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討伐

 俺はエミリアたちと別れた後、問屋に行ってポーション作りに使えそうなものをいくつか購入した。密林に入る前にいくつか作っておこう。

 そういえば薬師のクエストも受けてみたいな。あの婆さんにまた話しかければ始まるのか?



 さて、密林に入るゲートの前に来た。回復量が18%のHPポーションと、それよりも性能が落ちるが数を多く作ったHPポーションを作る。もちろんMPポーションも作るのを忘れない。



 ところで、エミリアに言われて気づいたのだが、モンスターの肉などのドロップ品でも薬が作れないかどうか試してみる。植物鑑定が薬師用のスキルっぽいから盲点だったが、確かにそれはありうる。



 作ろうとしたが出鼻をくじかれた。試しに、持っていたスケイルディアーの肉を使おうとしたのだが、粉末にする段階になって、『レベルが足りないので使用できません』というシステムメッセージが出た。レベルが上がれば作れるようになるが、今じゃまだだめらしい。

 諦めてもっとレベルが上がってからにするか。



「そうだ、あいつの攻撃を受け止めるのに麻酔薬が大量にいるな。ゴーレムを盾にする戦法で行くつもりだし」



 ゴーレムには可哀想だが、これが一番確実な気がする戦法だ。HPが減らず、攻撃力も完全に無効化されないゴーレムの影に隠れて魔法で砲撃を繰り返す。ライトニングとバズーカサンダーを主軸にすればいけそうだし。



「その前にステフリだな。だいぶポイントが溜まってたところだ」



 まずはリッチのステフリだ。まあ、リッチは一番悩む必要がない。いざというときのために5ポイントだけ残しておいて、後はINTに全振りだ。もう少し溜まったらDEXに振ってもいいだろうが、今は威力重視だ。



 リッチ

LV:20


STR  2

VIT  6

INT 89(+5)

DEX 20

AGI  5


使用魔法


ダークボール

泥沼

ウインドスラッシュ

ライトニング

アースニードル

ウォーターウェーブ


空き魔法保有量:4 

残りステータスポイント:5



 リッチはこれでいい。次はリザードマンだが、どうするかな。とりたてて特徴がない分困る。前衛職だから魔法は補助でいいか。STRとVITを中心に上げるか。



リザードマン・サージェント

LV:20


STR 36(+5)

VIT 36

INT 19

DEX 19

AGI 19


使用魔法


ビルドアップ

ファイア

ストレングス

アースヒール



空き魔法保有量:3

残りステータスポイント:5


装備:三叉槍



 じゃあ次はブラックウルフか。こいつも簡単だな。AGIを中心に、STRなんかを上げるか。といっても、ポイントに余裕がないから大して上げられないけどな。



ブラックウルフ

LV:25


STR 27

VIT 17

INT  5

DEX 30

AGI 68(+5)


残りステータスポイント:5



 最後にゴーレムだが、こいつもVITを中心にSTRを上げるか。



ヒートゴーレム

LV:23


STR 51(+3)

VIT 57(+5)

INT 15

DEX 10

AGI  5


攻撃に火属性付与。弱点属性の相手に対しダメージ二倍。水属性攻撃に対し被ダメージ二倍


残りステータスポイント:5


装備:メリケン



 こんなものだろ。これであとは西の湖に向かうだけだな。



 密林に入ってマップを頼りに進んでいく。途中で何度か敵と遭遇することがあったがそれらも片づけておいた。なんといっても圧巻なのはリッチだ。ステータスのほとんどをINTに費やしているだけあってかなり強い。

 リザードマンやゴーレムが相手を足止めしている間にスキを見て攻撃を叩き込むのは単純だが確実で、失敗しにくい作戦だったおかげでムリなく倒すことができた。



 来る途中はかなり入り組んでいて分かりにくかったが、メガネと合わせて慎重に進んでいくと次第に目的地に近づいて行き、ついにたどり着いた。


 

 湖はそれなりの大きさがあった。湖の周りには木々が立ち並んでいるが建物などは何もない。はて?話を聞く限りだとウンディーネはここに住んでいるんじゃないのか?それともここのウンディーネたちははぐれという設定なのだろうか?



 岸にただ一人だけいたウンディーネに声をかける。見た目はキレイな色の青い髪をオールバックにしていて、ダンディーな感じがする。目も同じく青色だ。服もワイシャツをきっちり着こなしており、事前情報がなければどこかの富裕層の人間のNPCなのかと思ってしまう。



「あーっと、ちょっといいか?」


「おお、冒険者様。何用ですかな?私は今あまり手が離せない状態でして……娘が心配なのです」


「その娘のことを話してくれないか?」


「お力になっていただけるのでしょうか……?」


「ああ、とにかく話してみてくれ」


「ありがとうございます。

 それでは……ある日、私と娘、そして村人達はここでいつものように静かに暮らしておりました。ですが突然、東の池のヌシがこちらに来て、娘を攫って行ってしまったのです」



 よくある話だ。ようは王道のRPGよろしく、攫われた娘を助けてくれってことか。でもどうしてだ?いきなり現れたこともそうだし、なんで娘を攫って行ったんだろう?これで娘を妃にするとかだったらそれこそ「らしい」悪役だな。



「ヌシは娘を妃にすると言って、連れ去っていきました。ですが我々ウンディーネは、正規の手順を踏まない限り、この場所のようなキレイな水辺でなければ生きていけません。そしてヌシのいる池は決してキレイなものではありません。このままでは娘は……娘は……」



 予感当たっちゃったよ。ていうかあのヌシ、そんなことも分からないで連れて行ったのか。折角連れて行っても死んだら意味ないだろうに。



「お願いです、冒険者様。娘を助け出すのにお力をお貸しいただけないでしょうか!」



 『クエスト:ウンディーネ救出が発生しました。受注しますか?』とシステムメッセージが告げる。とうぜんYESを選択した。



「ありがとうございます!ヌシはここから東に行ったところにある池にいます。その他には池はないのであればそこがヌシが住む池のはずです。どうか、どうか娘をよろしくお願いします!」



 はいはい、引き受けましたよっと。さて、ここからはずっと東に真っ直ぐ行ってみるか。



 マップを頼りにして東へと進む。貰ったマップと、俺が作ったマップの間に少しだけ空白地帯があったため、そこは自力で突破する。その途中でソルジャースネークという敵にも何度か遭遇したが、レベルは俺たちにとってはちょうどいいともいえるレベル25だったため、特に苦戦することもなく先に進めた。



「着いたぞ。首洗って待ってたか、ヘビ公?」



 俺が着くやいなや、最初の時とは違いゴボゴボと池から泡を大量に立てながらヘビ公が現れた。傍らには、水でできた透明な色の球体の檻に入れられた娘が一人いた。あれが件のウンディーネの娘だろう。確かに攫って行きたくなるほどにはキレイだ。



「汝、何用でここへ来た。……さてはあのウンディーネの集落からの追手か?」


「そうだと言ったら?」


「バカなマネを。疾く去れ。下等な人間など相手にする暇はない」


「冒険者様!私のことはいいです!早くお逃げください!」



 おお、いい子だなウンディーネの娘。なんというか、いかにも囚われのお姫様って感じがするわ。いじらしくていいね。

 よくは知らないが、某掲示板のネタにされやすそうだな。



「黙れ娘!貴様は、ただ我の子を産むための道具にすぎん!貴様の魔力の高さはあの集落でも随一だからな。さぞや強い力の持った子を産むことだろう。そうなれば我は、この一帯の水辺を我が子と共に、全て手中に収めることができようぞ」



 うわー、完璧に悪役にはまっちゃってるよ。なんだろう、こいつ噛ませというか、やられ役のボスみたいな感じがプンプンするわ。



「そんな!そんなことをすればお父様たちは!」


「ククク、次に会うときは我の奴隷になっていようよ。いや、それ以前に貴様は死んでいるだろうがな。なにせ我の子を産んだ後は貴様は用済みなのだから。いや、待てよ。奴隷となって無残な姿になったところを見せてから殺した方がよいか?……ククク……ハーッハッハッハ!」


「そんな……いやあーーー!」



 あのヘビむかつくな。まあ、そうなるように設定してるんだろうが。でもこれってプレイヤーのモチベーション上がるわ。あのヘビさっさと叩き潰したいもん、俺。



「人間、まだいたのか。帰るつもりはないようだな。ならば手始めに貴様から屠ってくれよう!」


「冒険者様!せめて、せめて貴方様だけでもお逃げください!」


「いやいやいや、この状況見せられてそれはないでしょ。サモンヒートゴーレム!サモンリッチ!サモンリザードマン・サージェント!ステータスサモン!」


「ゴゴゴー!」


「ガガガガ!」


「フシュルル!」


「ちょこざいな!」



 今度はちゃんと三匹を召喚できた。同時にヘビ公も口から水鉄砲を撃ってくる。相変わらずフライングが過ぎるんだよ、お前は!



 俺は事前に握りしめておいた麻酔薬をゴーレムに使う。ポーションみたいにビンに入った薬は飲まなくても身体にかけるだけで効果が発揮される。その場合、入っていたビンは消滅してしまうが。



「ちゃんと事前に準備しておいてよかったぜ。なにせあのフライング野郎だからな」



 次々と俺の中であのヘビのあだ名が増えていく気がするが、それよりも今は攻撃だ。無敵の壁とかしたゴーレムの影に隠れ、俺たちは攻撃をやり過ごす。正直狭いが仕方がない。



「リッチ、攻撃に当たらないようにライトニングを撃ち続けろ!リザードマンも基本的にファイアで攻撃!あとストレングスもかけとけ!ただし誰かのHPが減ったら即アースヒールを使え!」


「ガガガガ!」


「フシュルル!」



 俺もバズーカサンダーの用意をする。発射までに50秒かかるというのはかなり辛い。今回俺が作ってきた麻酔薬の数は、2分のやつが3本、1分の奴が1本だ。

 限界まで作ってきたからこれ以上はない。今2分のやつを使っているから残りは2本だな。つまりやつを倒せるかどうかはこの7分にかかっているというわけだ。



「単純計算でバズーカサンダー8発か。これでどれだけ削れるかだな……」



 そうこうしている間にリッチのライトニングがヘビ公に当たる。ヘビ公は「フシャ――!」と悲鳴を上げた。今のでやつのHPが十分の一ほど削れる。レベル差と、相手の得意とするフィールドだったとしても弱点属性をついて、しかもリッチのINTの値でもこれだけしかダメージを与えられないってどんだけ強いんだよ!



「フシャルルルーーー!」



 水鉄砲が途切れた。だが今度は、池の中から尻尾を取り出し、その尻尾を池に叩きつけた。すると大きな津波がこっちに向かってくる。範囲攻撃か!



 だが無敵の壁のゴーレムがこっちにいる限りダメージは通らない。実際、津波はゴーレムに阻まれて俺たちにダメージを与えるには至らなかった。

 しかもしめたことに、ヘビ公の尻尾は池の縁にそって置かれており、動く気配はない。ディレイなのだろうか?

 これはチャンスだと思い、リザードマンに尻尾に向けて槍で攻撃をさせる。相性が悪いファイアをさせ続けるよりもずっと効果的だ。



「こっちも準備整ったぜ。くらえ!バズーカサンダー!」


「フシュシャアアアアアア!?」



 今のでヘビ公のHPが目に見えて削れた。リッチの与えたダメージの四倍といったところだろうか。これなら七分以内に倒すこともできそうだ!







 それからしばらくの間、一進一退の攻防が続いた。ヘビ公はゴーレムに阻まれてこっちにろくなダメージを与えることができていない。

 それでも時折池から這い出て突進を仕掛けてきたりした。ゴーレムはHPこそ削れないようになっているが、攻撃を受けてのけぞらないわけじゃない。あの突進は強力で、やった後しばらく身体を伸ばしたままだったが、ゴーレムごと俺らを吹き飛ばすような威力だ。VITの弱いリッチなんかはそれだけでHPが半分を切った。

 


 じゃあこちらはかなりダメージを与えられているのかというと、完全にうなずくことはできない。確かにHPはバズーカサンダーをあと一発撃ちこめば倒せるくらいになるまでは削ったが、こちらの攻撃を躱しまくっている。

 特にHPが半分を切ったあたりからそれが顕著だ。たぶんHPが半分を切るとAGIが上昇するような仕様なのだろう。しかも焦りからなのか、はたまた運がないのか、あと一発で倒せるといのにさっきからなかなか当たらない。

 さらに言えば麻酔薬の残りが効果時間が1分のやつしか残っていない。さっき使った効果時間2分のやつの効果も今切れた。



 つまりあと1分で勝負を決めなければ、俺たちはヘビ公の攻撃を防ぐ手段を失くし即座に負ける。水に弱いゴーレム、VITの弱いリッチ、特に耐久性に優れているわけでもないリザードマンではあいつの攻撃を受け続けることなんてできない。



 MPポーションももうすでにない。MPもバズーカサンダー1発を撃って、少し残る程度しか残っていない。おかげで新しくブラックウルフを呼んでスキができるまで避け続けるという戦法も取れない。



「おおおお!削れ削れ削れぇ!!」


「ゴゴゴー!」


「ガガガガ!」


「フシュルル!」



 リッチの攻撃が今当たった。クリティカルが出たのか、通常の2倍のダメージを与えることに成功したようだ。麻酔薬の残り時間は30秒。

 だがここで俺の最後のバズーカサンダーの発射準備が終わった。狙いを十分に定め、放つ。



「フシャルルルアアアアアアアアア!!!」


「なんだと!」



 なんとバズーカサンダーを撃つと同時にあのヘビ公、突進をくりだしてきやがった!まずい!あれはくらったら体勢を立て直すまで時間がかかる。しかもリッチのHPは半分ほどまでしか回復していない。リザードマンもさっきMPが切れて近接攻撃しかできないようになっている。

 突進のモーションに入ってしまったせいで狙いがずれ、バズーカサンダーを躱したヘビ公の突進が俺たちに襲ってくる。



 この一撃をもろにくらって俺たちは吹き飛ばされた。今までにないくらい強い一撃で、おそらく判定的にはクリティカルがでるほどの威力だったのだろう。

 ゴーレムのHPこそ減らないが、リッチは今ので完全にHPが0になって砕け、戻っていった。リザードマンのHPも残り少ない。俺だってあと一撃貰えばやられる。



「クソ……よりにもよってこんな時に……」



 しかも最悪だったのは今ので俺たち全員がスタン状態になってしまったことだ。今までにもあの攻撃をくらって吹き飛ばされてスタン状態になってしまったことはある。なる頻度も少なくはなかった。だがよりにもよってこんなときに……。



 ヘビ公も突進のディレイから立ち直れないでいる。これはどちらが先に立ち直れるかにかかっている。先に立ち直った歩の勝ちだ。

 クソ、戻れ!戻れ!速く戻れ!



「フシャルルルアアアアアアアア!!」



 先に立ち直ったのはヘビ公の方だった。



 しかもあいつは再び突進のモーションをとってきた。俺はまだスタンから回復していない。横で倒れているリザードマンも、俺の前方で膝をついたままのゴーレムもまだ回復はしていない。

 クソ……これで終わりか……。



「シャアアアアアアアア!!!」



 ヘビ公が突っ込んでくる。ちょうどその時俺のスタン状態が治った。だがもう遅い。回避が間に合わない!

 ちくしょう!あと一歩だったのに!俺はギュッと目をつぶった。








 おかしい。いつまでたっても突進の衝撃は来ない。恐る恐る目を開けてみると、そこにはヘビ公の突進を真正面から受けているゴーレムの姿があった。



 俺たちのスタンはヘビ公が突進を始めたころ、つまりは突進のモーションの終わりにはもう治っていた。だから片膝をついた状態のゴーレムならすぐに立って、受け止めることも不可能ではない。

 だがそれにしたって間に合うか間に合わないかギリギリの瀬戸際だ。それを間に合わせるとは……。

 ゴーレムもただでは済まなかったようで、HPは半分を切り、レッドゾーンに突入している。しかし、あいつの攻撃をしっかりと受け止めてくれた!

 


「ゴゴゴー!」


「よくやった!よくやったぞ、ゴーレム!」



 ヘビ公はディレイで動けない。今がチャンスだ!リザードマンも動き始めている。この三人で一斉にやれば……いける!



「行くぞお前ら!でろよ!スパーク!」



 なんとかスパーク一発分のMPだけは残っていたようで、俺はまずそれを撃ちこむ。はは、ちょうどよく麻痺状態になってやがんの。



「フシュルルル!」



 リザードマンも三叉槍をヘビ公の目に突き刺した。弱点属性を責めず、しかも器用貧乏なステータスのリザードマンの攻撃でも、威力こそ低かったもののダメージを与えられた。これであとは誰が何をやっても倒せる。



「いっけええええ!ゴーレム!!!」


「ゴゴゴー!!!」



 ガゴオオオオン!と何かが砕けるような、小気味いい音が周囲に響く。ヘビ公は拳で殴られ、しばしその動きを完全に止めたが、一拍おいてガシャアアアン!と音を立てて崩れた。



「やった……やった!やったぞーーーー!」


「ゴゴゴゴーーー!!!」


「フシャルルルーーー!」



 俺たちはついに勝利を収めた。しばらくの間、俺たちの勝ちどきは森に響いたままだった。 

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