スキルショップ
最近感想の方のお返事を書けなくて申し訳ありません。ストックづくりの方に集中していたのでそっちまで手が回らず……。
しばらくしたらちゃんとお返事をする予定です。
ゲオルクのところから離れて今はスキルショップの中にいる。内装はトレカショップのような様子で壁一面にカードゲームに使う大きさのカードが貼られていた。
このカードにはスキル名が書かれておりカードをタッチすると詳しい解説が浮かぶようになっている。これをカウンターに持っていけば精算され、勝ったプレイヤーの控えのスキルスロットに登録される仕組みになっているようだ。
スーパーのように天井からは『魔法:攻撃』『剣士:防御』などと大別されていた。因みに魔法職が使うファイアなどの魔法攻撃がそのまま『魔法』、剣士などが使う『スラッシュ』などの物理攻撃技のことを『武技』とプレイヤー間では大別している。
俺は魔法関係のスペースに行き攻撃魔法で何かないかと物色する。ファイアランス、アイスショット、アースニードルなどなどさまざまな攻撃魔法があった。
俺はスパークと同じ系列の雷系にしようと思っている。種別は単体攻撃系だ。魔法攻撃が俺とリッチにゆだねられているのだがどちらかが拘束魔法や範囲魔法を使っている間にもう片方が効果的な攻撃をできないのはもったいないからな。
「どれどれ……ライトニングはリッチが使えるからいいな。スパークバルカンは手数は多いけど一撃が重いやつを今回は選びたいから……まてよ?これも使いようによっちゃありだな。とりあえず保留だ。スパークレーザー…これは一直線に貫通効果のある雷撃を撃てるのか」
いろいろあって迷うな。どれもスパークよりも強い分いいものに見えてしまう。どれにするかな…
「あなたも雷系の魔法を探しているんですか?」
悩んでいると声をかけられた。声のする方を見てみると水色の髪を肩まで伸ばし、灰色の貫頭衣を着た娘がいた。
「ああ、ちょっと攻撃魔法が弱い気がしてな。ここで一つ強いのを持っておこうと思ってるんだ。君は?」
「私は回復特化の治療師ってジョブなんですけどそろそろ南の森の攻略が始まるから自衛のために何か買っておいた方がいいかなと思って。南の森を超えた先は水辺のフィールドらしいですからムダにはならないと思うんですよ」
ああ、この娘は南側が大幅改変されたことを知らないのか。あそこは密林だから雷よりも火の方が役に立つと思うんだがな。
だがちょうどいい、こいつにいろいろと聞いてみるか。
「そうなのか。だったらどんなのがいいと思う?」
「どのようなプレイスタイルかにもよりますよ?」
「プレイスタイルか……どっちかっていうと俺は補助的な魔法職なんだが単体攻撃のやつが欲しいんだ。基本的にはその場から動かない感じだな」
「DEXとかは上げてます?」
「そこそこは上がってるな」
「だったら護身用ってことですよね?スパークなんかどうです?じゃなかったらライトニングとか」
「スパークはもう持ってる。ライトニングは仲間の一人が使えるからそれ以外がいいんだが」
「そうですね……ではバズーカサンダーなんてどうです?」
「それってどういうやつだ?」
「カードに書いてある説明を見てもらえれば分かると思いますが巨大な雷の玉を前方に撃ちだす魔法です。発動までに時間はかかりますがディレイはそれほど長くはありませんし当たった時の威力が高いですよ」
「ずいぶん詳しいんだな」
「今日ログインする前に買おうと思っていろいろ調べてきましたから」
ちょっと自慢げに言うこの娘を見てちょっと不憫に思う。こちらからもどうにかして火の魔法を買わせてやりたいがどうしよう?まさかバカ正直に言う気にもならないしな。
「そっか。じゃあそれにしてみるわ。ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」
「礼と言っちゃなんだが俺からも一つ教えるわ。南の森の先がどうも湖じゃないってウワサがある」
「ええ!?どうしてそんな…」
「どうも攻略組に先駆けて南の森を攻略した奴がいるらしい。そいつの話だと森の先は密林になってたって話だ」
「そうなんですか…でも…」
「信じられないだろうから話半分で聞いてくれればいいさ。信用できないってんなら考えてた通り雷のスキルを買えばいい」
「えーっと…今はちょっと判断がつかないですね。申し訳ないですが……」
「ま、そりゃそうだな。混乱させて悪かったな。ありがとよ」
「あ、はい。どういたしまして」
バズーカサンダーのカードを手に持ったままその場を離れて俺はカウンターへと向かう。一応これで義理は果たした。信じるも信じないも彼女自身だ。これ以上は知らん。
「これが欲しいんだが」
「かしこまりました。お代を頂きます……終了しました。スキルは自動的に控えのスキル欄に登録されます。ここで設定を行いますか?」
「頼む」
目の前にスキル欄を示したホロウインドウが浮かび上がる。なんだかんだ言って一回も使ってないバンダライザーを外してバズーカサンダーを入れる。これがそのスキル欄だ。
【バズーカサンダー】:LV1
【スパーク】:LV8
【ステータスサモン】:LV4
【植物鑑定】:LV3
【パラライズトルネード】:LV5
【オーバーサモン】:LV2
控え
【拘束】LV1
【バンダライザー】:LV1
いくつかが少しだけレベルが上がっている。やはり連続で格上相手に戦闘したせいだろう。
これで俺の残金は4700G。多いとは思うが余裕があるとも言えない額だ。ちょうど今は16時ごろで、今の季節は夏で現実の時間とリンクしているこの世界ではまだ夜になるには早いが夕飯の準備をしたりしているともう夜になる。
松明も無くなってることだしここで少し買っていくか。で、夕飯を食い終わったら夜のフィールドにくりだすか。
NPCの店で一個5Gの松明を140本買う。これだけで700Gしたが松明ならこれからプレイしていくうえで邪魔にはならないだろう。これで残金が4000G。
それとポーションも一応買っておく。これは一個100Gで初心者用ポーションの値段の二倍だ。ちなみにMPポーションは150Gする。これを10本、1000G分買う。
「これで夜の準備はばっちりだな。こもるフィールドは…折角だしシュラーの森をちゃんと探索するか」
こもるフィールドも決めてからログアウトする。ちゃんとその前に灯にコールすることも忘れない。すぐに切り上げて降りてくるとのことだ。ちゃんと言いつけを守っているようでなによりだ。
晩飯の時間になって灯も降りてきたので一緒に食べる。灯は今日はすぐにでも食べ終えたいのかさっきから話もしないで一心に目の前のソーメンをすすっている。
「どうしたんだよそんなに慌てて」
「えっとね…ずず…情報をね…ずぞぞぞ…売りに…ずずっ…行ったら…えっと……」
「とりあえず食うのを止めて話せ」
「ごめんごめん。えっとねどこまで話したっけ?」
「情報を売りに行ったらうんぬんとは聞こえた気がする」
「そうそう、そこだった。あのあとフィールドをまた探索して始まりの街に戻ったの。そして攻略組のパーティーの人たちのところに行って南の森の情報を売りに行ったの」
「ほう」
「そしたら情報は飛ぶように売れたんだけど今度は皆大騒ぎになっちゃって。ボスはどうしたんだとか本当に問屋なんてものがあるのかとか誰に連れて行ってもらったんだとか」
「あー、そりゃ大変だな。それでなんて答えたんだ?」
「お兄ちゃんのことはぼやかして答えたから大丈夫だよ。サモンマスターだってことも言ってないし。ただフレンドで南の森を突破した人がいたからその人に誘われてついて行ったって答えておいたよ」
「気をつかわせて悪いな」
「ううん。おかげで資金もだいぶたまったし気にしないで。で、今皆はその迫ってくる人たちの対応に追われてるから私も早く行こうって思って」
「大変じゃねえか!てかそれだったらお前の分残しておくからさっさと行ってこい」
「いいの?」
「あの娘たちに迷惑かけるわけにはいかないだろ。いいからさっさと行け」
「わかった!じゃあすぐに戻ってくるから!」
「落ち着いてからでいいぞ」
駆け足で灯は部屋に戻っていった。俺は灯の分のソーメンにラップをかけて自分の分をすする。俺はあいつらのことを手伝おうとはしない。売る時の対応も含めてあいつらに任せたからな。街の中は基本的に戦闘のできない安全圏だから脅されるってことも……ないよな?
「やべ、なんか不安になってきた。直接的に攻撃はできなくてもそれ以外の脅しの方法なんていくらでもあるし……それに女の子ばっかだからなおさらだな」
こうしちゃいられないと俺も急いで残った自分の分のソーメンを食べ終え、簡単にすすいでシンクの中に食器などを放り込むと急いでログインした。
言うほどの騒ぎだったら始まりの街に入ったらすぐに居場所はわかるだろ。最低限危なくなったらかばってやるぐらいはしないと。
ログインすると始まりの街はいつもよりもザワザワと人の声がいつもよりもたくさん聞こえた。耳を澄ませてみると
「シュラーの森が誰かに攻略されたらしいぞ」
「まじかよ!一体誰が…」
「なんでも体長三メートル越えの大男が素手で倒したってウワサだ」
「え?俺たちのパーティーのやつがこの前南の森の奥から爆発音が聞こえてたって言ってたぞ。爆発魔法
使いなんじゃないか?」
「バカ言え。爆発系の魔法なんて炎系のスキルをどれだけ進化させたらできるようになると思ってんだ。今の時期でそんなことができるやつなんていねえよ」
「あとそれ以外にも『ゴー!』ていう唸り声が聞こえたらしいんだよな」
「じゃあやっぱ大男か?」
「なんでも西の砂漠に出るゴーレムの叫び声に似てたらしい」
「はあ?じゃあなにか?体長三メートルのゴーレムがフィールドを飛び越えて唸り声を上げながら爆発魔法を使った挙句ボスを素手で倒してってのかよ」
「知らねえよ。どちらにしても人間の仕業じゃねえな」
なんてホントとウソが絶妙に入り混じったウワサが流れていた。この他にも「レベル1でボスを倒した」だの「身長140センチのちびっ子が南の森の覇者になった」だのわけのわからないウワサが広がっていた。
皆伝言ゲームとか苦手なんだろうか。いくらなんでもそれは無いだろう。俺は身長は140センチ以上余裕であるしレベルも当時でも10はあったぞ。そしてまだ森を制覇なんてしていない。
さらに聞いたところによると灯たちは南の森の入り口付近にいると聞いて急いで向かう。無事だといいが……。
南の森の入り口付近に着く。そこにはエミリアを中心として男たちが両ひざと両手を地面について打ちひしがれていた。
……なにを言っているのかわからないかもしれないが事実だ。エミリアも恍惚とした表情をしながらその男たちを見下ろしている。灯たち他のパーティーメンバーは奥の方で身を寄せ合いながらエミリアを見てガタガタとふるえていた。
………一体何があった!
「えっと……エミリアさん?」
どうしても丁寧口調になるのは仕方ないと思う。だってこの光景ホントに怖いんだもん。
「あらぁ~まだ折れてない人が……あ、セスさんでしたか。どうしたんです?」
すげえ。さっきまでの人を虫けらのようにしか見ていないような態度から一変して元に戻った。なにこれ怖い…。
それに折れてない人ってなんですか!心ですか!心が折れてない人ですか!あなたはどこのネジ使いの先輩なんですか!
「い、いや…灯からなにか大変なことになってるって話だったからなにかあったらいけないと思ったんだが…どうしたんだこれは」
「心配かけてしまって申し訳ないです。でも大丈夫ですよ、皆さんこの通り分かってくれて反省してくれましたから」
エミリアさん、そんなに嬉しそうにキレイな笑顔しないで下さいよ……この状況じゃなかったら惚れるところなのに背景の男たちの性でまったくそんな気になれない。
というかこのままエミリアに聞いててもらちが空かない。とりあえず灯たちに近寄って状況を聞くことにする。
「なあ、これって何が起きたんだ」
「お兄ちゃん……来てくれてありがとう。あのままじゃ私たちまでどうなっていたか……」
「お兄さん、ホントにありがと。どうなることかと思ったよ。あのエミリアはたちが悪いから」
「いやあ……エミィ…許して……許してぇ………」
「ミイ…まだあの時のことを引きずってたのかい……」
もう一度言おう。なにこれ怖い。あのまま放置してたらどうなったんだよ…。
「なあ、どうしてこうなったんだよ。それとエミリアはどうしたんだよ」
「分かると思うけどあまりにも皆がしつこくて。だんだんエスカレートして手を上げられそうになったりしたんだけど……」
「エミリアって普段はあの通り優しいんだけど……あまりに怒らせるとあんなことになるんだ。隠れドSってやつなんだよ」
「何が起きたかは聞かない方がいいよ……言葉を向けられてなかった私たちでさえ怖くて震えるしかなかったもん」
「ミイは前にエミリアを怒らせたことがあってね。あの様子だと未だに引きずっていたらしいな」
なんだか聞きたくないことを聞いてしまった。まあ、灯たちに危害が無かったなら―――本当にそうなのかは疑問ではあるが―――いいとしよう。
「じゃあ俺は一度ログアウトして洗い物とか済ませてからまたログインするが…大丈夫か?」
「うん。だいぶ収まってきたようだし大丈夫だと思う」
「ミイもボクたちが面倒を見るから大丈夫さ」
「そっか。じゃあ後は頼む。……気をつけろよ」
「うん…気を付けるよ」
「嵐が過ぎ去るのを待つばかりだけどね」
というわけで別の意味で危機はあったようだがここは大丈夫だ。さっさと家のことを終わらせてまたログインしよう。