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放課後の裏山へ  作者: 小桜杏乃
3/3

最終話

あれから140年が経った。

町から少し離れた隣山の噴火によって、街には熱い灰が降り注ぎ、多くの人が死んだ。

僕らが裏山に出入りするのをやめた後、表山のようにそこにも何度か建物が建てられたが、今ではそれらもすべて崩れ、跡形も無く火山灰に飲み込まれた。

人や、人でないものが本当にそこにいたのかどうか、もう誰にも分らない。

長い時間が経って、裏山に平和が戻った時、

僕らは神のように恐れられた。

人の恐怖は、時にすべてを奪う。

僕らのように「人でないもの」は残らず捕まえられて、地下深くの牢獄に閉じ込められた。


そして、隣山の2度目の噴火が近づく日にも、僕らは牢獄の固い扉や赤外線センサーによる高度な管理システムで、脱出を阻まれていた。

すべてが機械によって制御されているこの牢獄から逃げられたものは一人もいない。怪力やテレポーテーションなど、高度なシステムからも逃走可能な能力を持つものは、ここに入る前にすでに全員薬づけにされて殺されていた。

そして、人が思うほど僕らは強くなかった。全員が全員、不老長寿なわけでもない。

涙を流さぬものはいない。

古い仲間が死んでいく中、機械がその死骸を排出された汚物とともに片付けていく中でなお、生きているものは誰一人としてそこから逃げられない。

かつて仲間がそこにいたことを、忘れないように目を閉じて、時間は流れた。

「いそがないと、街が消えてしまう!出して、ここから出してよ!!」

叫ぶ彼女。不老長寿の、予知能力者。美しく、若い見た目だが、200歳を超えているらしい。

この牢獄で、サイキックの母を殺され、予知能力者で1000歳の父を老衰で看取り、僕らの排泄物に紛れて檻の外へと運ばれてゆく様を、目を見開いて、受け入れていた。彼も、彼女も、こうなることを知っていたはずだった。しかしその日が過ぎても、二人が涙を流すことはなかった。

街を思っての叫びは、誰にも届かない。

僕らは、故郷を思うことすら許されない。

機械管理のこの牢獄は、すでに人間の手を離れていたのだろう。

届かぬ思いは、彼女の魂とともに消え去った。

彼女が最後に叫んだ時にも、応答は無かった。

静寂と未来が彼女を追い詰めた。

少女は自ら舌を嚙み、目を閉じて横たわり、父親と同じ場所へと運ばれて行った。


ある日、振動と轟音が、地下深いこの牢獄に響き渡った。

硬い壁に反響するほどの低い長い爆音、やがて電気が消えた。

部屋の温度が急速に上がった。部屋がきしむ音がして、それからしばらくしてすべてが鳴りやんだ。

檻の中にいた全員が、彼女のことを思い出した。

僕らを見つめていた機械たちは音もなく静止し、どこか悔しげに、時折、揺れていた。

「やっと静かになった」

「全部終わっちゃったんだね。」

「長かったね」

「もうここから出られるのかな」

「あの子の言ったとおりになった・・・みんな、死んだのかな?」

それぞれが思い思いに声を漏らす。そしてお互いに笑い返し、やがて皆で転げまわって笑った。

「大丈夫だよ、今回の噴火でさ、裏山に住む人はいなくなったはずだもの。」

「これからは、僕らの山が平和になるね。」

「もう誰にも奪われなくてすむのかな」

「もう奪わせないさ」

のんきに会話していると、だいぶ遅れて牢獄の中に警報が鳴り響いた。

ゆっくりした機械の合成音声が、ここにいたであろう人間に、ノイズ交じりの避難命令を出す。

聞いているのは、僕たちだけなのだろう。


『管理室、A-943から  全棟へ警告・・・  本部、S-177  定期連絡、応答なし・・・すべての 管理システムに   異常を感知・・・重要管理者は 直ちに 避難   してください・・・なお、  A-943固有の   予備電源 保持 時間は、 残り、  2分5秒・・・管理者 No-12  No-78  No-105  応答してください・・・各棟   指示伝達者     任務を  直ちに遂行して  ください・・・避難指示 を  全棟の  管理者  及び    副管理者、      清掃員へ           伝達してください・・・  伝達  ・・・        で』


「・・・また静かになったね」

「人間、まだいたんだね」

「上にいた人間は・・・全員・・・死んだのかな?」

「人間だもん。火山噴火の熱風に、ぜんぶ覆いつくす灰に・・・耐えられるわけ無いかったんだ。」

「君は今の町が全部見えてるの・・・?」

「うん・・・今までの街よりずいぶん・・・きれいな世界になったよ」


そして間もなくこの街だけでなく、ほかの町や国でも、同じように災害が起きた。

次々に人間を襲った自然。

何かに怒り、復讐するかのように、地表のすべてのものを消し去ろうとしたように見えた。

ひとまとめにされ、地下に埋められ管理されていた、僕たち妖精だけが、生き残ってしまった。



牢獄から出ると、ただまっすぐ、裏山に上った。

裏山の形をした灰の山を登り切るのは一苦労で、みんなが白い世界を見下ろしながら、青い空を見上げながら、手を取り合った。亡くした仲間の数だけ石を拾っていった。

頂上ですべてを見回して、大きい順に石を並べた。

裏山を覆う灰を流し清めるように、水を操る者が、長い時間、雨を降らせた。

草木を操るものが、雨を受けてあらわになった土に緑を甦らせた。

そこに僕らは家を作った。

誰もがお互いを認め、受け入れあい、理解し、必要としていた。

やがて命をはぐくみ、時間を経て、国ができた。


いつ始まっていたのかもわからない僕たちの争いは、いつの間にか幕を下ろし、

僕たちの続きの命がまた同じ過ちを繰り返すまで、平穏が訪れたのだった。



終わり。

エンドを書き換えてみました。

完結させられてよかったです。

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