再び探索へ
感想を送り返せなくてすいません……
皆様からご指摘があった薬師の件ですが、このジョブは書いている途中に「これがあったら便利じゃね?」という思いつきで追加したもので、はっきり言って設定が甘いです。
あと、作者自身は頭はよくありませんので、アイテムの効果がどの程度が適切かもよくわからない点が多々あります。
薬師のジョブに就くための条件や薬の効果について等のご指摘を毎日頂いていますが、先述したようにかなり事前設定が甘くなっておりますので、これからどの程度が適切かを考えつつ、適宜修正しておきたいと思います。
個別の返信によってお答えできない作者をどうかお許しください。いろいろと設定的にどうしたらいいのかというのが難航しておりまして……
ログアウトして昼飯を食べる。灯も今日はゆったりとした様子で食べている。どうやら灯たちのパーティーは密林の探索をしているが、予想以上に広いらしい。行っても行ってもなかなか先に進めないようだった。
「じゃあ罠とかじゃないんだな」
「うん。罠の類で先に進めないんじゃなくて単純にフィールドの面積が広いの。道自体はちゃんとあるんだけど複雑に入り組んでいるからマッピングしてても全部は埋めきれないんだ」
「一体どうしてそんなに広いんだろうな。ムダに広くしても先に進めなくてつまらないだろうに」
灯たちの話だと、例えマッピングしてても脇道がたくさんあることによってどこがどこだかわからなくなるらしい。
ただ、ところどころにエレガティスに戻るためのポータルは設置されているようで、そこから一旦戻ることは可能らしい。俺たちが一緒に探索していた時にはたまたま見つけられなかったけどな。
「たぶんだけど、ただ単純にフィールドを探索して、ボスを倒して終わり。っていう類のフィールドじゃないんだろうね」
「どういうことだ? 」
「あのフィールドはボスを倒して次の街に行く類のフィールドじゃなくて、いろいろな街に行くための通り道なんじゃないかってこと」
つまり、フィールド自体が広大で、そこからいろいろな街に行くことができるんじゃないかってことか。東に行けばAという街に、西に行けばBという街に行けるというように。
街の間の移動自体はポータルでできるから、一度街に着きさえすればまた広いフィールドを行ったり来たりしなくていいもんな。
「北や西や東のフィールドはどうなってるんだ?そっちも同じような感じなのか? 」
「北は丘陵地帯、西は海辺、東は火山のフィールドだね。どこも探索はある程度進んでいるけど、結構な広さがあるみたい。最初に攻略された北なんかはそろそろ次の街に着くんじゃないかな? 」
「やっぱどこも同じようなものなのか」
「慣れてきたところで一気に探索範囲を広げるっていうところが憎いね」
「まったくだ」
一度俺も他のフィールドに行ってみないとな。いつまでたっても南の森からは抜け出せないんじゃ、ただでさえ他のプレイヤーと接点がないのにもっと接点が無くなる。
フレンドも灯たち四人とギルしかいないし……。そういえばギルって今なにやってんだか。まあ、あまり興味もないけど。
「まあ、そろそろ序盤って感じもしないし、レベルも上げづらくなってきてるからフィールドが広くて、湧きを気にせずに戦えるって言うのはいいと思うんだけどね」
「ふーん。でもずっと戦ってばっかじゃ飽きないか? 」
「街にはたくさんのクエストもあるし、フィールド上でNPCに会ってそこでイベントが発生するなんてこともあるからただ戦ってるってだけじゃないんだよ。大きな街ではないけど探索中に新しい街が見つかるなんてこともあるし」
「そっか、いろいろ考えられてるんだな」
ここで俺たちは昼飯を食い終わる。ところで、薬師になれたことを話すべきだろうか?本当なら今すぐにでも言ってやるべきことなんだろうが、探索中だったらしいし、俺が薬師になったって言ったら探索を切り上げて俺に会いに来るだろう。
折角迷路の中を結構進んだのにそれでは忍びない。でも今まで二度も灯に何も言わないままにしたからどっか罪悪感が湧くな。
「じゃあ私はまた続きをするよ」
「あんまり熱中しすぎんなよな」
「分かってるって」
「偶には家事を手伝ってくれたっていいんだぞ」
「……えーっと、たぶんだけど家の中が泡や黒いものやほこりで一杯になった挙句、悪臭がするようになっちゃう気がするんだけど……」
「なぜかお前は服をたたむのすらトラブルを起こすからな。でもそろそろちゃんと練習してもいいころだと思うぞ」
「それは任せたよ!じゃあね!」
さっさと行ってしまった。昔からなぜかあいつは家事が壊滅的にダメなのだ。洗濯をさせれば洗濯機から泡があふれ出し、料理をすれば真っ黒なダークマターが完成し、掃除をさせればする前よりも汚くなる。服をたたむように言ったら服が切れたりほつれたりしてボロボロになっているなんてこともあった。
だから俺が家の家事を一切引き受けているということなのだが……将来嫁に行けるか心配だ。そのうち、「結婚?ゲームの中ですませたよ。演出が現実よりも凝ってて、現実の結婚式なんて貧相に見えちゃってやる気しないよ」なんて言いかねない。そんな未来は来て欲しくないものだ。
俺は皿を洗いつつこれからのことを考える。とりあえず、あれだけたくさんの薬を作れるのだから自分だけで使うのはもったいない。むしろ俺には必要ないものもあるから売ってしまった方がいいだろう。
でも、回復薬系は下手に他人に売ったら大混乱する気がする。普通の回復量は10%位しかないのに、俺のは最高で18%回復させる。
だとすると、攻略組に作ってくれと頼まれる可能性が高い。もちろん無下にする気もないが、大人数が押し掛けてくるだろう。薬師のレベル上げにはいいかもしれないが、自由にゲームをすることができないというのも面白くない。
じゃあ薬師になる方法を教えればいいじゃないかとも思うが、現状ではまだムリだ。というのも、灯たちに聞いたところ、多くの人はレベル上げの都合上、ジョブを一つしか選んでいない人が多い。もちろん二つ以上を取っている人も少なくはないが、その中で薬師を取っている人はまずいない。
しかも最初のジョブ選択で複数選べると言ってもそれは三つまでだ。なおのこと薬師を選んでいる人なんていないだろう。
トッププレイヤーに数えられる連中は、戦闘なら戦闘、生産なら生産に特化するために一つのジョブに絞ることが多い。そうしなければどっちのジョブのレベルも中途半端になってしまうからだ。
今の時期AGOをやっているのはほとんどがコアなゲーマーだ。他の連中に先駆けて高レベルになれるチャンスだというのに選ぶジョブを増やし、レベルを分散させようとする連中はまずいない。
さらに言えば、ゲーム開始後にはジョブを改めて選択するなんてことはできない。最初に選択したジョブかその上位派生で固定されてしまうのだ。
もちろん課金などで取ることのできるジョブを増やすことができるかもしれないという話はあるが、今はまだ課金アイテムなんかの販売はしていないし、するとしても次にAGOが大々的に発売されてそれを買う連中、つまり第二陣と呼ばれる連中が登場するまでは課金アイテムは売られないと思う、とも灯は言っていた。
なぜなら第一陣の連中が課金アイテムを使えるようにすると、第二陣以降の連中との差が開きすぎてしまうからだそうだ。
というわけであまり俺がポーションなどを作れるということは知られたくない。かと言ってこれほどのことができるのだ、今のうちに金を稼いでレベル上げもしたい。
灯たちがギルドホームを買うと聞いて、俺も少しばかりゲーム内でのホームを手に入れたくなったのだ。
じゃあどうするか。だったら店舗用のアイテムを買えばいい。店舗用のアイテムというのは露店用の敷き布や店のことだ。
店舗用アイテムの利点は、作ったのものを実際に手に取って見ることができるということだ。今まではトレード欄越しでアイテム名が表示されるだけで、それぞれのアイテムの性能や値段は全て口で言うしかなかった。
だが店舗用アイテムの上なら実物を置くことができるうえに、ちゃんと値段や性能を表示させることができる。
ビジュアルが分かるというのだから「かっこいいから買っちゃった」というのも期待できるというわけだ。
特に店を買うことができると、アイテムを置くスペースが格段に広がる上に店番用のNPCを雇うこともできる。しかもそこをプレイヤーホームとして使うこともできるのだ。
露店用の敷き布でも一応は店番用のNPCを雇うことができるが、店を持っている場合と比べて賃金を多めに払わなければいけない上に全自動レジ以上のことは望めない。
店を持った状態でNPCを雇うと、レジとしての役割はもちろん、あらかじめ買い取り価格などを設定しておけば買い取りも全自動でやってくれるし、店の主人に対して客からのメッセージも伝えさせることもできる。
だから通常は、露店のときにはプレイヤー自らが商品を売って、店を持つようになるとNPCを雇い、店番は任せてプレイヤーは生産作業に従事するというのが一般的らしい。
あまり自分の正体を明かさずに薬を売りたい俺としては、露店用の布を買い、店番をNPCにやらせておくという手を取るのがいいだろう。
だとしたらしばらくは金策だな。灯たちと同じように密林に潜るか。
「よっし、終わった。あとは遊ぶぞー! 」
そう宣言してAGOにログインする。ログインしたら婆さんの小屋の中だった。すぐに婆さんの家を出ていき、家の前の畑から素材アイテムを採集したあと始まりの街に戻り、ポータルでエレガティスに向かう。
そしてそこからすぐに密林に向かうことにした。
「なんだか呼び出すのが久しぶりな気がするな。よし、サモンヒートゴーレム!サモンリッチ!サモンブラックウルフ!ステータスサモン!」
「ゴゴゴ―!」
「ガガガガ!」
「グルルル!」
ブラックウルフにまたがり、ゆっくりとフィールドを歩き回る。この三匹での戦闘は初めてだな。どうなるのか楽しみだ。
しばらく歩いていると前方からスケイルディアーが二匹迫ってくるのを感知した。すぐに全員に戦闘態勢をとらせる。
「「キュルルルル!」」
スケイルディアーは鹿のような姿をしているが、皮膚が黒く、ツヤがある。ところどころ攻撃的に皮膚もめくれている。スケイルってことだから固いんだろうか?
スケイルディアーのレベルは両方とも23か。ちょうどいい。スピードあるやつっぽいしブラックウルフの戦闘の実験にぴったりだ。
「ウルフ、相手をかく乱して自由に動かせるな!その間にゴーレムとリッチは攻撃を!」
「ゴゴゴ―!」
「ガガガガ!」
「グルルル!」
ウルフが俺を乗せたままスケイルディアーに突っ込んでいく。その間に俺はバズーカサンダーの発射準備を始める。
ウルフはすぐにスケイルディアーの間に突っ込んでいくと、両者を分断した。二匹とも驚いていたようすだったが、すぐに俺たちに向かって体当たりを仕掛けようと走ってくる。結構速い!
「ガガガガ!」
それをさせまいとリッチがライトニングを放ってけん制する。すんでのところで避けられこそしたが、俺への追及は止まった。残りの一体は俺に向かっていたが、一匹だけならウルフはかわせる!
「ゴゴゴ―!」
ウルフがかわし、翻弄している間にゴーレムが追い付いてきて殴り掛かる。スケイルディアーのAGIは高いが、攻撃速度ならゴーレムも負けていない。しかも今は腕の火を伸ばしてリーチを長くできるのだ。
「キュル!?キュルル~!」
「今だ!掴んで振り回せ!殴れ!」
俺とウルフに集中していたスケイルディアーは横からの対応が遅れた。そのせいでモロにゴーレムの攻撃をくらってしまったようだ。そして怯んでいるスケイルディアーの首根っこを掴んだゴーレムはところ構わず振り回す。
「ガガガガ!ガ!ガガガ!」
「キュル!キュル!キュルルル!」
一方、もう一匹はリッチと交戦していた。どちらも一進一退の攻防を繰り広げており、リッチはダークボールやウインドスラッシュなどの威力は少ないが速さと連射がきく魔法でスケイルディアーを近づけさせず、スケイルディアーもリッチに近づけこそしないものの攻撃をあまりくらうことなく避け続けている。
「けどここまでだ。ウルフ、スケイルディアーにまとわりついてその場から動かすな!リッチ、俺の指示したタイミングで泥沼をやれ!」
そう指示すると俺はウルフから飛び降りた。結構なスピードで動いていたので飛び降りたときにそれなりのダメージはくらったが問題ない。
ウルフはスケイルディアーを自由に動かすことをさせず、行動範囲をさっきまでより狭めている。
「今だ!リッチ、やれ!」
「ガガガガ!」
「キュルル!?」
行動範囲が狭まったスケイルディアー相手に泥沼を成功させることは簡単だ。思惑通りスケイルディアーはウルフごとだが泥沼にはまった。
「リリースブラックウルフ!そしてくらえ!バズーカサンダー! 」
「キュルル~!」
超威力のバズーカサンダーをくらわせる。スキルレベルこそ低いが、INTの値も相まってスケイルディアーのHPを半分より少し多いくらいまで削ることができた。
「リッチ、ライトニングを撃ち続けろ!パラライズトルネード!」
ドオオオオオオオオオオン!
「キュルルウ~~!」
ライトニングと爆発の両方をくらったな。しかも爆発の方はスキルレベルもバズーカサンダーよりも高いからまたHPが大きく削ることができ、ライトニングもくらってHPが0になった。
ゴーレムの方を見てみると、ゴーレムが火であぶりながらスケイルディアーをタコ殴りにしていた。ただ闇雲に振り回すよりも殴った方がダメージが大きいらしく、どんどんスケイルディアーのHPが削れていっている。
まあ、固い体に打撃が有効って言うのはどのゲームでも鉄板だからな。
そこにリッチと俺の攻撃も加わり、すぐにスケイルディアーは倒せた。この調子でドンドン狩りを続けていくために俺たちはさらに探索を進めた。




