はばたいた妖精
放課後に僕らが寄るところはいつも同じなんだ。
学校の周りを、僕らの町をぐるりと囲む山に寄って、
子供だけの秘密会議を開いたり、買ってきたお菓子をみんなで食べたり・・・
とにかく小3の夏を楽しく過ごしていた。
でも僕らは、おっきなヒミツを抱えてた。
それは
僕らがヒトじゃないこと。
普通に学校に通って、普通にご飯食べて、普通に生きてた。
でもある日僕の背中には大きな羽が、透き通ったトンボのような羽が生えてきた。
僕にはお父さんがいない。
お母さんには羽が無い。
お母さんは言った。
「お父さんはね、昔の戦争の爆撃で無くなったの、悲しいかもしれないけど・・・
あなたにはそのほうがよかったかもしれないわね」
意味を理解しないまますごした幼少期に、僕はみんなの人気者だった。
だって僕の涙はきれいだったから。
僕の血は輝いていたから。
僕の目には、
きれいなものがたくさん映ったから。
七色の蝶に透き通った花、2本一緒に仲良く空に座る虹、合唱するオウム・・・
みんなには見えていない、きれいなもの。
いつしか僕はみんなの仲間に入れなくなったけど
彼らが悪くない事は一番よく知ってる。
背中にはえた奇妙な羽、光を吸収しているようなトパーズ色の瞳、
ふわりとした茶髪の間に生えた蝶の触覚のようなもの。
彼らに無いものが僕にある、それだけでみんな遠ざかって行った。
どうしてと問えば答えはそう、『変わってるから』
僕は悲しかったような、納得したような気持ちで笑ってた。
でもある日、町の外れにある公園で出会った女の子は
頭に大きな角が生えていて、
太い長い、ふさふさした尻尾が腰の辺りから伸びていて、
何よりも彼女を明るく見せるエメラルドのような瞳。
ニコッと笑えば口に光る八重歯、
ヒトを魅了する歩き、
僕と同じ悲しげな雰囲気。
きっと彼女も悲しいんだと僕は思って、
彼女と友達になった。
彼女に連れられて行った『裏山』。
町にいる人の子供が遊んでいる山は、『表山』
そこにはたくさんのアスレチックや草花があって、レストランもある。
でも裏山は違う。
山頂に向かう道すら整備されていなくて、
目に映るきれいなものは幻覚だと思い知らされるような雑木林、
レストランどころか人工物は一切ない、
でもよく言えば、自然なところ。
よく見ればきれいな薔薇が咲いている元に、僕とよく似たフェアリーが飛び交っていて、
空の見える木々の隙間には、飛び交った流星の足跡もあって、
排気ガスのような黒い暗い科学的な匂いはしない。
彼女はココを、楽園だといった。
誰の声もしない、誰の手にも触られない、誰もいない自分だけの楽園。
そこに何で僕を連れてきたのと聞くと、
仲間だからと、さわやかな笑顔で答えて、ポロリと涙をこぼした。
ヒトと違う自分を嫌っていた彼女は仲間が欲しかった
それはもちろん僕も同じだった。
でも彼女には両親がいなかった。
僕と違った。
そしてその日から、僕は、彼女と仲間たちに会うために、
裏山に行くようになったんだ。