始まり
皆様こんにちは。Mr.ぼっちです。勢い余ってまたまた駄作を書いてしまいましたがよければ目を通してやってください。
「お兄ちゃんも一緒にやってみない?」
夏休み前、俺は妹からそう誘いを受けた。
俺の名前は伊藤和也。今年高校に入学したばかりの高校一年生だ。妹は伊藤灯で一つ下の中学三年生。
「何をだよ?」
「ゲームだよゲーム!今はやりのVRMMORPGのアビリティグロウオンライン!」
VRゲームが世に出てからもうすでに三年ほど経過している。最初は高くて富裕層や重度のゲーマーぐらいしか手に入れることができなかったが今では一昔前に流行っていたプ〇ステ並みの値段で手に入れることができるようになったのだ。
妹は重度のゲーマーでVRゲームが世に出たころからやりたがっていたが値段が値段だったため諦めざるをえなかったがついにこの間手に入れたらしい。
「ああ、最近よくCMやってるよな。あれ?確かお前前からそのゲームやってなかったか?」
「あれは抽選で当たったβテスト版だよ。私が今言ってるのは正式サービスの方」
そういえばあのゲームの正式稼働は八月一日、つまり夏休み初日からか。学生の夏休みに合わせて稼働するって話だったし。因みに今は七月三十日。あと二日ってとこだな。
「でもあれって確か初回分が日本で一万本発売されたばっかだろ?今から買えないって」
「大丈夫だよ。私はβテスターだったからあっちから勝手に送られてくるしお兄ちゃんの分は前もって宏明さんに予約とってもらったし」
「そういやあいつもテスターだったな」
鈴木宏明は俺の同級生で高校からの付き合いだが結構馬が合ってときどき互いの家に遊びにいっている。あいつもかなりのゲーマーで、一時期はアビリティグロウオンラインの話しかしなかったぐらいだ。
「ていうかそんな前から計画してやがったのかよ」
「当然だよ。お兄ちゃんってゲームとかあんまりしないでしょ?だから友達どうしでときどき話題について行けないってぼやいてたじゃない。だからだよ」
確かに高校生ぐらいだったらまだまだゲームに興味がある年頃だからそういう話になることもある。そのときはあまり話題について行けこそしないが決してそのせいでハブられていたりとかはない。普通ぐらいの立ち位置をクラス内でも維持していると自負している。
だがまあそれでもときどき話題について行けないのはちょっとさみしいわけで…っていうことを昔灯に少しだけ話したことがあるがそんなことを覚えていたのかよ。
別にゲームに興味がないわけじゃないんだが俺が面白そうだと思うソフトと流行りや人気のソフトってよく違ったりするからそんなことが起こってるだけなんだよな。
「いつもお兄ちゃんにはお世話になってるしこのぐらいはしてあげたいんだよ。それに八月ははお兄ちゃんの誕生日があるしね。ちょっと早いけど誕プレってことで」
うちの親は外資系の結構重役的なポストについているせいか昔から仕事で海外を一緒になって飛び回っていることが多いから妹の世話や家事なんかは昔から俺がやってきていた。でも灯はいつも感謝とかしてくれてるし俺自身も家事とかは嫌いではないから特に苦痛には感じていない。
「今更そんなこと気にしなくてもよかったんだぞ?かなり金もかかったろ」
「いいんだってば。それにお兄ちゃんと一緒に遊べるのも楽しいしね」
そんなふうに思ってくれるとは嬉しい限りだ。うちの妹は素直に育ってくれたようです。お兄ちゃんうれしいぞ!
「わかったよ、せっかく予約してくれたのに受け取らないのも悪いし。ありがとな」
そういって灯の頭を撫でてやる。昔から灯は撫でられるのが好きなのだ。
「うん!一緒に楽しもうね、お兄ちゃん!」
次の日、宏明が俺用のソフトとハードであるコクーンを持ってきてくれた。コクーンは頭にかぶるヘッドギアで、フルフェイスのヘルメットのように頭をすっぽり覆う形になっている。顔面の方はバイザーのようになっていて上にあげることができる。
「悪かったな、宏明。灯の我儘に付き合ってもらって。」
「気にすんなって、ハゲるぞ。それよか灯ちゃんに感謝しろよ?あんなに可愛く頼み込まれたら誰だって断れないって」
「ハゲてたまるか!…それよかお前まさか灯のこと狙ってんのか?」
ちょっと変に思われるかもしれないが俺は妹が大事だ。シスコンってほどでもないけど少なくとも灯を今まで自分が育てたって気ぐらいはしてるから変な虫が寄り付くなんて我慢ならん。
宏明はいいやつだがいきなり妹をくれと言われてはいそうですかと言えるほどではない。こいつって結構貧乏くじ引いて苦労するタイプだしそれに灯を巻き込ませたくないからな。
あと、俺はハゲない!例え両親の祖父の頭がつるっつるだとしても高校入学のときに久しぶりに会った親父が年のわりに髪が白くなってて心なしか薄くなったと感じたとしても俺は絶対にハゲない!
「おいおいこえーよ…。心配しなくても灯ちゃんを狙おうとか思ってねえし。まあ年下は可愛いとは思うけどよ」
「そうか、悪かったよロリコン」
「ロリコンじゃねえよ!ただ年下って可愛いよなって意味で…」
「わかったわかった。いいから今すぐに警察に行って自首してこい。いろいろやっちまったんだよな?」
「だから違げえって!どうしたらわかってもらえんだよ!」
「だったら今からお前の部屋のロリコン関係のグッズを全部捨ててこい。捨てた時点でお前はロリコンじゃないと認めてやるよ」
「最初っからそんなもんねえよ!」
「ロリコン関係のグッズを捨てないんだったらお前はロリコンのままだな」
「捨てられないんならどっちにしろロリコンってことになるじゃねえか!」
「捨てるためにロリコングッズを買ったとしたらそれこそお前はロリコンだよな」
「逃げ場がねえ!?」
こんな風にやり取りをしつつセットアップを手伝ってもらって宏明は帰って行った。ちなみに最後までやつからロリコンの称号が取れることはなかった。
その夜。夕食を食べ終えた後俺と灯は明日から始まるアビリティグロウオンラインについて話をしていた。
アビリティグロウオンライン━正式名称 ABILITY GROW ONLINE。それぞれの頭文字をとってAGO、ネットでは「アゴ」と呼ばれたりもする。
CMでは一人一人に与えられるアビリティというものを成長させるというのが目玉として取り上げられていたが詳しいことはあまりわからない。そのことについて灯から説明を受けているのだ。
「アビリティっていうのはアバターを作る時にそのアバターについている能力のことで多少人とかぶったりとかもあるけど基本的には一人一人違った能力がもらえるの」
「それってやっぱりゲームに影響があったりするのか?」
「もちろんするよ。例えば私がプレイしてた時に持ってたアビリティは『剣撃重化』っていって、剣を使って相手を攻撃した時に相手に破壊ダメージを与えることができるの。要は一撃の攻撃力が上がるってことかな」
「へえ、面白いな。戦闘系以外にもあるのか?」
「もちろん!魔法系や生産系に関するアビリティだけじゃなくて、逃げるときだけ移動速度を上げるアビリティやNPCの店からアイテムを買うときに割引になるようなアビリティもあるし、なかにはキレイに逆立ちができるアビリティなんてものがあったらしいよ」
「なんだよ最後のやつ…いらなすぎるだろ」
「こんな感じで当たりもあればハズレもあるんだよね。もちろんそんなハズレのネタスキルは数があまり多くないらしいけど」
「まじか…もしそんなの当たったらどうしようかな」
「新規でアバターを作るには結構時間がかかるからね…アビリティの数があまりにも多いから運営の方でも管理が大変みたい」
「多くて一万通りのアビリティだもんな。これからプレイする奴の数が増えるとすると膨大な量になるし確かに時間をかけてやらないといろいろミスやトラブルもでてくると考えると妥当かな」
「でもその代りにアビリティを成長させることもできるんだよ」
「成長?」
「そう。例えば『攻撃力小上昇』っていうアビリティがあるとするでしょ?その状態で例えばハンマーを使ってプレイしていくと『ハンマー装備時に攻撃力中上昇』っていう効果が追加されたりするの」
「なるほど。自分のプレイスタイルに合わせてアビリティが成長するわけか」
「そうなの。しかも面白いのはその成長に似通ったものがないことなんだよね。まったく同じ装備や同じプレイ時間だとしても倒したモンスターの数やダメージ量なんかで差が出て一つとして同じ成長をするものはないって言われてるんだよ」
「はあ~。最近のゲームってすげえんだな」
「でもこういうのって習うより慣れろっていうでしょ。これは実際に体験してみた方が分かりやすいかもしれないね」
「そういうこったな。ところでジョブとかってやっぱりあるのか?」
「もちろんたくさんあるよ。これもこのゲームの一つの見どころなんだよね。テンプレなのは一通りそろってるしネタジョブなんかもたくさんあるよ。もちろんどのジョブもシステム的に戦闘や生産ができるからどれを選んでも戦闘ができないとか生産ができないとかはないね。もちろん向き不向きはあるけど」
「灯はどんなジョブだったんだ?」
「私はハイスピードウォリアーっていう軽剣士の上位ジョブだったよ。AGIが前衛の戦士職のなかでも一・二を争うほど高くてヒット&アウェイが得意なジョブなの。おまけにアビリティのおかげで一撃のダメージが大きいからうまくはまったって感じかな」
「ずいぶん凶悪なコンボだな…俺も使えるアビリティがもらえるといいな」
「こればっかりは運だからね~。でもお兄ちゃん、アビリティだけじゃなくてスキル構成も考えなきゃね」
「スキル?」
「戦闘や生産を使うための技みたいなものかな?六つまで選べるしこっちも豊富にあるよ」
「例えばどんなのがあるんだ?」
「んー、また私の例をだすと【速度超上昇】【見切り・強】【スプリントスラッシュ】【急所狩り】【パワーエッジ】【フィフスセイバー】みたいなものがあるね」
「全部戦闘系のスキルなのか?」
「うん。それとスキルにもレベルがあって使えば使うほどレベルが上がっていって威力が上がったりするんだよ」
「あー、熟練度ってやつか」
「他のゲームではそういったりもするね。一定のレベルになると上位派生スキルに変わったりすることもあるよ。これはジョブにも言えることなんだけどね」
「なんか聞く限りだと成長する要素が多いんだな」
「なにせ GROW━━成長する って意味がタイトルにあるからね。育成要素がたくさんあるんだよ。やりこみ度が高いのも人気の理由の一つなんだよね」
「まさに自分だけのアバターが作れるってわけか」
「そうそう。因みに私のおススメのジョブは…」
「悪い。折角楽しむんだから先入観がないようにしたいんだ。だからテンプレとかは言わないでくれ」
「そう?ま、確かにそうした方が楽しいかもしれないね。最初に出てくるジョブの説明を読むだけでもおもしろいし」
「悪いな。じゃあ今日はもう風呂入って寝るよ。灯もあまり夜更かしすんなよ」
「もちろん!正式サービス開始からすぐにログインするんだもん、寝過ごせないよ!」
部屋に戻った俺はAGOについて考えていた。アバターはどんな感じにしようかとか魔法職がいいか戦士職がいいかなんかだ。アビリティが決まるまではまだなんとも言えないができれば魔法職がいいなとか思いながら俺は眠りについた。