職人2
これでストックが尽きました。次回からは不定期更新になります。
今まで毎日読んで下さった方々、本当にありがとうございました!!
不定期更新になっても出来る限りの更新を心がけていきたいです!!
今日の夕食は予告通りハンバーグを作った。灯は最初、「お兄ちゃんは私に対して隠し事がありすぎて……」とか言っていたが、「それ以上言うならチーズはかけないぞ」という魔法の言葉を言えば、あら不思議、一気に大人しくなった。
人間素直になるのが一番だよな。
というわけで今、夕食の後始末を終わらせて再び市場にいる。ユリカは今ログインしていないようだ。
そろそろ素材を売っておかないと安く買いたたかれてしまう。今のうちに早く売らないとな。
「ふむ、金を持ってそうなプレイヤーはと」
このセリフだけを聞けばいかにもこれからPKをしようとしている危ないやつだが、俺にそんな気は一切ない。
ただ単に店が繁盛していて、金を持っていそうなやつを探しているだけだ。
「お、あそこなんかそこそこ人だかりできてんじゃん。でもあんな多いんじゃな……」
できれば俺がこの素材を持っていることはあまり知られたくないんだが、そうなるとおのずと条件が「信用できてこれから贔屓にしそうなやつ」となってしまう。
今の段階でそれを見極めるのは難しいよなあ。
「ちょいとちょいと、そこのお兄さん!どうや?ウチのところ来てみいひん?」
歩いていると声をかけられた。振り返ってみれば、そこにはカーペットこそ敷いていないが、他の生産職のプレイヤーに交じっていることから同じ生産職のプレイヤーだと思われる女性がいた。
オレンジ色の髪色をしていて髪を後ろで結び、肌は小麦色に設定されている。
「あんたは?」
「ウチ?ウチはクレアや。香水職人やっとるんよ、ちょっと見てみいひん?」
関西な人だった。おお、関西人の方言だ、初めて聞いた。てか香水職人?
「なあ、香水職人ってなんだ?」
「なんや、お兄さん知らんのかいな。香水は、使うとその日一日だけ特殊な効果を得ることができるんよ。ウチはそれを作っとるわけや」
「へえ、そんなジョブまであったんだ。じゃあちょっと見せてくれるか?」
「はいな!ゆっくり見てってな~」
カーペットに並んである香水の瓶をいくつか見せてもらう。HP香水、MP香水、モンスターよせの香水などなどいろいろあった。
分類的には薬師に似てるな。けど、一日効果が続くってのは魅力だな。
「お、このスタン軽減の香水とかいいな」
ウンディーネの加入で麻痺と毒に対しては心配なくなったが、スタンの耐性はないのでこれがあると便利だな。
「お、お兄ちゃんそれにするん?言っとくけど、香水ゆうても劇的に効果があるわけやないで。あったほうがマシ程度の効果やからね?」
まあ、そんなもんだろうな。それでも一秒くらいはスタン状態が縮まるだろ。
「それでもいいさ。で、いくらだ?」
「せやね、800Gでどうや?」
「はいよ、800G」
「まいど!お兄ちゃんええ買い物したなあ」
おいおい、たった今無いよりましって言ったばっかだろ。その評価はどうなんだ?
「あーっと、一応聞いておくけどここで買取とかやってるか?」
「素材によるわ。どんなものなん?」
「モンスターの皮とか肉とか……」
多いのはそこらへんだな。他には角とか肝臓とか鱗とかあるけど、さすがにここでは買ってくれないだろう。
「あちゃー、そこら辺か。草とかなら買い取ってるんやけど正直そっちは専門外やわ」
「だよなー」
「あ、でもダフ屋だったらいろいろと買い取ってくれるかもしれへんな」
「ダフ屋?」
ダフ屋って、スポーツのチケットなんかを販売目的で手に入れて、それを売る連中のことだよな。そんなやつらがいるのか?
「見ての通り、どんなものを売ってるのかパッと見でわかる人と分からん人おるやろ?で、イチイチ素材によって売る人を探してたらキリないやんか?そんな人用にいろんなモンを買い取って、それぞれの職人に売る人がおるんよ」
そんなやつらまでいるのか。じゃあ、エレガティスに行ったら経営が悪化しそうだな。今のうちに売っておこう。
けどそういうのって安く買いたたかれたりするイメージがあるけど大丈夫だろうか?
「安く買いたたかれそうだな」
「それはしゃあないことや。嫌なら自分で探せっちゅうことやな」
「どうせだからついて来て交渉してくれね?」
「お兄さんおもろいなあ。けど、ウチを雇うならそこでの儲けを棒に振ってもらわな」
さすが。しっかりしてらっしゃいますな、このお姉さん。
「はは、そりゃ勘弁だ」
「せやせや、どんなことも自分でやらな。ダフ屋は紹介してあげるから安心しい」
「よろしく頼むわ」
その後、前に見かけたことがあるというダフ屋をしている奴のアバター名と、見た場所を教えてもらい、そこに向かう。そいつの名前はぺドラというらしい。ドレットヘアが特徴だからすぐにわかるのだとか。
「ドレットドレット……あ、もしかしてあいつか?」
指定された場所に着くと、そこには赤い髪をドレットヘアにした強面の男が、カーペットを広げて座っていた。
今は客がいないのか、暇そうに周りを通りかかる連中を観察している。周りに人がいないならちょうどいい、今のうちに声をかけちまえ。
「あんたがダフ屋でいいのか?」
ドレットヘアが俺の方に視線を向けてくる。目が細くて、顔が角ばっており、良く言えばガタイがよくて、悪く言えばヤクザっぽい。どうしてワザワザこんな顔にしたんだろうか?
近くで見ると、遠くから眺めていたよりもずっと怖い。
「なんだ?あんた客か?」
短くそう告げる。なんだろう、裏通りのガラの悪い店に間違って入っちまったような後悔の念が俺を襲った。
だが、ここで負けるわけにはいかない。俺だって金が必要なのだ。
「ああ、安く買いたたかれるって聞いたが、逆に高く買い取ってもらおうと思ってな」
「ほう、言うじゃないか。それなりの物か、交渉術はあるんだろうな?」
相手もこっちを挑発するような声色とセリフを言ってくる。上等だ。ここで引いてたまるか。
「物には自信があるが、交渉術の方はさっぱりだな。けど、それでも高く買い取ってもらおうと思う」
俺はカーペットの上に密林で獲得した素材を置く。カーペットのいいところは、持ち主の商品だけでなく交渉相手のアイテムもその上に乗せれば実体化させることができるということだ。
「こいつは……」
ぺドラが驚いて目を見開いている。そうだろうな。何せまだ五人しか入っていないフィールドの素材なんだから。
「なるほど、確かにアンタが言う通り強気になれる物だな。そうだな……全部合わせて3000だな」
「はあ?3000だと?」
ほとんど出回っていないアイテムを少なくとも10個は乗せてあるのに全部合わせて3000Gなんて安すぎる。
「なんだ?不服だってのか?」
すごいこっちを睨んでくる。すげえ怖い。街中でヤクザやチンピラに絡まれたらこんな感じなのだろうか?
でも、ここまで来たら行くだけ行ってやる。ここで「やっぱりやめる」と言っても、なんだかんだで交渉を進められるだろうし、なによりここで引いたら相手に脅されて尻尾撒いたみたいでかっこ悪い!
「ああ、これだけのアイテムが全部で3000はありえないだろうが。せめて5000……いや、7000くらいは行ってもいいだろう。これだって相当低く見積もってだ。実際はもっと高くなってもおかしくないだろうが」
「…………」
無言になった。無言になってこっちを見ている。睨んだような視線はそのままだ。ええい!ここまできたらダメ押しだ!
「言っておくがな、いくら商売だって言っても限度があるだろう。いくら儲けたくても、そんなんじゃ客なんてつかないぞ?」
やべ、さすがにこれは少し言い過ぎたか?なんだかうつむいちゃってるし……。ここはトンズラする用意をしておいた方が……
「いや、あんたの言うとおりだな」
あれ?なんか認めちゃった?心なしか表情もさっきまでの威嚇したようなものとは違って、ヤンチャしているノリのいい同級生みたいな感じになってるし。
するとぺドラは二カッと笑って話しかけてくる。
「悪い悪い!どうもこんな見た目に設定した性か、俺の言うことにビビってそのままハイハイ言っちまうやつらばっかりでな!それで少しふてくされて挑発的な態度とっちまってたんだわ!」
ええー、何その理由。ていうか他の連中もゲームなんだからそんなにハイハイ言わなくても……ああ、でも俺もその一人になりかけたのか。
こいつの顔って、アバターで設定したのとは別に、本来の顔って感じが結構するからな。だからこそビビったりもしたんだろう。
「てか、だったらなんでそんな顔にしたんだよ?商売するんならもっと別の顔でもよかったろうに」
「それはそうなんだが、厳つい顔の商人ってのもなんだかひかれる物がねえか?」
それは……そうかもな。これで、もっと愛想がよかったら人気が出たかもしれんのに。
「最初に来たやつに、冗談交じりでふっかけてその値段で買い取れたのが運のツキだったな。それから厳つくてふっかけるガラの悪い商人ってイメージが定着しちまった。おかげで閑古鳥が鳴いてるよ」
「よくそれで今まで商売してこれたな?」
「……逆にあっちからふっかけてきたやつに、一睨みして『あぁ?』って言ったら、あっちから謝ってきてな。それ以来定期的に売ってくるようになったんだ……」
たぶんだが、その人ってMMOだとデカイ態度とるけど実際の人間には下手に出るタイプの人だったんじゃ……。
VRじゃないMMOと同じようにしてみたら、逆に脅されて怖くなって貢ぎだしたってとこか?
「俺自身は鍛冶師としてクエストとか受けたから金自体はそこら辺の生産職と同程度くらいはもっているんだが、何分客がそいつと、何も知らずに売ってくるやつくらいしかいないからな。このままじゃ商売あがったりだ」
「だったら何も知らずに来たやつには愛想よくしてりゃいいものを……」
「愛想良くしてもすぐにウワサで広まっちまってな。それ以来来やしねえのよ」
自業自得としか言いようがない気がしないでもないんだが……まあ、まさか一回脅しただけでここまでになるとは思わない……のか?
でも、見た感じそこまで悪いやつじゃなさそうだし、なんだかんだで面白そうなやつだからこれからも付き合いがあってもいいかな?
それにあまり人が寄らない店だってんなら素材のこともあまり知られずに済むだろうし。
「ならよ、俺の素材を買い取ってくれないか?見ての通りちょっとワケありの物でな」
「それだよそれ!一体何なんだよ、この素材!見たことねえぞ!」
「まあその辺は企業秘密だ。ただ、お前みたいに脅し取ったもんじゃないから安心しろ」
「脅し取ったとか人聞きの悪いこというんじゃねえよ!……まあいい、とりあえずマジ買い取りするとなると、これらだけで一気に9000くらいにはなるぞ。それでいいか?」
今度はまだまともだな。これだけで9000Gにはなるのか。ていうか、未だに俺のアイテムボックスに眠っている他の素材を一気に売り払うとすると一体いくらになるんだか。
「とりあえずはそれでいい。言っておくが他にもたくさんあるからな、手持ちが空になるのは覚悟しておけよ」
「おいおい、そりゃあ……」
言い切る前にカーペット一杯に密林の素材を置く。さすがにグレイウルフリーダーとヘビ公の素材は売り払う気にはならなかったが、他の素材はある程度を残してあらかた吐き出した。こうしてみると結構な量だな。
「…………なんだこりゃあ……」
ぺドラは今度こそ唖然とした様子で目の前の物を見ている。さてさて、この素材の山は一体いくらにしてくれるんだか。せいぜい一斉買い取りで値切られないようにするか。
結果、まだほとんど市場に出回っていない素材が合計30個ほどが26000Gになった。こうしてみるとずいぶんと安い気もするが、さっきの取引で素材10個が9000Gで、一斉買取と、意外と上手いぺドラの交渉と、ぺドラの全財産と相談した結果こうなった。
残金がこれでようやく27000Gにはなった。ぺドラに聞いたみたところ、露天商用のアイテムが50000Gするというので、これでようやく半分といったところだ。まだまだ先は長い。
「それにしてもずいぶんと未知の素材を持ってたんだな、お前。これを売れば一財産は余裕で築けるぜ」
「はは、感謝しな。たぶんだが、これからもお前に世話になると思うから次会うときまではちゃんと金を用意してくるんだぞ」
「お前も、そのセリフだけ聞くとチンピラだな。人のこと言えねえだろうが」
交渉の過程で結構ぺドラと仲良くなれた。やはりこいつは悪いやつではなかったようだ。意外と話が分かるタイプって言えばいいのかな?
取引が終わった時には互いにフレンド登録も終え、俺もそろそろ出発しようとしているところだ。
「じゃあ俺は行くぜ。まだクエストが残ってんだ」
「おうよ。また頼むぜ、セス!」
次に俺が向かうのはアンデットが闊歩するという西の沼地だ。あ、青汁飲んで来ればよかったかな……。
一応関西弁っぽくしてみたんですがいかがでしたでしょうか?
関西の方、「こんな風に言わねえよ!」と思われたのでしたらすいません(汗)