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鏡界線

作者: 柿原 凛

 真っ暗な部屋の中から見るドアは、外からの光を受けて黄色く縁取られている。まるでこちらの世界は暗く、ここから出ると未来が拓けるとばかりに。言い換えれば、ドアが恋路を悟っているように思える。

 鏡のように向き合う真反対の世界。両極端な世界の真ん中にこのドアが存在しているような気がする。そこに曖昧という文字はない。いや、ドアの存在自体が曖昧というものを表しているのかもしれない。だが俺はドアではない。曖昧にはいられない。

 境界線のど真ん中にいられたらどんなに楽なのだろう。このまま何も進展せず、いつまでも永遠に友達以上恋人未満を続けてさえいれば平和なのは間違いない。だがそれでは我慢出来ないのが人というものだ。その先を欲して安定を捨てる。現状に満足できたらいいのに。自分で自分が憎らしい。安定か冒険かの境界線。

 ドアとは反対側の壁に身を任せ、つま先をドアのほうに向ける。妙に選択を迫られている気がして体がこわばる。これが金縛りというものなのだろうか。目をつぶっても残像として残ってしまうドアの黄色い縁取り。ドアを開ければもう一人の俺が微笑みながら立っていそうな気がする。早くこっちに来いよって。こっちのほうが楽しいって。ちょうど隣で無邪気に寝息を立てているヤツを見下しながら。

 でも今部屋を出たら一生戻ってこれないような気がして。隣で寝ているヤツにもう二度と会えないような気がして。現状と理想の間の曖昧な部分を行き来する心は落ち着きを取り戻せない。このまま朝を迎えるのもひとつの答えかもしれない。それならまだ曖昧な関係でいられる。境界線に立ち続けられる。目をつぶったまま、朝を迎えるのを待っていようか。長い夜を、ずっと待ち続けようか。急ぐことはない。焦っても答えは出てこない。理想と現実の境界線。

 どうしようもなく揺れる心。鏡で自分の顔を見た時、自分の顔がどう見えるだろう。きっと真顔で、笑ってもいないし泣いてもいないだろう。いつの日か自分の顔を鏡で見た時に笑っていられるようにするにはどうしたらいいのだろう。答えは出てこない。一生出てこないのかもしれない。そもそも答えなど有るのだろうか。答えって一体何だ。隣で寝ている奴と付き合うことが最終的には答えだと思うが、それって実は自分勝手でエゴで一人よがりなのではないだろうか。相手のことなど微塵も考えていない。というより、自分のことで精一杯。どうしようもなく余裕が無い。余裕さえ作れたら。余裕を作れるか作れないかの境界線。

 いろんな境界線をまたげるかまたげないか。それで全てが決まってしまうような気がして、逆にこわばる。二つの世界が鏡で見た時に同じ景色であればいいのに。つまり世界は一つであればいいのに。すべてが生まれる前から決定している人生。それも悪くないかもしれない。少なくとも、考えないで済む。悩んでもがいて苦しまなくて済む。優柔不断な俺の勇気を出せるか出せないかの境界線。

 やはり、世界は境界線で分かれている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 柿原凛さん はじめまして。くろねこという者です。 主人公の思考を中心に書かれていて、なんだかSFっぽくておもしろかったです。 タイトルも引き寄せられるものがあって良いなと思いました。 …
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