アバター作成
八月一日の朝。俺と灯は朝食をとっていた。灯は十時からの正式サービスが今から待ちきれないのかさっきからそわそわしている。
「おい灯、もうちょっと落ち着いたらどうだ?」
「そんなこと言ったって今から待ちきれないの!βテストが終わってからの一か月間はAGOのことが忘れられなかったんだから!」
灯が箸を手で握りしめて力強く言う。少し目を凝らせば後ろに炎のエフェクトが見えそうだ。
「そういやβ版のときのデータってどうなったんだ?」
「アビリティだけは引き継げるから引き継いじゃった。人によっては引き継がないって人もいたけど」
「それってやっぱりクズアビリティ貰っちゃったやつだよな…」
「大丈夫だってお兄ちゃん!序盤ならアバター作り直してもまだ追いつける余地はあるから!」
灯が元気づけるように明るく言う。なんかその言い方だとまるで最初からクズアビリティが来ると思っているようにもとれるんだよな。
「そうならないことが一番なんだが」
今時間は九時五十九分。今俺はコクーンをつけてベットに横たわっている。トイレに入ったし部屋の環境も快適設定。戸締りもしたし気兼ねなくAGOをすることができる。
「そろそろ時間だな…よし!ログイン!」
正式サービス開始時間になると同時にログインを果たす。目が覚めたところは中世ヨーロッパみたいな感じの街並みが周りに広がっている場所だった。ただ周りには人っ子一人いなくて俺しかいない。
「どうしたんだこれは…おお!ビビった!」
いきなり目の前にVR空間だからこそできるのだろう、いわゆるホロウインドウというのが出現した。見てみるとそれはアバター設定に関するもので、画面内容に指示が載っていた。
「まずはアバターの格好を決めるのか。これは昨夜考えた通りあまりいじらない方向で行こう」
そうやってアバターエディットを少しいじくって完了させる。すると目の前に鏡が出てきて俺の姿を映し出す。
身長は175cmと標準的な身長で痩せ型。顔は…昔からよく目元がもうちょっときりっとしてれば完璧だったのにと言われ続けた目元を少し鋭くして髪を腰まで届くくらいまで長くし、瞳の色はそのまま黒にして髪の色を白くして完了した。
うん…なんというか自分で言うのもなんだがイケメンだ。
もとの顔がセフィ〇スにちょっと似てるよなという宏明の呟きを聞き、気になって調べたらホントに目元と髪以外は似ててセフィ〇スの日本人版なんじゃねえのって感じの顔だったからいっそのことと近づけたらこれだ。
まあ、困るもんじゃないしこれでいいだろう。どうせ他の奴もいろいろいじくりまくってイケメンや美少女のオンパレードだろうし。
次はアバター名の決定だ。ここまできたらセフィ〇スさんにあやかろうと思って最初と最後の文字をとってセスとした。まだ誰にも使われていないようで早々に名前だけは決定を押して決めてしまった。
さて次はジョブの選択なのだがその前に気になるのが問題のアビリティだ。アビリティ欄を見てみるとそこには『コストMPカット』という文字があった。
説明には「魔法・スキルなどの発動以外で消費されるMPの消費無効」と書かれていた。要はコスト用のMPの全面カットということだろう。
そうなると問題になってくるのはこのアビリティを生かせるジョブがなんなのかという話だ。MP関連ということは戦士職は選択肢から外して魔法職となるがコスト用のMPがかかる魔法を使えるジョブなんて限られてるだろうなと思いながらジョブ一覧を眺めていく。
魔法使い・付与師・ビーストテイマー・プリースト・ネクロマンサー・呪術師…etcとテンプレっぽいものが延々と続いている。中には手品師やらピエロやら数学者やら戦闘で何ができるんだというジョブまであってそれらを眺めているだけでも面白かった。
だが紹介文を読んで行ってもコストMPがかかるようなジョブはなかなか見つからず、もうアビリティムシして気に入ったジョブを選ぼうと思った矢先に見つけた。
サモナー
契約したモンスターを召喚、育成し使役することができる。ただし常にMPを消費する
まさにこのアビリティのためにあるようなジョブじゃないか!
と思った俺はすぐさまジョブをサモナーに設定した。どうやらクズアビリティを掴まされたわけではないらしい。これはさい先がいいな。
サモナーを選ぶと別のウインドウが開いてサモナー用のステータス画面とサモンモンスターの一覧が現れた。サモンモンスターは最初だから一匹しか選べないので慎重に決めよう。
セス:サモナー
STR 13
VIT 15
INT 12
DEX 10
AGI 10
残りステータスポイント:5
これがサモナーを選んだ時の初期ステータスらしい。なにも選んでない状態ではすべての数値が10で固定され、ジョブを選ぶとそのジョブに合わせて10のステータスポイントが自動で割り振られ、5のポイントを自分の好きなように割り振れるようだ。
そしてサモナーなのだが…魔法職のくせにINTがかなり低い。10のステータスポイントの内半分がVITに回っていることもそうだがSTRよりも低いとはどういうことだ。
ちなみに各種ステータスの説明としては
STR:物理攻撃力・攻撃速度
VIT:HP量・防御力
INT:魔法攻撃力・MP量
DEX:命中率・クリティカル率
AGI:移動速度・回避率
にそれぞれ影響がある。これを見ればわかるが魔法職のくせに魔法に関係するステータスがほとんど伸びてない。…恐らくモンスターを召喚するだけなら大したINTなんていらないだろう、むしろ体を張って自分も戦え!ってことなんだろうな…。
残りのステータスポイントだが…はっきり言って俺は前衛に出る気はない。ソロの時物理攻撃が二人並んだって効率が悪いだろうし複数で囲まれると対応しきれない場合がある。そのときのために範囲魔法を覚えておきたい。無駄に高いVITは前衛をすり抜けられたときや魔法を使う際に耐えるための備えとしておく程度でいい気がする。
よって俺は残りのポイントをすべてINTに費やした。
シキ:サモナー
STR 13
VIT 15
INT 17
DEX 10
AGI 10
次にサモンモンスターだが、ゴーレム・ビッグバット・ゴブリン・ガーゴイル・マッドプラント・スケルトン…etcなどなどいろいろなモンスターがいる。個人的にはアンデット系とかかっこいいなとか思うのだがいかんせんAGIが低かったり火に弱かったりして最初の一匹目にするにはちょっと勇気がいる。
いろいろ悩んだ結果基本的な存在であるゴーレムを選択した。こいつはAGIがかなり低いがSTRやVITがかなり高く壁役とするにはこれ以上ない存在だ。これで後ろから魔法で支援をすれば理想的な形態をとれるのではないだろうか。
ゴーレムのステータスはこんな感じだった。どうやら今の時点ではサモンモンスターのステータスはいじれないらしく、このままの値で納得した。
ゴーレム
STR 18
VIT 20
INT 2
DEX 5
AGI 5
かなり極端なステータス構成になっているがその代り高い数値は本当に高くて前衛としては心強い。モンスターだけあってステータスの合計数値がプレイヤーよりも高いから余計にそう感じる。VITが高いから長い間粘ってくれることだろう。
さあ次にスキルの選択だと思ったら、サモナーと書かれたジョブ欄の下にまた新しいジョブ欄が出現していた。どうやら取れるジョブはいくつもあるらしい。
サモナーと書かれた欄のとなりにメイン、二つ目の欄のとなりにはセカンドと書かれている。
折角だからもう一つぐらい取ってもいいだろうと思ったので今度は生産系のジョブを探す。これまた職業説明をナナメ読みしていると薬師というジョブがあった。
薬師
材料を調合し、各種薬品アイテムを作ることができる
これはいいな。サモンモンスターを戦わせるというプレイスタイルである以上、俺は直接戦闘をする必要がないから戦闘時に余裕が生まれる。だったらポーションなんかで後ろから支援をすればもっと楽に戦闘を行えるかもしれない。
いざとなったらこれでポーション売ってもいいなと思いながらセカンドジョブに薬師を選択。まだジョブを選べるようだがこれ以上持ってても育てられないのでパス。
最後にスキルの設定だ。これはスキル一覧にある好きなスキルを六つ選択する。とれるスキルに特に制限はなく戦士職が魔法や生産系のスキルを取ることもできる。
これはかなり重要だ。ジョブを二つもとっているから両方で使えるようなスキルを選択した方がスキルのレベルは上がりやすそうなんだが…正直言ってこの二つのジョブになんの共通点があるのか全く分からない。ちょっともったいない気もするがここはムシしてよさげなのを選ぼう。
とりあえずここで基本的なプレースタイルを決めておこう。
俺が思い浮かべているのはゴーレムを前衛として魔法で後ろから攻撃。できれば薬師で作った回復アイテムやステータスアップアイテムでサモンモンスターやパーティーを組んだ連中への支援ができるのが理想だ。
これならソロでもパーティーでも臨機応変に対応できる。問題は二つもジョブを育てて成長が遅いことだが…のんびりマイペースでやりたいからそこは深く考えないでおこう。
そんなわけでまずはサモナーが使うためのスキルを選ぶ。サモンモンスターには召喚可能時間が決められていてそれを過ぎると消えてしまう。
さらに呼び出したモンスターが戦闘でHPを0にされたり召喚可能時間が過ぎて消えてしまったりすると次に召喚するまで待機時間が発生するらしい。
もちろんそれらの対策用のスキルがあるしサモンモンスターにも普通にアイテムが使えるので気を配っていればむざむざとやられることもない。
よって俺は召喚時間を延長することができる【バンダライザー】というスキルを選んだ。ディレイが短くなるスキルもあったが戦闘でディレイを発生させるほどの相手だったらいくらディレイを短くして再び召喚してもまたやられる可能性が高いと思ったからやめた。
さらにサモンモンスターの全ステータスをアップさせる【ステータスサモン】というスキルもとった。これはサモンモンスターの全ステータスを少量ではあるが上昇させる効果がある。
STRだけを上昇させるといったスキルもあったがこれからどんなモンスターが必要になるかも分からないため今回は見送った。
それに今からこのスキルを育てていけば将来的に上昇させることができる値も増えるだろう。そうなったらピンポイントでステータスを上げるよりも効果が高くなると思ったのだ。
さて、次はお待ちかねの魔法だ。これもいろいろあってそれこそ全部見ていったら日が暮れる。とりあえず攻撃魔法を見てみる。これまた流し読みしていきながらいいのはないかと選んでいると【パラライズトルネード】というのを見つけた。
これは範囲攻撃の魔法で、ダメージは無いにも等しいが一定の確率であたったものを麻痺させる効果がある。これなら囲まれても麻痺させることができれば時間を稼げるし相手が麻痺ってる間に一方的にボコ殴りも可能だ。
INTの値は今は低いわけではないがなにぶんスタート時の数値の低さから見て他の魔法職よりもだいぶINTの数値的に負けているだろう。
もしパーティーを組んだりしたときに他の魔法職よりも火力方面では劣ることになってしまう。
だが状態異常の魔法なら一定の確率さえあれば戦闘に貢献できるうえ、ソロの時も前衛を通り抜けて俺の方に来るなんて場面を少なくできるかもしれない。
こうしてあまり迷わずに【パラライズトルネード】をとり、それでも直接攻撃用の魔法があった方がいいよなということで【スパーク】をとった。
これは雷系の魔法の一番下のランクの魔法でMP消費が少なく、スキルを使った後のディレイも短いうえ、低確率で相手を麻痺状態にすることができる。
これでとったスキルは四つ。あと二つはなににするか…。
これからさらに探してみると【拘束】というスキルがあった。これは拘束用のスキルで、地面からロープが出てきて一定時間対象をその場から動けなくするスキルだった。
動けなくするだけなので口から火を吐くなどの特殊攻撃はできる場合があるから完璧ではないがかまわない。これは単体で強力なモンスターを相手取るために使うつもりだ。
これで空きスキルの数は残り一つ。そういえば薬師用のスキルをまだ何一つとってなかったな。
薬師で何か役立ちそうなスキルはないかとこれまた探してみると【植物鑑定】というスキルがあった。
これは植物系のアイテム限定で鑑定ができるがどのようなアイテムの材料になるのか、どのような系統のアイテムの材料に使えばより効果が高いアイテムが作れるのかなどの情報を閲覧できるほぼ薬師専用スキルだ。
最後の一つをこれにしてスキル選択も終わった。これですべての設定が完了したことになる。
ウインドウに出てきた『これでアバター設定を終了しますか?』という問いにYESと答えてアバター設定を終える。するとウインドウが消えて前方に扉が現れた。これをくぐればプレイ開始というわけだ。
俺は扉を開けて中に入り、ABILITY GROW ONLINE のプレイをスタートした。