んだからそれらはいいんだけど…」
「じゃあなにが問題なんだよ?」
「サモナーの紹介文に成長させることができるみたいなこと書いてなかったか?」
「ああ、確かに書いてあったぞ」
「その成長なんだよ。…レベルアップの時に3ポイントのボーナスポイントがもらえるの。そこからサモンモンスターを成長するためのポイントを工面しなきゃならないんだよね」
「MMORPGにおいてボーナスポイントはかなり貴重であり重要だ。これがなければアバターが成長しないんだから当然だな。その貴重でただでさえ少ないポイントを分けなきゃならんのだ」
「それって…」
「そう、成長速度がプレイヤーもサモンモンスターもかなり遅い。しかもサモナーはサモンモンスターだけに戦わせているともらえる経験値が三分の一になるんだ」
「ゴミじゃねえか!成長するのが遅くて成長幅も小さいとか誰が選ぶんだよ!」
「お兄ちゃんだよ!
でも安心して。サモナー自身も戦闘をすれば経験値は普通にもらえるし、サモンモンスターにも戦わせればその三分の一の経験値ももらえるから」
「そうか…よかった。俺の場合MP切れでモンスターが消えることはないからHPと召喚時間に気を付けてれば経験値は通常より多くなるのか」
「そうだ。だがその程度だったらアビリティでも代用できるしパーティーで狩りしたほうが効率はいいからそれ程アドバンテージにはならんぞ」
「そうか…そうだったのか…」
正直これほどダメジョブだったとは思わなかった…。しかもこれでもだいぶマシな方とか不遇すぎる。見つけたときは「これだ!」ってよろこんだんだけどなあ…。
「ここで落ち込む暇はないぞ。まだ問題はたくさんあるんだから」
「まだあんのかよ!」