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薬の調合法

今明かされる、薬の作り方!

「よし、じゃあこれから早速薬作りを始めるよ!」


「よろしく頼むわ! 」



 チュートリアルクエストを始める。チュートリアルの内容は全ての基本であるHPポーションを作って進めるらしい。

 今俺はイスに座った婆さんの作業を眺めるために側に立っている。まずは婆さんの作業を見て学べとのことだ。



「薬を作る時の基本的な工程は三つさ。すり潰す・溶かす・濃縮さね。まずはすり潰しからやってみるから見ておくといい」



 婆さんが手近にあった薬草を一つ手に掴み、千切って乳鉢の中に入れてすり潰す。数回乳棒をまわすと乳鉢が光り、後には緑色の粉末になった元薬草が残った。



「これが基本工程の一つ、すり潰しさ。これが大抵の薬の元になる。試しに一回やってごらん」



 薬草とすり潰しセットを渡される。さっき婆さんがやっていたように薬草を適当な大きさに千切り、乳鉢に入れてすり潰す。すると婆さんがやったような緑色の粉末ができた。



「ほう、一回でそこまでできるとはなかなかスジがいいじゃないか。やっぱりアタシの目に狂いはなかったのかねえ」



 そりゃゲームだしな。一定の動きさえしてりゃ同じようなことは誰にでもできるだろ。



 俺が心の中で突っ込んでいると今度はビーカーの中にピッチャーで水を入れ始めた。ピッチャーのなかの水を見ていたのだが一向に減っている様子がない。これは……?



「これはマジックピッチャーって言ってね。魔法がかけてあって無尽蔵に水を出せるのさ。年寄りにはいろいろと重宝するものだよ」



 じゃあ入り口の近くにあるあのでっかい水瓶は一体なんなんだよ。あれか?作りためたポーションとかか?



「次がある意味基本の中で一番大事な作業さ。この水の中にすり潰した粉末を入れる。そして混ぜる。そうすれば基本中の基本、HPポーションができる。ただし、手先が不器用だったり腕がよくないと失敗したり効果が低かったりするからね」



 粉末をビーカーの中に入れて混ぜる。これまた数回混ぜ棒をまわすと光って緑色の液体ができた。



「ほら、これがHPポーションだよ。試しに見てごらん」



HPポーション

 飲むと対象のHPの総量の12%を回復させる



 確かにポーションができている。確か灯たちが店売りのポーションじゃ全体の10%くらいしか回復しないってぼやいてたから、12%というとそれ以上ということか。



「次に濃縮だね。濃縮にはこれを使うよ」



 次に取り出したのは大型の注射器の形をしているアイテムだった。注射器と違うのは、針があるべきところが漏斗のように広がっている点だ。

 これでどうしようというのだろう?



「これは濃縮器って言ってね、これの中にポーションを入れるとその役目がわかるさね」



 濃縮器の中に今作ったポーションと、どこからか取り出したもう一つのポーションを用意した。そしてその二つを濃縮器の中に入れて、ピストンを押す。



 すると漏斗のように広がった先から、色の濃くなった粉末が出てきた。なぜあの状態から粉末がでてくるのかはなはだ疑問だ。



「この出てきた粉末が濃縮された粉末で、最初にすり潰したときの粉末よりも濃度が濃くて、これでまたポーションを作ると効果が上がるのさ」



 濃縮器から粉末を取り出し、再びその粉末と水とを混ぜ合わせる。するとさっき作ったポーションよりも若干緑色が濃くなったポーションが完成した。



HPポーション

  飲むと対象のHPの総量の15%を回復させる



 さっき作ったポーションよりも回復量が上がっている。なるほど、これが濃縮の効果か。でもこれって最初から大量の粉末を入れればいい話じゃないか?



「なあ、最初から大量の粉末を水に溶かすんじゃだめなのか?」


「水に溶ける粉の量は決まってるのさ。例えば粉を10溶かす水に20の粉末を溶かそうとしたって残りの10は溶けずに残る。そうすると失敗さ。濃縮もできなくなっちまうし燃えるゴミにするしかないね」



 つまりシステム的に必ず失敗するか、でなきゃ最初から溶かせないようなシステムなのだろう。だから抽出をして粉の質を上げるのか。

 同じ量の粉末でもより濃度が高い方が、作った時に出来が良くなるのが当たり前だしな。



「さて、これが基本的な工程だよ。とりあえず今やったことを実際にやって見せてごらん」



 今度は俺がポーションを作る番だった。だが作業自体は簡単だ。薬草を千切り、すり潰して粉にする。次は水に溶かす。

 さらに同じものをもう一つ作って、濃縮器で粉を作り、その粉でさらにポーションをつくる。できた!



HPポーション

 飲むと対象のHPの総量の13%を回復させる



 これでも店売りの品に毛が生えた程度の性能なのだろうが、自分で、しかもこのゲーム内で誰も作ったことのないものを自分が作ったという感動はひとしおだった。

 ただ、婆さんと同じことをしたにも関わらず回復量が低いのはレベルかDEXの値が足りなかったせいだろう。



「どうやら無事にできたようだね。やっぱりいい腕してるじゃないか。将来有望だよ」


「ありがとな! 」


「これで大抵の薬やポーションはどうにかなるはずさ。この他にもいろいろ工夫すればもっとよくなるよ。例えばすり潰す素材を乾燥させてみたり、何かに漬けたものを粉末にしてみたり、あぶったり、煮たりだね。これらは自分で研究してみるといい」



 ここで婆さんが少しだけ顔をほころばす。なんだか本当のばあちゃんの相手をしているみたいだ。最近会ってないけど元気かな……まあ、あの人なら元気を有り余らせすぎていると思うけど。



「大体は教えたよ。薬師の道を叩き込んでやるって言ったけど、結局は基本が一番。基本を叩き込めばそこからの研究作業は千差万別、人それぞれさね。これ以上は教えることはないよ」



 おお、これはそろそろクエストの終わりが近づいているのか?それにしてもあまり最初からあれこれ教えてもらえなくとも自分でいろいろ試してみれるってのは楽しそうだな。



「これは餞別さ。調薬に必要な大抵のものが揃っている。材料は基本的には自分で用意しな。できたら自分の目で見定めて採集するのが一番だけどね」



 『調薬セットを取得しました』というシステムメッセージが表示される。中身は後で確認しよう。これから頑張るぞ!



「一回作った薬はショートカットに登録されて材料さえそろってれば一瞬で作ることができるけど一定の品質のものと一定の数しかできないからね。手作業で作ると数は少ないかもしれないがショートカットで作るよりも、器用さが高かったり腕が良かったりすると効果が高いものを作ることができるよ。そっちは好きなやり方を選びな」



 なるほど。ショートカットによる大量生産か、手作業による高品質だが数量を少なくするやり方かを選べるのか。

 だったら俺はしばらくは手作業でいいかね?どうせ商売敵なんていないんだし。



「あと、家の側にある薬草なんかは好きにしな。もともと処分に困った薬草の種なんかを適当に植えて、その上でできた畑だからね。一度とっても時間がたてばまた取れるようになっている」



 おお、まさかの最低限の素材の確保までしてくれるのか。確かにイチイチ探しに行かなくてもいいから楽だな。



「ふう、これでアタシの授業は終わりだよ。これから頑張りな。……また来なさい」



 今度こそ婆さんがはっきりとした形で笑みを浮かべてくれた。それは弟子のこれからに期待する表情でもあり、あるいは孫を見るような表情でもあった。



「おう!サンキューな!」



 数分だけの師匠に頭を下げる。俺がこのゲームが始まってからのこの人の最初の弟子だ。頑張らせてもらおう!



 システムメッセージが出て、『これでチュートリアルクエストを終了します。これよりジョブが薬師である限り薬の製作が可能になります』と告げる。よし、早速ポーション作り開始だ!



 

 俺は一旦建物の外に出る。そして早速家の前の畑からすべてのアイテムを採取する。量はかなりのもので、しかも自動でまた取れるようになると言うのだ。言うことはない。

 


 そして再び家の中に入り家の隅で生産を開始する。中央のテーブルは婆さんが完全に占領していて使えないのだ。どかそうとしてもシステム的にどかせないようになっているようだった。

 まあ、いつ襲われるかもわからない外で一人で作業するよりはよっぽどマシだから文句は言わない。床に直座りして調薬セットの中身を確認する。



「へーえ、こんなもんがあるんだな」



 調薬セットの中身は以下の通りだった。



・ビーカー ✕20

・フラスコ ✕20

・空き瓶 ✕30

・マジックピッチャー ✕1

・濃縮器 ✕1

・乾燥剤 ✕1

・アルコールランプ ✕1

・すり潰しセット ✕1

・混ぜ棒 ✕1



 ビーカーやフラスコ、空き瓶は入れ物として使うのだろう。マジックピッチャー、濃縮器、混ぜ棒も婆さんが使っていたものと同じで、すり潰しセットもさっき使った乳鉢と乳棒だ。



 乾燥剤というのはさっき婆さんが言っていたように、素材を乾燥させたり粉末を固めてそのまま丸薬にするために使うらしい。これもマジックピッチャーと同じで使用量に制限はない。

 アルコールランプは火がいるときに使うもので、使うときには脇の方にあるスイッチを押せば火が着いたり消えたりする。火にかけるときにも火に燃やすものを近づければすぐに終わる。



 これだけ道具がそろっていればいいものが作れそうだ。早速作ってみるか!まずは定番のポーションだ。一回濃縮したものでポーションを作れば回復量が13%になるのは分かっているからもっと濃縮した粉末を作ってそれを一度にポーションに使えばどうなるのだろう。

 


 とりあえず一回分濃縮する。さらにもう一回濃縮した粉末を作って、さらにもう一回濃縮した粉を作る。

 こうしてやってみて気づいたのだが、濃縮した粉末の量は最初に作った粉末よりも量が少なくなった気がする。

 濃度を濃くすればするほど粉末の量は少なくなる。とすると、再び同程度の濃度の粉末を作っていかなければ高品質のポーションは作れないということになるわけだからかなり手間がかかるな。


 

 とりあえず三回分の濃縮した粉を使ってポーションを作ってみる。そうすると『これ以上粉末を混ぜることはできません』と出た。

 もう少しレベルが上がれば混ぜられる回数が増えるのか?まあ、今の量でもギリギリポーションが作れる量はあるからこれで作ってみるか。

 そうしてできたものがこれだ。



HPポーション

 飲むと対象のHPの総量の15%を回復させる



 今のレベルだとポーションを限界まで濃縮しても15%が限度らしい。もちろん工程をもっと工夫すればいいのだろうからもっといろいろ試してみよう。




 っと、そろそろ22時だ。風呂に入らないと。今日はこの辺にしておくかな。明日は思いっきり調薬に費やそう。

 この日はこれでログアウトをした。 


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