新しい仲間
えー、もうちょっとでストックが尽きそうです。ストックが尽きると不定期連載になるのですが、受験の関係もあり下手をすると月一連載なんてことにもなりかねません……。
毎日読んで下さる方々、毎回メッセージを送って下さっている方々、本当に!本当に申し訳ありません!
「おお、冒険者殿!もしや池のヌシを倒されたのですか?」
俺たちが一通り叫び終わると、クエストのイベントが始まったのか湖にいたウンディーネのおっさんがいた。
武装しており、後ろには同じような格好をした青い髪をした連中が何十人も控えていた。恐らくこいつらはヘビ公を倒しに来た討伐隊ってとこか。
でもあの湖にはこんなにたくさんの人っていなかったよな?どこにいたんだ?
「お父様!」
「おお、無事だったのかい!よかった……本当に良かった……」
二人で抱き合うウンディーネ親子。エミーナの時も思ったが、このゲームは父と娘の絆みたいなのをなんでこう大事にするのかね?
「お父様、あの冒険者様が……」
「ああ。あの冒険者様がお前を助けてくだすったのだよ」
「ありがとうございます!本当に……ありがとうございました……」
おお、手を取って涙を浮かばせながら感謝されたぞ。こんな美人にそうされるとさすがに照れる。
ここで娘のウンディーネの方の容姿を説明しておくと、髪と目は他の連中とは違い、もっと深い色の蒼色だ。あのヘビ公が言っていた魔力の強さの表れなのだろう。
髪は腰まで届くほど長く、ふんわりとボリュームがある。身体のラインは出るところは出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいる、理想的な体型だ。
ところどころに金でできた腕輪や足輪、首輪を付け、胸は波をイメージしたデザインのカップで覆ってある。へそを出した状態で、下半身はふんわりとした蒼色の丈の短いスカートだ。足は古代ローマ人が履いていたあの網目模様のクツを履いている。
はっきり言おう、ものすごい美人なうえにエロい。こうして俺の手を両手で握っていると胸の谷間が強調されて……いかんいかん!相手はNPCだ!そんな邪な目で見ても何にもならないだろうに!
しばらくすると娘のウンディーネは俺の手を放し、父親に向かって何かを言い始めた。
「お父様。私、このお方と一緒に行きたいです」
「なんだと!……いや、お前もそういう年頃か。確かに女のウンディーネなら気に入った男について行くというのはごく当たり前のこと……か……」
なんだ?すごく気になることを言ってる気がする。ついて行く?このウンディーネが?俺に?なんのことだ?
あ、もしかしてサモンモンスターになってくれるってことか?だったら嬉しいんだが。
「冒険者様。女のウンディーネは慕う相手ができたらその相手と何があろうともともにいたいと思う生き物なのです」
ああ、なるほど。ということはこの超絶美人が俺の元に来るってことか。そんなの……正直ウハウハで嬉しすぎる!
「ですが……ですがな!」
だが親父の方はワナワナと肩を震わせて何かをこらえているようだ。どうした……?
「娘をくれてやるわけにはいかーーーーーーーーん!!!!」
ええー!そりゃないよお義父さん。娘さんが俺のところに来たいって言ってるんだからさあ!
「お父様!私は……」
「分かっている!お前がこの男を慕っているということは十分にわかる!確かにこの男はいいやつだろう。しかし、しかしだ!私は、私の目の前でこの男が、娘を真に任せられるようなやつだとだと判断した男にしか娘を渡すことはできん!」
そういうと親父さんは羽織っていたマントを一度に脱ぎ捨てた。
「だから!娘が欲しければこの私を倒してからにしろお!」
おいおい!ここでまさかの戦闘パート!?冗談じゃねえ。俺も、サモンモンスター達ももうろくに戦えないんだぞ!
そんなことを考えているうちに目の前が暗転し、いつの間にか周りは夕焼けに染まっていた。オレンジ色の夕日が目にしみる。
俺の目の前にはボロボロの姿になった親父さんが天を向いたまま大の字になって横たわっていた。
なんだ?もしかしてこれで決闘シーン終わり?一番やらなきゃいけないとこ丸々省いちゃった?
「ふう……やるな……これほどの男ならば娘を……任せられる」
いやいや、俺って何もしてないからな!勝手にアンタが倒れてるだけだからね!?
「お父様!」
「ああ……安心しなさい。この男は確かに、お前を任せておける人だ。……悔しいが、認めざるを得ないだろう。本当にいい人を見つけたね」
「お父様!私は……私は……」
「なにも言うな……これが別れというわけではないのだから。父はいつでも、お前のことを思っているよ」
「お父様ーーー!」
親子二人の抱擁だ。夕日をバックに、黒いシルエットが抱き合っている場面が見える。池の水に光が反射してキラキラと輝いているのも雰囲気を醸し出しているな。
ひとしきり終わったのか、娘が俺の方に寄って来る。いや、確かに来てくれるのは嬉しいし、イヤなわけでもないが、ここまで本人をよそに盛り上がられても少し興ざめというか……。
いや、嬉しいのは確かなんだぜ?
「改めまして。ウンディーネと申します。これからよろしくお願いします、ご主人様」
ウンディーネが俺の前で頭を下げてくる。まぶしい笑顔付きでだ。するとシステムメッセージが『ウンディーネと契約できます。契約しますか?』と告げてきた。
是非もない。もちろんYESだ。するとウンディーネのステータス画面が現れた。
ウンディーネ
LV:25
STR 1
VIT 8
INT 78
DEX 30
AGI 5
雷系の攻撃に対して被ダメージ二倍。火属性の相手に対し与ダメージ二倍。水属性・火属性の攻撃に対して被ダメージ大幅減少
使用魔法
ヒール
ウォーターベール
アクアランス
ブリザード
スリープ
キュア
空き魔法保有量:5
残りステータスポイント:10
おお、INTがかつてない程に高い。リッチ以上か。使用魔法から察するに、どちらかというと攻撃するタイプじゃなくて支援系がメインということになるのだろうな。
ヒールはその名の通りヒールだ。対象のHPを40%回復させる。もちろんINTの値によって回復量が多少上下するからウンディーネが使えば結構な回復量を期待できる。
ウォーターベールはいわゆるバフ技で、一体を対象にして発動する。効果は火・水系のダメージを大幅に軽減し、それ以外の攻撃も少しだけ軽減してくれる優秀な魔法だ。
ブリザードは範囲魔法だ。吹雪を吹かせて攻撃し、一定確率で相手をステータス:凍結にすることができる。凍結は麻痺やスタン状態と同じように動けなくなる状態異常だが、前の二つと違うのは効果時間がべらぼうに長いということだ。ただ、火系統の技をくらうとすぐさま復活してしまうので注意が必要だが。
スリープはその名の通り、一定確率で相手をステータス:睡眠にすることができる。
睡眠はその状態の間は少しずつHPを回復し続け、技が当たるとすぐに解けてしまうしHPが回復しきると勝手に起きてしまう状態異常だが、それ以外では一切解除の方法がない上に睡眠状態で攻撃をくらうとダメージ量が二倍になってしまう。
睡眠状態になると自分では一切の行動も、周りの様子の把握すらできず、ただ他人から起こしてもらうのを待つしかない。スキルやアイテムでの回復用の手段がないというのも特徴だろう。ソロで喰らうと相当ヤバイ攻撃だ。
キュアは麻痺・毒状態を回復することができる。麻痺と毒は多くのモンスターが使ってくるため、この魔法を持っているだけで解毒用のポーションを買う・作る必要がなくなるから重宝するだろう。
全体的に見てかなり使えると判断していいだろう。防御に難があるしSTRが絶望的なようだが、それは魔法職の宿命というやつだ。デメリットを補って余りあるステータスなのだから文句は言いようもない。
「ご主人様、不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」
「ああ、こちらこそよろしくな。来てくれて心強い」
「ありがとうございます。ですがご主人様……」
するとウンディーネは顔を上げ、顔に満面の笑みを浮かべた。あれ?なんだか目が濁っているような……?
「私以外の女性を見たり、あまつさえ他の女性に心変わりするようでしたら、ご主人様を殺して私も死にます」
……ん?あれ?今なにか聞こえた気が……
「ご主人様は自らの危険を無視してまで私を助けて下さいました!その姿勢に私はものすごく、ものすごく心を打たれました!わかりますか?私の心がかつてない程に力強く、そして熱く波打っているのが!これ程お優しく、お強く、頼りがいがありすばらしいお顔をお持ちのご主人様の御側にいられるなんてこれ以上の光栄の極みはありません!ですが、あれ程私のために危険を冒してまで戦ってくださったということは私をす、好いていると考えてもよろしいのですよね!私の全てはご主人様のものです。ですからご主人様も全て余すところなく私のものなのです!他の女になんて決して!髪の毛、いえ、爪の垢すらも贅沢品ですのに渡すなんて絶対に嫌なのです!ご主人様の愛は私にだけに向けられるものなのであり、他の女になど視線すら向けてほしくはありません!これでもかなり我慢しているのです!本当なら同じ空間に他の女どもが存在していることですら不愉快の極みなのです!他の女どもにご主人様が汚されてしまうなんて耐えられません!……あ、失礼しました!私のようなものが出過ぎたことを……ですが、私は本気なのです。ご主人様の愛が他の女に向けられるくらいならば私は喜んでご主人様を水の中に引きずり込み、永遠に水の中で誰の邪魔もないままともにいることを望みます!……ところで新居といたしましてはどこがよろしいでしょうか?私はどちらかといえばキレイな水辺があるところがよいのですがご主人様が水辺以外でというならばその御意志に従いましょう。あ、その前に結婚式でしたよね、私、ついつい先のことまで考えてしまう節がありまして。結婚式は洋風がよろしいですか?それとも日本風でしょうか?洋風なら魔法で水をたっぷりと出して幻想的な雰囲気を作ることもたやすく、また、映えると思うのですが?もちろんご主人様が日本風がよろしいというのであればそちらに合わせますし、和風でも映えるように魔法を練習いたしましょう!その次は……しょ、しょ、しょ、初夜ですよね!!私、こういったことは初めてなのでご主人様にリードしていただけると……。子どもは何人がよろしいでしょうか?ご主人様が御所望なら何人でも産んで見せましょう!ですが、娘ができた場合は必ず殺しますのでお覚悟を。いくら娘とはいえ、ご主人様の近くに他の女を置いておきたくないのです。きっとご主人様の余りある魅力にほだされてすぐに親子の関係も忘れて迫るに決まっていますから!それから…………それから………」
えーーーーーー!?まさかの!まさかのヤンデレなの!?他の女性を見たら殺すってそんなの理不尽すぎるだろ!
ウンディーネはそれからしばらくの間話していたが、いつの間にか視界の隅に出現していた『ショートカット』を押すと、ウンディーネの口がものすごい勢いで動き始めた。早送りなのだろう。それでも少しの間喋っているとは恐ろしい……
ウンディーネはそれからしばらくの間早送りで喋っていたが、やがて最後に丁寧にお辞儀をしてからポリゴンの欠片になって消えていった。システムメッセージに『ウンディーネと契約しました。サモンウンディーネで呼び出せます』と出たが、唖然としてそれどころではなかった。
ていうかあんなこと言われるとちょっと呼び出したくないんだが。しかも灯たちや他の女性プレイヤーなんかと一緒にいるときには特に。
のちにネットで調べたことなのだが、ウンディーネには人間と恋人になるという逸話が多いが、その多くは悲恋話として紹介されている。
なぜなら恋をした男が他の女性に心変わりしたとき、ほぼ必ずと言っていいほど恋をした男を水の中に引きずり込んで殺してしまうからだ。
いくらゲームの中でとはいえ、これはちょっと不安すぎる。俺、大丈夫だよな?周りに女性プレイヤーがいたら、その瞬間俺に攻撃を仕掛けてくるなんてこと……ないよな?無いと言ってくださいお願いします!
無事に?クエストを終えてウンディーネを仲間にした俺は南の森に行き、婆さんのところに行った。薬師のクエストがなにかないかと思ったのだ。
「おや、また来たのかい。悪いけど何も出せないよ」
「いやいや、変な薬出されるよりよっぽどいいわ」
ついつい会話をしてしまう。口調が最初に会った時より若干柔らかいのは一度師事したせいだろうか。
「アンタ、本当に少しだけマシな風になったみたいだね。もう少し知識に幅があればもっと伸びそうだ。ここらで何か教わってみるかい?」
『クエスト:人体に眠る力、クエスト:属性道の探求、クエスト:上級薬品マスター、クエスト:毒と薬は表裏一体、クエスト:薬の可能性が受注可能です。いづれかを受注しますか?一度に受けられるクエストは三つまでです』
というシステムメッセージが出てきた。結構あるな。ゲオルクがクエストが豊富だと言っていたが、なるほど確かに多いな。
となるとどれを受けるかか。この先フィールドでクエストを受ける可能性もあるから一つ分は空けておきたいから選べるのは二つ分か。
たぶんだけど、人体に眠る力はSTRなんかのステータス系をアップさせる薬の作り方の習得方法をマスターでき、属性道の探求は属性系に関する作り方、上級薬品マスターは今よりも作れる薬の種類が増えるという類だろうな。毒と薬は表裏一体は……おそらく本格的な毒薬、つまりデバフ効果のある薬の作り方の習得方法だろうな。
薬の可能性は……これだけはわからん。
となると、戦力増強のためにも人体に眠る力と属性道の探求をやってみるか。売るにしてもステータスアップ系なら高く売れるだろう。
「じゃあ人体に眠る力と属性道の探求を受けるぜ」
「わかったよ。これからアンタにさらなる知識を授けてやろう。ただ、そのための材料が今手元になくてね。知識を授けるだけの力量があるか試すついでにちょっと材料を持ってきなさい」
ほう、お使い系のクエストか。たぶん材料を持ってこれたら作れる薬品が増えているってことになるんだろうな。
「人体に眠る力の方はパワフルベアーの肉、滋養草、折れた骨をもってきな。で、属性道の探求のほうは火の実、マジックリーフ、魔力を帯びた水をもってくるんだ」
なんかずいぶんとフィールドにでなきゃダメなクエストだな。受ける奴が薬師しかジョブ持ってなかったらどうするんだか。特にパワフルベアーの肉や折れた骨なんかは相手を倒さなきゃだめじゃん。
「素材調達の仕方は任せるよ。肉や骨はあまり大したことないモンスターの素材だから人に頼めば簡単に手に入れられるだろうね。指定した素材はそれぞれ一つずつでいいんだから」
あ、やっぱり討伐が必要な素材は簡単なものなんだ。採集は、これから自分で手に入れなきゃいけない時も来るだろうからその練習ってことなのか?
「いいかい?じゃあ行ってくるんだよ」
「了解。ちょっくら行ってくるぜ」
『クエスト:人体に眠る力、クエスト:属性道の探求を開始します』とシステムメッセージが告げる。よし、今まであまり行く機会がなかったけど、他のフィールドに行ってくるか。